平成18年(行ケ)第10355号審決取消請求事
主文
特許庁が無効2005-80362号事件について平成18年6月20日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分があり「タクシーメータ「タクシーメーター」は「タクシーメータ 」,「マトリクス」「マトリックス」は「マトリックス」で統一する。
第1 原告の求めた裁判
主文同旨の判決。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告の有する本件特許について無効審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許(甲13)
特許権者:二葉計器株式会社(被告)
発明の名称:「タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」
出願日:平成2年3月5日(特願平2-54504号)
設定登録日:平成7年3月23日
特許登録番号:特許第1917617号
(2) 本件手続
審判請求日:平成17年12月26日(無効2005-80362号)
審決日:平成18年6月20日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」。
審決謄本送達日:平成18年6月30日(原告に対し)
2 本件発明の要旨(以下,請求項の番号に応じて「本件発明1」などという。)
【請求項1】少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と,該タリフ設定用入力手段またはその近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と,走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データが一時的に格納されるRAMと,動作プログラム,各種パラメータ,表示手段に表示する文字等が格納されるROMと,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成するタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項2】表示手段として,液晶表示板を利用してなる特許請求の範囲第1項記載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項3】表示手段として,螢光表示管を利用してなる特許請求の範囲第1項記載載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項4】液晶表示板の表面に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが積層され,タリフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が体的に構成されてなる特許請求の範囲第1項記載のタクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
3 審決の理由の要点(審判手続の証拠番号は,本訴の証拠番号と同一)
(1) 無効理由
本件発明1,4は,甲1( 新型タクシーメータの開発に関する調査報告書(「第2次案」平成2年2月,甲3(特開昭57-79489号公報),甲4(特開昭62-5268号公報),甲8(第2回「新型タクシーメータ検討ワーキング委 員会開催のお知らせ」,資料第10として「新型タクシーメータ開発課題検討報告」が添付されている)に記載された発明に基づいて,本件発明2は,上記各甲号証に加えて甲6(特表昭61-502561号公報)に記載された発明に基づき,本件発明3は,上記各甲号証に加えて甲7(実開昭63-48277号公報)に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,無効にされるべきである
(2) 甲1に記載された発明
ア 甲1の39頁の記載から読み取ることができる事項
「39頁には,上部に「メーターパネルの例」の図,下部に「操作部のマルチ化」についての図が記載され,また,その間に次の記載がある。「新機構を折り込んだタクシーメータは上図(1例)のごとく多くの操作部,表示部が必要になる。操作部,表示部の増設は,メーター本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を与えるばかりでなく,操作性や視認性を損なうことにもなる。これらの対策としては,次の方法が考えられる。
・表示部のマルチ化・・ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図る。
・操作部のマルチ化・・関数電卓等に使用されている「SHIFT」機能のように,一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択する」
更に,表示装置について,42頁の20行から24行に次の記載がある。
「この図(審決注:39頁の図)は,ほぼ現在のメーター前面寸法の原寸(150×50mm)になっているが,このままでは表示される字が小さくて実用にならないと思われる。これの対策としては,・表示機構に一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示する」。
これらの記載から,タクシーメータの表示部については,ドットマトリックス方式を採用し,プログラムにより表示内容を変更すること,また,操作部については,一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択すること,更に,具体的には,人数,荷物,迎車等の料金を表示する部分,及び運賃を表示する部分にドットマトリックス方式を採用し,例えば,一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示すること,を読み取ることができる。
しかし「メーターパネルの例」の図の右上のタリフ表示部については,該当するタリフを表示灯により照射するものであり,料金及び運賃を表示する部分とは表示方式が異なること,また,どのようにドットマトリックス方式を採用して表示するかの具体的な記載がないことから,このタリフ表示部までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができない。
また,操作ボタンの近傍に位置する操作ボタンの機能を説明する文字は,操作ボタンに付随するものであり「操作部」に属すると考えるべきものである。
したがって,甲1の39頁の記載から読み取ることができる事項は,次のとおりである。
「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部(上記操作ボタンの機能を説明する文字),その時の料金を逐次表示するドット方式の料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部からなる表示手段を有するタクシーメータにおける料金,タリフ表示装置」。
