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平成18年(行ケ)第10211号審決取消請求事件


主文

1 特許庁が不服2003-13402号事件について平成17年12月14日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文第1項と同旨

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

訴外ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー(以下「ダウ・ケミカル社」という。)は,1993年(平成5年)10月5日(優先権主張:1992年10月29日,米国),発明の名称を「成形可能な反射多層物体」とする国際特許出願(特願平6-511080号,以下「本願」という)をした。

原告は,平成10年11月3日,ダウ・ケミカル社から本願に関して特許を受ける権利の譲渡を受け,同年12月2日,特許出願人名義変更届を特許庁長官に提出して出願人の地位を承継した。

その後,原告は,本願に関して平成12年10月2日付けで手続補正をしたところ,平成14年8月13日付けの拒絶理由通知を受けたので,更に平成15年2月20日付けで手続補正(以下「本件補正」といい,この補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をしたが,同年4月8日付けで拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は,この請求を不服2003-13402号事件として審理した上,平成17年12月14日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(附加期間90日)をし,平成18年1月5日,その謄本を原告に送達した。2 特許請求の範囲(本件補正後の請求項2。以下「本願請求項2」といい,この発明を「本願発明」という)。

「可視スペクトルの実質的な全範囲にわたり実質的に均一な反射外観を呈し, 少なくとも第1および第2の異種高分子物質を含み,物体に入射する可視光の少なくとも40パーセントを反射させるように前記第1高分子物質および第2高分子物質の十分な数の交互層を含む成形可能な高分子多層反射物体で,該物体の個々の層の実質的大部分は,前記高分子物質の繰返し単位の光学的厚さの合計が約190nmを越える範囲内の光学的厚さを有する物体において,該第1高分子物質および第2高分子物質は屈折率が互いに少なくとも約0.03異なり,さらに層が,前記光学的層のもっとも薄い繰返し単位およびもっとも厚い繰返し単位からの一次反射の波長が少なくとも2倍異なるように,光学的層の繰返し単位の厚さの勾配を有することを特徴とする成形可能な高分子多層反射物体」。

3 審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-295804号公報(甲1,以下「刊行物1」という)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という)及び特開昭61-243402号公報(甲2,以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,としたものである。

審決が,上記判断をするに当たり認定した刊行物1発明の内容,本願発明と刊行物1発明との一致点・相違点は,それぞれ次のとおりである。(刊行物1発明)

「屈折率n1を有する第1のポリマー(A)及び屈折率n2を有する第2のポリマー(B)からなる二成分多層反射性ポリマー物体であって,第1のポリマーと第2のポリマーの屈折率は互いに少なくとも0 03異なっており,さらに,第1と第2のポリマーは十分な数の層をなしているとともに物体に入射される入射光の少なくとも30%が反射されることを特徴とする反射性ポリマー物体」。

(一致点)

「少なくとも第1および第2の異種高分子物質を含み,物体に入射する入射光を反射させるように前記第1高分子物質および第2高分子物質の十分な数の交互層を含む成形可能な高分子多層反射物体で,該第1高分子物質および第2高分子物質は屈折率が互いに少なくとも0.03異なることを特徴とする成形可能な高分子多層反射物体」である点。

(相違点1)

本願発明に係る高分子多層反射物体は,可視スペクトルの実質的な全範囲にわたり実質的に均一な反射外観を呈するのに対し,刊行物1発明ではその旨の明示的な記載がない点。

(相違点2)

本願発明に係る高分子多層反射物体は,可視光の少なくとも40パーセントを反射させるのに対し,刊行物1発明は,入射光の少なくとも30パーセントを反射させる点。

(相違点3)

本願発明では,物体の個々の層の大部分は,高分子物質の繰返し単位の光学的厚さの合計が約190nmを越える範囲内の光学的厚さを有し,また,層が,光学的層のもっとも薄い繰返し単位およびもっとも厚い繰返し単位からの一次反射の波長が少なくとも2倍異なるように,光学的層の繰返し単位の厚さの勾配を有するのに対し,刊行物1発明ではその旨の記載がない点。なお,審決書2頁14行に「該物体の個々の層の大部分」,2頁16行から17行にかけて「少なくとも0.03異なり」とあるのは,それぞれ「該物体の個々の層の実質的大部分」,「少なくとも約0.03異なり」の誤記と認める。

第3 原告主張の取消事由の要点

審決は,一致点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),また,相違点1及び3の判断に当たり,刊行物2発明の認定を誤り,容易相当性の評価を誤ったものであって(取消事由2),これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は違法として取り消されるべきである。

1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)

審決は,刊行物1発明が成形可能であることを認定しておらず,また,以下のとおり,本願発明の「成形」と刊行物1発明の「二次成形」とは異なるから,審決書4頁末行,本願発明と刊行物1発明が成形可能な高分子多層反射物体(5頁1行~2行)である点で一致する旨認定した審決には,一致点の認定を誤り,相違点を看過した誤りがある。

本願明細書(甲3~5)の記載によれば,本願発明は,高い延伸比率で延伸することができ,その場合にも実質的に均一な反射特性が維持される上,部分的に高い延伸比を生ずるような複雑な形状に成形することもでき,また,想定される延伸比率に応じて層の設計をすることもできる。これに対して,刊行物1発明では,上記の点を望むことができない。このように,本願発明における「成形可能」とは,刊行物1発明で得られた「二次成形」では達成されていない成型を可能とするとの意味であり,同じ「成形」いう用語が用いられていても,その意味は異なる。

なお,被告は,本願請求項2に記載された「成形可能」という用語について,一義的に明確であり,明細書の記載を参酌すべき特段の理由もない旨主張するが,本願発明にいう「成形可能」という用語と,刊行物1にいう「二次成形(あるいは成形可能)」という用語が同じ意味か否かを確定するため,明細書の記載を参照することは,各発明を正確に理解しようとするものにすぎず,本願請求項2の記載を明細書の記載に基づいて限定解釈するものではないから,最高裁平成3年3月8日判決(民集45巻3号123頁)に反するものではない。

2 取消事由2(相違点1及び3の判断の誤り)

(1) 刊行物2発明の認定の誤り

刊行物2(甲2)には,以下のとおり,層を横切って光学的膜厚について勾配を設けるという構成は示されていないから,刊行物2に「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」(審決書5頁21行~23行)とした審決の認定,及び,刊行物2により,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」(審決書5頁末行~6頁1行)が公知であるとした審決の認定は,いずれも誤りである。

