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平成18年(行ケ)第10037号審決取消請求事件


主文

特許庁が無効2003-35118号事件について平成17年12月21日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 原告の求めた裁判

主文と同旨の判決。

第2 事案の概要

本件は,原告が,被告を特許権者とする後記本件特許につき無効審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件特許(甲第1号証の1)

本件特許出願は,特願昭63-182664号の出願(出願日昭和63年7月21日。以下「本件原出願」という)の一部を新たな出願としたものとして出願されたものである。ただし,本件特許出願が,分割出願の要件を充足するか否かについて,争いがある。

特許権者:シャープ株式会社(被告)

発明の名称:「化合物半導体発光素子」

出願番号:特願平9-158325号

分割出願日:平成9年6月16日

設定登録日:平成12年5月19日

特許番号:特許第3069533号

(2) 訂正審判手続

訂正審判請求日:平成16年11月26日(訂正2004-39270号(甲)第7号証の1)

手続補正日:平成17年4月14日(甲第8号証の3,4)

審決日:平成17年6月7日(甲第3号証の2。以下「本件訂正審決」という。)

本件訂正審決の結論:「特許第3069533号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める」

(3) 本件手続

審判請求日:平成15年3月28日(無効2003-35118号(甲第4号)証)

審決日:平成16年7月23日(甲第5号証。以下「第1次審決」という)

第1次審決の結論:「特許第3069533号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」

第1次審決の取消訴訟提起日:平成16年9月1日(その後知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10019号として係属)

同判決日:平成17年7月20日(甲第3号証の3)

同判決の主文:「特許庁が無効2003-35118号事件について平成16年7月23日にした審決を取り消す。」(本件訂正審決が確定したことを理由とする。)

審決日:平成17年12月21日(本訴の対象である審決。以下単に「審決」という)

審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」

審決の送達日:平成18年1月6日(原告に対し)

2 本件特許発明の要旨

審決が対象とした発明(訂正審判手続における平成17年4月14日付け手続補正後の請求項1に記載された発明であり,以下「本件特許発明」という。なお,訂正後の請求項の数は1個である)の要旨は,以下のとおりである。

「【請求項1】絶縁基板上に,少なくとも,発光層と前記発光層の下端面に接合して配設されたn型の第1導電型の導電層とを有する化合物半導体発光素子であって,前記n型の第1導電型の導電層の一部領域に立設され,少なくとも前記発光層を含む発光素子本体と,前記発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層と,該絶縁層を配設しうる基板上の領域と,前記発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた第1の電極と,前記発光素子本体の上方に,第2の電極を備えていることを特徴とする化合物半導体発光素子」

3 審決の理由の要点

審決の理由は,要するに,原告が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許を無効とすることはできないというものであるが,後記の原告主張の審決取消事由と関連する部分は,以下のとおりである(審決の証拠方法の表記は後記の本判決の表記に改めてある。以下において,審決の記載を引用する場合も同様である。)。

(1) 証拠方法の記載事項

ア 特開昭62-60278号公報(審決甲第2号証,本訴甲第1号証の2。以下「引用例2」という)

「引用例2には,図面とともに以下のことが記載されている。

(ア)『半絶縁性又はn型の電気導電型の半導体基板上に,活性層を有するダブルへテロ積層)

構造を備えた半導体発光ダイオードにおいて,直径約30μm以下の円板状に限定された活性層を有し,この円板状に限定された活性層全体を発光領域とし,この活性層に接し活性層とダブルへテロ積層構造を形成する2つの半導体層のうち,前記半導体基板に近接する側の半導体層の電気導電型をp型とし,他方の半導体層をn型としたことを特徴とする半導体発光ダイオ-ド。』(特許請求の範囲)

(イ)『本発明は,光通信システムの光源として有効な半導体発光ダイオード(以下LEDと呼ぶ。)・・LEDに関する。』(1頁左下欄1行~右欄3行)

(ウ)『本発明によれば,半絶縁性又はn型の電気導電型の半導体基板上に,活性層を有するダブルへテロ積層構造を備えた半導体発光ダイオードによって・・・円板状に限定された活性層を有し・・・半導体発光ダイオードが得られる。(2頁右上欄9行~18行)』

(エ)『第1図は本発明の素子断面構造の一例を示す図である。n型半導体基板11上にp型 半導体クラッド層12,n型半導体活性層13,n型半導体クラッド層14が順に形成されておりダブルへテロ積層構造を呈している。又,活性層は,直径30μm以下の円板状活性領域13の直上部のn型クラッド層14の表面の大部分にn型電極17が形成されており・・・全体が発光領域となるようにしている。』(2頁右上欄下から1行~2頁左下欄9行。)

(オ)『(実施例)第3図は本発明の第1の実施例を示す素子断面構造図である。n型InP基板11上にp型InPクラッド層12,n型InGaAsP活性層13,n型InPクラッド層14,n型InGaAsPコンタクト層15を順に・・・形成する・・続いて・・・化学エッチッングにより・・・円形メサを形成し,活性層13が・・・円板状になるようにする。メサ側面にSiO2膜16を形成する。n型InGaAsPコンタクト層15の表面にAuGeNi膜を形成し,n型電極17とし,P型電極18とする。』(3頁右上欄9行~同頁左下欄1行)(カ)第3図には,SiO2膜16が水平部分を有して,p型クラッド層12上に形成されていることがみてとれる。また,p型InPクラッド層12は,エッチングにより形成された円形メサの下方部分から両側に延長されていることがみてとれ,さらにSiO2膜16が形成されていない両側延長部分の上にP型電極18が形成されていることがみてとれる」

イ 特開昭63-18661号公報(審決甲第3号証,本訴甲第1号証の3。以下「引用例3」という)

「引用例3には,以下のことが記載されている。

『〔産業上の利用分野〕本発明は,共通の基板上でのⅢ-Ⅴ族またはⅡ-Ⅵ族の元素の化合物半導体素子,およびシリコンの半導体素子の製造方法に関する。』(3頁左下欄下から6行~下3行),『第5図は,本発明の別の実施態様の部分断面概略図である。この実施態様のGaAs/AlGaAs二重ヘテロ構造においては,LED210はリング形MOSFET200で囲まれたシリコン基板12’上に形成される・・・p形のシリコン・ウエーハ12’の最初の熱酸化14’の後・・・開口がSiO214’にエッチングされ,多量のヒ素イオンが注入されて・・・n+アイランド50を形成する。シリコンMOSFET200は,接触孔および最終的なメタライズ措置を除いて,各n+アイランドの周囲に形成される。MOSFETドレーン領域32’はn+アイランド50の縁部と接触している。ウエーハ全体はSiO216’およびSi 3N4 ,17’の連続層で覆われ・・・開口がエッチングされる。分子線エピタキシ法を用いて,LEDの下記の一連の層を蒸着する。即ち,3μの厚さのn+GaAsバッファ層54,0.5μの厚さのnAl0.3 Ga 0.7 As56,0.4μの厚さのp形GaAs活性層58,0.5μの厚さのAl0.3 Ga 0.7 As60および0.25の厚さのp+GaAsキャップ層62である・・・厚くドープされたn+シリコン・アイランド50は,シリコンMOSFET200のドレーン32’とLED210のn+GaAsカソード54との間に内部の低い抵抗値の連結部を形成する。Si 3N4/SiO 2キャップ層上の前記の如く蒸着された多結晶のGaAs/AlGaAs層はエッチングにより除去される。LEDに対する8角形のメサ(台形構造)が・・・単結晶のGaAs/AlGaAsアイランドに形成される。プラズマ強化された化学蒸着法を用いて, ウエーハ全体にSiNX層64を蒸着させる。接触孔は,LEDのためには窒化物層64に,またMOSFETに対しては,窒化物/酸化物層64/17’/16’,15 ’,14’にエッチングされる。メタライズ措置は,それぞれMOSFET上にAl28’を,またLED210のカソード54およびアノード62上にNi/Ge/Au70およびCr/Au72を蒸着させることにより行われる。MOSFETドレーン32’に対する接点28’およびLEDカソード54に対する接点70は2つの素子の同時使用においては使用されないが,各素子の特性を個別に測定することを可能にするため行われる・・・第6図は,上記の如く形成されたシリコンMOSFET200により囲まれた完成したGaAs/AlGaAsLED210を示す平面図である。このLEDメサは75μの直径を有し, LEDの発光のためのメタライズされない開口80は50μの直径を有する。』(6頁右上欄9行~7頁左上欄8行),『本発明の本文に述べた実施態様は望ましいものであるが,当業者には他の形態も容易に着想されよう。このため,本発明の範囲は頭書の特許請求の範囲および相当の内容によってのみ限定されるべきものである。

例えば,用語シリコン基板即ちウエーハは,SOS(サファイア/シリコン)基板または絶縁体上のシリコン(Si/SiO2/Si)基板を含むものとする。』(8頁左上欄6行~14行)

第5図には,Pシリコン基板の右側に,n+Si50,n +GaAsバッファ層54,nAl 3Ga7As56 ,GaAs (活性層)58,pAl 3Ga7As60 ,p+GaAs62 ,開口80がこの順に積層されていることが見て取れ,SiNX64が開口80及びp+GaAs 62を除く台形状の部分を覆っていることがみてとれる。

第6図には,正方形状のMOSFET200の上方に,LED210がみてとれ,該LED210上に正方形状のカソード接点70,長方形状のアノード接点72が併設され,アノード接点72上には開口80がみてとれる。また,下方に向かって,ソース電極34’,ゲート電極30’,ドレーン電極32’が引き出され,ゲート電極は,波線でLED210を囲むように,ソース電極34’はゲート電極の周りを囲むようにかつドレーン電極32’の引き出し線と重複しないように,さらにドレーン電極32’はLED210より大きく形成されていることがみてとれる」

ウ 特開昭55-85084号公報(審決甲第8号証,本訴甲第1号証の8。以下「引用例8」という)

「引用例8には,図面とともに以下のことが記載されている。『本発明は発光素子特に発光ダイオードの製法に関するものである。・・・以上完成したウエーハを,各々のペレットにしたのち,半球状のドームに研磨し,完成ペレットを得る。このようにして形成された発光ダイオードの構造を第1図に示す。・・・ドーム形状のチップは,・・・上記目的を達成するための本発明の製法の一実施例を第8図A~Gを参照して説明する。・・・GaAlAs基板にp,n,n+の8層を形成し,そののち同図(B)のようにホトレジ処理にて,選択的にn+,n層をメサ層にエッチングし,p型層2を露出させる。その後(C)のように絶縁膜6をコーティングし(D)のようにコンタクトホトエッチングにより上記絶縁膜6にカソード電極及びアノード電極形成用の電極孔8をあける。この時,上記p型層のアノード領域上の電極孔はn層及びn+層も露出するように孔開けする。

そして(E)図に示すように真空蒸着法にて電極となる金属7を上記絶縁膜6及び電極孔8上に蒸着する。・・・そして(G)に示すようにこの後,ウエーハを各々のペレットに分割し,半球状のドーム形に加工する。・・・以上のような製法で作られた発光ダイオードの構造を第5図に示す。』(1頁左下欄下から3行~2頁左下欄6行)」

エ 特開昭57-192088号公報(審決甲第9号証,本訴甲第1号証の9。以下「引用例9」という)

