平成19年(行ケ)第10141号審決取消請求事件
主文
特許庁が不服2004-8032号事件について平成18年12月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
本件は,原告が,名称を「車両の乗員保護装置」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲第16号証)
出願人:シーメンスアクチエンゲゼルシャフト(原告)
発明の名称:「車両の乗員保護装置」
出願番号:特願2000-514802号
出願日:1998年(平成10年)9月30日(国際出願)
優先権主張日:1997年(平成9年)10月2日(ドイツ)
(2) 本件手続
手続補正日:平成14年11月18日(甲第5号証)
拒絶査定日:平成16年1月19日(甲第8号証)
審判請求日:平成16年4月20日(不服2004-8032号(甲第10号証)
手続補正日:平成16年4月20日(甲第9号証,以下「本件補正」という)
審決日:平成18年12月18日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない」
審決謄本送達日:平成19年1月5日
2 発明の要旨
(1) 審決は,本件補正を却下し,平成14年11月18日付け手続補正後の請求項1に記載された発明を対象としたものであるところ,この発明の要旨は下記のとおりである(なお,請求項の数は8個である。)。
「【請求項1】車両の車体要素(1)のバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路(5)とを有することを特徴とする車両の乗員保護装置」
(2) 本件補正後の請求項1に記載された発明の要旨は下記のとおりである(下線部分が本件補正に係る部分であり,以下,この発明を「本件補正発明」という。なお,本件補正後の請求項の数は8個である。)。
「【請求項1】車両の車体要素(1)の10kHz以上のバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路(5)とを有することを特徴とする車両の乗員保護装置」
3 審決の理由の要点
審決は,本件補正発明は,特開平8-58502号公報(以下「引用文献」という)に記載された発明(以下「引用発明」という)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,同法17条の2第5項が準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきであるとし(同法17条の2第5項,159条1項,53条1項は,いずれも,平成18年法律第55号による改正前のもの,上記2(1)記載の発明を対象とした上,同発明は,本件補正発明と同様の理由により,引用文献記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
審決の理由中,本件補正の適否の判断における,引用文献の記載事項の認定,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定,相違点についての判断は,以下のとおりである。
(1) 引用文献の記載事項の認定
「特開平8-58502号公報(引用文献)には、車両安全装置用制御装置に関し図面とともに、以下の事項が記載されている。
(あ)『【作用】請求項1記載の発明に係る車両安全装置用制御装置においては、車両が衝突した際に発生する超音波が超音波検出手段により検出されると、感度変更手段により加速度検出手段の感度が実質的に変更、すなわち、いわゆるセンサ自体の感度を変えるか又はセンサ自体の感度は維持したまま、その出力信号を処理する際の閾値に相当するものを変えることで、あたかもセンサ自体の感度が変更されたと等価な状態とし、感度の実質的変更が行われることで、この加速度を積分して得られる車両速度が所定値を越えたか否かの判断がより的確な時期に行われることとなるものである。』(【0013】)
(い)『超音波センサ2は、本装置が搭載される車両が衝突により破壊に至る場合に発生する超音波(詳細は後述)を検知するためのもので、例えば、圧電セラミックスを用いてなるものが好適である。本実施例における装置は、いわゆるシングル・ポイントセンサ方式を採用するものであるので、上述した加速度センサ1及び超音波センサ2は同一の場所に取り付けられ、具体的には、例えば、ギヤチェンジがいわゆるフロアシフトタイプの車両にあっては、チャンジレバーの前方側(車体の前方側)に配設される。』(【0022】)
(う)『このCPU3は、後述するように制御プログラムの実行により、加速度センサ1及び超音波センサ2のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて適宜な時期にスクイブ10に通電を行うことによって、車両安全装置としてのエアバック装置(図示せず)を起動するものである。』(【0024】)
(え)『本発明者は、衝突時に車体に生ずる種々の現象について鋭意研究の結果、図3(c)に示されたように、衝突の際に超音波が出現することを突き止めた。すなわち本発明者は、この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること、従来、いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間(図3の例では時刻t1 乃至時刻t2の間に相当する期間)でのエアバック装置の適切な動作を設定することが困難であったこと、超音波はこのクラッシャブルゾーンにおいても十分出現していることに着目し、時刻t 1 乃至時刻t2 の間において、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバック装置がより動作し易くなる方向)することで、エアバック装置の確実な動作を得ることのできる本装置に関する発明をするに至ったものである。』(【0038】)
(お)(え)で摘記したように引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される。
(か)また、拒絶査定で提示した、超音波便覧編集委員会編『超音波便覧』,丸善株式会社,平成11年8月30日、第395頁には『超音波の波長に比べて物体が十分に大きい場合にはその影響を無視することができ、無限に広い物質中を伝わる超音波と考えても良いことになる。このような超音波をバルク波と呼ぶ』と記載されており、引用文献記載の超音波(超音波とは、一般的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とされている)は、本願補正発明(10kHz以上)同様、バルク波といえる。
