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平成17年(行ケ)第10395号 審決取消請求事件


主文

特許庁が不服2004-12000号事件について平成17年1月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決。

第2 事案の概要

本件は,原告が,名称を「木質合成粉及びその製造方法,並びに前記木質合成粉を用いた木質合成板及びその押出成形方法」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件出願(甲第2号証)

出願人:アイン・エンジニアリング株式会社(原告)

発明の名称:「木質合成粉及びその製造方法並びに装置,前記木質合成粉を用いた木質合成板及び木質合成板の押出成形方法及び装置」(平成16年4月12日付け)

手続補正後の名称は「木質合成粉及びその製造方法,並びに前記木質合成粉を用いた木質合成板及びその押出成形方法)

出願番号:特願平6-194416

出願日:平成6年8月18日

優先権主張:平成6年2月10日(日本)

(2) 本件手続

拒絶理由通知日:平成15年7月10日(甲第3号証。以下「第1回拒絶理由通知」という)

手続補正日:平成15年9月22日(甲第5号証)

拒絶理由通知日:平成16年1月29日(甲第6号証。以下「第2回拒絶理由通知」という)

手続補正日:平成16年4月12日(甲第8号証)

拒絶査定日:平成16年4月28日(甲第9号証)

審判請求日:平成16年6月10日(不服2004-12000号(甲第10号証)

審決日:平成17年1月25日

審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」。

審決謄本送達日:平成17年2月15日

2 本願発明の要旨

審決が対象とした発明(平成16年4月12日付け手続補正後の請求項2に記載された発明であり,下線部分が同補正に係る部分である。以下,この発明を「本願発明」という。なお,請求項の数は35個である)の要旨は,以下のとおりである。

「含有水分量を15wt %以内とし平均粒径20メッシュ以下のセルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して前記セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ,次いで冷却し,破砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含む押出成形用の木質合成粉の製造方法」。

3 審決の理由の要点

審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,

(1) 特公平4-48606号公報(甲第13号証,以下「刊行物1」という)に記載された発明(以下「刊行物1の発明」という)及び特開昭58-102745号公報(甲第14号証,以下「刊行物2」という)に記載された技術事項並びに特開昭61-2505号公報(甲第16号証,以下「周知例1」という。)特開昭60-30304号公報(甲第15号証,以下「周知例2」という)及び特開昭60-223843号公報(甲第17号証,以下「周知例3」という)にそれぞれ記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,

(2) また,特開昭60-30304号公報(周知例2と同一。以下「刊行物3」ともいう)に記載された発明(以下「刊行物3の発明」という)並びに特公平4-7283号公報(甲第18号証,以下「周知例4」という。),特開昭61-273903号公報(甲第19号証,以下「周知例5」という)及び上記刊行物1,2にそれぞれ記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである以下,上記(1)の認定判断を「審決判断1」といい,上記(2)の認定判断を「審決判断2」という。)。

2.刊行物に記載された発明

原審における平成16年1月29日付けの拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である刊行物1(特公平4-48606号公報)及び刊行物2(特開昭58-102745号公報)にはそれぞれつぎの発明が記載されていると認められる。

刊行物1:特公平4-48606号公報

刊行物1には以下の記載が認められる。

1-a 「熱可塑性樹脂材に木質繊維材が混合されてなる複合組成物の製造方法であって,ハードボード等の木質繊維素材を約3mm 以下の木粉に粉砕し,しかる後,該木粉に熱可塑性樹脂原料を約40~70の重量%で添加し,これを少なくとも該熱可塑性樹脂原料が溶融する程度の摩擦熱が生じる約160℃~180℃まで達する温度に高速攪拌して,前記木粉を乾燥しながら前記熱可塑性樹脂の粒子の表面に付着させ,この各粒子がほぼ均一な粒径に団粒化された後,これを冷却固化させることを特徴とする木質繊維を利用した複合組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)

1-b 「本例において,複合組成物は次のような手順によって製造される。

(1)木質繊維素材の粉砕工程

ハードボード・・・あるいは木材といった木質繊維素材1を粉砕機にかけて,約3mm 程度の木粉・・・2に粉砕しておく。」(第1頁第2欄末行-第2頁第3欄第6行)

1-c 「(2)攪拌工程

上記した木粉2にポリプロピレン樹脂を重量比で約1:1に配合し・・・たものを,第1図に示す高速ミキサーM1内へ投入し,ここで高速攪拌して混練する。このとき,ミキサーM1内では回転羽根3が高速回転されるため,木粉2と樹脂とが擦り合い摩擦熱が発生する。この摩擦熱により,ミキサーM1内は最終的に少くとも樹脂が溶融する程度の温度(約160℃~180℃)にまで達する・・・樹脂は,上述の如く,軟化しガム化するため,樹脂粒子4表面に木粉2がまぶされた状態で付着し始める。こうした単一粒子は樹脂が表面に露出されるため,粒子相互が付着し合い,団粒化が進行する。ところが,ミキサーM1内は高速に攪拌されているため,団粒粒子R(複合組成物)は一定の大きさ(約10mm 程度の粒径)以上に成長することがなく,その粒径はほぼ均一に揃ったものとなる(第3図参照)。上記のようにして団粒化が完了すれば,ミキサーM1の作動を停止し,団粒粒子Rを直ちにクーリングミキサーM2内へ送り込む。」(第2頁第3欄第14-39行)

1-d 「(3)冷却工程

クーリングミキサーM2は,前記高速ミキサーM1同様,回転羽根5を内蔵しており,ここへ投入された団粒粒子Rを攪拌する。これは,クーリングミキサーM2への投入初期においては,団粒粒子Rが未だ軟化状態にあり,攪拌しないと団粒化がさらに進行して粒径が必要以上に大きくなり,取出し後の押出し成形等が困難となるからである。また,クーリングミキサーM2はその壁内に冷却水が循環しており,このため団粒粒子Rは約20℃の冷却温度にて冷却される。こうして団粒粒子Rが固化すれば,木質繊維材と樹脂とが混合され,ほぼ粒径の揃った複合組成物が取出される。なお,上記のようにして得られた複合組成物の使用については,例えばベント付押出し成形機にてガス抜きを行いながらシート押出しを行い・・・製品に加工される。」(第2頁第3欄第40行-第4欄第15行)

上記の記載より,刊行物1にはつぎの発明(刊行物1の発明)が記載されていると認められる。

「熱可塑性樹脂材に木質繊維材が混合されてなる複合組成物の製造方法であって,ハードボード,木材といった木質繊維素材を約3mm 以下の木粉2に粉砕し,しかる後,該木粉2にポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂原料を約40~70の重量%で添加して高速ミキサーM1内へ投入し,ミキサー内1での高速攪拌により木粉2と樹脂とが擦り合い発生する摩擦熱により,少くとも樹脂が溶融する程度の温度(約160℃~180℃)にまで達するようにして樹脂を軟化・ガム化させ,樹脂粒子4表面に木粉2がまぶされた状態で付着させ,粒子相互が付着し合う団粒化を進行させて,粒径が約10mm 程度にほぼ均一に揃った団粒粒子R(複合組成物)とした後,これを冷却固化させて複合組成物を得て,さらにベント付押出し成形機にて製品に加工する,木質繊維を利用した複合組成物の製造方法」

刊行物2:特開昭58-102745号公報

刊行物2には以下の記載が認められる。

2-a 「粒径1mm 以下,含水率10%前後の木質粉末を予め120℃~150℃に加熱しつつ,これに懸濁重合によって得られた熱可塑性樹脂で粒径0.5mm 以下の粉末を全量に対し重量比で40~60%混合し・・・加熱攪拌し,該混合粉体を気体を含んだ流動状態とし,かつ該混合粉体の温度を使用樹脂の軟化温度以上,溶融温度以下に保ちつつ押出機の供給口より定量供給し,該押出機により混練,溶融を行い,成形ダイを通じてペレット其他の成形品に加工することを特徴とする木質系合成樹脂複合材の製造法。」(特許請求の範囲)

3.対比・判断

本願発明と刊行物1の発明とを対比すると,以下のことがいえる。

(ⅰ) 刊行物1の発明はi 「ハードボード,木材といった木質繊維素材を約3mm 以下に粉砕し」てなる「木粉」を用いるものであり,該「木粉」は,本願発明を特定する事項である「セルロース系破砕物」に対応している。同様に,刊行物1の発明における「熱可塑性樹脂原料」は,本願発明を特定する事項である「熱可塑性樹脂成形材」に対応していることが明らかである。

(ii) 刊行物1の発明は「木粉に熱可塑性樹脂原料を約40~70の重量%で添加」するものであり「熱可塑性樹脂原料約40~70の重量%」としたときの「木粉」の配合割合は約30~60重量%であるといえる。

(iii) 刊行物1の発明は「木粉に熱可塑性樹脂原料を添加して)高速ミキサーM1内へ投入し,ミキサー内1での高速回転により木粉2と樹脂とが擦り合い発生する摩擦熱により,少くとも樹脂が溶融する程度の温度(約160℃~180℃)にまで達するように」するものであるから,本願発明を特定する「セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材を)ともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して」の事項に対応する構成を備えている。

(iv) 刊行物1の発明は「団粒粒子Rを)冷却固化させて複合組成物を得」るものであり,本願発明を特定する「冷却」の工程に対応する工程を備えている。

(v) 刊行物1の発明は「複合組成物を)ベント付押出し成形機にて製品に加工する,木質繊維を利用した複合組成物の製造方法」であり「複合組成物」は「木質繊維」と「熱可塑性樹脂」とが複合してなる組成物であり,本願発明を特定する「木質合成粉」に対応しているから,本願発明と刊行物1の発明は「押出成形用の木質合成粉の製造方法」である点で共通している。

そうすると,両者は以下の点で一致し,また相違していると認められる。

一致点;

セルロース系破砕物に対して熱可塑性樹脂成形材をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して,次いで冷却し,粒径10mm 以下にする工程を少なくとも含む押出成形用の木質合成粉の製造方法,である点。