「引用例9には,図面とともに以下のことが記載されている。『第3図の(a)~(g)は本発明の一実施例による発光素子の製造方法を示す。同図(a)に示すように,125μmの厚さのGaAs板1・・・GaAlAs層2を有する基板(ウエハ)3を用意した後,・・・P層4,N層5,N+層6を20~30μm,2μm,1μmの厚さに形成する(同図(b)参照。)つぎに,ウエハの主面のN+層6上に3μm程度の厚いホトレジスト膜17を形成した後,部分的に露光現像処理してリング状にホトレジスト膜を除去し,・・・同図(C)で示すように,・・・N層をリング状にエッチング(メサエッチ)して溝18を形成する。・・・その後,同図(g)で示すように,溝部分等および・・・GaAlAs層2をドーム状に研磨して,球形の光取出面12を有する発光素子13を形成する。』(2頁右下欄7行~3頁右上欄13行)」

オ 特開昭50-42785号公報(審決甲第10号証,本訴甲第1号証の10。以下「引用例10」という)

「引用例10には,図面とともに以下のことが記載されている。

『実施例1

本例は気相エピタキシャル成長を用いてサファイヤ・・・面基板・・・上に伝導型の異なる窒化ガリウムの第1図のようなn-i-n構造を有した多色発光ダイオードの例である。・・・第1図のような構造に窒化ガリウムを順次成長させていく。・・・上記のように基板を設置したのち,・・・まずn型窒化ガリウム・・・を・・・成長させる。次に・・・Znの塩化物を反応管内に送ってi型窒化ガリウム・・・を・・・成長させる。次に・・・Mgの塩化物を反応管内に入れi型窒化ガリウム・・・を・・・成長させる。その後・・・n型窒化ガリウム・・・を・・・成長させる。以上のようにしてn-i-n構造を連続して成長させることができる。

次に・・・マスキングし,・・・第2図のような形にメサエッチし,GaN層2~5にIn電極6をそれぞれ焼付ける。・・・それらの電極に白金線7~9を・・・ハンダ付けする。第2図の8を陽極にして7および9を陰極としたとき,まず8と7に電圧60~80Vおけると(『をかけると』の誤記:審決注)・・・紫色の発光が得られ,8と9に同じ電圧を印加すると・・・緑色発光を得ることができた。』(2頁左上欄下から2行~同頁右下欄10行),

『実施例3

実施例1と同じように窒化ガリウムを成長させた後,第3図のような形・・・でエッチンをおこない,第3図6のよう位置にIn電極の焼付けをおこなう。・・・見かけの発光色は実施例1の場合とほとんど変わらなかった。』(3頁左上欄2~12行)引用例10第2図には,窒化ガリウム層2,3,4の両側に電極6を焼き付けたものが,また第3図には,窒化ガリウム層2上の窒化ガリウム層3,4,5の左側部分が除去され,その上に電極6が形成されていることがみてとれる。」

カ 特開昭59-228776号公報(審決甲第14号証,本訴甲第1号証の14。以下「引用例14」という。)

「引用例14には,図面とともに以下のことが記載されている。『実施例1 第2図は絶縁性基板上に作成したシングル・ヘテロ接合素子の実施例の側断面図であって,3は絶縁性基板,4はn型GaNまたはn型AlxGa1-xN・・・膜,5はオーミック電極,6はp型AlyGa1-yN・・・膜である。』(2頁右上欄14~19行),

『実施例3 第4図はサファイア等の絶縁性基板上に作成したダブル・ヘテロ接合素子の実施例の側断面図であって,3,5は・・・絶縁性基板,オーミック電極,9はn+ 型AlxGa1-xN・・・,10はn 型Alx’Ga1-x’N・・・,11はn+型またはp型のAlyGa1 - yN+・・・,12はp 型Alx’Ga1 - x’N+・・・である。・・・p 型Alx’Ga1-x’N層12とn 型AlxGa1-xN層9の上に,第4図に示すように,Inオーミック電極5を真空蒸着により取り付ける。』(3頁左上欄下から2行~同頁左下欄1行)引用例14第2,4図には,絶縁性基板3上のn型AlxGa1-xN膜4,n 型Alx’G+a1-x’N膜10のシングル・ヘテロあるいはダブル・ヘテロ接合構造の形成されていない左側の部分にオーミック電極5が形成されていることがみてとれる。」キ特開昭48-76478号公報(審決甲第15号証,本訴甲第1号証の15。以下「引用例15」という。)

「引用例15には,図面とともに以下のことが記載されている。『この発明は,窒化ガリウムのダイオードの製造方法に関するものである。』(1頁左欄12行~13行)『本発明によれば,サファイア,および,その類似の結晶構造を有する基板上に窒化ガリウムのn型層,続いて,p型層あるいは,i型層を成長させたものから,酸化膜とフォトレジストの技術を用いて,不要な部分を酸素ガス雰囲気中で熱処理することにより,窒化ガリウムの一部分を酸化ガリウムに転換し,これをアルカリ溶液中で化学的エッチングを行うことにより,ダイオードの製造を容易に行うことができる。』(1頁右欄14行~2頁左上欄2行),『第2図におけるaに示すように窒化ガリウム単結晶8,7の成長は,塩酸ガス,アンモニアガス,ガリウム,アルゴン系を用いて通常の気相成長法・・により基板6として鏡面研磨したサファイアを用いて行う。この時,・・・成長層は,キャリア濃度10 ~10 cm 程度17 18 -3のn型窒化ガリウム層7となり,約30分間で,5nmの厚さに成長する。次に,・・・i型の窒化ガリウム層8が成長し,この層を厚さ1μm程度にする。次に,第2図bに示すようにこの窒化ガリウム単結晶の上に,・・・二酸化硅素の薄膜9を,約5000Åの厚さにつけ,通常用いられるフォトレジストの技術により,不要な二酸化硅素を除去し,第2図のcのようにエッチングを行う。続いて,この結晶を・・・熱処理を行なう。・・・この処理を・・・行なうと,第2図のdに示すように,二酸化硅素9によって保護されていない部分の窒化ガリウムは,・・・酸化ガリウム10に転化する。これを,適当なアルカリ溶液でエッチングすることが可能であるが,・・・エッチングを行うことにより酸化ガリウムの層を取り除くことができる。次に,二酸化硅素9を,通常用いられるエッチング液で取り除く。その後,第2図のeに示すように,インジウムを用いて,電極11および12を取り付けることにより,ダイオードを製造することができる。』(2頁左上欄15行~同頁左下欄10行),『以上の実施例では,n-i型構造の窒化ガリウムダイオードの製造を例に取り上げたが,n-p型構造の窒化ガリウムダイオードの製造についても,本発明を応用できることは言うまでもない。』(2頁左下欄17~20行)また,第2図eには,略メサ型形状の上部及び一側部に電極11および12を取り付けたものがみてとれる。」

(2) 無効理由1-1についての判断

ア 対比

「本件特許発明と引用例2記載の発明とを対比する。

(1)引用例2の『半絶縁性基板11』と本件特許発明の『絶縁基板』について本件特許発明の『絶縁基板』は,実施例ではZnSeバルク単結晶を低抵抗化せずに用いた絶縁性のZnSe基板を用いている。これに対し,引用例2のものは,実施例(第3図)では,基板11として具体的にn型InPを用いているものの,特許請求の範囲他の記載では,『半絶縁性又はn型』と選択的に記載されている。そして,第2の実施例では,半絶縁性の基板11が用いられている。

本件特許発明のZnSeの絶縁層は,本件特許明細書によれば,『絶縁部としては,材料としてZnS,ZnSe・・・等の・・・絶縁層が挙げられる。・・・抵抗率としては1010 ~ 1015 Ω・cmが好ましく,1015 Ω・cmがより好ましく(【0020】)と記載されており,また引用例2では,第2実施例において,半絶縁性材料としてInPを用いてはいるが,半絶縁性の数値としては,10 Ω・cm程度の数値が目安と理解される(例えば『応用物理7 学用語大辞典』応用物理学会編,平成10年4月30日発行,参照)ことから,両者が,『基板』の点で一致するとしても,絶縁性の点で一致するとはいえない。

(2)引用例2の『活性層13』が,本件特許発明の『発光層』に相当することは明らかである。

(3)『立設』及び『絶縁層を配設しうる基板上の領域』について

『立設』及び『絶縁層を配設しうる基板上の領域』につき,本件特許明細書には,『【0018】次に,本願の請求項にかかる発明において,発光素子本体が実質的に基板の一部領域上に立設されるとは,基板が,発光素子本体を配設しうる第1領域と少なくとも発光素子本体の側面を包囲する絶縁部を配設しうる第2領域とを有することを意味するものであり,発光素子本体が基板の上面全体に渡って配設されていないことを意味する。』と記載されており,これから,『立設』とは,基板が,発光素子本体を配設しうる第1領域と発光素子本体の側面を包囲する絶縁部を配設しうる第2領域とを有することであることが把握できる。

引用例2には『第3図は本発明の第1の実施, 例を示す素子断面構造図である。n型InP基板11上にp型InPクラッド層12,n型InGaAsP活性層13,n型InPクラッド層14,n型InGaAsPコンタクト層15を順に・・・形成する。・・続いて・・・化学エッチッングにより・・・円形メサを形成し,活性層13が・・・円板状になるようにする。メサ側面にSiO2膜16を形成する。』(記載事項(オ))と記載されており,このように基板上に形成されエッチングされた円形メサの領域は,『活性層13』を含み,『P型クラッド層12』上に形成されていることから,引用例2の『円形メサ』は,本件特許発明の『少なくとも前記発光層を含む発光素子本体』に相当する。また,発光素子本体の側面を包囲する絶縁部(SiO2)を配設しうる領域があることは明らかであり,これは上記『第2領域』を示すものであり,本件特許発明の『絶縁層を配設しうる基板上の領域』に相当する。よって,『立設』及び『絶縁層を配設しうる基板上の領域』との点で,本件特許発明と引用例2のものとは相違しない。

(4)引用例2のp型InPクラッド層12は,エッチングにより形成された円形メサの下方において,円形メサ(発光素子本体に相当)に接続されており,両側に延長部分を有していることから,引用例2の『p型InPクラッド層12』は,『『前記発光素子本体・・・に接続した』あるいは『発光層の下端面に接合して配設された』』,『第1導電型の導電層』に相当する。

(5)引用例2記載の発明の『SiO2膜16』『P型電極18』『n型電極17』『半導体発光ダイオード』が,それぞれ本件特許発明の『前記発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層』『第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた第1の電極』『『発光素子本体の上方』の『第2の電極』』『化合物半導体発光素子』に相当することは明らかである。したがって,両者は,『基板上に,少なくとも,発光層と前記発光層の下端面に接合して配設された第1導電型の導電層とを有する化合物半導体発光素子であって,前記第1導電型の導電層の一部領域に立設され,少なくとも前記発光層を含む発光素子本体と,前記発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層と,絶縁層を配設しうる基板上の領域と,前記発光素子本体から接続した前記第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた第1の電極と,前記発光素子本体の上方に,第2の電極を備えている化合物半導体発光素子』である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:

基板が,本件特許発明は『絶縁, 』基板であるのに対し,引用例2のものは,『半絶縁性』基板である点。

相違点2:

本件特許発明は,基板上に,『n型の』第1導電型の導電層を有し,該『n型の』第1導電型の導電層上に発光層を配設して形成された化合物半導体発光素子であるのに対し,引用例2のものは,基板上にp型の導電層を有し,該p型の導電層上に発光層が配設されているものであって,基板上の層がn型ではない点。

相違点3:

本件特許発明は,前記発光素子本体から『舌状』に接続した前記第1導電型の導電層と規定されているのに対し,引用例2には,第1導電型の導電層が発光素子本体から舌状に接続されたものとは記載されていない点。」