以上を総合すると、引用文献には『車両の車体要素のバルク波の横波成分を検出する超音波センサ2と、バルク波の横波成分が検知された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバック装置がより動作し易くなる方向)するCPU3とを有する車両安全装置用制御装置』の発明(引用発明)が記載されているものと認められる」
(2) 本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
「本願補正発明と引用発明を対比するに、引用発明の『横波成分』、『超音波センサ2』、『CPU3』、『車両安全装置用制御装置』は、本願補正発明の、『トランスバーサル方向の振れ』、『センサ』、『評価回路『車両の乗員保護装置』に相当する。』
また、バルク波の横波が検知された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定してエアバック装置がより動作し易くなるようにするということは、検出されたバルク波の横波、すなわち、トランスバーサル方向の振れに依存して、車両の乗員保護手段であるエアバック装置を制御していることにほかならないから、引用発明の『バルク波の横波が検知された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバック装置がより動作し易くなる方向)する』は本願補正発明の『検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する』に相当している。
したがって、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおり認定できる。
[一致点]車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサと検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れに依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路とを有する車両の乗員保護装置。
[相違点]バルク波の周波数が、本願補正発明では、10kHz以上と特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定が無い点」
(3) 相違点についての判断
「以下、前記相違点につき検討する。超音波とは、前述したように、一般的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とされており、引用発明の超音波センサも係る領域の音波、弾性振動を検出するものと認められる。本願補正発明では、それより低い周波数も包含するが、下限を10kHzにすることに臨界的意義はなく、相違点の構成は、当業者が、適宜選択すべき設計的事項である。
そして、本願補正発明により得られる効果も、引用発明から、当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本件補正の適否の判断において,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤り,さらに,相違点についての判断を誤った結果,本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの誤った結論に至り,ひいて,独立特許要件の欠缺を理由として,本件補正を却下したことにより,本願発明の要旨の認定を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 審決は,引用文献の記載事項(え)に関し「引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される。」(記載事項(お)との誤った認定をし,かつ,本願補正発明と引用発明の構成及び作用効果に大きな相違があることを看過した結果,本願補正発明と引用発明とが「車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサと検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れに依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路とを有する車両の乗員保護装置」である点で一致するとの誤った認定に至ったものである。
(2)ア引用文献の段落【0038】には,審決の認定に係る記載事項(え)のとおり記載されているが,同記載中の「この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」とは,衝突により発生する超音波(超音波検出センサに入力される超音波の信号)が,正面衝突でも偏角衝突でも必ず出現するということ,すなわち,ある角度の衝突では超音波が発生しないなどということはなく,正面衝突でも偏角衝突でも,その衝突によって必ず超音波が発生するから,いかなる衝突でもその超音波を利用することができるということを意味しているのみであって(なお,衝突の角度に依存して,その衝撃の大きさおよび超音波が伝搬するルートとなる車体の部品の構造,材質が異なるから,衝突時に発生する超音波の周波数が異なるのは当然である。),その超音波をどのような原理の検出センサで検出するかは記載されておらず,超音波検出センサの検出信号に横波成分が含まれるなどということは意味していない。引用文献には,そもそも超音波の縦波成分と横波成分とを意識した記載は全く存在しないのである。
したがって,審決が,記載事項(え)のうちの上記「この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」との記載から「引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される。」(記載事項(お)と認定したことは誤りであり,この認定に基づいて,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したことも誤りである。