なお,審判請求人は,操作ボタンの機能を説明する文字は,「表示部」に属するものであり,「表示部のマルチ化」とは「操作部のマルチ化」により一つの操作ボタンに与えられた二つ以上の機能を,マルチ化された表示部により表示内容を変更して表示することを含むと主張する。
しかし,操作ボタンの機能を説明する文字は,上記したように「操作部」に属すると考えるべきものであること,また「表示部のマルチ化」と「操作部のマルチ化」とは,並列的に記載されており「操作部のマルチ化」の後に「表示部のマルチ化」を行なうとの記載ないし示唆はないこと,更に「操作部のマルチ化」の後の「表示部のマルチ化」により,操作ボタンの機能をドットマトリックス方式を用いてどのように表示するのかの具体的な記載ないし示唆もないことから,審判請求人の主張は採用できない」
イ 甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という)
「少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と,該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示するドット方式の料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部からなる表示手段と,走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データが一時的に格納されるRAMと,動作プログラム,各種パラメータ,表示手段に表示する文字等が格納されるROMと,を有するタクシーメータにおける料金,タリフ表示装置」。
(3) 甲8に記載された技術事項
「甲8に資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討報告」の別紙1には,スイッチの項に,以下の記載及び図がある。
「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより同一スイッチを兼用する」。
図には,3つの長方形からなる列が上下に2列記載され,これらの長方形は矢印で繋がれており,また,長方形の列の上方には「割ボタン」,「迎車」,「料金関係」の文字の列がそれぞれの長方形に対応して記載され,また,長方形の列の下方には「1割引」,「3割増」,「2割増」の文字の列等がそれぞれの長方形に対応して上下に3列記載されている。
これらの記載及び図から,図に記載された長方形は「割ボタン」,「迎車」,「料金関係」等の各機能毎に割り当てられたスイッチであり,これらのスイッチが複数の機能を兼用することは読み取れるが,これらのスイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するのかは不明である。
例えば,上側の列の「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,下側の列の各スイッチに「1割引」,「3割増」,「2割増」の機能が割り当てられる,又は,上下に対応するスイッチは,同じスイッチであり「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,次に,そのスイッチに「1割引」の機能が割り当てられ,その右側の「迎車」に対応するスイッチに「3割増」,「料金関係」に対応するスイッチに「2割増」が割り当てられる,と推測できなくはないが,定かではない。また,これらの機能をどのように表示するかについては,記載も示唆もない。」
(4) 本件発明1と甲1発明との対比
ア 一致点
「少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と,該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部からなる表示手段と,走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い,前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と,各種走行データが一時的に格納されるRAMと,動作プログラム,各種パラメータ,表示手段に表示する文字等が格納されるROMと, を有するタクシーメータにおける表示装置」
イ 相違点
(ア) 「本件発明1では「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成する」のに対して,甲1発明では,タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部は,一体的に構成されておらず,また,上記料金表示部のみがドット方式の表示手段である点」。
(イ) 「本件発明1は「タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」であるのに対して,甲1発明は,タクシーメータにおける料金,タリフ表示装置である点」。
(5) 相違点についての判断
「甲3には,電子時計のような小型電子機器において,アルファベット等の情報を入力するために,これらの情報を複数種類入力できるスイッチをドットマトリックス表示部の近傍に複数個設け,かつ,入力する情報が容易に確認できるように,その入力する情報を上記ドットマトリックス表示部の各スイッチに対応した位置に表示し,また,上記スイッチにより入力された情報を上記ドットマトリックス表示部に表示する点,具体的には,例えば,任意のアルファベットを入力するために,5つのスイッチをドットマトリックス表示部の近傍に設け,最初は,これらのスイッチがそれぞれA,B,C,D,Eを入力できるようにし,次に,F,G,H,I,Jを入力できるようにし,これに対応して,上記ドットマトリックス表示部の各スイッチに対応した位置に,最初は,A,B,C,D,Eを表示し,次に,F,G,H,I,Jを表示した点が記載されている。ここで,各スイッチに割り当てられる情報は,例えば,第1番目のスイッチについては,A,F,K・・・というように,並列的な情報である。
甲4には,電子複写機等の画像形成装置において,液晶ドットマトリックス表示器の周縁部に,複数の操作キー及び1つの説明キーを配置し,所要の操作キーを操作した後に説明キーを操作すると,その操作キーの機能を説明する表示情報が上記表示器に表示される点,及び,上記表示情報は,メモリに記憶されており,このメモリより所要の表示情報がメインプロセッサによって読出され,表示される点が記載されている。
甲8には「割ボタン」「迎車」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼用する点が記載されている。
しかし,甲3,甲4,及び甲8には,そのいずれにも上記相違点に係る本件発明1の構成が記載されていない。