イ 相違点についての判断

「上記相違点について検討する。

相違点1について:

引用例10,14を見ると,化合物半導体発光素子の基板として,サファイア等の絶縁性基板を用いることが周知技術であることが理解できる。

また,引用例2には,半導体発光ダイオードの基板11として半絶縁性のものを用いることが記載されているが,この半導体発光ダイオードは,P型電極18からp型InPクラッド層12,n型InGaAsP活性層13,n型InPクラッド層14,n型InGaAsPコンタクト層15を経由して,n型電極17に電流が流れるものであるから,基板自身は単に発光層構造を作るための基材となるものであって,電流経路としては使用しないものであることが理解できる。

してみれば,引用例2の基板11は,絶縁性でも良いことが明らかであるから,該基板として周知技術の絶縁性基板を用いることにより,上記相違点1の技術的事項とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項である。

相違点2及び相違点3について:

技術水準を参酌すれば,本件特許発明の『舌状』との用語は,『或る部材を基部とみたたて(判決注:「見立てて」の誤記と認める。以下,引用する場合には訂正した上で行う。),それから薄く突き出た層の形状』を示すものであることが理解でき,本件特許発明の場合には,『基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出たn型ZnSe導電層5を舌状と表現したもの』であることが理解できる。そして,本件特許発明は,『発光素子本体から舌状に接続した前記第1導電型の導電層』との記載から,発光素子本体とほぼ同程度又はそれ以下の幅ということがおおよそ理解できる。

また,引用例2のものは,発光素子本体に相当する円形メサ及びその両側の側電極18に関する断面形状については,該引用例の記載及び図面から見てとることができ,その奥行き方向の形状については明確とはいえないが,引用例2に『n型半導体の比抵抗は,P型に比べ数10分の1以下と著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることによりここでの電気抵抗を著しく小さくすることができる。さらに,n型半導体へのオーミック電極抵抗はP型に比べ小さいため,クラッド層14をn型とすることにより電極面積の小さいクラッド層14へのオーミック電極の抵抗を小さくすることができる。』(上記(オ))と記載されていることからみて,電極面積の小さいクラッド層14のオーミック電極の抵抗を小さくするために,基板側を比抵抗の大きいP型としたものであり,このような観点から,P型クラッド層及びP型電極も電気抵抗を小さくするに充分な大きさ,すなわち第1,3図に示されたような少なくとも両側に延びた形状に形成されていることが理解できる。

ところで,引用例10,14を見ると,該文献には,積層された発光層部分(例えば,引用例3における,n+ 型Alx ’Ga1-x ’N膜10,nまたはp型Aly Ga1-yN膜11,p+ 型Alx ’Ga1-x ’N+膜12)からある導電型の導電層(同,n 型Alx Ga1-xN膜9)が延長されており,該発光層部分が形成されていない前記導電層の延長部分に電極(同,オーミック電極5)が形成されていることから,『舌状』に関する上記考察に従えば,『発光素子本体から舌状に接続した前記第1導電型の導電層』といえるものが記載されており,また基板上にn型層が形成されている点では本件特許発明と共通はするものの,引用例2とはn,pの関係が逆になっている。

そして上記のような関係のもxとに,仮に,引用例10,14を引用例2に適用しようとすれば,引用例2のn,p層の関係を引用例10,14に倣って反転させ,かつそれにより基板上に配置されることになる層(n層)を引用例10,14(判決注:審決には「引用例2,3」とあるが,「甲第10,14号証」の誤記と認められ,したがって,「引用例10,14」と改めて摘記する。)のような舌状の構造にする必要があるが,引用例2においてn,p層の関係を引用例10,14(判決注:前同様である。)に倣って反転させる必然性がないばかりでなく,上述した引用例2の記載(上記(オ))を勘案すると,電気抵抗が高いp層を電流の流路が狭いクラッド層として用いることが容易とはいえず,また電気抵抗を小さくするような大きさ(少なくとも両側に延びた形状)に形成されたクラッド層及び電極を,引用例2の目的に反して,一方向にそれも舌状に狭めるように形成することが容易ともいえない。さらに,引用例15には,サファイア基板上に窒化ガリウムのn型層,p型層(あるいはi型層)を成長させ,第2図eのように電極11および12を取り付けたものが記載されているが,奥行き方向の形状は明らかではない。

よって,本件特許発明は,引用例2に引用例10,14,15を寄せ集めることにより容易になし得るものではない。」

(3) 無効理由1-2についての判断

ア 対比

「(1)本件特許発明の『絶縁基板』は,実施例ではZnSeバルク単結晶を低抵抗化せずに用いた絶縁性のZnSe基板を用いている。これに対し,引用例3のものは,実施例(第5図)では,基板12’として具体的にp型のシリコン基板を用いている。本件特許発明のZnSeの絶縁層は,本件特許明細書によれば,『絶縁部としては,材料としてZnS,ZnSe・・・等の・・・絶縁層が挙げられる。・・・抵抗率としては1010 ~ 1015 Ω・cmが好ましく,10 15Ω・cmがより好ましく( 【0020】)と記載されており,また引用例3のシリコン基板は,ドープしないもので230kΩ・cm程度(例えば,岩波理化学辞典第3版『ケイ素』の項参照)であって,ドープしたものはそれより抵抗率の値が小さくなることから,両者は,その数値が大きく異なるので,『基板』の点で一致するとしても,絶縁性の点で一致するとはいえない。』

(2)引用例3の『GaAs(活性層)58』が,本件特許発明の『発光層』に相当することは明らかである。

また,引用例3の『nAl0.3Ga0.7As56』は,『GaAs(活性層)58』の下に接合されて形成されていることから,本件特許発明の『少なくとも,発光層と前記発光層の下端面に接合して配設されたn型の第1導電型の導電層』に相当する。

そして,引用例3には,活性層を挟む『0.5μの厚さのnAl0.3Ga0.7As56,0.4μの厚さのp形GaAs活性層58,0.5μの厚さのAl0.3Ga0.7As60』との層構造が記載されており,これが『発光素子本体』に相当する。

(3)『立設』とは,基板が,発光素子本体を配設しうる第1領域と発光素子本体の側面を包囲する絶縁部を配設しうる第2領域とを有することであることは上記のとおりである。引用例3の『発光素子本体』に相当する活性層を挟む層構造はシリコン基板12’上に形成されており,該層構造を絶縁層であるSiNX層64が覆っていることから,引用例3は,『立設』及び『絶縁層を配設しうる基板上の領域』との事項に相当する事項を有する。したがって,両者は,『基板上に,少なくとも,発光層とn型の第1導電型の導電層とを有する化合物半導体発光素子であって,前記n型の第1導電型の導電層の一部領域に立設され,少なくとも前記発光層を含む発光素子本体と,前記発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層と,該絶縁層を配設しうる基板上の領域と,第1の電極と,前記発光素子本体の上方に,第2の電極を備えている化合物半導体発光素子』である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:

基板が,本件特許発明は『絶縁』基板である, のに対し,引用例3のもの(判決注:審決には「甲第2号証のもの」とあるが,「甲第3号証のもの」の誤記と認める。)は,『半導体』基板である点。

相違点2:

本件特許発明は,第1の電極は,『前記発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた』ものであるのに対し,引用例3のものは,発光層の下にあるのはnAl0.3Ga0.7As56であって,電極70が設けられているのは,該n+Al0.3Ga0.7As56の下層のn GaAsバッファ層54であるので,第1の電極が設けられている層が異なるばかりでなく,n+ GaAsバッファ層54にしても,その形状は, 発光素子本体を取り囲む長方形状(第6図)であって,これは舌状とはいえない点。」

イ 相違点についての判断

「まず,相違点2について検討するに,n GaAsバッファ層54とnAl0.3 Ga0.7 As56は同じn層であるとはいえ,その役割は相違し,これを一層にする必然性を認めることはできない。

仮に,これを同一の層と見做したとしても,カソード接点70は,『MOSFETドレーン32’に対する接点28’およびLEDカソード54に対する接点70は2つの素子の同時使用においては使用されないが,各素子の特性を個別に測定することを可能にするため行われる。』と記載されているように測定用のものであるから,寄せ集めるべき引用例10,14,15に記載されるような発光のためにn型層に接続された電極と同一視することはできない。さらに,n+Al0.3Ga0.7As56に接続されたn GaAsバッファ層54が舌状といえないのは引用例3の第6図にみてとれる事項のとおりである。また,LED210はゲート電極に囲まれ,その周りをソース電極34’が囲んでいるものであるから,引用例10,14,15のものが舌状の構造を示すものであるにしても,引用例3のような発光素子本体をゲート電極及びソース電極等が取り囲む構造のものに引用例10等のような舌状の構造を適用する動機付けないし必然性はない。

よって,相違点1について検討するまでもなく,本件特許発明は,引用例3に引用例10,14,15を寄せ集めることにより容易になし得るものではない。」

(4) 無効理由2についての判断

「請求人の無効理由2に関する主張の主旨は,要するに,本件特許発明から分割された特許出願はほとんど本件特許発明と同一といってよい発明であり,拒絶査定の判断はそのまま本件特許発明に妥当するので,引用例8~10によって新規性および進歩性が欠如している,と言うものである。

分割された特許出願の,確定した審決における請求項1に係る発明(平成14年1月15日付け手続補正書にて補正された請求項1に係る発明,以下,『分割原発明』という。)は,次のものである。

『【請求項1】絶縁性基板上に,n型の導電層と,n型の導電層の一部領域に立設された発光層を含む発光素子本体と,を有する化合物半導体発光素子において,断面形状において,前記発光素子本体及び前記n型の導電層がL字形状をなすように形成された前記n型の導電層の露出部分に,設けられた負電極と,前記発光素子本体の上方に設けられた正電極と,前記負電極と前記正電極との間に発光素子表面に設けられた絶縁層と,を備え,前記負電極は前記発光素子本体の片側に設けられていることを特徴とする化合物半導体発光素子。』そして,本件特許発明は上記2.(判決注:上記2の「本件特許発明の要旨」に同じ。)に記載されたものであるところ,両者を比較すると,例えば本件特許発明が,『発光層と前記発光層の下端面に接合して配設されたn型の第1導電型の導電層』,『舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層』との事項を有しているのに対し,分割原発明は,該事項を有しておらず,逆に,分割原発明が『断面形状において,前記, 発光素子本体及び前記n型の導電層がL字形状をなすように形成された前記n型の導電層』との事項を有しているのに対し,分割原発明は該事項を有していないなど,両者は発明が相違する。

よって,分割原発明に関する判断が,本件特許発明についても妥当であるとはいえない。また,主引用例として比較すべき引用例8,9にしても,基板1としてGaAsを用いていることから,『絶縁性基板』の点で一致しないばかりでなく,発光ダイオード形状を半球状に研磨する点,発光体部分をリング状にエッチングしている(引用例9第3図(c))点,n,p層の関係が本件特許発明とは逆である点など,引用例10を適用するに当たり,阻害要因ともいえる事項を含むものである。

したがって,原告主張の無効理由2は採用するに足らないものである。」

(5) 無効理由4についての判断

「請求人が主張する無効理由4の主旨は,以下の2点にある。

(1)本件特許発明は,発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するものである,とされているが,そのような構成も,そのような構成による作用効果も,親出願の願書に添付された当初明細書には記載されていない。(審判請求書23頁下から5行~24頁1行)

