平成18年(行ケ)第10342号審決取消請求事件
主文
特許庁が無効2005-80246号事件について平成18年6月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理
第1 原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
本件は,被告の有する「ゴルフクラブ用ヘッド」に係る本件実用新案登録(後記)について,原告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,同審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件実用新案登録(甲5)
実用新案権者:ダイワ精工株式会社
考案の名称:ゴルフクラブ用ヘッド
出願日:平成元年12月26日(実願平1-149965号)
登録日:平成9年7月18日
実用新案登録番号:第2148765号
(2) 本件手続
審判請求日:平成17年8月12日(無効2005-80246号)
訂正請求日:平成17年11月8日(甲6。以下「本件訂正」という)
審決日:平成18年6月12日
審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない」
審決謄本送達日:平成18年6月22日(原告に対し)
2 本件考案の要旨
審決が対象とした考案は,本件訂正後の請求項1に記載された考案(以下「本件考案」という。なお,請求項の数は1個である)であり,その要旨は,以下のとおりである。
「【請求項1】少なくともフェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドにおいて,前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなることを特徴とするゴルフクラブ用ヘッド。」
3 審決の理由の要点
審決は,本件訂正を認めた上,本件考案は,原告が提出した下記刊行物に記載された考案ではなく,かつ,これらの刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものでもないから,本件考案に係る本件実用新案登録は,無効とすることはできないとした(下記刊行物の証拠番号は,本訴と共通である。)。
甲第1号証特公昭63-62303号公報
甲第2号証実願昭58-197915号(実開昭60-106652号)のマイクロフィルム
審決の理由中,甲第1号証記載の考案(以下,甲第1号証を「甲1」といい,これに記載された考案を「甲1考案」という)及び甲第2号証記載の考案(以下,甲第2号証を「甲2」といい,これに記載された考案を「甲2考案」という)の認定,本件考案と甲1考案との対比及び判断(以下「審決判断1」という)並びに本件考案と甲2考案との対比及び判断(以下「審決判断2」という)に係る部分は,それぞれ以下のとおりである(本判決で使用する略称に改めた部分がある。)。
(1) 甲1考案の認定
「甲1には『鍔部2をアルミニウム等の軽金属で形成し,ホーゼル部を前記軽金属よりも比重の大きい鋳造用非鉄金属で形成してなるゴルフクラブヘッドにおいて,前記鍔部2と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に,凹部を形成し,この凹部に,鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブヘッド。』の考案・・・が記載されていると認められる」。
(2) 甲2考案の認定
「甲2には『前部外殻層7aをアルミナなどのファインセラミックで形成し,ホーゼル部2を軟鉄などの金属素材で形成してなるゴルフクラブのヘッドにおいて,前記前部外殻層7aと前記ホーゼル部2のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部2の前部外殻層7aとの間に,凹部を形成し,この凹部に,前部外殻層7aとホーゼル部2との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブのヘッド』の考案・・・が記載されていると認められる」。
(3) 審決判断1
ア 本件考案と甲1考案との対比
「本件考案と甲1考案とを対比すると,甲1考案の『鍔部2』『ゴルフクラブヘッド』がそれぞれ本件考案の『フェース部』,『ゴルフクラブ用ヘッド』に相当するから,両者は『少なくともフェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドにおいて,前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブ用ヘッド』である点で一致し,次の点で相違する。
(相違点)
本件考案が『前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる』のに対し,甲1考案はゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」。
イ 相違点についての判断