ア 刊行物2発明は,7から10層の光学的膜を,7から10層交互に積層してなる物体について,その層の数をLとすると,層の全数が奇数の場合には空気側から(L+1)/2層までをA群,それより基板に近い側をB群として,また,層の数が偶数の場合には,空気側に近いL/2層をA群,基板側に近いL/2層をB群として,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことを特徴とする半透鏡である。刊行物2には,それぞれの層が一定の割合で徐々に光学的膜厚が厚くなるようにする構成は,何ら示されていない。

刊行物2に第2表から第8表としてまとめられたいずれの実施例を見ても,空気側から基板側に順に第1層,第2層,……第n層とするとき,いずれかの層と層の間で光学的層厚が逆転し,層がより基板に近くなっているにもかかわらず光学的厚さが薄くなっている箇所がある。

このように,刊行物2には,全層につき横断的に(すなわち,積層された層の間を通じて),光学的膜厚について勾配を設ける(すなわち,徐々に一貫して光学的厚さが厚くなる)という構成は示されていない。

イ (ア)被告は,乙1(特開昭56-99307号公報),乙2(特開平4268505号公報),乙3(特表平1-502057号公報)を挙げ, ある波長の光を反射させたい場合に,繰返し単位の光学的厚さをもとに設計しなければならないことは,当業者にとって自明である旨主張するが,乙1ないし3に記載の光反射性多層フィルムにおける連続する相隣接層の屈曲率を異ならせたものを次々と積層したものと,本願発明における繰返し単位とは,同じものではない。

二種類の屈折率の異なるポリマーを用いて光反射性フィルムを構成する場合,光の反射は,屈折率の異なる層の境界で起きるのであるから,各層間で反射を得ようとすれば,使用する二種類のポリマーを交互に配置する形とならざるを得ない。しかし,このことと,これらの層について,隣接する二種類の層の組み合わせを一対として一つの単位とし,全体の層を当該繰返し単位が積層したものととらえることとは,全く異なる技術思想である。

(イ)被告は,刊行物2の第4表に,層を横切って光学的層厚について勾配を設ける構成が記載されていると主張するが,誤りである。

刊行物2には,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に積層する技術思想は開示されているが,隣接する二つの層を一対として一単位ととらえ,その単位の繰り返しにより積層体を構成するという技術思想は,記載も示唆もされていない。このことは,実施例中に層の数が奇数のものが存在し,層の数が全体で奇数となることが当然に予定されていることに端的に示されている。

また,隣接する二つの層を一対として,一つの繰返し単位ととらえ,この単位の繰り返しにより積層体を構成するとの技術思想は周知でなく,ましてや自明でないことは上記(ア)のとおりであるが,刊行物2発明が層の全体の数が奇数となることを予定していることからすれば,刊行物2発明の技術思想と,上記の隣接する二層を繰返し単位とする技術思想とは相容れないものというべきである。

(2) 相違点1の容易想到性判断の誤り

ア 審決は,①刊行物1に,可視光スペクトル全体にわたって高い反射率を有する高分子多層反射体が記載されている旨認定するとともに,②刊行物2に「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」旨認定し,これらの認定を前提として,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,相違点1に係る本願発明の構成に想到することは容易である旨判断した。

しかし審決の上記②の認定が誤りであることは前記(1)のとおりであるから,審決の上記判断は誤りである。

イ 仮に審決の上記ア②の認定に誤りがないとしても,以下のとおり,審決が刊行物2発明について認定した「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせる」ことと,相違点1の判断に際して審決が説示した「可視スペクトルの全域にわたって実質的に均一な反射特性をもたせる」こととは,異なる技術であって,審決の論理には飛躍があり,また,審決は本願発明の顕著な作用効果を看過しているから,審決における相違点1の判断は誤りである。

(ア)上記のとおり,「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせる」ことと,「可視スペクトルの全域にわたって実質的に均一な反射特性をもたせる」こととは,異なる技術であるところ,刊行物2では,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るとともに,真珠光沢の発生を防止し,実質的に均一な反射特性を得るという課題は,何ら意識されていない。審決は,高い反射率についての技術から,これとは異質である均一な反射特性の技術に容易に想到することができるという根拠を何ら示していない。

被告は,刊行物2には,可視域全域にわたって約55%~80%の反射率を有し,分光特性もフラットである旨記載され,刊行物2には実質的に均一な反射特性が開示されている旨主張するが,分光特性がフラットであるということと,実質的に均一な反射特性とは,同一の概念ではなく,被告の主張は誤りである。なお,刊行物1の段落【0008 】に,いかなる条件であれば真珠光沢が発生せず,可視スペクトルの実質的全域にわたって実質的に均一な反射特性を得ることができるかについて,判定式が記載されているので,被告の指摘に係る刊行物2の第4表(第4図Ⅲ)のデータを上記判定式にあてはめれば,真珠光沢が発生しない条件を満たしていないことが理解される。

(イ)本願発明は,刊行物1発明と異なる技術思想を用いたため,可視スペクトルの範囲で高い反射率と実質的に均一な反射を実現しながら,刊行物1発明に比べ,高い加工の自由度があり,延伸率を考慮して層を設計できるという設計上の自由度かあり,完成した製品も格段に厚さが薄い,という顕著な作用効果があるが,審決はこれを看過したものである。

(ウ)上記(ア)のとおり,刊行物2には,「可視スペクトルの全域にわたって実質的に均一な反射特性をもたせる」という技術は何ら開示されておらず,また,上記(イ)のとおり,本願発明には顕著な作用効果があるから,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて相違点1に係る本願発明の構成に想到することが容易であったということはできない。

(3) 相違点3の容易想到性判断の誤り

ア 審決は,①刊行物2から,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知である旨認定するとともに,②可視スペクトルの領域の波長の光線を反射する反射層の光学的厚みが200nmから350nmであることが,技術常識である旨認定し,これらの認定を前提として,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,相違点3に係る本願発明の構成に想到することは容易である旨判断した。

しかし審決の上記①の認定が誤りであることは前記(1)のとおりであるから,審決の上記判断は誤りである。

イ 仮に審決の上記ア①の認定に誤りがないとしても,以下のとおり,刊行物1発明と刊行物2発明に基づいて,相違点3に係る本願発明の構成に想到することは困難であるから審決における相違点3の判断は誤りである。(ア)刊行物1(甲1)には「光学的に薄い層(0.09μm~0.45μm)」を光学的厚さに勾配を設けて重ねただけでは比較的高い反射率を得ることはできても,実質的に均一な反射外観を得ることが困難であるとの技術的知見が記載されており(4頁6欄8行~26行),これが刊行物1発明以前の技術常識であったと考えられる。