また,本件発明1は,「[発明の効果]表示手段がドット方式であるため,営業における料金,タリフ位置表示を明瞭に表示することが可能であるとともに,タリフ設定時の選択文字の表示にも対応させることが可能であり,タリフ設定用入力手段またはその近傍にこのタリフ選択用文字を表示し,これに対応するタリフ設定用入力手段のスイッチを操作することによってタリフ設定を容易にするものである。このことから,運賃制度の改正等があった場合にも,タクシーメータのハード変更を必要とせず,ソフトウェアの変更だけで充分に対応することが可能となるものである。また,押ボタンスイッチ等のスイッチを省略することができ,コストを低減することが可能である。更に,料金,タリフの表示を一体的に構成したドット方式の表示手段で行っているため,表示を大きくとることができ,タリフや料金の表示を明瞭で確認な容易なものとすることができる。」(本件特許に係る特公平6-42269号公報4ページ7欄末行~8欄19行)というタクシーメータに特有の作用効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない」。
(6) 本件発明2ないし4について
「本件発明1が,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないことから,本件発明1を引用する本件発明2ないし本件発明4も,甲6に記載された発明,及び,甲7に記載された発明を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない」。
(7) むすび
「以上のとおりであるから,本件発明1ないし本件発明4は,審判請求人が提示した甲各号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。また,他に本件発明1ないし本件発明4を無効とする理由を発見しない」。
第3 原告の主張の要点
1 取消事由1(甲1発明の認定の誤り)
審決は,甲1の「メーターパネルの例(39頁)」の右上のタリフ表示部について,ドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができないと認定したが,この認定は誤りである。
甲1の39頁に記載されているタクシーメータは,甲1で説明されている各種新機能をそのまま折り込んだ場合の予想図であり,甲1の2~5頁に「現在のタクシーメータ」として記載された電子式のタクシーメータの構成を備えたものである。甲1の4頁右上に記載されたタクシーメータは,昭和61年から製造販売されていたタクシーメータのうち,最も国内販売台数シェアの高かった矢崎総業株式会社製のタクシーメータ(製品名:アロフレンド18)をモデルにしたものである。このタクシーメータは,表示部に1枚の蛍光表示管パネルを採用して料金表示部とタリフ表示部を一体的に構成し,料金及びタリフを同じ表示方式で表示する電子式のタクシーメータであり,このことからすると,甲1の39頁にいう「表示部のマルチ化」は「料金表示部」と「タリフ表示部」が一体的に構成された蛍光表示管パネルをドット方式のものに交換して,プログラムにより表示内容を変更することを意図するものであると解すべきである。
また,甲1の39頁にいう「表示部のマルチ化」の解釈は,甲1の記載全般に基づいて行うべきである。甲1において「表示部」という記載は複数箇所において用いられているが,例えば,10頁では「⑤表示部」の下欄に「割増率」と「割増された運賃」とが並列的に記載され,タリフ表示部(「割増率」)と料金表示部(「割増された運賃」)の両方を含むものとして用いられている。したがって,甲1の「表示部のマルチ化」は,少なくとも「料金表示部」と「タリフ表示部」のいずれも含むと解釈するのが当然である。
さらに,甲1の38頁には,新型タクシーメータにおける乗務員が選択操作する手段として,プッシュボタンのほかに「表示」と「ボタン」を兼用する方式であるディスプレイタッチを採用することが記載されている。この「表示」は,ボタンという入力方法を兼用するため,入力する機能の意味を表示する必要が生ずるのであるから,操作ボタンの機能を説明する文字(タリフ選択文字)を意味することは明らかである。甲11の2~5に示されているとおり,タッチパネルであるスイッチと,液晶等のドットマトリックス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成することは,本件特許出願当時,汎用技術として認識されていたのであるから,選択操作手段にディスプレイタッチを採用するということは「タリフ選択文字」をドット方式で表示するということにほかならない。
以上によれば,甲1には,本件発明1に係る請求項1の記載のうち「その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と」及び「その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示する」ことが記載されているのであり,これに反する審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(甲8記載の技術事項についての認定の誤り)
甲8の資料第10(「新型タクシーメータ開発課題検討報告」)の別紙1について, 審決は「割ボタン」「迎車」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼用することは記載されているものの,これらの機能をどのように表示するかについては記載も示唆もされていないと認定しているが,この認定は誤りである。
甲8の別紙1におけるスイッチの項には「割ボタン」「迎車」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼用することに加えて,同じくスイッチの項に「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載があり,さらに,同紙の「表示機構」の項には「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」との記載がある。これらの記載の内容について,甲8にはそれ以上の具体的な説明はないが,タッチパネルであるスイッチと,液晶等のドットマトリックス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成することは,前記のとおり,本件特許出願当時の汎用技術であるから,甲8の「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載は,スイッチと表示を一体化し,各スイッチの機能(「割ボタン」「迎車」等)をドットマトリックス方式で表示することにほかならない。
したがって,甲8の別紙1のスイッチの機能をどのように表示するかについては記載も示唆もされていないとした審決の認定は誤りである。3 取消事由3(相違点の判断の誤り)
前記のとおり,甲1には「料金表示部」及び「タリフ表示部」を一つのドットマトリックス方式の表示部で一体的に構成すること,スイッチと「タリフ選択表示部」とを一体化してディスプレイタッチを構成し,ドット方式でタリフ選択文字を表示することが開示されている。甲1には「タリフ選択表示部」を一体的に構成することは記載されていないが,一つのドットマトリックス方式の表示部で一体的に構成された「料金表示部」と「タリフ表示部」に,同じくドット方式で表示する「タリフ選択表示部」を追加して一体的にすることは,タクシーの運転手の利便性を考慮すれば当然想定される範囲内のものであり,かつ合理的であることから,当業者にとって何ら困難なくなし得ることである。