「確かに,甲1には,フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドが記載されている。しかしながら,甲1考案は,ゴルフクラブヘッドにおいて『従来・・・上記軽金属を鋳ぐるみ材として鋳型内に置き,溶融した鋳造材を鋳型へ注入すると,鋳ぐるみ材とそれを包む鋳造材との溶融温度の差が大きく,鋳造材の高温の湯により,鋳ぐるみ材が溶けてしまう・・・本発明は,このような鋳ぐるみ材の溶けることを防止して,軽金属を鋳鉄・鋳鋼等の鋳造材』,目的とし, 『鋳ぐるみ材をにて内抱する方法を提供する・・・ことをその解決手段として, 鋳型の内部の所定位置に設置すると共に,該鋳ぐるみ材の表面部の軽金属が,鋳造材の注入時に部分的に溶融するのをコントロールし鋳巣の発生を防止する冷し金を,鋳造材が湯道を経て最初に衝突する鋳ぐるみ材の部位,及び/又は,鋳ぐるみ材の肉薄の部分に,配置』・・・したものであり,その効果をみても,
『①溶融温度の低い軽金属から成る鋳ぐるみ材に溶融温度の高い鋳造材6を注入した時の鋳ぐるみ材の溶融流失を防止するために,針状(短繊維状)の多数のウイスカーが極めて有効であり,この針状のウイスカーを溶融温度の低い軽金属側へ混入する思想は従来全く存在せず,本発明は独自の着眼に基づくものである。
② 即ち,溶融温度差の大きいアルミ・アルミニウム合金等の軽金属を内抱する鋳鉄又は鋳鋼製のゴルフクラブヘツドが,本発明によつて初めて実現した。
③ 冷し金を,鋳造材が湯道を経て最初に衝突する鋳ぐるみ材の部位,及び/又は,鋳ぐるみ材の肉薄部分に,配置したことと,軽金属中にウイスカーを含有させたことの相乗効果により,軽金属の溶融流失を一層確実に防止出来る。
④ 鋳ぐるみ材の周囲を鋳造材にて鋳ぐるむために,強固に完全一体化したクラブヘツドが得られる。
⑤ 比重の小さい鋳ぐるみ材の周囲に比重の大きい鋳造材が配設されたゴルフクラブヘツドが得られるから,クラブヘツドの慣性モーメントが増加し,ゴルフボールを,スウイートスポツトを外して打撃したときの左右振れの少ない,飛距離の減少割合も少ない,優れたクラブヘツドが得られる。』・・・と記載されているに止まり,いずれも,本件考案のように構成することによってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するゴルフクラブ用ヘッドを提供することを目的とするものではない。
請求人は,甲1の図面を根拠に本件考案の上記相違点に係る構成が記載されているに等しい旨主張するが,甲1図面が,本件考案のような問題意識をもって正確に記載されているとはいえないことは,上述の目的からみても明らかである。すなわち,甲1考案が本件考案と同一の目的をもつものであるとの記載も,本件考案と同一の構成を採用し,同一の作用効果を奏する旨の記載もないから,甲1図面だけを根拠に,甲1に本件考案の相違点に係る構成が記載されているということはできない。このことは,甲1の別実施例として,フェース部とホーゼル部とが同一部材から構成され,そもそもフェース部とホーゼル部との境界線が存在しないことからも伺える。
また,甲1には,凹部とボールとの関係を示す図面も記載されていないことから,前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成したことが記載されているとはいえない。
弁駁書において, 請求人は, 意匠公報第4 4 0 1 9 7 号( 参考資料2), 意匠公報第538764号の類似1(参考資料3)及び意匠公報第578068号の類似1(参考資料4) (判決注:順次,本訴甲1の3,本訴甲1の4及び本訴甲1の5)を挙げ,これら意匠公報には,フェース部とホーゼル部のフェース部側フェース面との角度は約120度であることを根拠に『使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成』することは周知であると主張するが,これら意匠公報には,そもそもフェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドという前提の構成を欠いており,ボールとの関係を示す図面も記載されていないことから,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止する課題に基づく本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなりえない。
さらに,フェース部とホーゼル部とのなす角が,例えば,90度であって,当該角に曲面が設けられていないのであれば,フェース部とホーゼル部との境界(角部)にはゴルフボールが当たることはないといえるが,それ以上の鈍角例えば120度の凹部である場合や当該境界部分に曲面が設けられている場合には・・・フェース部とホーゼル部との境界にゴルフボールが必ず当たらないとまではいえない。
そもそも,本件考案の相違点に係る構成をその形状として有するゴルフ用クラブヘッドが,本件出願前に公然知られたまたは公然実施されたものであるならば,請求人はそれを提示すべきであるが,その提示もない。
したがって,本件考案の上記相違点に係る構成が甲1に記載されていないといえるから,本件考案は,本件出願前に頒布された甲1に記載された考案でもなく,甲1に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものでもない」。
(4) 審決判断2
ア 本件考案と甲2考案との対比
「本件考案と甲2考案とを対比すると,甲2考案の,『前部外殻層7a』,『ホーゼル部2』,『ゴルフクラブヘッド』がそれぞれ本件考案の『フェース部』,『ホーゼル』,『ゴルフクラブ用ヘッド』に相当するから,両者は『少なくともフェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドにおいて,前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブ用ヘッド』である点で一致し,次の点で相違する。