イ被告は,圧電セラミックスのような圧電素子によって,物質内における振動を捉えようとする場合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動の振幅の大きい横波成分が検出されることは必然であると主張する。
しかしながら,特開平11-196493号公報(甲第13号証)の段落【0008】特開平5-141948号公報(甲第14号証)の段落【0007】,特開平9-210694号公報(甲第15号証)の段落【0020】,【0021】には,それぞれ圧電セラミックスを使用したセンサではあるが,検出回路の構成によって,縦波成分のみを検出するセンサが開示されており,また,特開平5-19946号公報(乙第1号証)の段落【0049】には,同様のセンサが示唆されている。そして,このように,圧電セラミックスを使用したセンサであっても,縦波成分のみを検出するセンサが存在するのであるから,被告の上記主張は誤りである。
また,被告は,引用発明がクラッシャブルゾーンの破壊の間の超音波を検出するもので,衝突後ごく早い時期に超音波を検出しようというものではないから,当然に超音波の横波成分が検出されていると主張するが,クラッシャブルゾーンとは,車両の全部が破壊される期間,すなわち,運転者に被害が及んでいない期間を意味し,縦波や横波を区別する期間ではないから,上記主張は失当である。
さらに,被告は,本願補正発明の「センサ」についても横波成分を検出することができるということ以上の限定はないから,審決が,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したことに誤りはないと主張する。
しかしながら,本願補正発明の要旨の「バルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)を検出するセンサ(3) 」との規定に照らして,本願補正発明の主たる検出成分が横波であることは明らかであるのに対し,引用文献には,引用発明の超音波検出原理や,その主たる検出成分が横波であることは一切開示されていないのであるから,本願補正発明が,引用発明を排除していることは明らかであり,したがって,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致するとした審決の認定は誤りである。
(3)ア本願補正発明の要旨に,「バルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路(5)」と規定されているとおり,本願補正発明は,バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出して,その検出したトランスバーサル方向の振れに依存して,すなわち,トランスバーサル方向の振れに基づいて車両の乗員保護手段を制御するものである。
これに対し,引用発明は,その請求項1が「車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手段と、前記加速度検出手段により検出された加速度を積分することによって算出される車両速度が基準値を越えたか否かを判定する動作判定手段とを具備し、前記動作判定手段の判定結果に基づいて車両安全装置の動作を制御するようにした車両安全装置用制御装置において、車両の衝突の際に発生する超音波を検出する超音波検出手段と、前記超音波検出手段により超音波が検出された場合に前記加速度検出手段の検出感度を実質的に変更する感度変更手段と、を設けたことを特徴とする車両安全装置用制御装置」と規定するとおり,加速度を検出し,その加速度に依存して,すなわち,加速度に基づいて車両の乗員保護手段を制御するものである。
そして,本件補正後の明細書(甲第9号証(以下「本願補正明細書」という)の段落【0026】に記載されているとおり,バルク波のスペクトル成分は10kHz以上であるのに対し,加速度のスペクトル成分は400Hz以下であって,加速度に依存した検出方法は検出速度が遅くなるという欠点を有しており,本願補正発明と引用発明とは,上記構成の相違により,作用効果が異なるものである。
したがって,この点を捨象した審決の一致点の認定は誤りである。
イ被告は,本願補正明細書の段落【0019】及び図3に,本願補正発明の実施例として「バルク波センサ3」と「加速度センサ4」が存在し,この両センサからの検出信号を受けて「評価回路」にてその両信号を総合評価して制御するものが挙げられていると主張する。
しかしながら,図3及びこれについての本願補正明細書の段落【0019】の記載は本願補正発明(本件補正後の請求項1に記載された発明)ではなく,本件補正後の請求項8記載の発明についてのものであるから,被告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は,その認定に係る,本願補正発明と引用発明との相違点である「バルク波の周波数が、本願補正発明では、10kHz以上と特定されているのに対し、引用発明では、係る特定が無い点」につき,本願補正発明が「超音波とは・・・一般的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とされており、引用発明の超音波センサも係る領域の音波、弾性振動を検出するものと認められる。本願補正発明では、それより低い周波数も包含するが、下限を10kHzにすることに臨界的意義はなく、相違点の構成は、当業者が、適宜選択すべき設計的事項である」と判断した。
しかしながら,本願補正発明は,従来20kHz以上の衝突振動の下でしか使用できなかった乗員保護装置を,10kHz以上の衝突振動にまで拡大して使用できるようにしたものであり,乗員保護装置の制御に使用できる周波数の下限値を更に低くした点に臨界的意義が見出せるものである。
したがって,審決の相違点についての判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
(1) 原告は,審決が,引用文献の記載事項(え)のうちの「この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」との記載から「引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される」と認定したことは誤りであり,この認定に基づく一致点の認定も誤りであると主張する。