(2)親出願においては,第1の導電層も,第2の導電層もⅡ-Ⅳ族化合物半導体であり,特許請求の範囲において限定して特定されていた。ところが,本件特許発明ではそのような限定がなく,導電層はII - VI 族化合物半導体に限られず,絶縁層もⅡ-Ⅳ族化合物半導体に限られないあらゆる絶縁層を含む広い概念に変更されている。(審判請求書24頁下から3行~25頁3行)

この点について検討するに,分割原出願の明細書(審決甲第19号証,本訴甲第1号証の19)には,『作用』の項に,『また,本願の請求項2に係る発明では,発光層を含む主要部を柱状構造とし,その周囲を絶縁層で囲むことにより電流はこの柱状構造内に狭窄され,発光層に高密度の電流を注入することが可能となり,高密度の発光を得ることができる。』(15頁10~14行)と記載され,『実施例』の項に,『さらに,本発明の請求項3による発光素子の第1の実施例の概略図を第13図に示す。・・・この際,・・・基板上のマスクの円形孔に対応した位置に直径30~100μmの円柱状の発光素子主要部を制御性よく部分成長させることができた。次に,マスクを除去し,絶縁性のZnSeからなる絶縁層115をエピタキシャル成長させる。・・・本実施例においては,素子内の電流は円柱状の主要部に狭窄され発光層に高密度の電流を注入することが可能となり,高輝度のZnSeMIS型発光素子を実現することができた。次に本発明の請求項3による第4実施例の概略図を第16図に示す。』(36頁11行~42頁15行)と記載されている。

これから,分割原出願には,『発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するものである』との事項が記載されていないとはいえない。

また,分割の元の出願の明細書には,『産業上の利用分野』の項に,『本発明は化合物半導体発光素子に関し,特に硫化亜鉛(ZnS),セレン化亜鉛(ZnSe),等のII - VI 族化合物半導体からなるⅡ-Ⅳ族化合物半導体発光素子の改良に関するものである。』(2頁17~末行)と記載され,Ⅱ-Ⅳ族化合物半導体は本発明の一態様であることが明示され,また,『課題』の項にも,『しかしながら,上述の従来の発光素子の構造では,電極より注入された電流は,発光素子内部の広い範囲を流れるために発光層74における電流密度は小さく,高輝度の発光を得ることは極めて困難である。さらに,発光層74で生じた光は,素子全体にあらゆる方向に放射されるため,発光を効率良く素子外部へ取り出すことができない。本発明は係る点に鑑みてなされたもので,高輝度で発光できる化合物半導体発光素子を提供することを目的の一つとするものである。』(4頁2~11行)というように,特定の材料に限定されないものとして記載されているので,Ⅱ-Ⅳ族化合物半導体に限られない絶縁層に係る発明が記載されていないとはいえない。

よって,請求人の上記主張は,採用するに足らないものである。」

(6) 引用例15に基づく無効理由について

「引用例15は,請求理由において提出されていた証拠であるが,他の証拠(引用例2あるいは引用例3)を補強するために提出されていた文献であって,上記引用例15を主たる証拠とする無効理由は示されていない。よって,上記無効理由は,主要証拠を差し替えるものであって,請求の理由の要旨を変更するものであるから採用しない。」

(7) 引用例10に基づく無効理由について

「引用例10は,請求理由において提出されていた証拠であるが,無効理由1-1あるいは無効理由1-2において,他の証拠(引用例2あるいは引用例3)を補強するために提示されていた文献である。また,引用例10は,審査経過を引用し拒絶理由通知及び拒絶査定の論理を援用する無効理由2において,他の証拠(引用例8あるいは引用例9)を補強するために,拒絶査定時に提示された文献であって,いずれにおいても,上記引用例10を主たる証拠とする無効理由は示されていない。

よって,上記無効理由は,主要証拠を差し替えるものであって,請求の理由の要旨を変更するものであるから採用しない。」

第3 原告の主張(審決取消事由)の要点

審決は,①無効理由1-1に関し,相違点1,2の認定を誤るとともに,相違点2,3についての判断を誤り(取消事由1),②無効理由1-2に関し,相違点2の認定を誤るとともに,相違点2についての判断を誤り(取消事由2),③無効理由2に関し,審理不尽により,本件特許発明と引用例8,9との対比及び相違点についての判断を誤り(取消事由3),④無効理由4に関し,本件特許発明が,本件原出願の当初明細書及び図面に記載された発明であるとはいえない旨,誤って判断し(取消事由4),⑤原告の引用例15,10に基づく無効主張が,無効審判請求書の要旨を変更するものであると誤って判断して,同無効主張につき判断しなかった誤りがある(取消事由5)から,取り消されるべきである。

1 取消事由1(無効理由1-1についての認定判断の誤り)

(1) 相違点1の認定の誤り

審決は,無効理由1-1に関し,「本件特許発明のZnSeの絶縁層は,本件特許明細書によれば,『絶縁部としては,材料としてZnS,ZnSe・・・等の・・・絶縁層が挙げられる。・・・抵抗率としては1010 ~1015 Ω・cmが好ましく,1015 Ω・cmがより好ましく(2)と記載されており,また引用例【0020】では,第2実施例において,半絶縁性材料としてInPを用いてはいるが,半絶縁性の数値としては,10 Ω・cm程度の数値が目安と理解される(例えば『応用7 ,物理学用語大辞典』応用物理学会編,平成10年4月30日発行,参照)ことから,両者が,『基板』の点で一致するとしても,絶縁性の点で一致するとはいえない。」として,本件特許発明と引用例2記載の発明の相違点1として,「基板が,本件特許発明は,『絶縁』基板であるのに対し,引用例2のものは,『半絶縁性』基板である点。」を認定した。

しかしながら,訂正審判手続における平成17年4月14日付け手続補正書添付の本件特許発明に係る全文訂正明細書(甲第8号証の4。以下「本件特許明細書」という。)の段落【0020】に,「抵抗率としては1010 ~1015 Ω・cmが好ましく, 1015 Ω・cmがより好ましく」と記載されているのは,発光素子本体の側面を包囲する絶縁部に使用される絶縁層の抵抗率であって,絶縁基板の抵抗率ではない。本件特許明細書には,絶縁基板につき,「この発明における基板としては,・・・絶縁性ZnS,絶縁性ZnSeあるいは絶縁性ZnSXSe1-X等からなるものが好ましい」(段落【0013】),「絶縁性ZnS[絶縁性ZnSe(あるいは絶縁性ZnSXSe1-X)]は,ハロゲン輸送法,昇華法あるいは高圧溶融法により成長させたZnSバルク単結晶(やZnSeバルク単結晶あるいはZnSXSe1-Xバルク単結晶)をそれぞれ低抵抗化処理せずに用いるのが好ましい。」(段落【0015】)と記載されており,他方,特開平2-87685号公報(甲第1号証の12の1。なお,本件特許発明と発明者を共通にする特許出願に係るものである。)には,昇華法あるいは高圧溶融法により成長させたZnSやZnSe基板の抵抗率は106 ~1015 Ω cm程度であること(2頁右下欄14行~3頁左上欄10行)が,また,1977年(昭和52年)発行の「J.Phys.D.Appl.Phys.Vol.10,1977」所収のM.E.Özsan 及びJ.Woods による「Electroluminescence in zinc sulpho-selenide and in zinc sulphide」と題する論文(甲第1号証の12の2)には,ハロゲン輸送法の一つであるヨウ素輸送法で製造したZnSeの抵抗率が106 ~108 Ω・cm,ZnSの抵抗率が1010 ~1012 Ω・cmであったこと(1336頁15~29行)が記載されている。そうすると,本件特許発明の「絶縁基板」は,106 ~1015 Ω・cm程度の抵抗率を有するものであり,これは,上記引用例2に係る半絶縁性の数値10 Ω 7・cm程度を含むものであるから,引用例2の「半絶縁性」基板とは,本件特許発明の「絶縁」基板にほかならない。したがって,審決の上記相違点1の認定は誤りである。

(2) 相違点2の認定の誤り

審決は,無効理由1-1に関し,「本件特許発明は,基板上に,『n型の』第1導電型の導電層を有し,該『n型の』第1導電型の導電層上に発光層を配設して形成された化合物半導体発光素子であるのに対し,引用例2のものは,基板上にp型の導電層を有し,該p型の導電層上に発光層が配設されているものであって,基板上の層がn型ではない点。」を,本件特許発明と引用例2記載の発明の相違点2として認定した。

しかしながら,引用例2には,「活性層13に接する2つの半導体クラッド層のうち,半導体基板11に近接する側の半導体クラッド層12をP型に,他方の半導体クラッド層14をn型にしている。n型半導体の比抵抗は,P型に比べ数10分の1以下と著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることによりここでの電気抵抗を著しく小さくすることができる。」(3頁左上欄8行~15行)との記載があるが,この記載の比較対象とされているのが,基板側のクラッド層12をn型とし,他方のクラッド層14をp型とする発光素子であることは明らかであり,かつ,この発光素子は,引用例2記載の発明の比較対象として記載されているのであるから,上記の点以外の構成はすべて引用例2記載の発明と同一の発明である。したがって,引用例2には,基板側のクラッド層12をp型とし,他方のクラッド層14をn型とする発光素子(特許請求の範囲記載の発明)のほか,基板側のクラッド層12をn型とし,他方のクラッド層14をp型とする発光素子が記載され,又は実質上開示されているといえる。したがって,審決の上記相違点2の認定は誤りである。

(3) 相違点2及び3についての判断の誤り

審決は,無効理由1-1に係る相違点2及び3に関して,「本件特許発明は,引用例2に引用例10,14,15を寄せ集めることにより容易になし得るものではない。」と判断したが,以下のとおり,誤りである。

ア まず,審決は,「舌状」との用語について,「本件特許発明の『舌状』との用語は,『或る部材を基部と見立てて,それから薄く突き出た層の形状』を示すものであることが理解でき,本件特許発明の場合には,『基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出たn型ZnSe導電層5を舌状と表現したもの』であることが理解できる。」(19頁13~18行)と認定したが,誤りである。

すなわち,本件特許発明の要旨は,「前記発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた第1の電極」と規定するとおり,発光素子本体と第1の電極との接続関係を「舌状」と表現したものにすぎず,特段,「舌状」という導電層の形状があることを規定したものではない。本件特許発明は,第1導電型の導電層53が絶縁基板21上に配設されている構造であるため,上下方向に二つの電極を配置することができず,図16のように,第1の電極8を発光素子本体に横並びに配置するという接続状態を採用し,この接続関係を「舌状に接続」と表現しているにすぎない。したがって,「舌状に接続」とは,そのような横方向の接続状態が存在すれば足り,第1導電型の導電層の「形状」がどのようなものであるかは問題ではない。しかるに,審決は,第1導電型の導電層が「舌状」という特定の形状をしているものと誤解し,その形状につき,「或る部材を基部とみたてて,それから薄く突き出た層の形状」であるとか,「基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出た」ものであるなどという,本件特許明細書に裏付けのない認定をするものであって,誤りであることは明らかである。

そして,引用例2の第1図には,引用例2記載の発明につき,「P型クラッド層12」上の電極が発光素子本体と横並びになる関係にあることが示されているから,本件特許発明と同様の「舌状に接続」という構成を備えるものであり,この点は,実質的に相違点とはならない。

イ 仮に,「舌状に接続」との文言が,「基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出たn型ZnSe導電層5を舌状と表現したもの」であるとしても,引用例2の第1図の「P型クラッド層12」は,これに相当する。なお,上記引用例2のP型クラッド層12と本件特許発明に係る図16の第1導電型の導電層53とを比較すると,前者では,P型クラッド層12が,発光素子本体に相当する部材から左右に広がっているのに対し,後者では,第1導電型の導電層53が一方にのみ広がっている点が相違するが,これが左右に広がっているか,一方にのみ広がっているかは,本件特許発明の要旨が規定するところではなく,相違点とはなり得ない。