相違点;

a.セルロース系破砕物が,本願発明では含有水分量を15wt %以内とし平均粒径20メッシュ以下のものであるのに対して,刊行物1の発明では含有水分量は明らかでなく,平均粒径は3mm 以下のものである点。

b.セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との配合割合が,本願発明ではセルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %を配合するものであるのに対して,刊行物1の発明では木粉(セルロース系破砕物)約30~60wt %に対して熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)約40~70wt %を配合するものである点。

c.本願発明ではセルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させたのに対して,刊行物1の発明では熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)を軟化・ガム化させ,樹脂粒子表面に木粉(セルロース系破砕物)をまぶされた状態で付着させた点。

d.冷却後,粒径10mm 以下にする工程が,本願発明では粉砕して10mm 以下に整粒するものであるのに対して,刊行物1の発明では粉砕するものではない点。上記の相違点について検討する。

まずa.の相違点について検討する。

刊行物2には,木質粉末と熱可塑性樹脂を混合・攪拌し,押出成形する木質系合成樹脂複合材の製造法において,前記木質粉末として粒径1mm 以下,含水率10%前後の木質粉末を用いることが記載されている。そして,刊行物1の発明も刊行物2に記載された発明も,木粉と熱可塑性樹脂原料より成る押出成形用の複合組成物の製造方法である点で共通しているから,刊行物2に記載された上記技術事項を参照し,刊行物1の発明における木粉(セルロース系破砕物)として,含有水分量が15wt %以内であり,平均粒径20メッシュ以下,すなわち0.85mm 以下のものを用いたことに格別な困難性はない。

b.の相違点について検討する。

刊行物1の発明における,木粉(セルロース系破砕物)と熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)との配合割合は,木粉(セルロース系破砕物)約30~60wt %に対して熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)約40~70wt %を配合するものであり,上記配合割合は,本願発明における,セルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80 wt %を配合する,配合割合と大きく重複している。そして刊行物1の発明における, 上記配合割合の採りうる上限及び下限について,格別の臨界的意義を見いだすことができないから,同配合割合について実験をすることにより,その採り得る範囲を拡げて本願発明に到ることは,当業者が容易になし得たものである。

c.の相違点について検討する。

木粉等のセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂原料とを混合・攪拌して複合粉とし,該複合粉を用いて木質合成樹脂複合成形品を得るための複合粉の製造方法において,セルロース系破砕物の表面全体に熱可塑性樹脂原料を付着させて上記複合粉を製造することは周知慣用技術(例えば,下記の周知例1ないし3があげられる)である。そしてこれらの周知慣用技術のうち,例えば周知例1は「混入されるセルロース系素材に於ける表面摩擦抵抗が,樹脂の押出成形ないしは射出成形に際して直接シリンダーあるいはダイス内面に付加され,シリンダーあるいはダイス表面の摩耗を極端に早め(第2頁左上欄第13-17行)ていたとことに鑑み「セルロース系素材)の繊維端a によってセルロース系素材の周面に巣あるいは気泡を生じた」従来例に対して「樹脂剤( )が素材( )の表面に満遍なく結着している状態」としたために「後のホットプレスによる型づけ成形に於いて,素材( )の周面に巣あるいは気泡を生ずる余地を無くし,良好な素材同志の馴染みが約束されたもの」(第3頁右上欄第10行-左下欄第12行)であり,このような「素材同志の馴染み」に関する事項は「ホットプレスによる型づけ成形」のみならず,押出成形にも共通した事項であることは明らかである。また周知例2は「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ために「熱プレスを用いて成形した後も樹脂と木粉等との混和状態が均一である(第1頁右欄第9-18行)ものであり,上記したとおり,木粉等と樹脂との「馴染み」に関する事項は「熱プレス」のみならず,押出成形にも共通した事項である。さらに周知例3は「木粉の外周をポリスチレン樹脂層で被覆」した構造により「木粉を主体とするにもかかわらず通常のポリスチレン樹脂の粒状物と全く同様の成形法により種々の成形品を製造でき(第2頁右上欄第16行左下欄第2行)るものである」。すなわち,これらの周知慣用技術は,本願発明と共通する,「混入されるセルロース系素材に於ける表面摩擦抵抗」の問題に鑑み(周知例1),木粉等と樹脂との「馴染み」を良好にする(周知例1ないし3)ことを開示しており,しかもこれらの周知慣用技術は,セルロース系素材と熱可塑性樹脂との複合成形品を得るためのセルロース系素材と熱可塑性樹脂より成る複合粉の製造方法である点で刊行物1の発明と共通している。

そうすると,刊行物1の発明に上記の周知慣用技術を適用してc.の相違点に係る構成を得ることは当業者が容易に想到することができたものである。

なお,審判請求人は平成16年7月9日付けで実験報告書を提出し,木粉と熱可塑性樹脂とを共に攪拌し,摩擦熱により熱可塑性樹脂を溶融して木粉と結合させて成る組成物において,本願発明と刊行物1の発明における,木粉と熱可塑性樹脂との結合状態を比較している。上記の報告書により,本願発明における発明特定事項である「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた」点に関する具体的裏付けは得られるものの,該報告書によっても上記c.の相違点が格別なものであるとすることはできない。

d.の相違点について検討する。

木粉等のセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂原料とを混合・攪拌して粒状物を成形し,該粒状物を用いて木質合成樹脂複合製品を製造する,粒状物の製造法において,セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂とが集合して形成される成形物を粉砕し,所望の粒径に整粒することは周知慣用技術(例えば下記の周知例1,2があげられる)である。そして,刊行物1の発明において粉砕の工程を伴わずに10mm 以下の粒径を得ていたところ,上記a.ないしc.の相違点の構成に伴って同刊行物1の発明に若干の設計の変更あるいは改変を加えたことにより,10 mm 以下の粒径を得るにはセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂とが集合して形成される成形物を粉砕する必要が生じれば,上記した周知慣用技術を適用して成形物を粉砕し,整粒する工程を付加することは,当業者が適宜に実施しうる設計事項にすぎない。

そして,上記a.ないしd.の各相違点を備えた本願発明が奏する効果も,刊行物1の発明並びに刊行物2に記載された技術事項及び周知慣用技術(周知例1ないし3)が本来奏する効果から予測しうる範囲内のものであって,格別なものではない。

したがって,本願発明は,刊行物1の発明並びに刊行物2に記載された技術的事項及び周知慣用技術(周知例1ないし3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【周知例】

周知例1:特開昭61-2505号公報

「セルロース系素材の破砕物に対し10~30%の熱可塑性樹脂材を添加し,混練処理をもって添加熱可塑性樹脂材を該破砕物周面に付着し,次いで該破砕物を粉砕処理をもって再破砕して得られる素材をもってホットプレス成形をなしたことを特徴とする木質板の成形方法。」(特許請求の範囲第1項),及び「この混練りに於いては,セルロース系素材(1)をベースとして,この素材(1)の周面に満遍なく熱可塑性樹脂材(2)が付着されていることを要し,通例加圧ニーダー装置内に於いて発生する混練に伴う摩擦熱による樹脂材(2)の一部又は全部が融解して素材(1)の周面に結着することが予定されたものである。」(第3頁左上欄第10-16行)ことが記載されている。

周知例2:特開昭60-30304号公報

「熱可塑性合成樹脂と,木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを加熱混煉機を用いて短時間混練し,木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕してから熱板又は型枠上に均一に供給し,熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形する合成木質板の製造方法。」(特許請求の範囲),及び「破砕工程においてはその粒度を10~20メッシュ程度にすれば空気流を利用して搬送載置することができるので生産の合理化には非常に有利である。」(第2頁左上欄第9-12行)ことが記載されている。

周知例3:特開昭60-223843号公報

「ポリスチレン樹脂を溶媒中に溶解して樹脂溶液を調製し,該樹脂溶液100重量部に対して木粉30~100重量部を添加混合した後に溶媒を揮散させ,木粉を中核としてその周囲にポリスチレン樹脂の層が被着された粒状物を得ることを特徴とする木粉を主体としたポリスチレン樹脂粒状物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項),及び「破砕工程においてはその粒度を10~20メッシュ程度にすれば空気流を利用して搬送載置することができるので生産の合理化には非常に有利である。」(第2頁左上欄第9-12行)が記載されている。

さらに,本願発明は以下の理由により,上記において例示した周知例2であり,また原審における,平成15年7月10日付けの拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物でもある特開昭60-30304号公報に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

特開昭60-30304号公報(刊行物3)には以下の記載が認められる。

3-a 「熱可塑性合成樹脂と,木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを加熱混煉機を用いて短時間混練し,木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕してから熱板又は型枠上に均一に供給し,熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形する合成木質板の製造方法。」(特許請求の範囲)

3-b 「熱可塑性合成樹脂と木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを混合し板状に成形すれば木材の性質と熱可塑性プラスチックの性質とを併せて持つ安価な合成木質板が得られるであろうことは容易に考えられ,現に各種の試みがなされているが例えば,押出成形法を用いる場合には樹脂混合率を50%程度以上にしないと成形困難であり,また成形コストが非常に高くなって安価な製品は得られない。またプレス成形法を用いるときは樹脂は粉末でないと使用できずこの場合には樹脂粉末と木粉等との混合物を熱板又は型枠上に均一に仕込むのは非常に困難な作業である。」(第1頁左欄第12行-右欄第3行)

3-c 「本発明方法は,樹脂と木粉等とをあらかじめ加熱,混煉したので木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる。従って,これを破砕しても木粉等と樹脂とは再び分離することは無い。」(第1頁右欄第9-13行)

3-d 「加熱混煉を行うには例えばバンバリーミキサーを用いて2分~3分間混煉をすれば樹脂と木粉等との混和物は発熱して150℃以上となり熔融した樹脂は木粉等の表面に融着して充分に目的が達せられる。」(第1頁右欄第19行-第2頁左上欄第3行)