(相違点)
本件考案が『前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる』のに対し,甲2考案はゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」
イ 相違点についての判断
「確かに,甲2には,フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドが記載されている。しかしながら,甲2考案は『設計の自由度が大きく所望の機能を容易に実現できる構造のゴルフクラブのヘッドを提供する』・・・ことを,目的とし,その解決手段として『下端ソール部と該ソール部から上方へ一体的に突出形成された側断面略三角形状の芯部とを軟鉄,ステンレス等の金属素材から形成するとともに,該芯部の表面をアルミナ等のファインセラミック材で形成された外殻層で被覆し,該外殻層の前後下端面を該ソール部の端面と無段差状に連続させること』としたものであり,その効果は『従来の金属で一体に成形されたアイアンヘッドよりも設計の自由度が高く,所望の機能を有するヘッドを得ることが容易に可能となるとともに,耐蝕性,耐摩耗性に優れ長期間の使用に適し,加えて従来のものとは全く異なった斬新なイメージのアイアンクラブを提供することが出来る』・・・というものであって,本件考案のように構成することによってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するゴルフクラブ用ヘッドを提供することを目的とするものではない。
請求人は,甲2の図面を根拠に上記相違点の本件考案に係る構成が記載されているに等しい旨主張するが,上記・・・の後段(判決注:上記審決判断1に係る「相違点についての判断」の後段)に記載したとおり,請求人のこの主張は認められない。
したがって,本件考案の上記相違点に係る構成が甲2にされているとはいえないから,本件考案は,本件出願前に頒布された甲2に記載された考案でなく,甲2に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものでもない」。
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,審決判断1における相違点の認定及び相違点についての判断を誤り,また,審決判断2における相違点の認定及び相違点についての判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(審決判断1における相違点の認定の誤り)
審決は,甲1考案につき「ゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」を,本件考案との相違点として認定したが,甲1考案において示されたゴルフクラブヘッドの,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に形成された凹部は,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部となっていることが,甲1の図面(以下「甲1図面」という)により明らかである。
この点につき,審決は,相違点についての判断において「甲1考案が本件考案と同一の目的をもつものであるとの記載も,本件考案と同一の構成を採用し,同一の作用効果を奏する旨の記載もないから,甲1図面だけを根拠に,甲1に本件考案の相違点に係る構成が記載されているということはできない。」,「甲1には,凹部とボールとの関係を示す図面も記載されていないことから,前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成したことが記載されているとはいえない」と判断した。
しかしながら,凹部とボールとの関係は,甲1図面にゴルフボールの輪郭線を描いて対比すれば,直ちに明らかになるものであって,原告は,本件審判において,既にこのような図を作成し「参考図(甲1の2)」として提出している。そして,当該「参考図」によれば,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に形成された凹部は,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率となっていることが理解されるのである。
また,このように,甲1図面に,本件考案と同一の構成が明確に示されている以上,甲1考案の目的として,本件考案と同一の目的が記載されていないとしても,甲1考案は本件考案と同一の効果を奏することは明らかである。
したがって,甲1考案につき「ゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない」とした審決の相違点の認定は誤りであり,仮に,形式的には,この点を相違点として認定し得るとしても,実質的な相違点ではないと判断されるべきであるから,審決の上記相違点についての判断は誤りである。
2 取消事由2(審決判断1における相違点についての判断の誤り)
審決の相違点についての判断は,上記1のとおり,実質的な相違点でないと判断すべき点を看過したものであるが,この点はおくとしても,甲1考案に周知技術を適用することにより,相違点に係る本件考案の構成をきわめて容易に想到し得ることを看過した誤りがある。