そして,刊行物1発明は,真珠光沢の発生を防止し,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得ることを技術上の課題とし,「光学的に極めて薄い層」(0.09μm未満)及び「光学的に厚い層」(0.45μm以上)は,可視波長や赤外波長も含めた広い範囲にわたって実質的に白色の光を反射するものであるという原理に着目して,光学的厚さを有する層の複数のタイプを適切に組み合わせることにより,交互に配置した光学的に薄いポリマー層の比較的高い反射率を利用して,好ましくない真珠光沢色を付与させることなく高反射性のポリマー物体を得ることができるという知見に基づいて,「光学的に薄い層」同士を組み合わせたものに,①「光学的に厚い層」同士を組み合わせたもの,又は,②「光学的に厚い層」と「光学的に極めて薄い層」を組み合わせたものを,組み合わせる構成をとり,高い反射率だけに加え,実質的に均一な反射特性までも備えることに成功したものである。一方,本願発明は,刊行物1発明の核心部分である「光学的に厚い層」同士を組み合わせたものや「光学的に極めて薄い層」と「光学的に厚い層」を組み合わせたものを用いることなく,「光学的に薄い層」の組合せだけで,実質的に均一な反射特性を得るというものである。なお,本願発明の技術思想は,高分子の繰返し単位を光学的厚さに勾配をつけて多数積層するというものであるが,かかる思想は本願発明以前の技術常識に反するものである。

(イ)上記のとおり,刊行物1発明は,「光学的に薄い層」同士を組み合わせたものに,①「光学的に厚い層」同士を組み合わせたもの,又は,②「光学的に厚い層」と「光学的に極めて薄い層」を組み合わせたものを,組み合わせる構成を有するものである。

まず,刊行物1発明のうち「光学的に厚い層」同士を組み合わせたものを用いる態様について検討すると,光学的に薄いものから光学的に厚いものに順次厚くなるように,勾配をもって並べることが不可能というわけではない。しかし,段落【0009】を含む刊行物1(甲1)の記載は「光学的に薄い層」についてのみ勾配を設けることを示唆しており,勾配を設けてよいのは「光学的に薄い層」に限られると理解すべきであって,全層を横断的に光学的厚さの勾配を設ける技術を「光学的に厚い層」に適用することには,阻害的な記載があるというべきである。したがって,刊行物1発明の上記態様に基づいて,本願発明における「繰返し単位の光学的厚さの合計が約190nmを超える範囲内の光学的厚さを有し」,「一次反射の波長が少なくとも2倍異なるように」勾配を設ける構成に想到することが容易であるということはできない。

次に,刊行物1発明のうち「光学的に厚い層」と「光学的に極めて薄い層」を用いる態様について検討すると,刊行物1発明は,「光学的に薄い層」同士を組み合わせたものと,「光学的に厚い層」と「光学的に極めて薄い層」を組み合わせたものとの位置関係について,さまざまな並べ方を許容しているが,これらの層をどのように組み合わせても,光学的に薄いものから光学的に厚いものに順次勾配をもって整然と並ぶことはあり得ない。したがって,刊行物1発明の上記態様に基づいて,本願発明における「繰返し単位の光学的厚さの合計が約190nmを超える範囲内の光学的厚さを有し」,「一次反射の波長が少なくとも2倍異なるように」勾配を設ける構成に想到することはあり得ない。

第4 被告の反論の要点

以下のとおり,審決の認定判断には誤りはない。

1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について

刊行物1発明が「成形可能」なものであることは,刊行物1(甲1)の記載( 請求項1,段落【0001】及び【0021】など)から自明であり,審決がこれを前提として一致点を認定したことに,誤りはない。

本願発明の「成形可能」の意味についての原告主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。本願請求項2に記載された「成形可能」という用語は,一義的に明確であり,明細書の記載を参酌すべき特段の理由もない。

なお「成形」とは,通常「1)形を作ること。形成。2)素材に一定の形付けをする工程。ろくろまたは型を用いて陶磁器の素地を作ること。プラスチック工業などでもいう。」(広辞苑第五版)を意味する。

2 取消事由2(相違点1及び3の判断の誤り)について

(1) 刊行物2発明の認定の誤りについて

ア 「繰返し単位」の「繰返し」とは,「同じこと(もの)を何回もする。反復する。」(広辞苑第五版)という意味であり,「繰返し単位」とは,同じことを反復する単位を意味するものである。

また,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1及び乙1~3には,本願発明における2種類の屈折率の異なるポリマーからなる1組を単位として構成した「繰返し単位」と符合する記載があり,「繰返し単位の光学的厚さ」から反射される波長を求める下記計算式を用いて,反射させたい波長を繰返し単位の光学的厚さをもとに設計することも記載されている。

λm=2/m(N1d1+N2d2) (注:一次反射の時はm=1であるから,本願明細書に記載された「λi=2 (N1d1+N2d2 )(式1)」(甲3の12頁5行)と同じになる)。

したがって,「繰返し単位」の概念,及び「繰返し単位」をもとにした光学的膜厚(光学的厚さ)の設計をすることは,いずれも周知であり,ある波長の光を反射させたい場合に,繰返し単位の光学的厚さをもとに設計すべきことは,当業者には自明である。

イ 上記アの観点から,刊行物2(甲2)の第4表をみれば,これには,高屈折率誘電体層と低屈折率誘電体層の交互層からなる8層構成の半反射鏡の層構成が記載され,繰返し単位が4回(第1層と第2層,第3層と第4層,第5層と第6層,第7層と第8層)繰り返されてなるものであるといえる。そして,上記繰返し単位の光学的膜厚は,第1層と第2層からなる繰返し単位では0.386λ ,第3層と第4層からなる繰返し単位では0.449λ,第5層と第6層からなる繰返し単位では,0.711λ,第7層と第8層からなる繰返し単位では0.869λとなっており,徐々に一貫して光学的厚さが厚くなっており,層を横切って光学的厚さの勾配を設ける構成が記載されているということができる。

刊行物2発明は,繰返し単位の光学的厚さには言及せず,個々の成分について光学的厚さを設定しているが,上記アのとおり,刊行物2発明を含め,周知の多層膜反射体の構成においては,その不可欠の要素として,屈折率の異なる交互層を構成の基礎としているのであるから,当然に,隣接する二つの層を一対として一単位とする繰返し単位の光学的厚さも考慮されるものである。

このように,刊行物2の高屈折率誘電体層と低屈折率誘電体層の交互層の繰り返しも,繰返し単位を一単位とした積層体ということができ,隣接する二つの層を一対として一単位ととらえ,その繰返し単位により積層体を構成するという技術思想が記載されているものというべきである。