3-e 「破砕工程においてはその粒度を10~20メッシュ程度にすれば空気流を利用して搬送載置することができるので生産の合理化には非常に有利である。」(第2頁左上欄第9-12行)

3-f 「本発明方法に用いる材料について説明する。熱可塑性合成樹脂としては,ポリオレフィン系,塩化ビニール系,ポリスチレン系,ポリウレタン系の樹脂又はそれ等の化学変性重合体若しくは共重合体を用いる。形状は粒状,粉状,粗粒状等どの様な形状も使用出来る。木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとしては,市販の木粉,粗木粉,ファイバーボード等に使用されている木皮を粉砕したもの,またパルプ等の木繊維でもよい。」(第2頁左上欄末行右上欄第9行)

3-g 「樹脂と木粉等との配合割合は出来得る限り樹脂比率を低くすることが好ましい。本発明方法に於ては,あらかじめ樹脂と木粉等とを充分に馴染ませるため樹脂比率を20%にまで減少させても完全な成形品が得られるが,通常30~40%位が適当である。」(第2頁右上欄第10-15行)

上記の記載より,刊行物3にはつぎの発明(刊行物3の発明)が記載されていると認められる。

「熱可塑性合成樹脂と木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを混合し木材の性質と熱可塑性プラスチックの性質とを併せて持つ安価な合成木質板を得るための従来の試みにおいて,押出成形法を用いる場合には樹脂混合率を50%程度以上にしないと成形困難であり,またプレス成形法を用いるときは樹脂は粉末でないと使用できずこの場合には樹脂粉末と木粉等との混合物を熱板又は型枠上に均一に仕込むのは非常に困難な作業であるという課題を解決するための合成木質板の製造方法であって,熱可塑性合成樹脂と,木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを加熱混煉機を用いて短時間混煉し,木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕してから熱板又は型枠上に均一に供給し,熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形するものであり,樹脂と木粉等との配合割合は出来得る限り樹脂比率を低くすることが好ましいが,通常30~40%位が適当であり,破砕工程においてはその粒度を10~20メッシュ程度にすれば空気流を利用して搬送載置することができる,合成木質板の製造方法。」

そして,本願発明と刊行物3の発明とを対比すると以下のことがいえる。

(i) 刊行物3の発明は「木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のもの」を用いるものであり,

また実施例として「水分10%」の「木粉(摘記事項3-h)を用いており,該「木粉」は,本願発明を特定する事項である「セルロース系破砕物」に対応しているから,刊行物3の発明は,本願発明を特定する「含有水分量を15wt %以内とし」た「セルロース系破砕物」に対応する構成を備えている。また,刊行物3の発明における「熱可塑性合成樹脂」は本願発明を特定する事項である「熱可塑性樹脂成形材」に対応していることが明らかである。

(ii) 刊行物3には「木粉に対する樹脂比率は)通常30~40%位が適当であ(摘記事項3-g)ることが記載されており,熱可塑性合成樹脂を「30~40%位」としたときの「木粉」の配合割合は「60~70%」であるといえる。なお刊行物3に記載された配合割合は重量比によるものであることが明記されていないが,当該技術分野において通常用いられている配合割合は重量比によるものであることから,刊行物3の発明における配合割合も重量比によるものと解するのが適当といえる。

(iii) 刊行物3の発明は「加熱混煉を行うには例えばバンバリーミキサーを用いて2分~3分間混煉をすれば樹脂と木粉等との混和物は発熱して150℃以上とな(摘記事項3-d)るものであり「混和物」の「発熱」は,実質上「樹脂と木粉等との」摩擦熱によるものであるということができ,また「混煉」は本願発明を特定する事項である「ゲル化混練」に対応しているから,同刊行物3の発明は,本願発明を特定する「セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して」の事項に対応する構成を実質的に備えている。

(iv) 刊行物3の発明は「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる(摘記事項3-c)ものであるから,同刊行物3の発明は,本願発明を特定する「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」の事項に対応する構成を備えている。

(v) 刊行物3の発明は「木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕」するものであり,また「破砕工程においてはその粒度を10~20メッシュ程度にす」(摘記事項3-e)るものであって,この粒度が「10~20メッシュ程度」とは1.7~0.85mm の粒径であるから,同刊行物3の発明は,本願発明を特定する「冷却し,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する」の事項に対応する構成を備えている。

(vi) 刊行物3の発明において「熱可塑性合成樹脂」と「木材の粉状のもの」とを「混煉」し,「木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕して」得られたものは,本願発明を特定する「木質合成粉」に対応しているから,本願発明と刊行物3の発明は「木質合成粉の製造方法」である点で共通している。

そうすると,両者は以下の点で一致し,また相違していると認められる。

一致点;

含有水分量を15wt %以内としたセルロース系破砕物に対して熱可塑性樹脂成形材をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して前記セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ,次いで冷却し,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含む木質合成粉の製造方法,である点。

相違点;

イ.セルロース系破砕物が,本願発明では平均粒径20メッシュ以下であるのに対して,刊行物3の発明では平均粒径は明らかでない点。

ロ.セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との配合割合が,本願発明ではセルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %を配合するものであるのに対して,刊行物3の発明では木粉(セルロース系破砕物約)60~70(wt)%に対して熱可塑性合成樹脂(熱可塑性樹脂成形材)30~40(wt)%を配合するものである点。

ハ.本願発明は押出成形用であるのに対して,刊行物3の発明は熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形するものである点。

上記の相違点について検討する。

まずイ.の相違点について検討する。

木質粉末と熱可塑性合成樹脂を混合・攪拌し,押出成形する木質系合成樹脂複合材の製造法において,前記木質粉末として粒径1mm 以下の木質粉末を用いることは周知慣用技術(例えば上記刊行物2,下記の周知例4,5があげられる)であり,刊行物2に記載された技術事項または下記の周知技術を参照すれば,刊行物3の発明における木粉(セルロース系破砕物)として,平均粒径20メッシュ以下,すなわち0.85mm 以下のものを用いることに格別な困難性はない。

ロ.の相違点について検討する。

刊行物3の発明における熱可塑性合成樹脂(熱可塑性樹脂成形材)の配合割合の下限については,同刊行物3の発明は「樹脂比率を20%まで減少させても完全な成形品が得られる」(摘記事項3-g)ものであることから,その配合割合の下限を25(wt)%とすることも十分に可能なものであり,その場合において,木粉(セルロース系破砕物)の配合割合は75(wt)%となるものである。一方,熱可塑性合成樹脂(熱可塑性樹脂成形材)の配合割合の上限については,熱可塑性合成樹脂(熱可塑性樹脂成形材)の配合割合を大きくするほど成形性が向上することは明らかであって,その上限をどこに設定するかについては,最終成形品にどれだけ木質感を現出するかによって当業者が適宜定めることが可能なものであり,その上限を80(wt)%とすることは,当業者が適宜になし得る設計事項にすぎない。その場合において,木粉(セルロース系破砕物)の配合割合は20(wt)%となるものである。

ハ.の相違点について検討する。

刊行物3の発明は「熱可塑性合成樹脂と木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを混合し木材の性質と熱可塑性プラスチックの性質とを併せて持つ安価な合成木質板を得るための従来の試みにおいて,押出成形法を用いる場合には樹脂混合率を50%程度以上にしないと成形困難であり,またプレス成形法を用いるときは樹脂は粉末でないと使用できずこの場合には樹脂粉末と木粉等との混合物を熱板又は型枠上に均一に仕込むのは非常に困難な作業であるという課題を解決するための合成木質板の製造方法」である。

ところで,樹脂混合率を50%以上として押出成形法により成形する木質系合成樹脂複合材は周知慣用技術(例えば,上記刊行物1,2及び下記の周知例4,5があげられる。)であり, 相違点イ.に対する検討として上記したとおり,刊行物3の発明においても樹脂混合率を50%以上とすることは十分に可能なものであって,樹脂混合率を50%以上とした場合において,これを押し出し成型法に適用することを阻害する特段の要因も存在していない。

そして,上記イ.ないしハ.の各相違点を備えた本願発明が奏する効果も刊行物3の発明及び周知慣用技術(刊行物1,2及び周知例4,5)が本来奏する効果から予測しうる範囲内のものであって,格別なものではない。

したがって,本願発明は,刊行物3の発明及び周知慣用技術(刊行物1,2及び周知例4,5)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【周知例】

周知例4:特公平4-7283号公報

「粒径を80~300メッシュ,含有水分を1~5%とした木粉を熱可塑性樹脂材に30~70%相当混入し,これを加熱,練合せスクリューをもって成形熱ロール前面に押出すようになすと共に,この押出し成形生地を加熱しながら該熱ロールをもって所定肉厚に圧延成形をなすようにしたことを特徴とする木質合成板の成形方法。」(特許請求の範囲第1項)が記載されている。

周知例5:特開昭61-273903号公報

セルロース系の微粉骨材を含有する押出し成形による成形が可能な熱可塑性樹脂板に突板を添着して合板とした後,該合板を加熱膨潤させて押圧し,乾燥させて型付けしたことを特徴とする木質状化粧成形品において,セルロース系の微粉骨材として80メッシュから150メッシュ,すなわち0.180~0.106mm のものを使用する点,及び,成形方法によって微粉骨材の最大混入率は異なるが,塩化ビニールに可塑剤を添加した軟質版の場合は30~60%の混入率とし,硬質版の場合は30~80%の骨材が混入される点が,それぞれ記載されている(特許請求の範囲第1項,第2頁右上欄第6行-左下欄第4行)

4.むすび

以上のとおりであるから,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」

原告の主張(審決取消事由)の要点

審決判断1は,本願発明と刊行物1の発明との一致点の認定を誤り,さらに,相違点a~dについての判断を誤った上,手続上の瑕疵を伴うものであり,また,審決判断2は,本願発明と刊行物3の発明との一致点の認定を誤り,さらに,相違点イ~ハについての判断及び作用効果についての判断を誤った上,手続上の瑕疵を伴うものであるから,審決は取り消されるべきである。