すなわち,審決は,原告が,参考資料2~4(甲1の3~1の5)を挙げて,「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知技術である旨主張したのに対し「これら意匠公報には,そもそもフェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドという前提の構成を欠いており,ボールとの関係を示す図面も記載されていないことから,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止する課題に基づく本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなりえない」と判断した。
しかしながら,原告主張のとおり「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは,本件実用新案登録出願の当時,周知技術であり(上記参考資料2~4のほか),必要であれば,甲3の1,3の2,甲4の1~4の5,甲10の1~10の15 ,甲1考案に,この周知技術を適用すれば,相違点に係る本件考案の構成をきわめて容易に想到し得ることは明らかであるから,審決の上記相違点についての判断は誤りである。
3 取消事由3(審決判断2における相違点の認定の誤り)
審決は,甲2考案につき「ゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」を,本件考案との相違点として認定したが,甲2の第4図と,本件願書に添付された第3図とを重ね合わせて比べると,両者はフェース面部の傾斜,ホーゼル部の形状,及びフェース面部とホーゼル部の連結部の傾斜が実質的に合致し,さらに,甲2の第1図と第3図のフェース面板の上端縁からホーゼル部の上端部を結ぶ傾斜も,本件願書添付の第1図のそれと実質的に合致しているから,甲2考案のフェース面部とホーゼル部とを連結する部分の曲率は,本件考案のゴルフクラブヘッドのそれと実質的に合致しているということができる。そして,そうであれば,本件考案のゴルフクラブヘッドのフェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの外径曲率より大曲率である以上,甲2考案の凹部の曲率もゴルフクラブヘッドのゴルフボールの外径曲率より大曲率であることは明らかであり,上記相違点の認定は誤りである。
この点につき,審決は,相違点についての判断において,甲2考案が「本件考案のように構成することによってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するゴルフクラブ用ヘッドを提供することを目的とするものではない」と判断したが,甲2考案に本件考案と同一の構成が実質的に示されている以上,甲2に本件考案と同一の目的が記載されていないとしても,甲2考案は本件考案と同一の効果を奏することができるものである。
したがって,甲2考案につき「ゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない」とした審決の相違点の認定は誤りであり,仮に,形式的には,この点を相違点として認定し得るとしても,実質的な相違点ではないと判断されるべきであるから,審決の上記相違点についての判断は誤りである。
4 取消事由4(審決判断2における相違点についての判断の誤り)
甲2考案に,上記2の「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」する周知技術を適用すれば,相違点に係る本件考案の構成をきわめて容易に想到し得ることは,上記2の甲1考案の場合と同様である。
したがって,審決の「本件考案は・・・甲2に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものでもない。」との判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(審決判断1における相違点の認定の誤り)に対し
(1) 原告は「参考図(甲1の2)に基づき,甲1考案において,フェース部」とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に形成された凹部は,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率となっている旨主張するが,当該「参考図」は,原告が作成したものであって,審決で採用された甲1とは関係のない資料である。審決は,本件考案と甲1に記載された甲1考案とを対比しているのであり,原告の主張は,前提において誤りがある。
審決は,甲1に記載されている事項の摘示を行い,それに基づいて甲1考案を認定した上,本件考案との対比を行い,一致点及び相違点の認定を行っているのであり,その認定方法に誤りはない。
(2) 審決が指摘するとおり,甲1には,本件考案のように構成することによって,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという目的意識がないから,その点に関して,甲1図面が正確に記載されているということはできず,甲1図面だけを根拠として,甲1に本件考案の相違点に係る構成が記載されているということはできない。