また,前記のとおり,タッチパネルであるスイッチと,液晶等のドットマトリックス方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成することは,汎用技術であったのであるから,甲8の別紙1の記載に基づき,3つのスイッチを備えたタッチパネルと,これらスイッチの機能を表示するドット方式の表示部を一体化してディスプレイタッチを構成し,まず「割ボタン」,「迎車」,「料金関係」の機能を表示しておき,「割ボタン」に対応するスイッチが操作されると,次に「1割引」,「3割増」,「2割増」の機能が表示されるように,プログラムによって切り替えるようにすることは,当業者であれば容易に想起し得ることである。
さらに,審決は,甲3,4には「その時のタリフ位置に応じて,各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示してタリフ設定用画面を構成する」ことは開示されていないとしているが,甲4の関連発明が開示された甲12(特開昭62-223767号公報)を見れば明らかなように,ある機能を選択すると,この選択された機能に応じて,各スイッチに対応する選択用文字を表示して機能設定用画面を構成することは公知の技術である。
審決は,本件発明1の効果がタクシーメータに特有の作用効果であることを理由に,その進歩性を肯定しているが,甲1,8に開示された事項を正しく認定すれば,本件発明1の効果を奏する全ての構成が開示されている。かかる効果は,甲1,8に記載された発明から得られる効果であり,何ら格別なものではない。
以上によれば,本件発明1は,甲1,3,4,8に基づき,当業者が容易に想到し得たものである。
4 取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)
本件発明1は,甲1,3,4,8に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから「本件発明1が,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないことから,本件発明1を引用する本件発明2ないし本件発明4も,甲6に記載された発明,及び,甲7に記載された発明を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない」として,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。
第4 被告の主張の要点
1 取消事由(甲1発明の認定の誤り)に対して
原告は,甲1が作成された当時の最新機種として「アロフレンド18」を挙げている。同機種は「料金表示部」について「7セグメント方式」により比較的効率的な表示(プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図ること)を可能にしたものであるが「タリフ表示部」については,あらかじめ各表示タリフごとに丸ゴシックの蛍光部を設けておき,これらのうちから選択的に表示させる「キャラクタ表示方式」を採用しているにすぎない。このことからも明らかなとおり,甲1の39頁の「表示部のマルチ化」というのは,人数,荷物,迎車等の「料金」を表示する部分,及び「運賃」を表示する部分にドットマトリックス方式を採用し,例えば,一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示することを読み取ることを可能にするものである。他方,タリフ表示部については,あらかじめ設けられたタリフを表示灯により照射するものであり,料金表示部とは表示方式が異なる。したがって,甲1の39頁には,どのようにしてドットマトリックス方式を採用して表示するかについての具体的な記載はないというべきであり,タリフ表示部についてもドットマトリックス方式を採用することが記載されていると読み取ることができない。
また,甲1は,各社の願望的なアイデアをまとめた報告書であり,抽象的なアイデアが多々含まれているが,このような甲1を引用例として用いる場合には,そこに開示されている具体的な内容を慎重に認定すべきであり,他の箇所において「表示部」の表現が「タリフ表示部」を含むものとして用いられているからといって,甲1全体にわたり「表示部」がタリフ表示部も含むと解すべきではない。
原告は,甲1の38頁に「ディスプレイタッチ」との記載が存在することも指摘するが,これは,あくまでも操作部の一つのアイデアとして抽象的に記載されているにすぎず,タリフ選択文字に使用することや,表示形態としてドットマトリックス方式を採用することは記載されていない。
2 取消事由2(甲8記載の技術事項についての認定の誤り)に対して
甲8の別紙1には極めて抽象的な願望的アイデアが記載されているにすぎない。例えば,スイッチの項の「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより同一スイッチを兼用する」という記載のみからは,各スイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するのか理解することができない。また,これらの機能をどのように表示するかについての記載や示唆もない。
同様に,別紙1のスイッチの項目に記載されている「ディスプレイタッチ式」も,あくまで「操作部」についてのアイデアであり,しかも同一スイッチを兼用することとは,並列的ないし選択的なものとして挙げられている。このディスプレイタッチ式については,甲1にも記載されているが,その表示形態について何ら具体的に開示されておらず,ましてや「ディスプレイタッチ式」のアイデアをスイッチ兼用のアイデアに組み合わせることは全く示唆されていない。
したがって,甲8の別紙1のスイッチの機能をどのように表示するかについては記載も示唆もされていないとした審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)に対して
本件発明1は「料金表示部」,「タリフ表示部」,「タリフ選択表示部」を一体的にドット表示することにより,乗客が,現在の料金,その計算根拠,選択される機能をそれぞれ関連付けて容易に理解できるというメリットを生かしつつ,乗務員のスイッチ操作を容易にしたものである。
これに対し,前記のとおり,甲1には,タリフ表示部をドットマトリックス方式で一体的に表示することや,タリフ選択表示部をドット表示することについての記載はない。また,甲1が作成された当時の最新機種である「アロフレンド18」でさえ,タリフ選択表示部は印刷表記である(乙3の7頁「④外観」の項参照。)。
甲1の39頁の図は,多機能化するタクシーメータの例として示されたものであり,タリフボタンの数は従来の6個程度から倍以上の13個に増えている。このように10個以上のタリフボタンのタリフ選択表示部を料金表示部とともに一体的にドット表示したと仮定すると,画面上の表示が増大し,料金表示部やタリフ表示部が判別しにくくなり,また,限られた面積の表示欄における各表示は小さくならざるを得ない。