なお,原告は,刊行物2における実施例には層の数が奇数のものが存在しており,刊行物2発明では層の数が全体で奇数となることが予定されている旨指摘するが,刊行物2に記載された奇数層積層された交互層のベースに用いられる基板は,事実上屈折率が1.5前後の誘電体層として利用され,結果的に隣接する誘電体層と一単位を構成しているから,原告の指摘は,隣接する二つの層を一対として一単位ととらえることの妨げとなるものではない。付言するに,本願明細書にも,層の数が全体で奇数となる実施例が記載されている。

ウ 以上のとおり,刊行物2には全層を横断的に光学的厚さの勾配を設ける構成が記載されており,審決における刊行物2発明の認定に誤りはない。

(2) 相違点1の容易想到性判断の誤りについて

ア 上記(1)のとおり,審決が,刊行物2に「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」旨認定したことに誤りはないから,この点の誤りを理由とする原告主張は失当である。

イ ①刊行物1発明は可視スペクトルの実質的全域にわたって均一な反射特性を有することを目的とするものであり,刊行物2発明は分光特性がフラットなものを得ることを目的とするものであって,両者は共通の課題を有すること,②刊行物1には,2成分多層反射性ポリマー物体の,ポリマー層の光学的厚さを適切に組み合わせて光学的厚さに変化を持たせる構成が記載されていること,③刊行物2には,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るために,層を横切って光学的厚さの勾配を設ける構成が記載されていることの3点をふまえれば,刊行物1発明と本願発明との構成上の相違点を埋めるものとして,刊行物2発明における,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るために層を横切って光学的厚さの勾配を設ける構成を採用することは,当業者が容易に想到することができたものというべきであり,審決の判断に誤りはない。

ウ 原告は,「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせる」ことと,相違点1の判断に際して審決が説示した「可視スペクトルの全域にわたって実質的に均一な反射特性をもたせる」こととは,異なる技術であると主張するが,刊行物2発明は,可視波長全域にわたって約55%~80%の反射率を有し,かつその分光特性もフラットである,高屈折率誘電体層と低屈折率誘電体層の交互層の繰返し単位からなる半透鏡であって,実施例の反射特性を記載した第2図,第4図,第6図,第8図を参照すれば,可視域(400nm~700nm)全域にわたって均一な反射率(反射特性)を得る,というものであることは明らかである。

エ 原告は,本願発明の作用効果として,加工の自由度,設計の自由度,製品の物理的厚さの薄さの3点を主張するが,製品の物理的厚さの薄さは,刊行物1発明及び刊行物2発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別顕著な作用効果とはいえないし,加工の自由度及び設計の自由度は,そもそも特許請求の範囲の記載に基づかないものである上,技術的観点からも格別顕著な作用効果ということはできない。

(3) 相違点3の容易想到性判断の誤りについて

ア 前記(1)のとおり,審決が,刊行物2に基づいて「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知である旨認定したことに誤りはないから,この点の誤りを理由とする原告主張は失当である。

イ 刊行物1発明に,刊行物2に記載されている技術思想である,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るために,全層を横断的に光学的厚さの勾配を設ける構成を採用することは,当業者が容易に想到することができたものである。そして,「繰返し単位の光学的厚さの合計が,少なくとも190nm以上で,その一次反射の波長が少なくとも2倍となるような範囲で勾配を設けた」という相違点3に係る本願発明の構成は,「可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るため」に当然に必要となる条件であるから,本願発明の高分子多層反射物体を製造するにあたり,必要な設計条件を言い換えたものにすぎないから,当該構成に当業者が容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。

当裁判所の判断

1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について

原告は,審決が刊行物1発明が成形可能であることを認定しておらず,また,本願発明の「成形」と刊行物1発明の「二次成形」とは異なるから,本願発明と刊行物1発明が「成形可能な高分子多層反射物体」である点で一致する旨認定した審決には,一致点の認定を誤り,相違点を看過した誤りがある旨主張する。

(1) 本願発明について

ア 本願請求項2の記載は前記第2,2のとおりであって,これには「成形可能な高分子多層反射物体」との文言があるが,この文言以外に,本願発明における「成形可能」との構成について規定する記載は見当たらない。

イ 本願明細書(甲3~5)をみても,請求項2における「成形可能」との語について,その語が有する通常ないし一般的な意味ではなく,特別の意味を有すること(例えば,原告が主張するように,高い延伸比率で延伸すること)を明らかにし,その旨定義するような記載は,見当たらない。

むしろ,本願明細書には,「熱成形操作中に典型的に遭遇する延伸条件下で,このような均一反射率を保つことができる成形可能な多層高分子物体に対する要望が依然として存在する。」(甲3の5頁15行~18行,甲5の3頁10行),「物体は,同時押出法によって,初めに,シートに成形し,さらに二次成形することができる。該二次成形操作は,熱成形,真空成形,または圧力成形を含むことができる。」(甲3の10頁6行~8行),「別の目的は,実質的に均一な反射外観に影響を及ぼさずに熱成形し,絞ることができる反射高分子物体を提供することにある。」(甲3の10頁21行~22行),「該全高分子物体は,また,実質的に均一な反射外観に影響を及ぼさずに,熱成形し,延伸加工して,多くの有用な物品とすることもできる。」(甲3,11頁19行~21行,甲5の3頁14行)などの記載があり,「成形」という語を,二次成形のみならず,一次成形を含む概念として用いていることが認められる。

したがって,本願明細書の記載に照らしても,本願請求項2における「成形可能」という語が,通常ないし一般的な意味とは異なる意味で用いられているということはできない。

(2) 刊行物1発明について

ア 刊行物1(甲1)には,図面とともに,次の記載がある。

(ア) 「【0001 】本発明は,光を反射し,且つ銀白色もしくは色のついた(すなわち銅色や金色等の)メタリック調外観,又は非従来型の色のついた(すなわち青色や緑色等の)外観を有するよう製造することのできる,光学的厚さを有する複数層のタイプを含んだ多層ポリマー物体,並びにミラー,反射器,レンズ,及び偏光子として使用しうる,前記多層ポリマー物体から作製された物品に関する」。

(イ)「【0007 】……本発明の1つの態様によれば,少なくとも第1と第2の異種ポリマー物質を含み,前記第1と第2のポリマー物質の屈折率が互いに少なくとも約0.03異なるような反射性ポリマー物体が提供される。本ポリマー物体は,本ポリマー物体に当たる入射光の少なくとも30%が反射されるよう,前記第1と第2のポリマー物質の充分な数の層を含んでいなければならない。本明細書で使用している“光”とは,可視光線だけでなく,赤外スペクトル領域と紫外スペクトル領域の両方における電磁放射線も包含するものとする。“物体に当たる入射光の少なくとも30%”とは,ごくわずかな吸収しか起こらない波長において反射された光を意味する」。