(3) 甲1には「図面の簡単な説明」として「第1図は本発明に係る鋳造方法,の一実施例を示す断面正面図,第2図は一部断面平面図(6欄10~11行)との記載があるほか「第1図と第2図に於て,アイアン型のクラブヘッドを例に挙げて,それを鋳造する方法を説明すれば,」(2欄26行~3欄1行),「第1図と第2図にて鋳造され冷却後は,鋳型からクラブヘッドを取出して,機械加工等で仕上加工を行なって,クラブヘッドが製作できる。」(3欄44行~4欄2行),「第1図~第3図のいずれに於ても,鋳造品を鋳型4から取出して後,仕上加工を施すことは勿論であり,このとき不要な鍔部2や突出子は削除すればよい。」(4欄14~17行)との各記載があり,これらの記載によれば,そもそも,甲1の第1図は, 鋳ぐるみ材1と冷し金5が配置された鋳型4内に鋳造材6を注入した状態を示した図面(金型の図面)であり,製造される製品としてのクラブヘッドの図面ではなく, したがって,第1図が,完成されたクラブヘッドの構成を示すものではない。
他方,甲1には「クラブヘッドのフェースをなす部分には鍔部2が対応する」(3欄31~32行)との記載があるが,ホーゼル部に関する記載はなく,ホーゼル部の形状や,フェース部(鍔部2)とホーゼル部の位置関係等は不明であり,製造される製品としてのクラブヘッド全体の構成を把握することはできない。
このように,甲1考案は,その製品としての全体構成が不明であるから,本件考案との対比すらできないものであり,甲1には本件考案の構成は何ら記載・示唆されていないというべきである。
2 取消事由2(審決判断1における相違点についての判断の誤り)に対し
(1) 参考資料2~4は,いずれもゴルフクラブヘッドに関する意匠公報であり, それぞれゴルフクラブのヘッドが開示されているものの,本件考案の「フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッド」という構成を欠いているし,ゴルフボールとの関係を示す記載もないから,審決が指摘するとおり,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題に基づく,本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないものである。
(2) 原告は,甲3の1,3の2,甲4の1~4の5,甲9,甲10の1~10の15を提出し,これらに記載されたゴルフクラブにおいて,フェース面とホーゼル部との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの曲率より大きいと主張する。しかしながら,これらは,審判において証拠とされたものではなく,そのような証拠を,審決取消訴訟において新たに提出して,審決取消しの理由とすることは,そもそも許されない。
また,乙2~5によれば,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に関する構成には,各種の形状のものが知られており,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成することが技術常識,周知技術であるとの原告の主張は根拠がないものである。
さらに,甲3の1,3の2,甲4の1~4の5,甲9,甲10の1~10の15に記載されたアイアンゴルフクラブは,フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドという本件考案の前提の構成を欠いていることから,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題に基づく,本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないものである。
仮に,ゴルフクラブにおいて,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成する技術事項が知られていたとしても,甲1には,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識はないから,上記技術事項を甲1考案と組み合わせるに際しての動機付けは存在しない。
また,本件考案は,考案の要旨に記載された構成を備えることにより,本件訂正に係る明細書(甲6)記載の,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止することができるという顕著な作用効果を奏するものであるが,甲1その他,原告が引用する刊行物に,このような作用効果についての認識はない。
3 取消事由3(審決判断2における相違点の認定の誤り)に対し
原告は,本件願書に添付された第1,第3図と甲2の第1,第3,第4図とを,「重ね合わせて比べる」と「実質的に合致」するから,甲2考案のフェース面部とホーゼル部とを連結する部分の曲率は,本件考案のゴルフクラブヘッドのそれと実質的に合致しており,審決の相違点の認定が誤りであると主張する。
しかしながら,実用新案登録又はその請求に係る考案と,甲2のような実用新案公報記載の考案とを対比する場合には,明細書及び図面の記載に基づいて行うことが通常であって,原告のような対比の方法に合理性がないことは明白であり,このような対比に基づく主張も失当である。審決は,甲2に記載されている事項の摘示を行い,それに基づき甲2考案を認定し,次いで,本件考案との対比を行って,一致点及び相違点の認定を行っているのであり,その認定方法に誤りはない。