甲1には,タリフ選択表示部に表示される文字を選択するための表示文字選択手段を設け,そのときのタリフ位置に応じた文字を表示させることにより,効率よく表示させるという本件発明1のような仕組みは何ら開示されていない。ディスプレイタッチについてもあくまで操作部に関する抽象的なアイデアが記載されているにすぎず,それを用いてどのように表示するかについては特に記載も示唆もなされていない。
かえって,原告は,本件特許出願時点において,タクシーメータの料金表示部及びタリフ表示部をドットによるグラフィック表示部となし,従来の運賃,回送迎車料金表示のみならず,それ以外の料金又は表示項目の表示や今後設定される特殊料金や改正料金の表示等をソフト変更するのみで極めて容易に表示させることを内容とする特許出願を行っている(乙1:特開平5-205124号公報参照。)これによれば,原告は,甲1の存在を知りながら,なおドット表示で種々の表示をさせることに進歩性があると判断していたことがうかがわれる。
また,甲8の別紙1のディスプレイタッチは,操作部の一つのアイデアとして抽象的に記載されているのみであり,並列的に記載されているボタン兼用のアイデアに組み合わせて用いることまで示唆されていないことはもとより,その表示形態については全く考慮されていない。
このように,本件特許出願の当時,ディスプレイタッチを用いて表示部及び操作部の双方のマルチ化を図ることまでは到底想定できず,具体的な記載はもとより,抽象的な記載も何ら見出せないのであるから,当時の周知技術を考慮しても,当業者にとって,本件発明1が容易に想到し得たものであるということはできない。
4 取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)に対して
以上のとおり,本件発明1が甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないとした審決の判断は正当である。本件発明2ないし4は本件発明1を引用してその内容をさらに限定した発明であるから,甲6,7を考慮しても,同じく進歩性を有することは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(甲1発明の認定の誤り)について
審決は,甲1の「メーターパネルの例」の図(39頁)について「その右上のタリフ表示部については,該当するタリフを表示灯により照射するものであり,料金及び運賃を表示する部分とは表示方式が異なること,また,どのようにドットマトリックス方式を採用して表示するかの具体的な記載がないことから,このタリフ表示部までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができない」と認定しているところ,原告は,審決のこの認定は誤りであると主張する。
(1) 甲1には,以下の記載がある。
ア「現在のタクシーメータ」(2頁)
「3.運賃料金の表示
メーター本体に表示部があって「運賃」と「迎車料金」の二つの表示窓があるものと「運賃料金」として一体化されたものがある。前者では各々独立して金額が表示され,合算金額は表示されない。」(3頁)
イ「5具体的課題とその対応方法
このセクションでは,新型メータが狙いとするところを具体的な課題として示し,それを実現する方法または問題点を検討した
・・・5.1 演算機能の多様化5.1.1 運賃の割増・・・● 各ブロックの作用・・・
⑤ 表示部
・演算処理部からの信号を受けて,乗客あるいは乗務員に必要な表示を行う部分である。
例えば
・割増された運賃。
・必要ならば割増の事由や割増率。などを表示する。
・数字以外の文字や図形を自由に表示するならば,従来と異なる構造が必要となる。」(9~ 11頁)
ウ「5.1.10まとめ
以上「演算機能の多様化」の課題について要約すれば,凡そ次のようになる。・・・
●乗客とのトラブルの発生を避けるためには,運賃料金が計算される条件,例えば割増・割引の理由,割増・割引率,乗車人数,荷物の数などが,どのような状態にセットされてメータが作動しているかを明確に表示する必要があると思われる。したがって,実際に多種類の運賃料金項目を盛り込む場合には,それ相応の表示装置または領収書発行器を備えなければならないと思われる。」(36頁)
エ「5.3機能の多様化と操作部
5.3.1 機能の選択方式
タクシーメータが多くの演算機能を持っていても,どの演算を行うかを命令してやらなければ動くことができないから,後に述べる自動化ができないものは乗務員の選択操作に頼ることになる。機能を選択する方式の得失を簡単に挙げると,次のようになる。
●プッシュボタン
従来多用されている最も直接的で単純な方法であるが,多数の機能をワンタッチで選択しようとすると数が増え,ボタンが小さいと操作がやり難くなるからスペースを必要とする。・・・
●ディスプレイタッチ
表示とボタンを兼用する方法で,例えば該当する料金表示部等をタッチして選択する。料金表示が省略された項目を選択しようとすると,プッシュボタンと同じことになり,現在ではコストと技術的な問題がある。
5.3.2 プッシュボタン方式の操作部の例
ここでは最もポピュラーな機能毎のプッシュボタンを用い,割増と割引を各々2種類として,5.1項で例にとった機能全部を折り込んだ場合のメーター前面を想定すると,次ページのようになる。なお,人数と荷物数の設定は,そのボタンを押す回数によって行うこととしている。これによると,従来7個程度であったボタンが6個増えて13個となっているが,簡単な電卓でも20個以上ボタンがあることを考えれば,一般的に見て,特に操作性が悪い機器ではないと思われる。なお,図中の説明のように,シフトボタンを用いてボタンの機能を切換えればボタンの数が減るが,操作が面倒になる。」(38頁,40頁。なお,38頁末行は40頁1行に続いている)。
オ「メーターパネルの例」の図(39頁。なお,図自体は省略)
「新機構を折り込んだタクシーメータは上図(1例)のごとく多くの操作部,表示部が必要になる。操作部,表示部の増設は,メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を与えるばかりでなく,操作性や視認性を損なうことにもなる。これらの対策としては,次の方法が考えられる。
・表示部のマルチ化・・ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図る。
・操作部のマルチ化・・関数電卓等に使用されている「SHIFT」機能のように,一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択する。」(39頁)
カ「5.4機能の多様化と運賃料金の表示・・・5.4.2 表示装置
現在の表示装置の特徴は,
・メータの本体と一体化している。
・表示窓は二つしかない。
・自発光性の機構によって数字か,一定の文字だけを表す。
・乗客と乗務員が同じ表示を見る。