1 取消事由1(審決判断1の一致点の認定の誤り)

審決は,審決判断1に係る本願発明と刊行物1の発明との一致点を「セルロース系破砕物に対して熱可塑性樹脂成形材をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して,次いで冷却し,粒径10mm 以下にする工程を少なくとも含む押出成形用の木質合成粉の製造方法,である点」と認定したが,誤りである。

2 取消事由2(審決判断1の相違点aについての判断の誤り)

審決は,審決判断1に係る相違点aの「セルロース系破砕物が,本願発明では・・・平均粒径20メッシュ以下のものであるのに対して,刊行物1の発明では・・・平均粒径は3mm 以下のものである点」につき,刊行物2に「粒径1mm 以下」の木質粉末を用いることが記載されており,この技術事項を参照して「刊行物1の発明における木粉(セルロース系破砕物)として・・・平均粒径20メッシュ以下,すなわち0.85mm 以下のものを用いたことに格別な困難性はない」と判断したが,誤りである。

3 取消事由3(審決判断1の相違点bについての判断の誤り)

審決は,審決判断1に係る相違点bの「セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との配合割合が,本願発明ではセルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %を配合するものであるのに対して,刊行物1の発明では木粉(セルロース系破砕物)約30~60wt %に対して熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)約40~70wt %を配合するものである点」につき,刊行物1の発明における上記配合割合が,本願発明の上記配合割合と大きく重複しているとした上「刊行物1の発明における,上記配合割合の採りうる上限及び下限について,格別の臨界的意義を見いだすことができないから,同配合割合について実験をすることにより,その採り得る範囲を拡げて本願発明に到ることは,当業者が容易になし得たものである」と判断したが,誤りである。

4 取消事由4(審決判断1の相違点cについての判断の誤り)

(1) 審決は,審決判断1に係る相違点cの「本願発明ではセルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させたのに対して,刊行物1の発明では熱可塑性樹脂原料(熱可塑性樹脂成形材)を軟化・ガム化させ,樹脂粒子表面に木粉(セルロース系破砕物)をまぶされた状態で付着させた点」につき,周知例1~3を引用して「木粉等のセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂原料とを混合・攪拌して複合粉とし,該複合粉を用いて木質合成樹脂複合成形品を得るための複合粉の製造方法において,セルロース系破砕物の表面全体に熱可塑性樹脂原料を付着させて上記複合粉を製造することは周知慣用技術である・・・刊行物1の発明に上記の周知慣用技術を適用してc.の相違点に係る構成を得ることは当業者が容易に想到することができたものである」と判断した。しかしながら,審決の判断は周知例1~3に記載された発明についての誤った認定を基にするものであり,その判断は誤りである。

(2) すなわち,まず,周知例1につき,審決は「『混入されるセルロース系素材に於ける表面摩擦抵抗が,樹脂の押出成形ないしは射出成形に際して直接シリンダーあるいはダイス内面に付加され,シリンダーあるいはダイス表面の摩耗を極端に早め』・・・ていたとことに鑑み『セルロース系素材)の繊維端aによってセルロース系素材の周面に巣あるいは気泡を生じた』従来例に対して『樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態』としたために『後のホットプレスによる型づけ成形に於いて,素材(1)の周面に巣あるいは気泡を生ずる余地を無くし,良好な素材同志の馴染みが約束されたもの』・・・であり、このような『素材同志の馴染み』に関する事項は『ホットプレスによる型づけ成形』のみならず,押出成形にも共通した事項であることは明らかである」とした。

確かに,周知例1には,①混入されるセルロース系素材に於ける表面摩擦抵抗が,樹脂の押出成形ないしは射出成形に際して直接シリンダーあるいはダイス内面に付加され,シリンダーあるいはダイス表面の摩耗を極端に早めるとの課題,及び,②セルロース系素材の繊維端aによってセルロース系素材の周面に巣あるいは気泡を生じたとの課題の記載はあるが,周知例1記載の発明は「樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態」とする構成を採用することにより,これらの課題を解決するものではない。周知例1記載の発明は,上記①の課題については,押出成形を断念し,ホットプレス成形を限定的に採用することにより,これを回避するものであり(2頁右上欄18行~左下欄5行,4頁右上欄9~14行,上記②)の課題は,再破砕,粉粒化処理を採用することにより解決しようとするものである(3頁左下欄6~12行。したがって,審決が「樹脂剤( )が素材( )の表面に満遍なく結着している状態」とする構成を,上記①,②の課題の解決手段と認定したことは誤りであり,周知例1は,押出成形時における摩擦抵抗等の問題を解消することを目的として「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た本願発明に至る動機となるものではない。

また,周知例1記載の発明においては,樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態で再破砕,粉粒化処理をするものであるから(3頁右上欄末行~左下欄3行,樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態は,再破砕,粉粒化処理の前段階となるところ,再破砕,粉粒化処理によって「素材(1)の周囲に於ける繊維突出部分,特に繊維のみが露呈した状態での突出部分が無くな(3頁左下欄7~9行)るとされているので,再破砕,粉粒化処理の前段階である樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態では,繊維のみが露呈した状態での突出部分が存在することもあり得ることになる。そうすると,周知例1記載の発明における樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態とは,繊維のみが露呈した状態を含むことになるが,これは本願発明の「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた」状態とは異なるものである。したがって,審決が,周知例1の樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態をもって,本願発明のセルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた状態に対応するものとしたこと自体が,そもそも誤りである。

のみならず,本願発明では,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を経た後,すなわち製造物である「木質合成粉」の状態にあっても,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた状態を維持している必要があり,本件発明における「ゲル化混練」とは,このようなセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂との結合状態を発生させる混練状態をいうものである。これに対し,周知例1記載の発明においては,樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態で再破砕,粉粒化処理をすることにより,樹脂材(2)は再破砕,粉粒化された素材(1)の大きさの割合に比例して満遍なく混入されたものとなり(3頁右上欄末行~左下欄5行),この段階では,樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着し1ている状態は維持されない。また,上記のように,周知例1記載の発明は,上記①の課題を回避するために,押出成形を断念し,ホットプレス成形を限定的に採用したものである。これらの事由を考慮すれば,押出成形時における摩擦抵抗の問題の解消を目的とした本願発明を創作するに当たり,周知例1の記載に基づいて,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させるとの構成を容易に想到できたとすることは誤りである。

(3)次に,周知例2につき,審決は「『木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる』ために『熱プレスを用いて成形した後も樹脂と木粉等との混和状態が均一である・・・ものであり,上記したとおり,木粉等と樹脂との『馴染み』に関する事項は『熱プレス』のみならず,押出成形にも共通した事項である」とした。

しかしながら,周知例2記載の発明は,熱板や型枠上に仕込んだ樹脂粉末と木粉とが,形状,粒度,比重の相違により,仕込み時の振動や空気抵抗によって分離し,均質な合成木質板が得られない(1頁左欄末行~右欄7行)というプレス成形法特有の問題(押出成形では振動や空気抵抗により影響されない)を解決すべき課題とし,樹脂と木粉等とを予め加熱混練し,木粉等の表面に樹脂を融着させて,木粉等と樹脂とを馴染ませる(1頁右欄9~13行)ことをその解決手段とするものである。したがって,周知例2は,本願発明の,押出成形時における摩擦抵抗の問題の解消を目的として,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させるとの構成を容易に想到できたとする根拠とはならない。このように,押出成形とプレス成形とでは,課題が全く異なるのに,「木粉等と樹脂との『馴染み』に関する事項は『熱プレス』のみならず,押出成形にも共通した事項である」として,両者の課題が共通することを前提とした審決の判断は誤りである。

また,周知例2には,樹脂と木粉等との加熱混練を過度に行うと樹脂が木質内部に含浸し,木材としての性質を失うので,早めに加熱を停止することが必要であるとの記載(2頁左上欄4~8行)があり,この記載を併せ考えると,周知例2記載の発明における「加熱混練により木粉等の表面に樹脂を融着させ,木粉等と樹脂とを馴染ませること」とは,樹脂が木粉内部に含浸していない状態における融着状態を意味することになるが,本願発明における「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとは,原告作成に係る平成16年7月9日提出の実験報告書(甲第12号証。以下「本件実験報告書」という)に記載されたとおり,樹脂が木粉内部に含浸している状態における融着状態を指しているから,両者は同一ではなく,周知例2は,本願発明のセルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させる構造や,このような付着構造を生じさせる本願発明のゲル化混練の工程を開示していない。本願発明の組成物においては,個々の木粉の単体表面全体に熱可塑性樹脂が付着し,組成物の表面に露出する木粉の存在を確認できないのに対し,周知例2記載の方法によって製造した組成物においては,熱可塑性樹脂の表面に木粉が多数露出した状態で付着していることは,原告作成に係る平成17年9月2日付け実験報告書(甲第24号証。以下「追加実験報告書」という)によっても確認される。

さらに,周知例2には,押出成形は,樹脂混合率を50%程度以上にしなければ(したがって,木粉等の混合率を50%程度以下にしなければ,成形困難である)(1頁左欄17~18行)が,プレス成形は木粉等の含有率を70~80%にまで高めることも可能である(2頁左上欄15~17行)こと,プレス成形は,押出成形等に比べ,工程が短時間で済むため木粉等が破壊されることがないこと(2頁左上欄13~15行)が記載されており,これらの記載に照らして,周知例2記載の発明は,押出成形によった場合の木粉等混入率を高められないという課題や木粉等が破壊されるという課題を解決するために,押出成形法による成形を断念し,プレス成形を採用したものであるから,周知例2記載の発明を,押出成形法を採用する刊行物1の発明と組み合わせることについては阻害要因があるというべきである。