そして,甲2によれば,甲2考案は,外殻層による外観イメージと設計自由度を大きくすることを課題とするものであり曲率に関する記載は甲2には存在しない。第1図において,外殻層7とホーゼル部の間にある上下のラインの下端部分はソール外殻から立ち上がったホーゼル側にあり,シャフトの先端が挿入固着されるために膨出した部分に位置するため,その上下のラインは,本件考案とは相違して,ボールが直接当接する位置に図示されていることが窺えるが,甲2においては,フェース面部とホーゼル部とを連結する曲率に関する記載はないことから,上下のラインとボールとの位置関係については不明である。
4 取消事由4(審決判断2における相違点についての判断の誤り)に対し
参考資料2~4は,本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないものであること,甲3の1,2,甲4の1~5,甲9,甲10の1~15は,本訴において提出することが許されないものであり,仮にそうでないとしても, 本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないものであること,乙2~5の示すとおり,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成することが技術常識,周知技術であるとはいえないことは,上記2のとおりである。
また,甲2には,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識がなく,フェース部とホーゼル部との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成する技術事項を甲2考案と組み合わせるに際しての動機付けが存在しないこと,甲2には,本件考案の顕著な作用効果についての認識がないことは,上記2の甲1考案の場合と同様である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(審決判断1における相違点の認定の誤り)について
原告は,甲1考案において,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に形成された凹部が,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部となっていることは,甲1図面により明らかであると主張し,さらに,審決の「甲1には,凹部とボールとの関係を示す図面も記載されていない」との指摘に対し,甲1図面にゴルフボールの輪郭線を描いて作成したとする「参考図」(甲1の2)によって,上記凹部の曲率が使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率となっていることが理解されると主張する。
すなわち,審決判断1における相違点の認定が誤りであるとする原告の主張は,甲1図面に描かれたゴルフクラブの上記凹部に係る表示上の曲率が,そのまま甲1考案の上記凹部に係る曲率であることを前提とするものである。
しかしながら,甲1は,特許公告公報であり,甲1図面は,当該公告に係る特許出願の願書に添付された図面であるところ,一般に,特許出願や実用新案登録出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許(実用新案登録)を受けようとする発明(考案)に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって,設計図と異なり,当該図面に表示された寸法や角度,曲率などは,必ずしも正確でなくても足り,もとより,当該部分の寸法や角度,曲率などがこれによって特定されるものではないというべきである。そうすると,仮に,原告主張のとおり,甲1図面に描かれたゴルフクラブの上記凹部に係る表示上の曲率が,当該表示上のゴルフクラブに対応するゴルフボールの外径曲率として想定される範囲の曲率より大きいとしても,そのことのみから,甲1考案の上記凹部の曲率が,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率であると即断し得るものではない特許(実用新案)公報等の記載から,そのようにいうことができるとするためには,本件考案がそうであるように,明細書(特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲を含む)に,当該凹部の曲率がゴルフボールの外径曲率よりも大曲率である旨が記載されているか,又は,少なくとも,明細書に記載された発明(考案)の課題,目的又は作用効果(例えば「フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを防止すること」)等から,そのような構成を採用していると理解されるものであることを要するというべきである。
審決の「甲1考案が本件考案と同一の目的をもつものであるとの記載も,本件考案と同一の構成を採用し,同一の作用効果を奏する旨の記載もないから,甲1図面だけを根拠に,甲1に本件考案の相違点に係る構成が記載されているということはできない」との説示は,上記のような趣旨であるものと理解され,その判断に誤りはなく,審決判断1における相違点の認定が誤りであるとする原告の主張を採用することはできない。
2 取消事由2(審決判断1における相違点についての判断の誤り)について