となっている。これと同じ思想で新型メーターに対応する表示窓を増やした表示部を想定したものが前掲39ページの図である。この図は,ほぼ現在のメータ前面寸法の原寸(150×50mm)になっているが,このままでは表示される字が小さくて実用にならないと思われる。
これの対策としては,
・表示機構に一つの大きな液晶画面を使用して,内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示する。・・・などの方法を更に検討する必要がある。5.4.3 表示装置の取付位置・・・この場合,液晶画面を使用する表示機構ならば漢字,図形なども自由に表示できるが,現状では斜め方向から見にくいなどの欠点を改良する必要があろう。」(42~43頁)
(2) 甲1の上記記載によれば,①甲1作成当時のタクシーメータの表示装置は,表示窓は二つしかなく,自発光性の機構によって数字か,一定の文字だけを表すものであったこと,②タクシーメータの料金項目の多様化に伴い,乗客とのトラブルの発生を避けるために,運賃料金が計算される条件(例えば,割増・割引の理由,割増・割引率,乗車人数,荷物の数など)を明確に表示する必要が生じたこと,③多種類の運賃料金項目を盛り込む場合には,それ相応の表示装置を備えなければならないが,操作部,表示部の増設は,メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を与える上,操作性や視認性を損なうこと,④従来と同じ技術思想で新型メータに対応する表示窓を増やした表示を想定したのが,39頁の図(「メーターパネルの例」)であるが,表示される字が小さくて実用的には使用できないこと,⑤その対策として,表示部については,ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し,プログラムにより表示内容を変更し,表示部の省スペース化を図ることを検討し,操作部については,一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択することを検討する必要があったこと,⑥機能を選択方式としては,従来多用しているプッシュボタン式のほかに,表示とボタンを兼用する方法としてディスプレイタッチが考えられ,液晶画面を使用する表示機構であれば漢字,図形なども自由に表示することが可能となること,が開示されているということができる。
また,甲1の39頁の「表示部のマルチ化」の部分には,新機構を盛り込んだタクシーメータの問題点に対する対策が記載されているところ,これらの新機構を盛り込んだ新型メータの詳細については,甲1の「5.具体的課題とその対応方法」において検討され「割増の事由や割増率(11頁)」「人数,荷物の個数(20頁)「待」の状態であること(27頁)などの機能を表示部に表示することが記載されている。したがって,甲1の39頁の「表示部」には,料金にとどまらず, 運賃料金を計算する条件を文字で表示することが予定されているというべきである。本件明細書においては「空車,賃走,割増,迎車,支払等」をタリフとして例示しているが,甲1の表示部にも「割増の事由や割増率」などを表示することが記載されているのであるから,甲1の39頁にいう「表示部」には,タリフ表示も含むということができる。
また,甲1には,上記のとおり,機能選択方式としてディスプレイタッチを採用することが開示されている。ディスプレイタッチは,表示とボタンを兼用する方法であり,プッシュボタンの代わりに,ディスプレイタッチを39頁の図に適用した場合には,少なくとも「人数, 」,「荷物」,「迎車」等の料金を表示する部分,及び運賃を表示する部分が,デイスプレイタッチに対応するものと解される。このように,甲1は,少なくとも人数,荷物,迎車等のタリフ表示を,ディスプレイタッチで表示することが示唆され,そのためには,これらのタリフ表示をドットマトリックス方式で行うことが前提となる。
以上のとおり,甲1には,タリフ表示も含む表示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されているということができる。したがって「タリフ表示部までにもドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができない」とした審決の認定は誤りである。
(3) これに対し,被告は,タリフ表示部については,あらかじめ設けられたタリフを表示灯により照射するものであり,料金表示部とは表示方式が異なるのであり,甲1の39頁には,どのようにしてドットマトリックス方式を採用して表示するかについての具体的な記載もないと主張する。
しかしながら,甲1発明より以前の表示装置は,あらかじめ設けられたタリフを表示灯により照射するものであったとしても,甲1においては,前記判示のとおり,タクシーメータの機能の多様化に伴い,運賃料金が計算される条件(例えば,割増・割引の理由,割増・割引率,乗車人数,荷物の数など)を明確に表示する必要性が強調され,従来とは異なる思想に基づく表示装置として,表示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されるとともに,機能選択方式としてディスプレイタッチを採用することが記載されているのであるから,甲1の「表示部」には,タリフを含む新たな機能をドットマトリックス方式で表示することが意図されていたというべきである。
また,被告は,甲1は,各社の願望的なアイデアをまとめた報告書であり,抽象的なアイデアが多々含まれているが,このような甲1を引用例として用いる場合には,そこに開示されている具体的な内容を慎重に認定すべきであり,甲1の他の箇所で「表示部」が「タリフ表示部」も含むとしても,39頁の「表示部」について同様の解釈をすべきことを意味しないと主張する。
しかしながら,甲1は,新型タクシーメータの開発に関する調査報告書であるから,調査報告書内の関連する技術については,その全体を参酌して理解すべきものであり,とりわけ,39頁の図は,5.1項の機能全部を折り込んだ場合のメータ前面を想定しているのであるから,関連する「5.具体的課題とその対応方法」の記載は,特に考慮して,開示されている技術内容を認定する必要があることは当然である。
したがって,被告の主張は採用できない。
(4) 以上のとおり,原告の主張する取消事由1には理由がある。
2 取消事由2(甲8に記載された技術事項の認定の誤り)について
審決は,甲8の資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討報告」の別紙1に記載又は図示された事項について「これらの記載及び図から,図に記載された長方形は「割ボタン」,「迎車」,「料金関係」等の各機能毎に割り当てられたスイッチであり,これらのスイッチが複数の機能を兼用することは読み取れるが,これらのスイッチが具体的にどのような態様で複数の機能を兼用するのかは不明である・・・また,これらの機能をどのように表示するかについては,記載も示唆もない」と認定した。これに対し,原告は,甲8の別紙1のスイッチの機能をどのように表示するかについては記載も示唆もされていないとした審決の認定は誤りであると主張する。