(4) さらに,周知例3につき,審決は「『木粉の外周をポリスチレン樹脂層で被覆』した構造により『木粉を主体とするにもかかわらず通常のポリスチレン樹脂の粒状物と全く同様の成形法により種々の成形品を製造でき・・・るものである』」とした。

しかしながら,周知例3には,周知例2と同様,セルロース系素材に係る表面摩擦抵抗の問題についての記載はなく,刊行物1の発明に周知例3記載の発明を組み合わせることによって,セルロース系素材の摩擦抵抗の問題を解消する本願発明の効果を予測することはできないから,刊行物1の発明に周知例3記載の発明を組み合わせることが容易であるとはいえない。

また,周知例3記載の発明は,ポリスチレン樹脂を溶媒中に溶解して樹脂溶液を調整し,当該樹脂溶液に木粉を添加混合した後,溶媒を揮散させて,木粉を中核としたその周囲にポリスチレン樹脂の層が被着された粒状物を製造するものである(1頁特許請求の範囲)が,ポリスチレン樹脂を溶媒中に溶解した樹脂溶液は,「ドープセメント」と呼ばれる接着剤であるから,周知例3記載の発明において,木粉同士又は木粉と樹脂とは,接着剤によって接着されているものである。そして,このような木粉と樹脂との結合方法は,セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材を攪拌衝撃翼により混合し,摩擦熱によりゲル化混練してセルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させる本願発明の結合方法とも,木粉と熱可塑性樹脂原料とをミキサーで攪拌することにより,摩擦熱で熱可塑性樹脂原料を軟化・ガム化させ,樹脂粒子表面に木粉をまぶされた状態で付着させる刊行物1の発明の結合方法とも,全く異なるものである。したがって,周知例3記載の結合方法で得られた粒状物も,本願発明の結合方法で得られた粒状物とその構造が顕著に異なるものであって,本願発明の木質合成粉の構造を開示又は示唆するものということはできない。

のみならず,審決は,結合方法については刊行物1の発明の構成を引用しつつ,その結果得られる粒状物の構造のみ,全く異なる方法で得られた周知例3記載の発明のものを組み合わせることが容易であるとするものであるが,刊行物1の発明の結合方法により,いかにして周知例3記載の構造を有する粒状物を得ることができるのかを明らかにしていない。このことは,本願発明におけるセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との結合構造が,上記方法によって特定されたものであることを無視するものであって,失当である。

(5) 被告は,審決が,周知例1~3に例示される周知慣用技術が開示する組成物の結合構造を技術思想として参酌すれば,刊行物1の発明に係る押出成形用の組成物の結合構造を改変して,本願発明に係る押出成形用の組成物の結合構造を得ることが当業者にとって容易であると判断したものであって,刊行物1の発明に係る押出成形用の組成物に代えて,周知例1~3に係る組成物のいずれかを適用,あるいは転用することが容易であると判断したものではないと主張する。しかしながら,周知例1~3に,本願発明の「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた結合構造が開示されていない」ことは上記(2)~(4)のとおりであるから,周知例1~3に例示される周知慣用技術が開示する組成物の結合構造を技術思想として参酌したとしても,本願発明の上記結合構造を備えた組成物が得られるものではない。

また,被告は,周知例1が,その開示する組成物を押出成形に用いることを回避しているものではないと主張するが周知例1の記載に明らかに反するものである。

さらに,被告は,周知例1~3にセルロース系素材と熱可塑性樹脂との「馴染み」を良好にするという共通した課題が存在し,押出成形においては「馴染み」が良好であることが,押出の際の「摩擦抵抗の減少」という押出成形に独特の課題の解決に導かれるとも主張するが,周知例3には「馴染み」を良好にするという課題の記載自体が存在しないし,周知例1,2にも「馴染み」が良好であることにより,押出の際の「摩擦抵抗の減少」が得られるとの記載はない。

イ 周知例1につき,被告は,周知例1の結合構造を本願発明との関係でみると,いったん「樹脂材(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態」となった「成形材m」が,本願発明を特定する「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た結合構造と対比されるべきものであって,その後の再破砕,粉粒化処理は,本願発明における「粉砕して粒径10mm以下に整粒する工程」に対応するものであると主張する。しかしながら,周知例1の再破砕,粉粒化処理が,木粉自体を粉砕するものであるのに対し,本願発明の「整粒」がセルロース系破砕物の粉砕を伴うものではなく,この工程を経て最終的に得られた木質合成粉においても,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた状態が維持されていることは上記(2)のとおりであるから,周知例1の再破砕,粉粒化処理が,本願発明の整粒工程に対応するものではない。のみならず,被告主張のとおり「樹脂材(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態」となった「成形材m」を,本願発明の「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た結合構造と対比させたとしても,上記()のとおり,両者は相違するものである。

ウ 周知例2につき,被告は,本願明細書に,本願発明の実施例において「ゲル化混練」が熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)の融点(165℃)より約20度高い186℃まで温度を上昇させて行われることが記載されており,周知例2にも,「加熱混練」が,熱可塑性樹脂(高密度ポリエチレン)の融点(120~140℃ )より20度以上高い165℃まで温度を上昇させて行われる実施例の記載があるから,樹脂の熔融(溶融)の程度や,木粉の個々の単体表面への付着の状態に実質的な違いがないと主張する。しかしながら,大阪市立工業研究所プラスチック読本編集委員会及びプラスチック技術協会共編の「プラスチック読本(甲第22号証)」に,射出成形の際,樹脂に流動性(溶融粘度の低下)を与えるためのシリンダ設定温度(ノズル部分)を,ポリプロピレン(PP)については180~260℃に,高密度ポリエチレン(HDPE)については210~280℃に設定することが記載されている(242頁左欄表2)ように,高密度ポリエチレンは,ポリプロピレンよりも融点が低い物質でありながら,ポリプロピレンと同程度か多少高めの温度に加熱しなければ,同様の流動状態が得られないという物性を有しており,そうすると,加熱混練時の温度が165℃である上記周知例2の実施例が,加熱混練時の温度が186℃である上記本願発明の実施例よりも,流動性の低い(粘性の高い)溶融状態にあって,木粉に樹脂が含浸し難いことは明らかである。それにもかかわらず,樹脂の熔融(溶融)の程度や,木粉の個々の単体表面への付着の状態に実質的な違いがないとする被告の主張は,誤りである。

また,被告は,樹脂が木粉(セルロース系破砕物「内部」に「含浸」している)との原告主張は,本願発明の要旨に基づかないものであると主張するが,樹脂がセルロース系破砕物の内部に含浸しているとの主張は「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」たという本願発明の特定事項につき,本件実験報告書に基づいて,周知例2記載の発明との差異を述べたものにすぎない。

さらに,被告は,本件実験報告書において,本願発明の木質合成粉に相当するとされている「組成物1」を得るものとされている「製造方法1」が,本願発明の実施例を忠実に再現するものとはいえないとともに,実験から,樹脂が木粉内部に浸透し,均一化されていることまでは確認できないと主張するが,本願発明は,実施例記載の方法に限られるものではなく「製造方法1」が本願発明の要旨に規定する条件の範囲内で実施されていることは明らかであるのみならず,審決は,本件実験報告書により「本願発明における発明特定事項である『セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた』点に関する具体的裏付けは得られる」(審決書6頁19~22行)と認定しているのであるから,被告の上記主張は,審決に基づかないものである。

5 取消事由5(審決判断1の相違点dについての判断の誤り)

審決は,審決判断1に係る相違点dの「冷却後,粒径10mm 以下にする工程が,本願発明では粉砕して10mm 以下に整粒するものであるのに対して,刊行物1の発明では粉砕するものではない点」につき,周知例1,2を引用して「木粉等のセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂原料とを混合・攪拌して粒状物を成形し,該粒状物を用いて木質合成樹脂複合製品を製造する,粒状物の製造法において,セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂とが集合して形成される成形物を粉砕し,所望の粒径に整粒することは周知慣用技術・・・である。そして,刊行物1の発明において・・・上記a.ないしc.の相違点の構成に伴って同刊行物1の発明に若干の設計の変更あるいは改変を加えたことにより,10mm 以下の粒径を得るにはセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂とが集合して形成される成形物を粉砕する必要が生じれば,上記した周知慣用技術を適用して成形物を粉砕し,整粒する工程を付加することは,当業者が適宜に実施しうる設計事項にすぎない」と判断したが,誤りである。

6 取消事由6(審決判断1に係る手続上の瑕疵)

(1) 原告の本件出願に対しては,上記第2の1の(2)のとおり,平成15年7月10日に第1回拒絶理由通知が,平成16年1月29日に第2回拒絶理由通知がなされた後,同年4月12日付け手続補正後の同月28日に拒絶査定がなされたものである。各拒絶理由通知において,請求項2記載の発明に対する特許法29条2項の拒絶事由に関して引用されたのは,第1回拒絶理由通知では刊行物1及び刊行物3(周知例2)であり,第2回拒絶理由通知では刊行物1及び刊行物2である。そして,拒絶査定は,第2回拒絶理由通知に係る理由を引用して本件出願を拒絶した上「備考」として,原告の意見書に記載された,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点において刊行物1の発明と相違する旨の主張に対し「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点について具体的裏付けが欠け,その構成が確認できず,刊行物1の発明との間に明確な差異は認められない,としたものである。以上のとおり,第1回拒絶理由通知において刊行物3(周知例2)が引用されたほかは,各拒絶理由通知において,周知例1~3は引用されていない。また,拒絶査定における拒絶の理由は,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点について具体的裏付けが欠け,その構成が確認できず,刊行物1の発明との間に明確な差異は認められないという点に絞られた。

そして,審決は,原告が提出した本件実験報告書に基づき「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た点に関する具体的裏付けが得られると判断した(審決書6頁16~22行)ものの,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点に関する,本願発明と刊行物1の発明との相違(相違点c)につき,上記4のとおり,周知例1~3を引用し「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることは周知慣用技術であって,当業者が容易に想到し得ると判断したものである。