さらに,仮に,引用例2のP型クラッド層12が「舌状に接続」するものに当たらないとしても,本件特許発明において,第1導電型の導電層53を発光素子本体に「舌状に」接続させることよる特段の作用効果があるわけではなく,単に,第1導電型の導電層上に第1の電極を設けるという構造であるにすぎず,そのような形状は,当業者が任意に選択し得る設計的事項であるというべきである。

ウ 審決は,引用例10,14に,発光素子本体から舌状に接続した第1導電型の導電層といえるものが記載されているとしながら,引用例2記載の発明に引用例10,14記載のものを適用しようとすれば,引用例2のn,p層の関係を反転させた上,それにより基板上に配置されることになるn層を引用例10,14のような舌状とする必要があるところ,引用例2記載の発明において,n,p層の関係を反転させる必然性がなく,また,引用例2につき,電気抵抗が高いp層を電流の流路が狭いクラッド層として用いること,電気抵抗を小さくするような大きさに形成されたクラッド層及び電極を,舌状に狭めるように形成することに対する阻害事由があって,上記適用が容易でないと判断した。

しかしながら,基板上にn型の導電層を配設することは周知慣用技術である上,本件特許発明の作用効果において,基板上にn型の導電層を配設することに,特段の技術的意義は存在しない。また,上記引用例2の阻害事由とは,引用例2記載の発明の層12をp型,層14をn型とした理由が,n型半導体の比抵抗がp型に比べ著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることにより,そこでの電気抵抗を小さくすることにあるという点であるが,このこととの関係でいえば,本件特許発明においても,同様に基板上にp型の導電層を配設する方が優れた効果を得られるのであり,本件特許発明が基板上にn型の導電層を配設することは,公知例である引用例2に示されていた効果さえも得られていないということであって,このような,技術的意義がないのみならず,公知技術において既に達成されていた効果を阻害するような構成を採用することによって,進歩性が認められるとすることはできない。

2 取消事由2(無効理由1-2についての認定判断の誤り)

(1) 相違点2の認定の誤り

審決は,無効理由1-2に関し,「本件特許発明は,第1の電極は,『前記発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた』ものであるのに対し,引用例3のものは,発光層の下にあるのはn+A l0 . 3G a0 . 7As 56であって, 電極70が設けられているのは,該n+Al0.3Ga0.7As56の下層のn GaAsバッファ層54であるので,第1 の電極が設けられている層が異なるばかりでなく,n GaAsバッファ層54にしても,その形状は,発光素子本体を取り囲む長方形状(第6図)であって,これは舌状とはいえない点。」を,本件特許発明と引用例3記載の発明との相違点2として認定した。

しかしながら,引用例3記載の発明において,本件特許発明の「n型の第1導電型の導電層」に相当するものは,nAl0.3Ga0.7As56(以下「層56」という。)ではなく,層56とn GaAsバッファ層54(以下「層54」という。) とを合わせたものというべきである。

すなわち,本件特許発明の要旨には,「第1導電型の導電層」が複数層であってはならないとする規定はなく,かえって,その規定に照らして,対比されるべき先行技術においては,「発光層の下端面に接合して配設され」,「発光素子本体が立設され」,「第1の電極が設けられている」n型の層を,まとめて「第1導電型の導電層」とすることが合理的である。本件特許明細書にも,「第1導電型の導電層」が複数層であることを妨げる記載はなく,機能的にも,これが複数層であっても何ら問題はない。したがって,本件特許発明と引用例3記載の発明とが,第1の電極が設けられている層が異なるという点で相違するものではない。

また,本件特許発明において「舌状」とは,第1の電極8を発光素子本体に横並びに配置するという接続関係を表現するものにすぎないことは,上記1の(3)のアのとおりであるところ,引用例3の第5図には,電極70が発光素子本体と横並びになる関係にあることが示されているから,本件特許発明と同様の「舌状に接続」という構成を備えるものである。

したがって,相違点2は,実質的に相違点とはならず,審決の認定は誤りである。

(2) 相違点2についての判断の誤り

審決は,無効理由1-2に係る相違点につき,相違点2についてのみ判断し,「相違点1について検討するまでもなく,本件特許発明は,引用例3に引用例10,14,15を寄せ集めることにより容易になし得るものではない。」としたが,以下のとおり,審決の相違点2についての判断は誤りである。

ア まず,審決は,「n+GaAsバッファ層54とnAl0.3 Ga0.7 As56は同じn層であるとはいえ,その役割は相違し,これを一層にする必然性を認めることはできない。」と判断したが,上記のとおり,本件特許発明の要旨は,第1導電型の導電層を一層でなければならないものとして規定してはいないから,上記判断は失当である。

イ 次に,審決は,「仮に,これを同一の層と見做したとしても,カソード接点70は,・・・測定用のものであるから,寄せ集めるべき引用例10,14,15に記載されるような発光のためにn型層に接続された電極と同一視することはできない。」と判断した。

しかしながら,審決が認定した本件特許発明と引用例3記載の発明との相違点2は,第1の電極を設けた層が異なるという点と,引用例3記載の発明では,第1の電極が設けられた層54が「舌状」とはいえないという点であり,「第1の電極」を備えている点は,本件特許発明と引用例3記載の発明の一致点として認定している。したがって,審決の上記判断は,上記一致点,相違点の認定と整合せず,それ自体失当である。しかも,引用例3記載の発明の電極が,引用例10,14,15記載の発明のn型層に接続された電極と同一視し得るかどうかを問題とすることも必然性がない。

ウ 審決は,さらに,「LED210はゲート電極に囲まれ,その周りをソース電極34’が囲んでいるものであるから,引用例10,14,15のものが舌状の構造を示すものであるにしても,引用例3のような発光素子本体をゲート電極及びソース電極等が取り囲む構造のものに引用例10等のような舌状の構造を適用する動機付けないし必然性はない。」と判断した。

しかしながら,引用例3記載のLED210は,それ自体で発光素子なのであるから,本件特許発明と対比する場合には,LED210を本件特許発明と対比すれば足りる。そして,これが,本件特許発明と同様,「舌状に接続」という構成を備えること(相違点には当たらないこと)は,上記(1)のとおりである。仮に,相違点に当たるとしても,舌状の構造を示すものとして審決が挙げる引用例10,14,15のものを適用することは,極めて容易である。

3 取消事由3(無効理由2についての認定判断の誤り)

審決は,本件特許発明が,本件特許出願からの分割出願(特願平10-332248号,甲第1号証の4)に係る発明(審決の表記は「分割原発明」)と同様,引用例8~10によって新規性及び進歩性が欠如しているとの原告の主張(無効理由2)に対し,「主引用例として比較すべき引用例8,9にしても,基板1としてGaAsを用いていることから,『絶縁性基板』の点で一致しないばかりでなく,発光ダイオード形状を半球状に研磨する点,発光体部分をリング状にエッチングしている(引用例9第3図(c))点,n,p層の関係が本件特許発明とは逆である点など,引用例10を適用するに当たり,阻害要因ともいえる事項を含むものである。」としたのみで,それ以上の実質的判断をしていない。

しかしながら,基板1に「絶縁性基板」を用いることは,審決が,無効理由1-1に係る相違点1についての判断において述べているように,当業者が容易になし得ることである。また,発光ダイオード形状を半球状に研磨する点及び発光体部分をリング状にエッチングしている点は,本件特許発明の要件と無関係の点であり,本件特許発明と引用例8,9記載の発明との相違点を構成しない。さらに,n,p層の関係が本件特許発明とは逆である点も,上記のとおり,容易想到の事項である。したがって,審決の無効理由3についての認定判断も誤りである。

4 取消事由4(無効理由4についての認定判断の誤り)

審決は,本件特許発明が,本件原出願の当初明細書及び図面(甲第1号証の19)に記載された発明ではなく,分割出願の要件を満たさないから,本件特許出願について,出願日の遡及はなく,分割出願の日である平成9年6月16日の出願とみなされるところ,本件特許発明は,同日前に頒布された刊行物(特開平8-148718号公報,特開平9-129930号公報,特開平2-32570号公報。甲第1号証の20~1号証の22)にそれぞれ記載された発明と同一であって,新規性を欠いているとの原告の主張(無効理由4)に対し,本件原出願の当初明細書に,「発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するものである」との事項が記載されていないとはいえないとし,また,「Ⅱ-Ⅳ族化合物半導体に限られない絶縁層に係る発明」が記載されていないとはいえないとして,無効理由4を採用しなかった。

しかしながら,下記のとおり,本件特許発明が,本件原出願の当初明細書及び図面に記載された発明であるとはいえないから,審決の上記判断は誤りである。

(1) 本件特許発明は,従来技術では発光素子本体側面を電流が「リーク」し,「電流が狭窄」されなかったので,発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するものである,とされているところ,本件原出願の当初明細書及び図面には,そのような構成も,そのような構成による作用効果も記載されていない。本件特許発明に係る「電流が狭窄」の意味は,本件原出願の当初明細書記載の意味とは全く異なっており,本件特許発明は,本件原出願の当初明細書に記載された技術思想とは全く異なる技術思想による発明である。

(2) 本件特許発明においては,導電層はⅡ-Ⅵ族化合物半導体に限られず,絶縁層もⅡ-Ⅵ族化合物半導体に限られないあらゆる絶縁層を含むものとされ,今日の青色発光ダイオードの主流を占める材料である,GaNなどのⅢ-V族化合物半導体を包含するものとされているが,本件原出願の当初明細書には,第1の導電層も,第2の導電層もⅡ-Ⅵ族化合物半導体であり,絶縁部もⅡ-Ⅵ族化合物半導体に限定して特定され,Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体以外の導電層及び絶縁層の開示はない。

5 取消事由5(引用例15,10に基づく無効主張について判断しなかった誤り)原告は,本件訂正審決が確定した後の平成17年9月7日に提出した上申書(甲第6号証)により,引用例15及び引用例10に基づく無効理由を主張したところ,審決は,これらの引用例は,請求理由において提出されていた証拠であるが,他の証拠を補強するために提出されていた文献であって,上記無効理由は,主要証拠を差し替えるものであり,請求の理由の要旨を変更するものであるから採用しないとして,引用例15及び引用例10に基づく無効理由につき判断しなかった。

しかしながら,平成15年法律第47号による改正前の特許法131条2項が,要旨を変更する審判請求書の補正を禁じていたのは,請求理由の補正により,審理のやり直しに伴う遅延が生じることを防ぐためであるが,請求理由の補正を認めることは,特許権者の防御の機会を奪うことにならない限り,紛争の一回的解決の観点からすれば望ましい面もある。そこで,新たな無効理由を追加したことが審判請求書の要旨を変更するものであるか否かは,審理の遅延が生じない補正であり,かつ,これを認めることが,特許権者の防御の機会を奪うものではないか否かにより判断すべきである。

しかるところ,本件審判において,引用例15,10は,審判請求時から提出されていた証拠であって,これにつき,被告も十分な反論をしており,かつ,第1次審決においても,主要な証拠として内容を検討されているものである。そして,原告の引用例15,10に基づく無効理由は,引用例15,10を主引用例とし,引用例2等をこれに適用するというもので,従前と,引用例の組合せを変更するものではない。このような主張が,審理の遅延を生じさせるものでもなく,被告の防御の機会を奪うものでもないことは明らかであり,請求の理由の要旨を変更するものには当たらない。