甲8の資料第10(新型タクシーメータ開発課題検討報告)の「1.各種機能を組み込んだ基本設計」においては「運賃料金の割増,割引「人数・荷物割増」「運賃料金の合算1.固定迎車料金2.固定無線料金3.無線等待料金」「スリップ迎車機構」を含むイ~チの項目が挙げられ「2.運賃料金改定又は新しい運賃料金設定に効率的に対応できるメータ構造」の「ロ」においては「項目」として「多様な運賃料金制度に対応できる効率的なボタン・ノブ等のスイッチ機構及び運賃料金表示機構」,「項目の狙い」として「タクシーメータシステムの多機能化」,「検討結果」として「1項の各項目を網羅すると,少なくとも15種類くらいの切替えスイッチ及びタリフ指示部25桁くらいの表示部が必要となるため,車両への取付スペースの点から別紙1のような基本設計を検討した上で,都市・地域別に操作性等も考慮し,数種類の型式に分割する必要がある」と記載されている。
そして,この別紙1を見ると「部位」欄に「スイッチ」「方法(案)」欄に「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより同一スイッチを兼用する」と記載され,その下方には「例」として図が示されている。この図においては,3つの長方形からなる列が上下に2列記載され,これらの長方形は矢印で繋がれており,また,長方形の列の上方には,「割ボタン」,「迎車」,「料金関係」の文字の列がそれぞれの長方形に対応して記載され,長方形の列の下方には「1割引,3割増,2割増」, ←割ボタン,「無線固定,スリップ」←迎車「人員,荷物←料金関係」との文字の列が上下に3列記載されている。
また,別紙1の「スイッチ」欄には「方法(案)」として「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載があり,「表示機構」欄には「方法(案)」として「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」との記載がある。
甲8のこれらの記載及び図によれば,上記別紙1の図には,1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ,各項目の細分項目には,マトリックスにより同一スイッチを兼用することが記載されているということができ,同図を見れば「例えば,上側の列の「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,下側の列の各スイッチに,「1割引」,「3割増」,「2割増」の機能が割り当てられる,又は,上下に対応するスイッチは,同じスイッチであり「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると,次に,そのスイッチに「1割引」の機能が割り当てられ,その右側の「迎車」に対応するスイッチに「3割増」,「料金関係」に対応するスイッチに「2割増」が割り当てられる(審決書9頁5~10行)ことが明らかに読み取れるものと理解することができるというべきである。
また,上記別紙1には「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載があり「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」との記載もあるのであるから,別紙1に例示されたスイッチをディスプレイタッチ式とし,表示をドットマトリックス方式とすることも開示されているということができる。
これに対し,被告は,甲8の別紙1には,極めて抽象的な願望的アイデアが記載されているにすぎないなどと主張するが,甲8の資料第10には新機構が具体的に記載され,同資料の別紙1には,これらの新機構につけられたスイッチの具体例が示され同図からは前記判示のとおりの内容を読み取ることができるのであるから,被告の主張は採用の限りではない。
したがって,甲8の資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討報告」の別紙1には「割ボタン, 」,「迎車」,「料金関係」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼用することはもとより,これらのスイッチが複数の機能を兼用する態様やその表示についても記載されているというべきであり,これらの機能を兼用する態様やその表示について記載も示唆もないとする審決の認定判断は誤りである。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
審決は,本件発明1と甲1発明の相違点を,「本件発明1では「タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と,前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と,を有し,その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成する」のに対して,甲1発明では,タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部,その時の料金を逐次表示する料金表示部,その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部は,一体的に構成されておらず,また,上記料金表示部のみがドット方式の表示手段である点。」「本件発明1は,「タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」であるのに対して,甲1発明は,タクシーメータにおける料金,タリフ表示装置である点」と認定している。
これを整理すると,審決は,①タリフ選択表示部,料金表示部,タリフ表示部が,一体的に構成されているかどうか,②タリフ選択表示部,タリフ表示部が,ドット方式の表示手段かどうか,③そのときのタリフ位置に応じて表示文字選択手段が,タリフ表示部にタリフを表示するとともに,タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して,タリフ設定用画面を構成するかどうか,④タクシーメータにおける料金,タリフ,タリフ設定画面表示装置であるかどうかの4点において相違すると認定したものと理解できる。
(1) 上記相違点①②に関し,甲1には,タリフ表示部及び料金表示部を含む表示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されているということができることは前記判示のとおりである。また,表示部に選択すべきタリフを表示するかどうかは設計事項にすぎず,選択すべきタリフを表示する場合には,選択されたタリフの表示,料金表示とともに,一体的に表示することが望ましいのは当然のことであるから,タリフ選択表示部をタリフ設定用入力手段の近傍に位置させてマトリックス方式で表示し,表示部をタリフ選択表示部,料金表示部,タリフ表示部を一体的に構成することは,当業者であれば容易に想到し得る事項である。