(ウ)「【0011 】アルフレーJr.らによって開示されているような光学的に薄いポリマー層を交互に配置すると,構造的干渉によりある特定の波長にて高いパーセントの光を反射する。層を横切って光学的厚さの勾配を設けることにより光学的に薄い範囲(すなわち0.09~0.45μm)に関して層厚さを変えることによって,可視スペクトルの広い範囲にわたって比較的高い反射率を有する,銀白色で真珠光沢の反射性物体を得ることができる。しかしながら,このような多層物体においては,層厚さの変化の影響を受けやすいこと,及び該物体に当たる入射光の角度に依存することから,不均一な真珠光沢の外観を有するのが普通である。光学的に極めて薄い層(すなわち0.09μm未満)及び光学的に厚い層(すなわち0.45μmより大きい)は,可視波長や赤外波長も含めた広いスペクトルにわたって実質的に白色の光を反射する。光学的に極めて薄いかあるいは光学的に厚いポリマー層を交互に配置して得られる多層物体は,視認しうる真珠光沢をもたない銀白色のメタリック調外観を有する」。

(エ)「【0012 】光学的厚さを有する層の複数のタイプを適切に組み合わせることにより,交互に配置した光学的に薄いポリマー層の比較的高い反射率を利用して,好ましくない真珠光沢色を付与させることなく高反射性のポリマー物体を得ることができる,ということを発明者らは見出した。すなわち,ポリマー物体における光学的に薄い層の配置やパーセントを調節することにより,ポリマー物体の反射率を増大させることができ,しかも視認しうる真珠光沢色は実質的に存在しない,ということを発明者らは見出した。ポリマー物体の反射能に対する異なるタイプの層からの寄与は,ポリマー物体における層の位置により変わる。異なる層タイプを組み合わせて,視認しうる真珠光沢を実質的にもたない多層ポリマー物体を得ることのできる方法は,本質的には限りなくある。しかしながら,製造しやすさや反射率の増大等の観点から,ある特定の組み合わせが好ましい。1つの好ましい実施態様においては,0.09~0.45μmの範囲の光学的厚さを有する層の部分が,ポリマー物体の2つの外表面の一方の外表面に配置され,そして0.09μm以下もしくは0.45μm以上の光学的厚さを有する層の部分が,他方の外表面に配置される。複数の層タイプを一緒に積層してもよく,また光学的に薄い層を構成しているポリマーは,光学的に厚いかあるいは光学的に厚い/非常に薄い層を構成しているポリマーと異なっていてもよい」

(オ)「【0026 】シート10の形態の典型的な二成分多層反射性ポリマー物体が図3に概略的に示されている。ポリマー物体10は,屈折率n1を有する第1のポリマー(A)12,及び屈折率n2を有する第2の第2のポリマー(B)14を含む。図2は本発明の1つの形態を示しており,このとき第1のポリマーAの全ての層が0.45マイクロメータ-以上の光学的厚さを有し,そして第2のポリマーBの全ての層が0.09マイクロメーター以下の光学的厚さを有している。図4は,2つの主要な外表面上に第3のポリマー(C)の保護スキン層16を含んだ形の多層反射性ポリマー物体を示している。光学的に極めて薄い層又は光学的に厚い層からなる反射性ポリマー物体の反射率は,屈折率ミスマッチとポリマー物体における層の数によって変わるので,これらの物体の反射率を増大させるには,さらなる層を追加するか,あるいは屈折率の大きく異なるポリマーを使用しなければならない。従って,70~85%,又はそれ以上の高い反射能を有する反射性ポリマー物体は,極めて特定の条件下でのみ得られる。本発明は,0.09~0.45μmの光学的厚さを有する層を含んだ反射性物体を提供するので,光学的に薄い層からの構造的光学干渉が,ポリマー物体の全体としての反射率を高める。

(カ)「【0027 】さらに,反射性ポリマー物体の全部の層のうちの殆どが0.09~0.45μmの範囲内の光学的厚さの勾配を有するという条件にて,これらの層が0.09~0.45μmの光学的厚さを有する薄い層を含んでもよい,ということを発明者らは見出した。しかしながら,たとえ薄い層が0.09~0.45μmの範囲の層厚さの勾配をもたないとしても,光学的に厚い層,又は光学的に厚い層/極めて薄い層組み合わせ体からの反射性寄与が,光学的に薄い層からの反射性寄与に比べて充分に大きければ,真珠光沢のない所望の反射性外観を達成することができる。個々の層タイプからの全体としての反射率寄与は,観察者に対するポリマー物体における層の配置状況によりある程度は変わる。図5に示すように,光学的に薄い層を観察者に最も近くなるよう配置し,一方,光学的に厚い層,又は光学的に厚い層/極めて薄い層組み合わせ体は観察者から離れたほうの外表面に配置してもよい。光学的に薄い層を透過した光の補色が,光学的に厚い層,又は光学的に厚い層/極めて薄い層組み合わせ体によって観察者に向かって反射され,従って真珠光沢のない色が観察者によって視認される。これとは別に,光学的に厚い層,又は光学的に厚い層/極めて薄い層組み合わせ体を観察者に最も近い外表面に配置し,一方,光学的に薄い層を観察者から離れたほうの外表面に配置してもよい。光学的に厚い層,又は光学的に厚い層/極めて薄い層組み合わせ体が,光学的に薄い層に達する光の量を大幅に減少させ,これによって観察者に視認される真珠光沢効果が減少する。」

(キ)「【0034 】次いでこの多層流れが,層流が保持されるように組み立てられた押出ダイ中に通される。このような押出ダイについては,米国特許第3,557,265号に説明されている。こうして得られた生成物を押し出して多層物体を形成させる。このとき各層は,一般には隣接層の主要な表面に対して平行となっている。押出ダイの配置構成はいろいろ変えることができ,各層の厚さや寸法を減少させるようなものであってもよい。機械的配向セクションから供給された層厚さの減少の正確な程度,ダイの形状,及び押出後における物体の機械加工の量などはいずれも,最終的に得られる物体における個々の層の厚さに影響するファクターである。本発明に実施により得られる反射性ポリマー物体は,広範囲の有用な用途に使用できる可能性がある。例えば,本発明の反射性ポリマー物体は,凹面状,凸面状,放物線状,ハーフシルバー状等のミラーに二次成形することができる。適切な軟質ポリマーやゴムポリマー(エラストマー)が使用されていれば,ポリマー物体を曲げたり,あるいは回復可能な形で種々の形状に伸ばしたりすることができる。ミラー状の外観は,ポリマー物体の一方の側に黒色層又は他の光吸収性の層を同時押出することによって達成することができる。これとは別に,最終的に得られるポリマー物体の一方の側を有色のペイントもしくは顔料で被覆して,高反射性のミラー状物体を得ることもできる。このようなミラーは,ガラスミラーが受けるような破損を受けやすい」。