したがって,審決の上記判断は誤りである。

第4 被告の反論の要点

1 取消事由1(無効理由1-1についての認定判断の誤り)対し

(1) 「相違点1の認定の誤り」に対し

原告は,引用例2の「半絶縁性」基板とは,本件特許発明の「絶縁」基板にほかならず,審決の相違点1の認定は誤りであると主張する。

しかしながら,「絶縁基板」と「半絶縁性基板」とは,異なる抵抗率を有する基板を意味する用語であり,審決がこの点を相違点として認定したことは正当である。特許明細書中では,用語を普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用するものとされ,特定の意味で使用しようとする場合においては,その意味を定義して使用することとされる(特許法施行規則様式29備考8)。引用例2に「半絶縁性基板」を特定の意味で使用するとの定義はなく,また,本件特許明細書中に「絶縁基板」を特定の意味で使用するとの定義もないから,両者の意味が異なることは,これら用語の普通の意味に照らして明らかである。

原告は,特開平2-87685号公報(甲第1号証の12の1)には,本件特許発明の「絶縁基板」の材料と同様に,昇華法や高圧溶融法により成長させたZnSやZnSe基板の抵抗率が106 ~1015 Ω・cm程度であることが記載されているところ,これは,引用例2の「半絶縁性基板」の抵抗率10 Ω・cm程度を含7むものであると主張するが,特開平2-87685号公報の記載は,「バルク単結晶からのウェハー,すなわち,高抵抗性(いわゆる絶縁性~半絶縁性:106 ~1 615 Ω・cm)のまま使用することができる(3頁左上欄8~10行)というものであり,その106 ~1015 Ω・cmの抵抗率中には,半絶縁性が含まれるものであるから,特開平2-87685号公報の記載が,原告主張の根拠となるものではない。

さらに,原告は,「Electroluminescence in zinc sulpho-selenide and in zinc sulphide」と題する論文(甲第1号証の12の2)に,本件特許明細書に記載された製造方法であるハロゲン輸送法の一つであるヨウ素輸送法で製造したZnSeの抵抗率が106 ~108 Ω・cmであったことが記載されているとも主張するが,本件特許発明で用いる基板には,一例として,ハロゲン輸送法で製造したZnSeの基板を適用することができるとしても,基板の抵抗率は,材料の種類や製造方法のみで定まるものではなく,その製造方法を実施する際の製造条件にも依存し,したがって,上記文献に「ヨウ素輸送法」で製造されたZnSeの抵抗率が106 ~108 Ω・cmであると記載されているからといって,直ちに,本件特許発明で用いる基板の抵抗率も106 ~108 Ω・cmであるということはできない。

(2) 「相違点2の認定の誤り」に対し

原告は,引用例2の「活性層13に接する2つの半導体クラッド層のうち,半導体基板11に近接する側の半導体クラッド層12をP型に,他方の半導体クラッド層14をn型にしている。n型半導体の比抵抗は,P型に比べ数10分の1以下と著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることによりここでの電気抵抗を著しく小さくすることができる。」(3頁左上欄8行~15行)との記載において,比較対象とされているのが,基板側のクラッド層12をn型とし,他方のクラッド層14をp型とする発光素子であるから,引用例2には,基板側のクラッド層12をp型とし,他方のクラッド層14をn型とする発光素子(引用例2記載の発明)のほか,基板側のクラッド層12をn型とし,他方のクラッド層14をp型とする発光素子が記載され,又は実質上開示されているとして,審決の相違点2の認定が誤りであると主張する。

しかしながら,引用例2に記載された素子構成は,基板側のクラッド層12をp型としクラッド層14をn型とした素子構成のみであり,このような構成の素子が記載されているからといって,これとは逆の素子構成が記載されていると解すべき理由はない。

のみならず,引用例2記載の発明は,直径約30μm以下に限定された活性層13の直上部に配設されるため,電流の流路及び電極面積を小さくせざるを得ないクラッド層14をn型にし,半導体基板11側に配設されるため,電流の流路及び電極面積を大きくとることができるクラッド層12をp型にして,発光素子全体での素子抵抗を低減するという,技術思想に基づくものであるから,これとは逆の素子構成は,引用例2記載の発明から積極的に排除されたものであり,当業者にとって周知慣用の技術であるということもできない。

したがって,審決の相違点2の認定に誤りはない。

(3) 「相違点2及び3についての判断の誤り」に対し

原告は,「舌状」との用語につき,第1の電極8を発光素子本体に横並びに配置するという接続関係を「舌状に接続」と表現したものであって,そのような横方向の接続状態が存在すれば足り,第1導電型の導電層の「形状」がどのようなものであるかは問題ではないと主張する。

しかしながら,審決認定のとおり,「舌状」との用語は「或る部材を基部と見立てて,それから薄く突き出た層の形状」(19頁13~14行),すなわち,導電層が断面非対称形にはみ出している形状を示すものである。このことは,被告が審判において提出した平成16年1月16日付け上申書(3)(乙第1号証)に,「『発光素子本体から舌状に接続した・・・導電層上の露出部分に設けられた第1の電極』・・・との記載は・・・●第1の電極が設けられる側の導電層上の露出部分が他の導電層部分よりも断面非対称形にはみ出している・・・●上記第1の電極と発光素子本体との電気的な接続構造が断面非対称形である」(6頁8~18行)と記載されていることからも明らかである。原告の主張する「第1の電極と発光素子本体との横並びの関係」は,本件特許明細書においては,「プレーナ型」と表現されており(段落【0082】),「舌状」は,そのような接続関係を指すものではない。また,原告は,仮に,引用例2のP型クラッド層12が「舌状に接続」するものに当たらないとしても,「舌状」の形状は,当業者が任意に選択し得る設計的事項であるというべきであると主張するが,引用例2記載の発明のクラッド層を引用例10,14に示された舌状形状に形成することが容易とはいえないことは,審決が「電気抵抗を小さくするような大きさ(少なくとも両側に延びた形状)に形成されたクラッド層及び電極を,引用例2の目的に反して,一方向にそれも舌状に狭めるように形成することが容易ともいえない。」(20頁14行~16行)と判断したとおりである。

2 取消事由2(無効理由1-2についての認定判断の誤り)に対し

(1) 「相違点2の認定の誤り」に対し

原告は,引用例3記載の発明において,本件特許発明の「n型の第1導電型の導電層」に相当するものは,層56ではなく,層56と層54とを合わせたものであると主張する。

しかしながら,層54,層56は,ともにn型の導電性を有するとはいえ,層54(n+ GaAs)はバッファ層,層56(nAl0.3 Ga0.7As)はクラッド層であり,両者は組成が異なるとともに,役割も相違する。したがって,層54と層56とを二層とした審決の認定は正当である。

また,審決は,「これを同一の層と見做したとしても・・・カソード接点70は・・・測定用のものであるから・・・発光のためにn型層に接続された電極と同一視することはできない」(22頁5~11行)として,層54及び層56を合わせた層を本件特許発明の「第1導電型の導電層」と認定した場合についても,相違点を認めており,この点においても,審決の認定は相当である。

さらに,原告は,本件特許発明において「舌状」とは,第1の電極8を発光素子本体に横並びに配置するという接続関係を表現するとの主張を前提として,引用例3の第5図には,電極70が発光素子本体と横並びになる関係にあることが示されているから,本件特許発明と同様の「舌状に接続」という構成を備えるものであると主張するが,その前提自体が誤っていることは,上記1の(3)のとおりである。

(2) 「相違点2についての判断の誤り」に対し

原告は,審決の「仮に,これを同一の層と見做したとしても,カソード接点70は,・・・測定用のものであるから,寄せ集めるべき引用例10,14,15に記載されるような発光のためにn型層に接続された電極と同一視することはできない。」との判断につき,審決は,「第1の電極」を備えている点を本件特許発明と引用例3記載の発明の一致点として認定しているから,上記判断は,一致点,相違点の認定と整合しないと主張する。

しかしながら,審決は,本件特許発明の第1の電極と,引用例3記載の発明のカソード接点70とが「電極」という点では一致しているが,引用例3記載の発明の電極(カソード接点70)は「測定用」であるのに対し,本件特許発明の第1の電極は「発光用」である点で,相違していると判断しているのであって,原告主張の不整合はない。引用例3には,「MOSFETドレーン32’に対する接点28’およびLEDカソード54に対する接点70は2つの素子の同時使用においては使用されないが,各素子の特性を個別に測定することを可能にするために行われる。」(6頁右下欄15~19行)との記載があり,この記載によれば,カソード接点70が測定用のものであることは明らかである。

また,原告は,引用例3記載の発明の電極が,引用例10,14,15記載の発明のn型層に接続された電極と同一視し得るかどうかを問題とすることに必然性がないと主張するが,本件特許発明の進歩性を判断するに当たって,主引用例である引用例3と副引用例である引用例10等との間に,適用の阻害要因,動機付けの欠如などがあるか否かを検討するのは当然であって,この観点から,審決が,引用例3記載の発明の電極と引用例10等の電極とを同一視することができるか否かを認定することは正当である。

さらに,原告は,審決の「引用例3のような発光素子本体をゲート電極及びソース電極等が取り囲む構造のものに引用例10等のような舌状の構造を適用する動機付けないし必然性はない。」との判断につき,引用例3記載のLED210は,それ自体で発光素子なのであるから,本件特許発明と対比する場合には,LED210を本件特許発明と対比すれば足りるとした上,これが,本件特許発明と同様,「舌状に接続」という構成を備えるとし,仮に,そうでないとしても,引用例10,14,15のものを適用することは,極めて容易であると主張する。

しかしながら,引用例3記載の発明は,LED210とこれを取り囲むリング形MOSFET200とからなる複合素子であって,リング型MOSFETを介して電気的接続が行われるのであり,リング型MOSFETのドレーン32’が電極に相当するものである。このように明らかに形状の違う電極をもつ複合素子に対して,引用例10等に記載された舌状の構造を適用しても,本件特許発明とは全く異なる構成が導かれるにすぎない。したがって,審決が,引用例3記載の発明のLED210がゲート電極及びソース電極等に取り囲まれていることを考慮したことに誤りはない。

3 取消事由3(無効理由2についての認定判断の誤り)に対し

原告は,審決が,無効理由2に対し実質的な判断をしていないと主張するが,原告が引用するとおり,審決は,引用例8,9記載の発明と本件特許発明とを対比して相違点を認定し,引用例8,9記載の発明に引用例10を適用することが,阻害要因によって困難であると判断したものであるから,原告の上記主張は失当である。そして,引用例8,9に記載された非舌状のp型導電層に,引用例10に記載された舌状かつn型の導電層を適用することは,審決が無効理由1-1で示しているとおり,明白な阻害要因が存在するため,極めて困難であり,審決の判断に誤りはない。

4 取消事由4(無効理由4についての認定判断の誤り)に対し

原告は,本件特許発明に係る,発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するという構成及びそのような構成による作用効果は,本件原出願の当初明細書及び図面に記載されていないとし,また,本件特許発明においては,導電層はⅡ-Ⅵ族化合物半導体に限られず,絶縁層もⅡ-Ⅵ族化合物半導体に限られないとされているのに対し,本件原出願の当初明細書には,Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体以外の導電層及び絶縁層の開示はないとして,本件特許発明は,本件原出願の当初明細書及び図面(甲第1号証の19)に記載された発明ではなく,本件特許出願は,分割出願の要件を満たさないと主張する。