(1) 審決は,甲1考案を「鍔部2をアルミニウム等の軽金属で形成し,ホーゼル部を前記軽金属よりも比重の大きい鋳造用非鉄金属で形成してなるゴルフクラブヘッドにおいて,前記鍔部2と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に,凹部を形成し,この凹部に,鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブヘッド」と認定し,この認定に係る甲1考案の構成(なお「鍔部2」は「フェース部」に相当)と本件考案の構成とを対比して「本件考案が『前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる』のに対し,甲1考案はゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」を甲1考案と本件考案との相違点として認定したものである。
上記相違点に係る認定は,文言上,多少不明確であるが,上記甲1考案の認定及び甲1考案と本件考案との一致点の認定に照らすと,審決が,本件考案に係る「この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる」構成は,甲1考案も備えるものとして,これを上記相違点に含めていないこと,換言すれば,相違点に係る本件考案の構成は「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した」点だけであると認定したことは明らかである。
(2) しかるところ,審決は,原告が,参考資料2~4を挙げてした「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張を排斥したものである。
しかしながら,甲4の1~甲4の5及び甲10の1~甲10の15は,国内外の様々のメーカーが販売する,様々な商品名,番手(ただし,全部アイアン)のゴルフクラブ二十数種類についてそれぞれそのフェース部とホーゼル部の間の凹部に,ゴルフボールを接着した状態を撮影した写真でありこれらの製品は昭和59年3月1日発行の84年版ゴルフ用品総合カタログ(甲3の1)及び平成元年3月1日発行の89年版ゴルフ用品総合カタログ(甲9)に掲載されているから,いずれも本件出願前に市販されていたものと認められる。そして,これらいずれの写真においても,ゴルフボールの外周面と,フェース部とホーゼル部の間の凹部との間に,三日月状の空隙部が形成される様子が示されているから,これら二十数種類のゴルフクラブは,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの外径曲率よりも大きいものと認められるところ,このように,様々なメーカーが販売する二十数種類ものゴルフクラブ(アイアン)に係るフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの外径曲率よりも大きいとすれば,本件実用新案登録出願当時「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とすること」は, 一般に見られる周知技術であったものと認めるのが相当である。
そうすると,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記「当該凹部の曲率を使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。
(3) 被告は,上記甲号各証につき,審判において証拠として提出されたものではなく,そのような証拠を,審決取消訴訟において新たに提出して,審決取消しの理由とすることは許されないと主張するところ,審判において,上記甲号各証が提出された形跡がないことは主張のとおりである。しかしながら,原告が「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張をし,この主張につき審決の判断を経ていることは上記のとおりであり,本訴において,上記甲号各証は,当該周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたにすぎないものであるから,これを本訴における証拠資料の一部とすることが許されないものではない。
(4) また,被告は,乙2~5によれば,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に関する構成には,各種の形状のものが知られているから,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成することが周知技術であるとの主張は,根拠がないと主張する。
しかるところ,乙2(実願昭62-88829号(実開昭63-197564号)のマイクロフィルム)には,第2図(ハ)に図示されるように,クラブヘッド5のヒール(第1図(ロ)の4)の上部にゴルフボール10が当たっても,そこに突出部が存在しないようにして,クラブヘッドの取付部の半円柱状の突出部にゴルフボールが当たることによる,いわゆるシャンクの発生を少なくしたものが記載されていることが認められるが,フェース部とネック(ホーゼル部)との間に凹部が形成されているか否かは,必ずしも明確ではない。
乙3(実願昭61-190904号(実開昭63-93964号)のマイクロフィルム)には,ヘッドのホーゼルの打球側の面を該ヘッドのフェイスから連続した同一の平坦面に形成することにより,ゴルフボールが,凸曲面に形成された,ヘッド2のホーゼル3の打球側の面3aに当たることによる,飛び方向の不安定さを解消したもの,すなわち,フェース部とホーゼル部との間に凹部を形成しないものが記載されているものと認められる。