イ 上記ア(ア)ないし(キ)の記載によれば,刊行物1には,「少なくとも第1と第2の異種ポリマー物質を含み,前記第1と第2のポリマー物質の屈折率が互いに少なくとも約0.03異なるような反射性ポリマー物体であって,0.09~0.45μmの範囲の光学的厚さの勾配を有する多数の層がポリマー物体の2つの外表面の一方の外表面に配置され,0.09μm以下もしくは0.45μm以上の光学的厚さを有する層の部分が,他方の外表面に配置され,入射される入射光の少なくとも30%が反射される,凹面状,凸面状,放物線状,ハーフシルバー状等のミラーに二次成形することができる反射性ポリマー」が記載されているということができる。

(3) まとめ

前記(1)のとおり,本願発明の「成形可能」は,その文言の通常ないし一般的な意味を有するものと解されるところ,前記(2)のとおり,刊行物1発明は「二次成形することができる」ものであって,「成形可能」なものにほかならないから,審決が一致点として「成形可能な高分子多層反射物体」である点を認定したことに誤りはなく,相違点の看過はない。

原告主張の取消事由1は,理由がない。

2 取消事由2(相違点1及び3の判断の誤り)について

(1) 刊行物2発明の認定の誤りについて

原告は,刊行物2には,層を横切って光学的膜厚について勾配を設けるという構成は示されていないから,刊行物2に「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」とした審決の認定,及び,刊行物2により,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知であるとした審決の認定は,いずれも誤りである旨主張する。

ア 刊行物2(甲2)には,図面と共に,次の記載がある。

(ア) 「可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に積層してなる半透鏡において,全層数Lが7~10層からなるとともに,空気側から基板側へ順に第1層,第2層・・・・としたときに,全層数Lが偶数の場合は空気側から第L/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,全層数Lが奇数の場合は空気側から第(L+1)/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことを特徴とする半透鏡。」(1頁左下欄5行~18行,特許請求の範囲)

(イ)「本発明は,入射光を透過光と反射光とに分割するための半透鏡に関し,更に詳しくは,一眼レフレックスカメラの主ミラーに適した半透鏡に関する。」(1頁右下欄1行~4行)

(ウ)「たとえば,特開昭53-110541号公報には第1表に示される構成の半透鏡が開示されている。

第1表(表省略)

しかしながら,このような構成では,この分光反射率特性を示す第10図からも明らかなように,可視域全域においてほぼフラットな分光特性を得られるものの,約50%の反射率しか得られず,一眼レフレツクスカメラの主ミラーには適しない。」(2頁左上欄末行~右上欄下から3行)

(エ)「本発明の目的は,上述のごとき欠点が生じることがなく,一眼レフレックスカメラの主ミラーに適した半透鏡を提供することにある」(2頁右上欄末行~左下欄2行)

(オ)「上記目的を達成するために,まず,本発明者たちは,一眼レフレックスカメラの主ミラーとして用いられる半透鏡としては,可視域全域にわたって約55~80%程度の反射率を有することが良いことを発見した。これは,反射率が55%以下ではファインダ像が暗すぎるし,80%以上になると受光素子への入射光量が少なくなりすぎてしまうからである。この発見に基づいて,本発明者たちは,可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に積層してなる半透鏡において,全層数Lが7~10層からなるとともに,空気側から基板側へ順に第1層,第2層・・・・としたときに,全層数Lが偶数の場合は空気側から第L/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,全層数Lが奇数の場合は空気側から第(L+1)/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことを特徴とする半透鏡が,上記可視域全域にわたって約55%~80%の反射率を有し,かつその分光特性もフラットであることを見出だした。」(2頁左下欄4行~右下欄6行)

(カ)「従って,本発明の要旨は,可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に積層してなる半透鏡において,全層数Lが7~10層からなるとともに,空気側から基板側へ順に第1層,第2層・・・・としたときに全層数Lが偶数の場合は空気側から第L/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,全層数Lが奇数の場合は空気側から第(L+1)/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことにある。すなわち,本発明は空気側の層を薄くして基板側の層を厚くしたことを特徴とするものであり,数学的な表現を用いれば,空気側から基板側へ順に第1層,第i番目の層の光学,第2層・・・・とした場合に的膜厚をNiとすると,max[N1 ,N2 ・・,Nk ]<min[Nk+1 ,Nk+2 ,・・NL ]但し,k=L/2(Lが偶数のどき)k=(L+1)/2 (Lが奇数のとき)となる。」(2頁右下欄7行~3頁左上欄7行)

(キ)「実施例1第1図は本発明の実施例1の構成を示す断面図である。

同図において,(G)は基板,(Air )は空気層を示し,半透鏡部(H)は空気側から基板側へ順に,第1層(1),第2層(2),第3層(3), 第4層(4) ,第5層(5) ,第6層(6)および第7層(7)の7層構成からなり,第1層(1)~第4層(4)がA群(A),第5層(5)~ 第7層(7)がB群(B)である。そして,第1,3,5,7層は,基板(G)よりも屈折率の高い誘電体からなる高屈折率誘電体層,第2,4,6層は基板(G)よりも屈折率の低い誘電体からなる低屈折率誘電体層である。各層の屈折率および光学的膜厚を第2表に示す。

第2表(表省略)

ここで,設計波長λは,550nmであり,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例において,高屈折率誘電体層にはZrO2もしくはZrO2 とTiO2との混合物が適用され低屈折率誘電体層にはMgF が適用される。そして,基板(G)の上に,高屈折率誘電体層と低屈折率誘電体層とを交互に積層することによって製造される本実施例の分光反射率特性を第2図に(I)で示す。第2図から明らかなように,本実施例によれば,400nm~700nmの可視域全域において反射率がフラットでかつ平均反射率60%以上を得ることができる。」(3頁左上欄10行~左下欄5行)

(ク)「実施例2本実施例は,実施例1の7層構成において,低屈折率誘電体層を屈折率1.47のSiO2にし,高屈折率誘電体層を屈折率2.3のTi02 にして,それに応じて各層の光学的膜厚を調整したものである。実施例2の構成を第3表に示す。

第3表(表省略)

ここで,設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第2図に線(Ⅱ)で示す。第2図から明らかなように,本実施例においても分光特性がフラットで,約60%の平均反射率を得ることができる。」(3頁左下欄6行~右下欄7行)