しかしながら,審決の摘示するとおり,本件原出願の当初明細書(甲第1号証の19)には,「作用」の項に,「また,本願の請求項2に係る発明では,発光層を含む主要部を柱状構造とし,その周囲を絶縁層で囲むことにより電流はこの柱状構造内に狭窄され,発光層に高密度の電流を注入することが可能となり,高密度の発光を得ることができる。」(15頁10~14行)との記載,「実施例」の項に,「さらに,本発明の請求項3による発光素子の第1の実施例の概略図を第13図に示す。・・・この際,・・・基板上のマスクの円形孔に対応した位置に直径30~100μmの円柱状の発光素子主要部を制御性よく部分成長させることができた。次に,マスクを除去し,絶縁性のZnSeからなる絶縁層115をエピタキシャル成長させる。・・・本実施例においては,素子内の電流は円柱状の主要部に狭窄され発光層に高密度の電流を注入することが可能となり,高輝度のZnSeMIS型発光素子を実現することができた。次に本発明の請求項3による第4実施例の概略図を第16図に示す。」(36頁11行~42頁15行)との記載があり,発光素子本体の側面を絶縁部で覆うことにより,リーク電流の発生を抑えて電流を狭窄し,発光層に高密度の電流を注入するという構成及びそのような構成による作用効果が記載されていることは明らかである。

また,同様に審決の摘示するとおり,本件原出願の当初明細書には,「産業上の利用分野」の項に,「本発明は化合物半導体発光素子に関し,特に硫化亜鉛(ZnS),セレン化亜鉛(ZnSe),等のⅡ-Ⅵ族化合物半導体からなるⅡ-Ⅵ族化合物半導体発光素子の改良に関するものである。」(2頁17~末行)と記載され,Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体は本発明の一態様であることが明示され,また,「課題」の項にも,「しかしながら,上述の従来の発光素子の構造では,電極より注入された電流は,発光素子内部の広い範囲を流れるために発光層74における電流密度は小さく,高輝度の発光を得ることは極めて困難である。さらに,発光層74で生じた光は,素子全体にあらゆる方向に放射されるため,発光を効率良く素子外部へ取り出すことができない。本発明は係る点に鑑みてなされたもので,高輝度で発光できる化合物半導体発光素子を提供することを目的の一つとするものである。」(4頁2~11行)というように,特定の材料に限定されないものとして記載されているから,Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体に限られない絶縁層に係る発明が記載されているということができる。

したがって,原告の上記主張も失当である。

5 取消事由5(引用例15,10に基づく無効主張について判断しなかった誤り)に対し

原告は,引用例15,10に基づく無効理由は,引用例15,10を主引用例とし,引用例2等をこれに適用するというもので,従前と,引用例の組合せを変更するものではないと主張する。

しかしながら,原告が,平成17年9月7日付けの上申書によって追加した無効理由は,引用例15を主引用例とし,引用例2,3を副引用例とするもの,あるいは,引用例10を主引用例とし,引用例2,3を副引用例とするものであるところ,本件無効審判請求に係る審判請求書(甲第4号証)には,引用例2と引用例3とを組み合わせた無効理由の記載はない。したがって,原告が追加した上記無効理由は,無効審判請求書の要旨を変更するものに当たり,認められるものではない。

当裁判所の判断

1 取消事由1(無効理由1-1についての認定判断の誤り)について

(1) 「相違点1の認定の誤り」について

原告は,無効理由1-1に関し,審決が「本件特許発明は,『絶縁』基板であるのに対し,引用例2のものは,『半絶縁性』基板である点。」を,相違点1として認定したことは誤りであると主張する。

しかしながら,審決は,上記相違点1につき「基板として周知技術の絶縁性基板を用いることにより,上記相違点1の技術的事項とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項である。」(19頁9~11行)として,容易想到であると判断しているから,仮に,原告主張のとおり,審決の相違点1の認定が誤りであるとしても,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすものではない。したがって,原告の上記主張は失当である。

(2) 「相違点2の認定の誤り」について

引用例2には,以下の記載がある。

ア「半絶縁性又はn型の電気導電型の半導体基板上に,活性層を有するダブルヘテロ積層構造を備えた半導体発光ダイオードにおいて,直径約30μm以下の円板状に限定された活性層を有し,この円板状の活性層全体を発光領域とし,この活性層に接し活性層とダブルヘテロ積層構造を形成する2つの半導体層のうち,前記半導体基板に近接する側の半導体層の電気導電型をP型とし,他方の半導体層をn型としたことを特徴とする半導体発光ダイオード。」(特許請求の範囲)

イ「(産業状の利用分野) 本発明は,光通信システムの光源として有効な半導体発光ダイオード(以下LEDと呼ぶ),特に半導体基板面に垂直な方向に光を取出す面発光型LEDに関する。」(1頁左欄16行~右欄3行)

ウ「このようなLEDでは,発光輝度が高く光ファイバーへの光入力が大きいことが重要である。それには,発光領域の発光効率とともに,光ファイバーへの結合効率が問題となる。・・・LEDの発光径Daが小さいほど結合効率が大きいので発光径をできるだけ小さくすることが望ましい。」(1頁右欄6~18行)

イ「(発明の目的) 本発明の目的はこのような従来の欠点を除去し,発光効率を損なうことなく結合効率を高め光ファイバーへの光入力の高いLEDを提供することである。」(2頁右上欄3~7行)

エ「(発明の作用・原理) 第1図は本発明の素子断面構造の一例を示す図である。n型半導体基板11上にp型半導体クラッド層12,n型半導体活性層13,n型半導体クラッド層14が順に形成されておりダブルヘテロ積層構造を呈している。又,活性層は,直径約30μm以下の円板状活性層領域13に限定されている。円板状活性層領域13の直上部のn型クラッド層14の表面の大部分にn型電極17が形成されており,円板状活性層領域13全体が発光領域となるようにしている。又,P型半導体クラッド層12の表面の一部にP型電極が形成されている。そしてn型半導体基板11の表面から出力光を取出す。」(2頁右上欄19行~左下欄12行)

オ「本発明では円板状の活性層が形成され,この円板状の活性層全体に電流が注入されるため,均一に発光を生じる。その結果,半径方向の発光強度分布は非常に鋭い矩形状となり,従来みられていた分布のだれがなくなる。このため光ファイバーとの結合効率は著しく改善される。第2図は,発光径Daと結合効率ηcとの関係を示した図であるが,従来第2図に波線で示した様に,発光径Daが,約30μm以下では結合効率の増加は大きくなく飽和した。これは発光径が小さくなるにつれて電流拡がりによる発光分布のだれの影響が大きくなり,有効に結合されなくなるためである。本発明により第2図に実線で示した様に結合効率は著しく改善された。特に発光径が約30μm以下でその改善は顕著で,径が小さくなる程改善量が大きい。さらに従来の例えばプロトン照射型LEDとは異なり活性層発光領域の周囲は,欠陥領域で囲まれていないため発光効率の低下を伴なわない。その結果,結合効率の改善はそのまま,結合パワーの改善に結びつき,高いファイバー入力が得られる。ところで,従来報告されているメサ形状を呈したLEDでは,メサの表面に電流狭窄手段を設け,メサの中央部付近のみ電流を注入させる構造となっている・・・しかし,この構造では基本的に,先に述べた絶縁膜や拡散層による電流狭窄と同じで,発光径を小さくした場合に生じる発光強度分布のだれにともなう結合効率の劣化は解決されない。しかるに本発明では,円板状の活性層全体に電流が注入されるため,活性層全体が均一に発光し結合効率が著しく改善され,しかも円板の直径が約30μm以下でその効果が顕著であることが実験により明らかとなったものである。」(2頁左下欄13行~3頁左上欄7行)

カ「さらに,活性層13に接する2つの半導体クラッド層のうち,半導体基板11に近接する側の半導体クラッド層12をP型に,他方の半導体クラッド層14をn型にしている。n型半導体の比抵抗は,P型に比べ数10分の1以下と著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることによりここでの電気抵抗を著しく小さくすることができる。さらに,n型半導体へのオーミック電極抵抗はP型に比べ小さいため,クラッド層14をn型とすることにより電極面積の小さいクラッド層14へのオーミック電極の抵抗を小さくすることができる。この様に活性層に対し,半導体基板と反対側のクラッド層14をn型とすることにより,素子抵抗を著しく低減することができ,直流動作時での発熱を低減し,出力光,信頼性を向上することができる。」(3頁左上欄8行~右上欄3行)

キ「(実施例) 第3図は,本発明の第1の実施例を示す素子断面構造図である。n型InP基板11上にP型InPクラッド層12,n型InGaAsP活性層13,n型InPクラッド層14,n型InGaAsPコンタクト層15を順に例えば液相エピタキシャル法により形成する。続いて,例えばBrメタノールによる化学エッチングにより,円形メサを形成し,活性層13が直径約25μmの円板状となるようにする。メサ側面にSiO2膜16を形成する。n型InGaAsPコンタクト層15の表面に,AuGeNi膜を形成しn型電極17とし,P型電極18とする。最後に基板11を厚さ約100μmに研磨する。本実施例によりLEDの出力光のファイバーへの結合効率が著しく向上し,ファイバー入力パワーが従来の約2倍以上向上した。さらに,クラッド層14をn型としたため,P型に比べ素子抵抗が1/5以下に低減され直流動作時の発熱が著しく低減したことも,光出力の向上に大きく寄与した。さらにこの発熱の低減により,素子の信頼性も大巾に向上した。」(3頁右上欄9行~左下欄10行)

ク「第4図は,本発明の第2の実施例を示す。第1の実施例とは異なり,活性層発光領域13は,活性層を貫通する溝19により直径約25μmの円板状に限定されている。又,半導体基11の導電型は,半絶縁性としている。半絶縁性基板11上にP型InPクラッド層12,n型InGaAsP活性層13,n型InPクラッド層14,n型InGaAsコンタクト層15を順に例えば,液相エピタキシャル法により形成する。続いて,Brメタノールによる化学エッチングにより内径約25μmの輪状で活性層を貫通する溝19を形成する。溝19の外側のn型InGaAsPコンタクト層15の表面から,P型InPクラッド層12に達するZn拡散を行ない選択的にP型拡散領域20を形成する。溝19の内側のn型InGaAsPコンタクト層15の表面にAuGeNi膜を形成し,n型電極17とし,溝19の外側のP型拡散領域20表面にAuZn膜を形成し,P型電極18とする溝19の側面にSiO2膜21を形成する。P型電極18及びn型電極17の表面にそれぞれ金メッキ層22,23を形成する。最後にInP基板11を厚さ約100μmに研磨し光取出し口とする。」(3頁左下欄11行~右下欄13行)