上記相違点③に関し,甲1には,タリフ表示をドットマトリックス方式で行うことが記載されているということができるのであるから,タリフ表示部に選択されたタリフを表示すること,つまり「その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が,前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示する」ことが記載されていることは明らかである。
また,甲1には「SHIFT」機能のように,一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて,シフトボタンで機能を選択するようにすることが開示され,また,甲8の資料第10の別紙1の図にも,1つのスイッチが複数の機能又はその細分項目の選択肢を兼ねることが開示されている。さらに,同別紙には「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」などの記載もあり,スイッチをディスプレイタッチ方式又はドットマトリックス方式で表示することが開示されている。
こうした甲1及び8の記載によれば,当業者であれば,タリフ選択表示部の表示をドットマトリックス方式とした上で,各選択表示が複数の選択肢を兼ねるように構成し,選択されたタリフ(例えば,割増)に応じて,表示文字選択手段が,タリフ選択表示部に当該タリフの細分項目(2割,3割,4割)を表示するようにすることは容易に想到し得るというべきである。
したがって,上記相違点③の構成は,甲1発明及び甲8に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
上記相違点④に関し,審決は「本件発明1は「タクシーメータにおける料金,タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」であるのに対して,甲1発明は,タクシーメータにおける料金,タリフ表示装置である点」を相違点とするが,タクシーメータに画面表示装置にタリフ設定画面表示を設けることは,設計事項にすぎないというべきである。
以上,審決が認定した相違点は,甲1に記載されているか,あるいは甲1発明及び甲8記載の技術事項から容易に想到し得たものである。したがって,上記相違点に係る構成は容易に想到し得ないとした審決の判断は誤りである。
(2) 仮に,審決の認定するとおり,甲1のタリフ表示部について,ドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができず,甲8の資料第10の別紙1のスイッチの機能の態様や表示が明らかでないとしても,前記,判示のとおり表示部に選択すべきタリフを表示するかどうかは設計事項にすぎず,選択すべきタリフを表示する場合には,タクシー運転手や乗客の便宜を考えれば,表示画面においてタリフ選択表示部,料金表示部,タリフ表示部を一体的に構成することは,至極当然のことである。
また,甲1には,タリフ表示をドットマトリックス方式で表示することが記載されていないとしても,料金表示をドットマトリックス方式で表示することは開示されており,また,甲3に「ドットマトリックス表示装置で表示を行う・・・小型電子機器において,カタカナ,アルファベット,数字等の多くの情報を入力する場合に(1頁右欄11~14行)」と記載されているとおり,文字をドットマトリックス方式で行うこと自体は周知の技術であったのであるから,料金表示,タリフ表示,タリフ選択表示をいずれもドットマトリックス方式で行うことも,容易に想到し得ることである。
さらに,甲1には,1つの操作ボタンに2つ以上の機能を与えることが開示され,甲8にも1つのスイッチが複数の機能又はその細分項目の選択肢を兼ねることが開示されている上,甲1と8はいずれもタッチパネルについて言及していることは前記判示のとおりである。一般に,表示画面の操作部において,複数の選択肢が示され,その中から一つの機能を選択すると,同一のスイッチ等が細分項目の選択肢を兼ねるように構成することは,ごくありふれた構成にすぎない。タクシーメータにおいても,スイッチの近傍にタリフ選択表示部を設けて選択肢を表示し,スイッチまたはタッチパネル化されたタリフ選択表示部にタリフを割り当て,その中から一つのタリフを選択すると,同一の位置に,当該タリフに対応する細目的な選択肢を表示する構成とすることは当業者が通常工夫する事項の範囲内というべきであり, タクシーメータについてこのような構成を想起することが困難であることをうかがわせる事情も存在しない。
以上のとおり,仮に,甲1,8についての審決の認定を前提としても,本件発明1は,甲1,3,4,8に基づき,当業者が容易に想到し得たものということができる。
(3) 審決は,本件発明1により,料金,タリフ位置表示の明瞭化,タリフ設定の容易化,タクシーメータのハード変更の不要化,コスト削減などの作用効果を奏すると判断した。しかしながら,これらの効果は,甲1,8に基づき,本件発明1の構成とすることにより当然に奏するものと予測されるものにすぎず,予期しない顕著な作用効果であるということはできない。
(4) 以上のとおり「本件発明1は,甲1,甲3,甲4,及び甲8に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない」とした審決の判断は,誤りであるから,取消事由3には理由がある。
4 取消事由4(本件発明2ないし4の進歩性についての判断の誤り)について
本件発明1が,甲1,甲3,甲4及び甲8に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであることは,前示のとおりである。
本件発明2は,請求項1の記載を引用するものであって,請求項1の表示手段が,さらに「液晶表示板を利用してなる」ものであるが,液晶表示板を利用してなる表示手段は,甲1に記載されているのであるから,当業者であれば容易に想到し得たものである。
本件発明3も,請求項1の記載を引用するものであって,請求項1の表示手段が,さらに「蛍光表示管を利用してなる」ものであるが,蛍光表示管を利用してなる表示手段は,被告も甲1発明当時の機種である「アロフレンド18」のタリフ表示部に蛍光部が設けられていたことを認めているとおり,タクシーメータにおいて周知である。
そして,本件発明4も,請求項1の記載を引用するものであって,請求項1のタリフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が,さらに「液晶表示板の表面に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが積層され,一体的に構成されてなる」ものであるが,この構成は,ディスプレイタッチが普通に備えているものであり,また,ディスプレイタッチが,甲1及び8に記載されていることは,前記判示のとおりである。
したがって,本件発明1を引用する本件発明2ないし4は,いずれも,甲1,3,4,8に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるのであり,原告の主張する取消事由4には理由がある。
5 結論
以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由があるから,審決は取消しを免れない。