(ケ)「実施例3本実施例は,第3図の断面図に示すように,空気側から基板側へ順に,第1層(1),第2層(2),第3層(3),第4層(4), 第5層(5),第6層(6),第7層(7)および第8層(8)の8層構成としたものである。もっとも空気側の第1層(1)は高屈折率誘電体からなる。本実施例において,高屈折率誘電体層(1)(3)(5)(7)はそれぞれTiO2 からなり,低屈折率誘電体層(2)(4)(6)(8)はそれぞれSi02 からなる。本実施例の構成を第4表に示す。

第4表(表省略)

ここで,設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第4図に線(Ⅲ)で示す。第4図から明らかなように,本実施例においても分光特性がフラットで,約60%の平均反射率を得ることができる。」(3頁右下欄8行~4頁左上欄15行)

(コ)「実施例4本実施例は,実施例3の低屈折率誘電体層と高屈折率誘電体層とを逆転させ,それに応じて各層の光学的膜厚を調整したものである。実施例4の構成を第5表に示す。

第5表(表省略)

ここで,設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第4図に線(Ⅳ)で示す,第4図から明らかなように,本実施例においても分光特性がフラットで,約60%の平均反射率を得ることができる。」(4頁左上欄16行~右上欄17行)

(サ)「実施例5本実施例は,第5図図示のように,空気側から順に,第1層(1),第2層(2),第3層(3),第4層(4),第5層(5),第6層(6),第7層(7),第8層(8)および第9層(9)の9層構。本実施例において, (1)(3)(5)(7)成の例である高屈折率誘電体層(9)はZrO2 からなり,低屈折率誘電体層(2)(4)(6)(8)はMgF2 からなる。本実施例の具体的構成を第6表に示す。

第6表(表省略)

ここで設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第6図に線(V)で示す。第6図から明らかなように,本実施例においても分光特性がフラットで,約65%の平均反射率を得ることができる。尚,本実施例において,高屈折率誘電体としてZrO2 の代わりにZrO2 とTiO2 との混合物を用いても良い。」(4頁右上欄18行~右下欄7行)

(シ)「実施例6本実施例は,実施例5の低屈折率誘電体層と高屈折率誘電体層とを逆転させ,それに応じて各層の光学的膜厚を調整したものである。実施例6の構成を第7表に示す。

第7表(表省略)

ここで,設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第6図に線(Vl)で示す。第6図から明らかなように,本実施例においては分光特性がフラットで,約60%の平均反射率を得ることができる。尚,本実施例において,高屈折率誘電体層にはZrO2もしくはZrO2 とTiO2 との混合物が用いられ,低屈折率誘電体層にはMgF が用いられる2 。」(4頁右下欄8行~5頁左上欄13行)

(ス)「実施例7本実施例は,第7図図示のように,空気側から順に,第1層(1),第2層(2),第3層(3),第4層(4),第5層(5),第6層(6),第7層(7),第8層(8),第9層(9)および第10層(10)の10層構成の例である。本実施例において,高屈折率誘電体層(1)(3)(5)(7)(9)はCeO2 もしくはZrO2 とTiO2 との混合物からなり,低屈折率誘電体層(2)(4)(6)(8)10)はMgF2 からなる。本実施例の具体的構成を第8表に示す。

第8表

ここで,設計波長λは550nm,半透鏡部(H)への入射角は45°である。本実施例の分光反射率特性を第8図に線(Ⅶ)で示す。第8図から明らかなように,本実施例においては分光特性がフラットで,約70%の平均反射率を得ることができる。尚,ここで高屈折率誘電体層には,TiO2,ZrO2 ,CeO2,ZnSもしくはこれらの混合物が適用可能であり,低屈折率誘電体層にはMgF2 ,SiO2 などが適用可能である。」(5頁左上欄14行~左下欄6行)

(セ)「発明の効果以上詳述したように,本発明は,可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に積層してなる半透鏡において,全層数Lが7~10層からなるとともに,空気側から基板側へ順に第1層,第2層・・・・としたときに,全層数Lが偶数の場合は空気側から第L/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,全層数Lが奇数の場合は空気側から第(L+1 )/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことを特徴とするものであり,このように構成することによって,分光反射率特性が可視域全域でほぼフラットで,かつ約55%~80%の平均反射率を得ることができ,一眼レフレックスカメラの主ミラーとして適した半透鏡を得ることができる。」(5頁左下欄7行~右下欄4行)

イ 上記ア(ア)ないし(カ)及び(セ)の記載によれば,刊行物2発明は,可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に多層に積層した半透鏡において,可視域全域においてほぼフラットな分光特性を得ることができるものの,その反射率は約50%であって,一眼レフレックスカメラの主ミラーに用いるには適さないという課題を解決するために,可視波長域で透明な高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とを基板上に交互に積層してなる半透鏡において,全層数Lが7~10層からなるとともに,空気側から基板側へ順に第1層,第2層,……としたときに,全層数Lが偶数の場合は空気側から第L/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,全層数Lが奇数の場合は空気側から第(L+1)/2層までをA群,それより基板側の層をB群と分け,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さくする構成を用いることにより,約55%~80%程度の反射率を有し,分光特性もフラットなものを得ることができた,とするものである。

また,上記ア(キ)ないし(ス)の記載によれば,刊行物2における実施例1ないし7には,上記表2ないし8に記載の構成の半透鏡が記載されているものと認められる。

そうすると,刊行物2には,積層する全層数Lを空気側(A群)と基板側(B群)の2つの群に分けて,A群のうちで光学的膜厚が最大の層の光学的膜厚が,B群のうちで光学的膜厚が最小の層の光学的膜厚よりも小さいことを特徴とする構成により,反射率を55~80%程度で分光特性をフラットとするものを得ることができることが開示されているということができるにとどまり,積層する誘電体の層の光学的厚みに勾配を持たせることにより,可視光全域にわたって高い反射特性を持たせることが記載されているということはできない。

ウ 被告は,乙1ないし3を提示して,光反射性多層フィルムとは連続する相隣接層の屈折率を異ならせたものを多数回繰り返したものであって,各層の界面から反射した光波を同位相で重畳させることにより高反射率を得るものであり,ある波長の光を反射させたい場合には繰返し単位の光学的厚さをもとに設計しなければならないことは,当業者にとって自明のことであるから,刊行物2に接した当業者は,隣接する二つの層を一対として一単位ととらえ,その繰返し単位により積層体を構成するという技術思想が記載されていることを理解する旨主張する。