乙4(1962年(昭和37年)2月6日特許に係る米国特許第3020048 号明細書)には,凹面を呈するブレードとネックの橋絡部分がボール面に対応する曲率を有し,ボールの外面に形状が一致するようにして,ネックの凸凹面が原因で生じるいわゆるシャンクの発生を防止したもの,すなわち,ブレード(フェース部)とネック(ホーゼル部)との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの曲率と一致するものが記載されているものと認められる。
さらに,乙5(1976年(昭和51年)3月30日特許に係る米国特許第3947041号明細書)には,クラブヘッドとホーゼルを接続する橋絡部分に平坦化領域を配設しこの領域にボールが当接し得るようにしてクラブのヒールに配設される角張った領域にボールが当接することで生じる,いわゆるシャンクの発生を防止できるようにしたものが記載されているものと認められる(ただし,クラブヘッドとホーゼル部の間の凹部の曲率とゴルフボールの外径曲率との大小関係は明らかではない。)。
そうすると,凹部の有無が定かではない乙2記載のものを除き,上記乙3~5によると,確かに,被告主張のとおり,ゴルフクラブ(アイアン)のフェース部とホーゼル部の間に関する構成には各種の形状のものが知られているということができ,その中には,乙3,乙4記載のもののように「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」こととは相容れない構成のものも存在する。しかしながら,一般に,ある技術が周知技術といえるために,これと相容れない技術が存在しないことを要するものではなく,乙3~乙5に上記のような技術が記載されているからといって,上記のとおり,多数の周知事例に基づいて認定することができる周知技術の周知性が否定されるものではない。
(5) 被告は,上記甲号各証に記載されたゴルフクラブは,フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドという本件考案の前提の構成を欠いているから,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題に基づく,本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないとも主張する。
しかるところ,上記のとおり,審決の認定に係る甲1考案は「鍔部2」(「フェース部」に相当)をアルミニウム等の軽金属で形成し,ホーゼル部を前記軽金属よりも比重の大きい鋳造用非鉄金属で形成してなるゴルフクラブヘッドにおいて,前記鍔部2と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に,凹部を形成し,この凹部に,鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブヘッド」というものであり「フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッド」という,本件考案の構成要件は,甲1考案が備えているとするものであるから,被告の上記主張は,結局,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題が,甲1に記載されていないことを理由に,上記「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」周知技術を甲1考案と組み合わせるに際しての動機付けは存在せず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることということはできない,との主張に帰着するものと解される。
しかしながら,上記のとおり,上記周知技術は,ゴルフクラブ(アイアン)において,一般に見られるものであり,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにつき,阻害事由も見当たらないから,甲1考案に上記周知技術を採用することは,当業者であれば,格別の動機付けがなくとも,適宜試みる程度のものというべきである。したがって,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識いかんに関わらず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。
(6) 被告は,本件考案の奏する作用効果についての認識が,甲1その他の刊行物にないとも主張する。しかしながら,甲1考案が,審決の認定するとおり,鍔部2(フェース部)とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に形成した凹部に「鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる」ものとすれば,これに上記周知技術を採用した場合に,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接しなくなることは,きわめて容易に予測し得るところであるから,本件考案が,主張のような作用効果を奏するからといって,上記(2)の結論に影響を与えるものではない。
(7) そうすると,審決の相違点についての判断は誤りであると言わざるを得ず, この誤りが審決の結論に影響を与えることは明らかである。
2 結論
以上によれば,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。