しかしながら,上記のとおり,拒絶査定は,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点については具体的裏付けが欠け,その構成が確認できず,刊行物1の発明との間に明確な差異は認められないとしたのであって,この拒絶査定から,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ている点について具体的裏付けがあり,刊行物1の発明との間に明確な差異が認められたとしても「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることが周知慣用技術であるとする拒絶理由を予測することは不可能である。したがって,審決において,周知例1~3により「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることが周知慣用技術であると判断する以上,審判長は,刊行物1,2に周知例1~3を追加した新たな拒絶理由通知を行うべきであったのであり,そのような拒絶理由通知がなされていれば,原告は,意見書を提出し,また,手続補正をすることができた(特許法159条2項,50条,17条の2第1項1号)のであるから,そのような拒絶理由通知をせずになされた審決は,原告の反論及び補正の機会を不当に奪ったもので,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法がある。

(2) 被告は,拒絶理由通知に示していない文献であっても,周知慣用技術を裏付けるためのものであれば,新たな拒絶理由通知をすることなく審決(拒絶査定)において示したとしても違法ではないと主張する。

しかしながら,本願発明は,押出成形時における摩擦抵抗を解消した木質合成粉を得るという課題を設定し,その解決のために「ゲル化混練して前記セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」るという構成を採用したものであるところ,審決は,このような本願発明の主要部分の構成を周知例1~3の記載に求めており,周知例1~3は,周知慣用技術が記載されたものとされているものの,実質的に審決判断1における主要な引用文献を構成しているものであるから,被告の上記主張は誤りである。

7 取消事由7(審決判断2の一致点の認定の誤り)

審決は,審決判断2に係る本願発明と刊行物3の発明との一致点を「含有水分量を15wt %以内としたセルロース系破砕物に対して熱可塑性樹脂成形材をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して前記セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ,次いで冷却し,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含む木質合成粉の製造方法,である点」と認定したが,誤りである。

すなわち,審決は「刊行物3の発明は『木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる』・・・ものであるから,同刊行物3の発明は,本願発明を特定する『セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ』の事項に対応する構成を備えている」として「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」るという点で本願発明と刊行物3の発明とが一致するとしたものであるが,刊行物3(周知例2)の発明における「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ことと,本願発明の「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとが同一でないことは,上記4の(3)のとおりであるから,審決が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」るという点で,本願発明と刊行物3の発明とが一致するとしたことは,誤りである。

8 取消事由8(審決判断2の相違点イについての判断の誤り)

審決は,審決判断2に係る相違点イの「セルロース系破砕物が,本願発明では平均粒径20メッシュ以下であるのに対して,刊行物3の発明では平均粒径は明らかでない点」につき,刊行物2及び周知例4,5を引用して「木質粉末と熱可塑性合成樹脂を混合・攪拌し,押出成形する木質系合成樹脂複合材の製造法において,前記木質粉末として粒径1mm 以下の木質粉末を用いることは周知慣用技術」であるとし「刊行物3の発明における木粉(セルロース系破砕物)として,平均粒径20メッシュ以下,すなわち0.85mm 以下のものを用いることに格別な困難性はない」と判断したが,誤りである。

9 取消事由9(審決判断2の相違点ロについての判断の誤り)

審決は,審決判断2に係る相違点ロの「セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との配合割合が,本願発明ではセルロース系破砕物20~75wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %を配合するものであるのに対して,刊行物3の発明では木粉(セルロース系破砕物約)60~70(wt)%に対して熱可塑性合成樹脂(熱可塑性樹脂成形材)30~40(wt)%を配合するものである点」につき,刊行物3に熱可塑性樹脂の比率を20%まで減少させても完全な成形品が得られることが記載されているから,その下限を25(wt)%とすること(セルロース系破砕物の上限を75(wt)%とすること)も十分可能であり,また,熱可塑性樹脂は配合割合を大きくする程成形性が向上することは明らかであるから,その上限を80(wt)%とすること(セルロース系破砕物の下限を20(wt)%とすること)は,当業者が適宜になし得る設計事項にすぎないと判断したが,誤りである。

10 取消事由10(審決判断2の相違点ハについての判断の誤り)

審決は,審決判断2に係る相違点ハの「本願発明は押出成形用であるのに対して,刊行物3の発明は熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形するものである点」につき「樹脂混合率を50%以上として押出成形法により成形する木質系合成樹脂複合材は周知慣用技術・・・であり・・・刊行物3の発明においても樹脂混合率を50%以上とすることは十分に可能なものであって,樹脂混合率を50%以上とした場合において,これを押し出し成型法に適用することを阻害する特段の要因も存在していない」と判断したが,誤りである。

11 取消事由11(審決判断2の作用効果についての判断の誤り)

審決は「上記イ.ないしハ.の各相違点を備えた本願発明が奏する効果も刊行物3の発明及び周知慣用技術(刊行物1,2及び周知例4,5)が本来奏する効果から予測しうる範囲内のものであって,格別なものではない」と判断したが,誤りである。

12 取消事由12(審決判断2に係る手続上の瑕疵)

本件出願に対する拒絶査定までの経過は,上記6の(1)のとおりであり,拒絶査定は,第2回拒絶理由通知に係る理由を引用したものであるところ,第2回拒絶理由通知は,請求項2記載の発明に対する特許法29条2項の拒絶事由として,刊行物1及び刊行物2を引用したものである。しかるに,審決の審決判断2は,第2回拒絶理由通知にも拒絶査定にも引用されなかった刊行物3を主引用例とし,これと,周知技術とに基づいて本願発明が容易に想到し得るものであるとしたものである。

第1回拒絶理由通知において,刊行物3が,刊行物1とともに,請求項2記載の発明に対する特許法29条2項の拒絶事由として引用されたことは上記6の(1)のとおりである。しかしながら,原告は,第1回拒絶理由通知に対応して,平成15年9月22日付けの手続補正(甲第5号証)及びこれに伴う意見書の提出を行い,その後の第2回拒絶理由通知及び拒絶査定においては刊行物3が引用されることはなかったのであるから,原告が,刊行物3に基づく拒絶の理由が解消したと信ずることは当然であり,拒絶査定に示された拒絶の理由が,刊行物3の発明及び周知技術に基づくものを含むことを予測することは不可能である。したがって,審決において,本願発明が刊行物3の発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得ると判断する以上,審判長は,刊行物3と当該周知技術とを引用した新たな拒絶理由通知を行うべきであったのであり,そのような拒絶理由通知がなされていれば,原告は,意見書を提出し,また,手続補正をすることができた(特許法159条2項,50条,17条の2第1項1号)のであるから,そのような拒絶理由通知をせずになされた審決は,原告の反論及び補正の機会を不当に奪ったもので,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法がある。

被告の反論の要点

1 取消事由1(審決判断1の一致点の認定の誤り)に対し原告の主張は,争う。

2 取消事由2(審決判断1の相違点aについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

3 取消事由3(審決判断1の相違点bについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

4 取消事由4(審決判断1の相違点cについての判断の誤り)に対し

(1) 原告は,周知例1~3には,押出成形に用いたときの摩擦抵抗の減少や,成形品の肌荒れ防止等の本願発明と共通する課題が存在しないのみならず,これらの組成物を押出成形に用いるものでもなく,周知例1に至っては,その開示する組成物を押出成形に用いることを回避しているから,周知例1~3に係る発明を刊行物1の発明に適用することは不可能であると主張する。

しかしながら,審決は,周知例1~3に例示される周知慣用技術が開示する組成物の結合構造を技術思想として参酌すれば,刊行物1の発明に係る押出成形用の組成物の結合構造を改変して,本願発明に係る押出成形用の組成物の結合構造を得ることが当業者にとって容易であると判断したものであって,刊行物1の発明に係る押出成形用の組成物に代えて,周知例1~3に係る組成物のいずれかを適用,あるいは転用することが容易であると判断したものではない。したがって,原告の主張は,審決を正解しないものであって,失当である。

また,周知例1が,その開示する組成物を押出成形に用いることを回避しているとか,押出成形における課題が存在しないとの主張も,以下のとおり誤りである。

すなわち,周知例1は,押出成形における従来の課題を,まず,使用する組成物を改良したことにより「成形品に於ける巣,発泡あるいは表面荒れ等の問題を効果的に防止するようにし(2頁右上欄16~18行)「単純なホットプレスによる成形」を可能とした(2頁右上欄19~末行)ことにより,プレス成形手段を選択したものである。しかし,押出成形による成形手段は,プレス成形手段と共に複合組成物の成形手段の一翼を担う慣用手段であって,この種の複合組成物の成形には不可欠の成形手段であり,当業者は押出成形の特性を熟知している。そうすると,周知例1に接した当業者は,周知例1の出発点であった本来の課題である押出成形の問題点に立ち返り,周知例1において改良が施され「成形品に於ける巣,発泡あるいは表面荒れ等の問題を効果的に防止」できるようになった改良後の組成物が,押出成形にも適用が可能であることを認識するものであり原告が主張するように,当該組成物を押出成形に適用することを回避しようとするものではない。また,周知例1~3にはセルロース系素材と熱可塑性樹脂との「馴染み」を良好にするという共通した課題が存在しているところ,この課題は,プレス成形のみに求められる課題ではなく,押出成形においても同様に求められる,複合組成物における本質的な課題であり,押出成形においては「馴染み」が良好であることが,押出の際の「摩擦抵抗の減少」という押出成形に独特の課題の解決に導かれるものである。

(2) 周知例1~3が開示するセルロース系破砕物の結合構造は,組成物を構成する個々のセルロース系破砕物単体のレベルでの結合構造であるから,実質上,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂原料を付着させた結合構造をなすという技術思想として把握されるものであって,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂原料を付着させた結合構造をなすものと総括的に表現され,実質的にその技術的概念に含まれるものである。そうすると,周知例1~3が開示する組成物の結合構造は,結合構造そのものとしてみると,本願発明におけるセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材とがなす結合構造と異なるものではない。