ケ「(発明の効果) 本発明にたり(判決注:「本発明により」の誤記と認める。)発光効率を損なうことなく,ファイバーとの結合効率を高め光ファイバーへの光入力の著しく向上した高性能なLEDを高い製造歩留まりで得ることができた。」(4頁左上欄5~9行)上記各記載によれば,引用例2の特許請求の範囲及び実施例に記載された発明である半導体発光ダイオードは,活性層に接し,活性層とダブルヘテロ積層構造を形成する2つの半導体層のうち,半導体基板に近接する側の半導体層の電気導電型をp型とし,他方の側の半導体層の電気導電側をn型とする構成であることが認められる。すなわち,上記各記載によれば,光通信システムの光源としての半導体発光ダイオード(LED)は,光ファイバーへの結合効率を高め,光入力を大きくするために,発光径をできるだけ小さくする必要があるところ,引用例2の特許請求の範囲記載の発明は,直径約30μm以下の円板状に限定された活性層を有し,この円板状の活性層全体を発光領域とする構成を採用することにより,光ファイバーとの結合効率を高めるものであり,特許請求の範囲記載の発明の素子断面構造の一例である第1図のものは,直径約30μm以下の円板状活性層領域13の直上部のクラッド層14の表面の大部分に電極17を形成し,円板状活性層領域13全体が発光領域となるようにしたものであること,そして,特許請求の範囲記載の発明が,活性層に接し活性層とダブルヘテロ積層構造を形成する2つの半導体層のうち,半導体基板に近接する側の半導体層(クラッド層12)の電気導電型をp型と,他方の半導体層(クラッド層14)をn型と特定したのは,n型半導体の比抵抗がp型に比べ著しく小さく,また,n型半導体へのオーミック電極抵抗がp型に比べ小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14(基板に近接する側と反対側の半導体層)をn型とすることにより,クラッド層14における電気抵抗を著しく小さくし,電極面積の小さいクラッド層14へのオーミック電極の抵抗を小さくして,素子抵抗を著しく低減することができ,直流動作時での発熱を低減し,光出力,信頼性を向上させ得るとの理由によるものであることが認められる。

そうすると,半導体基板に近接する側の半導体層の電気導電型をp型とし,他方の半導体層をn型とすることが,引用例2の特許請求の範囲記載の発明においては,必須の構成として採用された理由は,特許請求の範囲記載の発明において,素子抵抗を著しく低減するという追加的な目的を達成するという点にあるのであって,基板に近接する側の半導体層の電気導電型をp型とし,他方の半導体層をn型とすること自体が,半導体基板上に,活性層を有するダブルヘテロ積層構造を備えた半導体発光ダイオード一般において必須でないことはもとより,そのような半導体発光ダイオードにおいて,表面の面積が限定された活性層を有し,当該活性層全体又はその大部分を発光領域とするものにおいても,必ずしも必須であるとはいえず,取捨選択することが可能なものというべきである。

しかるところ,引用例2には,上記のとおり,第1図のものにおいて,クラッド層12(半導体基板に近接する側の半導体層)の電気導電型をp型とし,クラッド層14(他方の半導体層)をn型とすることの理由が記載されている(上記摘記事項カ)が,当該記載は,「n型半導体の比抵抗は,P型に比べ数10分の1以下と著しく小さいため,電流の流路が狭いクラッド層14をn型とすることによりここでの電気抵抗を著しく小さくすることができる。」,「さらに,n型半導体へのオーミック電極抵抗はP型に比べ小さいため,クラッド層14をn型とすることにより電極面積の小さいクラッド層14へのオーミック電極の抵抗を小さくすることができる。」,「活性層に対し,半導体基板と反対側のクラッド層14をn型とすることにより,素子抵抗を著しく低減することができ・・・る。」というように,クラッド層14をp型とした場合と対比して,これをn型とする効果を記載しているのであるから,そこには,第1図のように,直径約30μm以下の円板状活性層領域13の直上部のクラッド層14の表面の大部分に電極17を形成し,円板状活性層領域13全体が発光領域となるようにした,ダブルヘテロ積層構造を備える半導体発光ダイオードにおいて,半導体基板に近接する側と反対側のクラッド層14をp型とする(したがって,半導体基板に近接する側のクラッド層12をn型とする)構成のものが想定されていることは明らかである。

したがって,引用例2には,特許請求の範囲記載の発明とは別に,上記のクラッド層14をp型とし,クラッド層12をn型とする半導体発光ダイオードが開示されているというべきであり,本件特許発明と対比すべきもの(特許法29条2項が引用する同条1項3号所定の発明)は,この発明であるから,審決が,「本件特許発明は,基板上に,『n型の』第1導電型の導電層を有し,該『n型の』第1導電型の導電層上に発光層を配設して形成された化合物半導体発光素子であるのに対し,引用例2のものは,基板上にp型の導電層を有し,該p型の導電層上に発光層が配設されているものであって,基板上の層がn型ではない点。」を,本件特許発明と引用例2記載の発明の相違点2とした認定は誤りであるといわざるを得ない。

(3) 「相違点2及び3についての判断の誤り」について

ア 審決は,相違点2及び3につき一括して判断を行い,「本件特許発明は,引用例2に引用例10,14,15を寄せ集めることにより容易になし得るものではない。」とするものであるが,相違点2については,上記のとおり,これを相違点とした認定自体が誤りであるから,相違点3,すなわち,「本件特許発明は,前記発光素子本体から『舌状』に接続した前記第1導電型の導電層と規定されているのに対し,引用例2には,第1導電型の導電層が発光素子本体から舌状に接続されたものとは記載されていない点。」に関する部分について,審決の判断の当否を検討する。

イ 審決は,「技術水準を参酌すれば,本件特許発明の『舌状』との用語は,『或る部材を基部と見立てて,それから薄く突き出た層の形状』を示すものであることが理解でき,本件特許発明の場合には,『基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出たn型ZnSe導電層5を舌状と表現したもの』であることが理解できる。」と判断した。そして,被告は,この審決の判断につき,導電層が断面非対称形にはみ出している形状であることを示しているものと主張する。

しかるところ,本件特許発明の要旨は,「絶縁基板上に,少なくとも,発光層と前記発光層の下端面に接合して配設されたn型の第1導電型の導電層とを有する化合物半導体発光素子であって,前記n型の第1導電型の導電層の一部領域に立設され,少なくとも前記発光層を含む発光素子本体と,前記発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層と,該絶縁層を配設しうる基板上の領域と,前記発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層上の露出部分に設けられた第1の電極と,前記発光素子本体の上方に,第2の電極を備えていることを特徴とする化合物半導体発光素子。」と規定し,また,本件特許明細書には,「舌状」につき,「第15の実施例の概略図を図16に示す。図中,21はハロゲン化学輸送法により成長させたZnSeバルク単結晶を低抵抗化せずに用いた絶縁性のZnSe基板である。この絶縁性ZnSe基板21上に上記第2の実施例と同様の方法でn型ZnSe導電層53,n型ZnSe発光層24ならびにp型ZnSe発光層25を順次エピタキシャル成長した後,成長層をn型ZnSe導電層が露出するまで柱状にエッチングする。次にn型ZnSe導電層の一部を残してさらに成長層を基板の一部とともに柱状にエッチングし,柱状の主要部と,主要部から舌状に接続したn型ZnSe導電層53の負電極形成部53aを作成する。さらに,この上にS組成(x)が0.3~0.7程度の値をもつ,絶縁性のZnSxSe1-xを成長させてこれを絶縁層125とし,p型ZnSe発光層25ならびにn型ZnSe導電層53の舌状部に堆積した絶縁性ZnSxSe1-xをエッチングにより除去し,露出したp型ZnSe発光層25上ならびにn型ZnSe導電層53上に,それぞれ,Auを用いた正電極7,Inを用いた負電極8を形成し,プレーナ型のpn接合型発光素子とする。」(段落【0080】~段落【0082】)との記載がある。そして,上記のとおり,第15の実施例に係るものとされている図16には,n形ZnSe導電層53が,断面非対称形に左側にはみ出している形状により,図示されているが,本件特許発明の要旨は,「舌状」が,断面非対称形にはみ出している形状であることまで特定しているものではなく,また,「舌状」が,断面非対称形にはみ出している形状であると当然に認識されるものでもない。

そうすると,本件特許発明の要旨の規定及び上記本件特許明細書の記載により,審決が,「技術水準を参酌すれば,本件特許発明の『舌状』との用語は,『或る部材を基部と見立てて,それから薄く突き出た層の形状』を示すものであることが理解でき,本件特許発明の場合には,『基部に相当するのは『柱状の主要部』であって,それを基部に見立てて,該柱状の主要部に接続され薄く突き出たn型ZnSe導電層5を舌状と表現したもの』であることが理解できる。」としたことに誤りはないものと認められるが,「舌状」とは,断面非対称形にはみ出している形状を示すものであるとする被告の主張は,本件特許発明の要旨に基づかないものであって,採用することができない。

なお,本件無効審判の請求後,第1次審決前である平成16年1月16日付けで,被告が提出した「上申書(3)」(乙第1号証)に,「『発光素子本体から舌状に接続した・・・導電層上の露出部分に設けられた第1の電極』・・・との記載は・・・●第1の電極が設けられる側の導電層上の露出部分が他の導電層部分よりも断面非対称形にはみ出している・・・●上記第1の電極と発光素子本体との電気的な接続構造が断面非対称形である」(6頁8~18行)との記載があることは,被告主張のとおりであるが,本件特許発明の要旨に基づかないものであることは,本訴における被告の主張と変わるところはない。

ウ 他方,引用例2に,その第1図のように,直径約30μm以下の円板状活性層領域13の直上部のクラッド層14の表面の大部分に電極17を形成し,円板状活性層領域13全体が発光領域となるようにした,ダブルヘテロ積層構造を備える半導体発光ダイオードにおいて,半導体基板に近接する側のクラッド層12をn型とし,その反対側のクラッド層14をp型とする発明が,本件特許発明と対比すべきものとして開示されていることは,上記(2)のとおりであるところ,この発明に係るn型クラッド層12は,基部に見立てた「柱状の主要部」から,当該主要部に接続され,薄く突き出たn型導電層ということができるから,「発光素子本体から舌状に接続した前記n型の第1導電型の導電層」の構成を備えるものということができる(このn型導電層は,断面対称形に左右に薄く突き出ているが,上記のとおり,「舌状」とは,断面非対称形にはみ出している形状を示すものであるとする被告の主張は,採用できない。)。

そうすると,相違点3は,実質的に相違点ということさえできないから,審決が,相違点3に係る容易想到性を認めなかったことは,誤りであるといわざるを得ない。

エ 仮に,被告主張のように,「舌状」とは,断面非対称形にはみ出している形状を示すものであると解したとしても,引用例10,14に「『発光素子本体から舌状に接続した前記第1導電型の導電層』といえるものが記載されており,また基板上にn型層が形成されている点では本件特許発明と共通はする」ことは,審決の認定するところである(20頁3~5行)。そうすると,上記のとおり,引用例2に開示されている,第1図のように,直径約30μm以下の円板状活性層領域13の直上部のクラッド層14の表面の大部分に電極17を形成し,円板状活性層領域13全体が発光領域となるようにした,ダブルヘテロ積層構造を備える半導体発光ダイオードにおいて,半導体基板に近接する側のクラッド層12をn型とし,その反対側のクラッド層14をp型とする発明に,上記引用例10,14に記載された「発光素子本体から舌状に接続した前記第1導電型の導電層」を適用し,相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは,当業者が容易になし得るものというべきである。この点につき,審決は,引用例2記載の発明が,半導体基板に近接する側のクラッド層をp型とし,その反対側のクラッド層をn型とするものであることを前提として,「引用例2においてn,p層の関係を引用例10,14に倣って反転させる必然性がないばかりでなく,上述した引用例2の記載・・・を勘案すると,電気抵抗が高いp層を電流の流路が狭いクラッド層として用いることが容易とはいえず,また電気抵抗を小さくするような大きさ(少なくとも両側に延びた形状)に形成されたクラッド層及び電極を,引用例2の目的に反して,一方向にそれも舌状に狭めるように形成することが容易ともいえない。」と判断するが,その前提自体が誤りであることは上記のとおりである。

オ したがって,審決の相違点2,3についての判断(相違点3に係る部分)は誤りである。

2 結論

以上によれば,取消事由2~5について判断するまでもなく,審決には結論に影響を及ぼすべき誤りがあるから,取り消されるべきである。