確かに,刊行物2における実施例3,4,7をみれば,隣接する二つの層一対として一単位ととらえた場合に,各単位の光学的厚さ(二つの層の合計)が空気側から基板側に向けて順次増加していることが認められるものの,刊行物2には,隣接する高屈折率の層と低屈折率の層を一対として一単位の光学的層ととらえることについては何らの記載もなく,また,実施例1,2,5及び6において積層された層数が奇数であることに照らせば,刊行物2において,隣接する高屈折率の層と低屈折率の層を一対として一単位の光学的層と取り扱われていないことは明らかである。そして,刊行物2には,各実施例の各誘電体層の光学的膜厚がどのようにして定められたかを説明する記載はなく光学的膜厚が設計波長λを用いて示され, この設計波長λが550nmと記載されているから,刊行物2に記載の半透鏡の各誘電体層の層厚が反射させたい波長に基づいて定められているものと解することもできない。また,上記のとおり,刊行物2には,層数が奇数の実施例も存在するところ,刊行物2に記載の層数が偶数である実施例3,4,7についてのみ,当業者が隣接する屈折率の異なる2つの誘電体の膜厚を一対として一単位の光学的層と認識するということもできない。

なお,被告は,刊行物2の実施例のうち層数が奇数のものも,基板を一つの誘電体層とみなせば,基板と隣接する誘電体層とにより,屈折率の異なる2つの誘電体の一単位を形成することになるから,刊行物2の実施例に層数が奇数のものが開示されている事実は,隣接する屈折率の異なる誘電体の二つの層を一対として一単位ととらえることの妨げとなるものではない旨主張する。しかしながら,刊行物2には,基板を一つの誘電体層とみなすことは記載されておらず,また,誘電体層の厚みを表示した表1ないし8にも基板の光学的膜厚は記載されていない上,表2ないし8においては,半透鏡部を示す「H」は空気と基板を除外して示されているから,刊行物2に記載の実施例のうち層数が奇数のものについて,基板を一つの誘電体層としてとらえることには無理があるといわざるを得ない。また,基板を一つの誘電体層とみなした場合には,層数が偶数の実施例においては,基板と対になる隣接誘電体層を欠くことになる。被告の上記主張は,採用することができない。

エ 以上によれば,審決が,刊行物2に「可視光全体にわたって高い反射特性をもたせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」と認定し,また,刊行物2により,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知であると認定したことは,本願発明を知った上でその内容を刊行物2の記載上にあえて求めようとする余り,認定の誤りをおかしたものといわざるを得ない。

(2) 相違点1,3の容易想到性判断の誤りについて

ア 審決は,相違点1につき,引用例1に「可視光スペクトル全体にわたって高い反射率を有する高分子多層反射体」が記載されており,刊行物2に「可視光全域にわたって高い反射性を持たせるために,高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ,各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜」が開示されていることを理由として,「層を横切って光学的厚さの勾配を設けることにより,可視スペクトルの全域にわたって実質的に均一な反射特性をもたせることは,刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである」と判断したものであるが,刊行物2に「高屈折率誘電体と低屈折率誘電体を交互に,かつ各層の光学的厚みに勾配をもたせて積層した多層膜が開示されている」との審決の認定が誤りであることは,上記(1)のとおりであるから,審決における相違点1の判断は,刊行物2発明についての誤った認定を前提とするものであって,誤りというほかない。

また,審決は,相違点3につき,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知であることを前提として,「相違点3に係る本願発明のように,『物体の個々の層の大部分は,高分子物質の繰返し単位の光学的厚さの合計が約190nmを越える範囲内の光学的厚さを有する』ように規定すること,及び『光学的層のもっとも薄い繰返し単位およびもっとも厚い繰返し単位からの一次反射の波長が少なくとも2倍異なるように,光学的層の繰返し単位の厚さの勾配とする』ことは,当業者が刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基づいて容易に想到することができたものである」と判断したものであるが,審決が,刊行物2に基づいて,「可視光全体にわたる反射特性を持たせるために,屈折率の異なる2層を積層するとともに,光学的層に厚さ勾配をもたせること」が公知であると認定したことが誤りであることも,上記(1)のとおりであるから,審決における相違点3の判断も刊行物2発明についての誤った認定を前提とするものであって, 誤りというほかない。

イ なお,被告は,①刊行物1発明は可視スペクトルの実質的全域にわたって均一な反射特性を有することを目的とするものであり,刊行物2発明は分光特性がフラットなものを得ることを目的とするものであって,両者は共通の課題を有すること,②刊行物1には,2成分多層反射性ポリマー物体の,ポリマー層の光学的厚さを適切に組み合わせて光学的厚さに変化を持たせる構成が記載されていること,③刊行物2には,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るために,層を横切って光学的厚さの勾配を設ける構成が記載されていることをふまえれば,刊行物1発明と本願発明との構成上の相違を埋めるものとして,刊行物2に記載の,可視スペクトルの全領域で実質的に均一な反射特性を得るために,層を横切って光学的厚さの勾配を設ける構成を採用することは,当業者が容易に想到することができたものであると主張しているから,刊行物2に実施例3,4又は7として記載された層数が偶数である構成を,刊行物1発明に適用することにより,本願発明の構成を得ることが容易であると主張しているとも解されるので,念のため,この点について検討する。

審決の認定した刊行物1発明の内容は,前記第2,3のとおりであるところ,刊行物2に記載された誘電体は,いずれの実施例も,高屈折率の誘電体層にはZrO2,TiO2,CeO2 又はこれらの混合物等が,低屈折率の誘電体層にはMgF2 又はSiO2 が ,それぞれ用いられており,例えば,実施例2について,「実施例1の7層構成において,低屈折率誘電体層を屈折率1.47のSiO にし,高屈折率誘電体層を屈折率2.3のTi02 にして,それに応じて各層の光学的膜厚を調整したものである(前記2),(1)ア(キ)参照と説明されていることに照らせば刊行物2発明の層厚は,用いる誘電体層の材質(屈折率)に応じて調整されるものであると理解されるから,高分子(ポリマー)を用いて構成される刊行物1発明に対して,刊行物2に実施例として記載されたものの構成を,直ちに適用できるということはできない。

したがって,刊行物1発明に対して刊行物2に実施例3,4又は7として記載されたものの構成を適用して,本願発明の構成とすることが容易であると認めることもできない。

3 結論

以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がないが,原告主張の取消事由2のうち,刊行物2発明についての審決の認定に誤りがあり,これを前提とする相違点1,3についての審決の判断にも誤りがあることをいう点は,理由がある。そして,審決の上記誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから原告が取消事由2として主張するその余の点について検討するまでもなく, 審決は違法として取消しを免れない。

したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。