ア 周知例1について

原告は,本願発明では,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を経た後,すなわち製造物である「木質合成粉」の状態にあっても,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた状態を維持している必要があり,本件発明における「ゲル化混練」とは,このような結合状態を発生させる混練状態をいうものであるのに対し,周知例1記載の発明においては,樹脂剤(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態で再破砕粉粒化処理をすることにより樹脂材(2)は再破砕,粉粒化された素材(1)の大きさの割合に比例して満遍なく混入されたものとなり(3頁右上欄末行~左下欄5行,この段階では,樹脂剤(2))が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態は維持されないと主張する。

しかしながら,周知例1の結合構造を本願発明との関係でみると,一旦「樹脂材(2)が素材(1)の表面に満遍なく結着している状態」となった「成形材m」が,本願発明を特定する「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た結合構造と対比されるべきものであって,その後の再破砕,粉粒化処理は,本願発明における「粉砕して粒径10mm以下に整粒する工程」に対応するものであるから,原告の上記主張は失当である。

イ 周知例2について

原告は,周知例2記載の発明における「加熱混練により木粉等の表面に樹脂を融着させ,木粉等と樹脂とを馴染ませること」とは,樹脂が木粉内部に含浸していない状態における融着状態を意味するのに対し本願発明における結合構造であるゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとは,本件実験報告書記載のとおり,樹脂が木粉内部に含浸している状態における融着状態を指しているから両者は同一ではないと主張する。

しかしながら,本願明細書には,本願発明の実施例において「ゲル化混練」が熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)の融点(165℃)より約20度高い186℃まで温度を上昇させて行われることが記載されており(段落【0170】~【0172】),他方,周知例2にも「加熱混練」が,熱可塑性樹脂(高密度ポリエチレン)の融点(120~140℃)より20度以上高い165℃まで温度を上昇させて行われる実施例の記載があって(2頁左下欄2行~右下欄末行),樹脂の熔融(溶融)の程度や,木粉の個々の単体表面への付着の状態に実質的な違いがないことは明らかである。

また,本願発明の要旨によれば,本願発明におけるセルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材との結合構造は,セルロース系破砕物の個々の単体の「表面」全体に,熱可塑性樹脂成形材を「付着」させるものであり,樹脂が木粉(セルロース系破砕物)「内部」に「含浸」しているとの原告主張は,本願発明の要旨に基づかないものである。さらに,本件実験報告書において,本願発明の木質合成粉に相当するとされている「組成物1」を得るものとされている「製造方法1」が,本願発明の実施例を忠実に再現するものとはいえないとともに,実験から,樹脂が木粉内部に浸透し,均一化されていることまでは確認できないから,原告の上記主張は失当である。

ウ 周知例3について

原告は,ポリスチレン樹脂を溶媒中に溶解した樹脂溶液は「ドープセメント」と呼ばれる接着剤であるから,周知例3記載の発明において,木粉同士又は木粉と樹脂とは,接着剤によって接着されているものであり,本願発明の結合方法で得られた粒状物とその構造が顕著に異なるものであると主張する。

しかしながら,周知例3に記載された「木粉を主体としたポリスチレン樹脂粒状物」は,接着剤として用いるわけではなく,木粉及びポリスチレン樹脂から成る両者の性質を併せもった粒状の複合材料であり,成形材料として用いるものである。そして,ポリスチレン樹脂自体も木材を接着するために用いるわけではなく,あくまでも「木粉の外周をポリスチレン樹脂層で被覆(2頁右上欄17~18行)するため」に用いるのであるから,ポリスチレン樹脂が接着剤であることを根拠として結合構造が異なるとする原告の上記主張は,その前提において誤りである。

5 取消事由5(審決判断1の相違点dについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

6 取消事由6(審決判断1に係る手続上の瑕疵)に対し

第1,第2回拒絶理由通知において,請求項2記載の発明に対する特許法29条2項の拒絶事由に関して引用されたのが,第1回拒絶理由通知では刊行物1及び刊行物3(周知例2)であり,第2回拒絶理由通知では刊行物1及び刊行物2であること,拒絶査定が,第2回拒絶理由通知に係る理由を引用して本件出願を拒絶したこと,その備考欄に原告主張のような記載があることは認める。

原告は,審決において,周知例1~3により「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることが周知慣用技術であると判断する以上,審判長は,刊行物1,2に周知例1~3を追加した新たな拒絶理由通知を行うべきであって,そのような拒絶理由通知をせずになされた審決は,原告の反論及び補正の機会を不当に奪ったもので,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法があると主張する。

しかしながら,拒絶理由通知に示していない文献であっても,周知慣用技術を裏付けるためのものであれば,新たな拒絶理由通知をすることなく審決(拒絶査定)において示したとしても違法ではない。また,審決は,拒絶査定で示されていた理由とは異なる論理構成により本件出願を拒絶すべきであるとしたのではなく,本願発明が,拒絶査定の理由となった刊行物1,2に記載された発明に基づいて,特許法29条2項に該当するとの判断をしたものである。

7 取消事由7(審決判断2の一致点の認定の誤り)に対し

原告は,刊行物3(周知例2)の発明における「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ことと,本願発明の「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとは,同一ではないから,審決が「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」るという点で,本願発明と刊行物3の発明とが一致するとした審決の認定は誤りである旨主張する。

しかしながら,刊行物3(周知例2)の発明における「加熱混練により木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ことと,本願発明の「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとの間に実質的な違いがないことは,上記4の(2)のイのとおりであるから,審決の上記認定に誤りはない。

8 取消事由8(審決判断2の相違点イについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

9 取消事由9(審決判断2の相違点ロについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

10 取消事由10(審決判断2の相違点ハについての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

11 取消事由11(審決判断2の作用効果についての判断の誤り)に対し原告の主張は,争う。

12 取消事由12(審決判断2に係る手続上の瑕疵)に対し

原告は,審決の審決判断2が,刊行物3を引用例として本願発明の容易想到性を判断するに当たり,審判において刊行物3を引用した拒絶理由通知をしなかったことにつき,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法があると主張する。

しかしながら,刊行物3は,審査における拒絶理由として出願人である原告に通知されているところ,このような審査においてなした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有するものである(法158条)から,審決に,同法159条2項で準用する同法50条に違背した違法はない。

当裁判所の判断

当裁判所は,審決には,審決判断1について手続上の瑕疵があり,審決判断2について一致点の認定に誤りがあり審決の結論に明らかに影響するものであるので,審決は取消しを免れないものと判断する。その理由は次のとおりである。

1 取消事由6(審決判断1に係る手続上の瑕疵)について

ア 原告は,審決が,本件発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」る点を,刊行物1の発明との相違点として認めた上,周知例1~3によって「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることは周知慣用技術であるとして,当業者が容易に想到し得ると判断したことに対し,刊行物1,2の発明に周知例1~3を追加した新たな拒絶理由通知を行うべきであったのであり,そのような拒絶理由通知をしないでした判断には,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法があると主張する。

イ 審査・審判の手続の経緯と審決の措置判断

上記第2の1の(2)の事実関係に,甲第2ないし第9号証を併せると,審査・審判の手続の経緯と審決の措置判断は,次のとおりであることが認められる。

① 原告は,平成6年8月18日,本願発明(請求項2記載の発明)を含む発明

(請求項の数は28)を出願した。その発明の要旨は,次のとおりである(甲第2号証。)「含有水分量を15wt %以内とし平均粒径20メッシュ以下のセルロース系破砕物20~75 wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練し,次いで冷却し,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含むことを特徴とする木質合成粉の製造方法」

② 平成15年7月10日付けの第1回拒絶理由通知書(甲第3号証)は,理由1ないし3で構成され,理由1は特許法36条5,6項の定める要件が具備されていないこと,理由2は同法37条の定める要件が具備されていないこと,そして,理由3は,本願発明(請求項2記載の発明)が,「刊行物3の発明(基本構成」としている)及び刊行物1の発明(攪拌衝撃機により混合を行う点」とする部分)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。

③ 原告は,同年9月22日付けの手続補正書(甲第5号証)で,本願発明(請求項2記載の発明)の特許請求の範囲を次のとおり補正した。下線部が追加の箇所である。

「含有水分量を15wt %以内とし平均粒径20メッシュ以下のセルロース系破砕物20~75 wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練し,次いで冷却し,粉砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含み,含有水分量が約01~0 3wt %に乾燥された前記セルロース系破砕物を含む押出成形用の木質合成粉の製造方法」

これに加えて,原告は,同日付けの意見書(甲第4号証)で,本願発明は刊行物3の発明及び刊行物1の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとした拒絶理由に対し,反論を展開し,同手続補正書及び意見書によって,拒絶理由はすべて解消したと主張した。

④ 平成16年1月29日付けの第2回拒絶理由通知書(甲第6号証)は,理由1ないし3によって構成され,理由2は特許法37条に定める要件を満たしていないというものであり,理由3は本願発明(請求項2記載の発明)は,次のとおり,刊行物1及び刊行物2の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたというものである。

「刊行物1には,木粉と熱可塑性樹脂を回転羽根により混練するとともに摩擦熱によって木粉を乾燥させ,それをクーリングミキサーに移して冷却することによって粒径10mm 程度の押出成形用木質合成粉を得る点が開示されている。一方,刊行物2には,含有水分量10%前後で粒径1mm 以下の木粉と,全量に対する重量比40~60%の熱可塑性樹脂を混練した後押出成形を行う点が開示されており,刊行物1の発明において刊行物2に記載にような素材を使用することは,当業者が容易になし得ることと認められる。また,木粉の乾燥の程度については,当業者が適宜設定し得る事項であると認められる」

⑤ 原告は,同拒絶理由書に対し,同年4月12日付けの手続補正書(甲第8号証)を提出し,本願発明(請求項2記載の発明)を次のとおり補正した。下線部分が追加された箇所である。

「含有水分量を15wt %以内とし平均粒径20メッシュ以下のセルロース系破砕物20~75 wt %に対して熱可塑性樹脂成形材25~80wt %をともに攪拌衝撃翼により混合して,摩擦熱によりゲル化混練して前記セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ,次いで冷却し,破砕して粒径10mm 以下に整粒する工程を少なくとも含む押出成形用の木質合成粉の製造方法」

そのうえで,原告は,同日付けの意見(甲第7号証)において,本願発明(請求項1を基本にして意見を構成しているが,その従属項や本願発明(請求項2記載の発明)も同様であるとしている)の特許請求の範囲に「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させた」ことを追加したことに係る構成において,刊行物1の発明と相違点があり,その相違点については容易想到であるとはいえないと主張した。

⑥ これに対し,被告は,同年同月28日付けで,次の理由を示して拒絶査定を行った(甲第9号証。)

「この出願については,平成16年1月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって, 拒絶すべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。[備考]

出願人は意見書で,本願の請求項1に係る発明は「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材が付着され」ている点で引用文献1(判決注:刊行物1をいう。以下,同じ)に記載された発明と相違する旨主張している。

しかしながら,本願明細書及び図面の記載をみても「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材が付着され」ている点についての具体的な裏付けが欠いており,その構成が確認できない。

本願発明における,セルロース破砕物の熱可塑性樹脂成形材とが混合され,ゲル化混練されるという製法をみると,両者がランダムに入り混じった状態となるものと解され,必ずしもセルロース系破砕物の両面が熱可塑性樹脂成形材によって被覆された状態とは限らないものと認められる(これは引用文献1に記載された発明においても同様である。)しかも本願発明においては,最終的に粉砕されて粒径10㎜以下に整粒されているのであるから,セルロース系破砕物のサイズを考慮しても,少なくとも「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材が付着され」ている状態がすべての「木質合成粉」粒子について維持されているとは認められない。

したがって,上記の点に関して本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明に記載された発明との間に明確な差異は認められず,出願人の主張は採用できない。また,その他の請求項についても同様である」

⑦ そして,審決は,上記⑥の拒絶査定に示された認定判断と異なって,本願発明が「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」た点に関し,具体的裏付けが得られると判断した(審決書6頁16~22行)ものの,この点に関する刊行物1の発明との相違点(相違点c)につき,上記第2の3(「対比・判断」の「c.の相違点」の検討)のとおり,周知例1~3を示し「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることは周知慣用技術であって,当業者が容易に想到し得ると判断したものである。

ウ これに対し,原告は,拒絶査定からは「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることが周知慣用技術であるとする拒絶理由を予測することは不可能であるから,刊行物1,2の発明に周知例1~3を追加した新たな拒絶理由通知がなされるべきであったと主張する。

確かに,刊行物1の発明も,セルロース系破砕物と熱可塑性樹脂成形材とが付着するものであり,上記相違点は,熱可塑性樹脂成形材が,セルロース系破砕物の個々の単体の「表面全体」に付着するか「表面全体」は覆わないかという差異をどのように評価するか,という問題である。

そこで,本願明細書の発明の詳細な説明をみると「本発明の木質合成粉を用いて本発明の押出成形を行った場合は,木質合成分は個々の木粉の全表面に樹脂が付着したものであるので,押出機70 内では個々の木粉間に樹脂が満偏なく浸透した良い混練状態の押出し生地79 が形成されるため,‥‥,より一層均一で高密度の木質合成板が形成される(」【0132】)との記載があり,熱可塑性樹脂成形材が表面全体を付着することによって均一で高密度の木質合成板の形成が可能であるというのであるから,単に程度の問題であるということはできない(もっとも,本願明細書の発明の詳細な説明や本件実験報告書をみても,すべての単体の全表面への付着がどのように可能であるについては,必ずしも明解な記載があるわけではないが,審決は,これを肯定して相違点c と認定しているのであるから,当裁判所としては,審決の認定を前提とすべきことになる。)。また,原告は,審判手続において,意見書によって,相違点c については容易想到性がないとする主張を展開し,重要な論点であるとの認識を示していたことは,上記認定のとおりである。

エ しかるに,審決は,相違点c について,上記周知慣用技術を適用して本願発明の構成とすることの容易想到性を肯定する判断をしたものであるが,拒絶理由通知においては,上記周知慣用技術の内容自体はおろか,その根拠となる特許公報にも,言及すらしていないのであるから,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する違法があり,かつ,その違法は明らかに結論に影響がある場合に当たるものというべきである。したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決判断1は取消しを免れない。

確かに,審決は,その判断に当たり,拒絶査定(その引用する第2回拒絶理由通知)で示されなかった新たな公知文献を引用したわけではなく,また,用いたのは周知慣用技術であるというのではあるが,本件のような事案においては,出願に係る発明と引用された発明との構成上の相違点について,特定の技術を用いる場合には,その技術が周知技術であっても,いかなる周知技術であるかについては,特段の事情がない限り,拒絶理由として通知されていなければならないものと解すべきである。なお,当該周知技術が拒絶理由で通知されていれば,その裏付けとなる刊行物等の証拠については,これを追加的に変更をしたり,別なものに交換的に変更したりするのは許容されるが,本件は,周知技術自体が拒絶理由通知に開示されていないのであるから,そのような許容される場合に該当するものではない。

なお,周知例2(刊行物3)については,第1回拒絶理由通知書に引用文献1の発明として引用されているが,周知例2には,セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させるという周知技術が開示されていると認定することができない(この点は,審決判断2で検討する)から,周知例2が第1回拒絶理由通知書に引用されていることを理由に,審決の上記判断上の措置を正当化することはできない。

2 取消事由7(審決判断2の一致点の認定の誤り)について

ア 原告は,審決が,審決判断2に係る本願発明と刊行物3(審決判断1では周知例2)の発明との一致点について「刊行物3の発明は『木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる』・・・ものであるから,同刊行物3の発明は,本願発明を特定する『セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ』の事項に対応する構成を備えている」として,これを理由に「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」る点で本願発明と刊行物3の発明とが一致すると認定したことについて,刊行物3の発明における「木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる」ことと,本願発明の「ゲル化混練して・・・セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることとが同一でないのであるから,審決がした上記一致点の認定は,誤りであると主張し,被告は,これを争うとともに,実質的な相違はないとも主張する。

イ そこで,検討するに,刊行物3には,①特許請求の範囲として「熱可塑性合成樹脂と,木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを加熱混煉機を用いて短時間混煉し,木質表面に樹脂を融着せしめたのちこれを冷却し適度に破砕してから熱板又は型枠上に均一に供給し,熱プレスを用いて加圧,加熱して板状に成形する合成木質板の製造方法」との記載があり,②課題及びその解決手段として「熱可塑性合成樹脂と木材の粉状,粒状,若しくは繊維状のものとを混合し板状に成形・・・押出成形法を用いる場合には樹脂混合率を50%程度以上にしないと成形困難であり・・・プレス成形法を用いるときは樹脂は粉末でないと使用できずこの場合には樹脂粉末と木粉等との混合物を熱板又は型枠上に均一に仕込むのは非常に困難な作業である。即ち樹脂粉末と木粉等とは一旦均等に混合されていても双方の形状,粒度,比重が全く異なるため平板上へ配置されるときの振動や空気抵抗によって分離し,均質な合成木質板が得られない。この様な問題点を解決するためになされたのが本発明である。本発明方法は,樹脂と木粉等とをあらかじめ加熱,混煉したので木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる従って,これを破砕しても木粉等と樹脂とは再び分離することは無い。」(1頁左欄12行~右欄13行)との記載がある。

これらの記載によれば,刊行物3の発明は,熱可塑性合成樹脂と木粉等とをプレス成形法によって成形する合成木質板の製造方法において,樹脂粉末と木粉等との混合物を熱板又は型枠上に仕込む際,樹脂粉末と木粉等との形状,粒度,比重が全く異なるため,振動や空気抵抗によって分離し,均一に仕込むことが非常に困難であるという従来技術の問題を解決すべき課題とし,樹脂と木粉等とを加熱,混練し,木粉等の表面に樹脂を融着させた後,これを破砕したものを熱板又は型枠上に仕込むという技術手段によって解決するものであると認められる。したがって,刊行物3には,熱可塑性樹脂と木粉(セルロース系破砕物)とを加熱混練して,木粉等の表面に樹脂を融着させた組成物,すなわち,セルロース系破砕物の個々の単体表面に熱可塑性樹脂成形材を付着させた状態のものが記載されている。なお,上記「本発明方法は・・・木粉等の表面に樹脂が融着して木質と樹脂とが充分に馴染んでいる。従って,これを破砕しても木粉等と樹脂とは再び分離することは無い」との記載に照らせば,刊行物3は,破砕しても分離しない程度に強固に,木粉等の表面に樹脂が付着した状態であることを「木粉等と樹脂とが馴染む」と表現していることが窺われるが,いずれにしても,付着に関する質的なもの,すなわち,付着の強弱や分離の難易を問題にしたものと理解するのが自然である。これに対し,本件発明のいう「セルロース系破砕物の個々の単体表面全体に熱可塑性樹脂成形材を付着させ」ることは,付着の広がり,範囲を問題にしたものである。したがって,確かに,両者の上位概念で一致することがあるとしても,他に証拠資料がないまま,両者の付着状態が同一である,あるいは,実質的に相違がないものと認定することは相当ではない。

そうであるとすれば,審決がセルロース系破砕物の表面全体に熱可塑性樹脂原料を付着させて複合粉を製造することが刊行物3に開示されているものと認定したことは誤りであるといわざるを得ない。そして,審決判断2のこの誤りは,明らかにその結論に影響するものである。したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決判断2は取消しを免れない。

ウ なお,審決判断2のこの誤りは,主たる引用発明の認定の誤りであるので,当裁判所がその余の取消事由に対し判断を示すのは,相当ではない。

3 結論

以上によれば,審決は取消しを免れないものである。よって,主文のとおり,判決する。