しかしながら,一般に,物質内部を伝播する振動には,縦波と横波とが存在する。そして,本願補正明細書に「縦波の振れは振幅が小さい・・・しかもこの振れは衝突方向でしか発生しない。」(段落【0003】)と記載されているとおり,縦波は,横波に比べて,その伝播速度は速いが,振動の振幅が小さくてエネルギー量は少なく,衝突の場合に,縦波の振動は衝突方向でしか発生しない。そうすると,衝突をごく早い時期に検出しようとすれば,縦波を検出することが効果的であるが,それには感度のよいセンサを必要とし,感度のよいセンサを使用すれば,ノイズを拾いやすいという問題が生ずる。そこで,若干検出が遅くとも確実に衝突の振動を検出しようとする場合には,横波を検出することが考えられる。
しかるところ,引用発明は「衝突の際に超音波が出現することを突き止めた」(引用文献段落【0038】,引用文献の記載事項(え)ことにより,この超音波を検出すべく,好適には圧電セラミックスを用いてなる超音波センサを車両に取り付けるものである(引用文献段落【0022】,引用文献の記載事項(い))。そして,圧電セラミックスのような圧電素子によって,物質内における振動を捉えようとする場合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動の振幅の大きい横波成分が検出されることは必然である。この検出された超音波を電気信号として取り出し,これを処理すれば,その中に横波成分が含まれることとなるのは明らかである。
引用発明は,いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間の超音波を検出するもの(段落【0059】)であり,衝突後ごく早い時期に超音波を検出しようというものではないから,当然に超音波の横波成分が検出されているのであって,これを信号として取り出しているものである。他方,本願補正発明の「センサ」についても横波成分を検出することができるということ以上の限定はない。
そうであれば,審決が,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したことに誤りはない。
(2) 原告は,本願補正発明がバルク波のトランスバーサル方向の振れに基づいて車両の乗員保護手段を制御するものであるのに対し,引用発明が加速度に基づいて車両の乗員保護手段を制御するものであるところ,加速度に依存した検出方法は検出速度が遅くなるという欠点を有しており,本願補正発明と引用発明とは,作用効果が異なるものであると主張する。
しかしながら,本願補正明細書(段落【0019】)及び本件出願に係る図面(甲第16号証図3)には,本願補正発明の実施例として「バルク波センサ3」と「加速度センサ4」が存在し,この両センサからの検出信号を受けて「評価回路」にてその両信号を総合評価して制御するものが挙げられている。
他方,引用発明は,加速度を検出することを主体とするものであるが,引用発明においても,加速度と超音波を検出して,この両信号を総合評価して制御しているということができるのであるから,この限りにおいて両者に差異はない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対し
原告は,本願補正発明が,従来20kHz以上の衝突振動の下でしか使用できなかった乗員保護装置を,10kHz以上の衝突振動にまで拡大して使用できるようにしたものであり,乗員保護装置の制御に使用できる周波数の下限値を更に低くした点に臨界的意義が見出せるものであると主張する。
しかしながら,本願補正明細書には,下限値を10kHzとしたことの臨界的意義について,格別の記載がないから,かかる臨界的意義を認めることはできず,そうであれば「10kHz以上」との数値範囲は,設計的に適宜選択できた事項とせざるを得ない。
したがって,この点についての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 原告は,審決が引用した引用文献の「この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」との記載は,超音波検出センサの検出信号に横波成分が含まれるということを意味しておらず,引用文献には,そもそも超音波の縦波成分と横波成分とを意識した記載は全く存在しないのであるから,審決が,引用文献記載の発明(引用発明)を「車両の車体要素のバルク波の横波成分を検出する超音波センサ2・・・を有する車両安全装置用制御装置」と認定した上,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したことは誤りであると主張する。
(2) 引用文献の請求項1には「車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手段と、前記加速度検出手段により検出された加速度を積分することによって算出される車両速度が基準値を越えたか否かを判定する動作判定手段とを具備し、前記動作判定手段の判定結果に基づいて車両安全装置の動作を制御するようにした車両安全装置用制御装置において、車両の衝突の際に発生する超音波を検出する超音波検出手段と、前記超音波検出手段により超音波が検出された場合に前記加速度検出手段の検出感度を実質的に変更する感度変更手段と、を設けたことを特徴とする車両安全装置用制御装置」の発明が記載され,その発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
ア「【従来の技術】従来、この種の車両安全装置用制御装置として公知・周知となっているものに・・・加速度センサと、この加速度センサの出力信号を積分する積分回路とを設け、車両の速度を算出し、この算出された車両速度をエアバック装置を動作させるか否かの判断データとして用いるように構成されたものがある。このような車両安全装置制御装置において、加速度センサの設置は、複数の箇所に設けられる場合と、特定の一箇所に設ける場合とがあり、・・・後者のように一箇所にセンサを設置して加速度の検知を行う場合をシングル・ポイントセンサ方式と称することがある。現在用いられている車両安全装置制御装置においては、シングル・ポイントセンサ方式を採用しているものが多い。」(段落【0002】~【0003】)
イ「発明が解決しようとする課題・・・このようなシングル・ポイントセンサ方式に適する車両衝突時における車両の破壊過程としては、例えば・・・エンジン20が車両の前部に搭載され、前輪側が駆動されるいわゆるFF車の場合、次のような破壊形態が理想的であると考えられる・・・すなわち、バンパー21の剛性が高いという条件の下、車両が高速で他の車両等の障害物23に正面衝突したとすると、バンパー21による適度な衝撃吸収が行われつつ、バンパー21とエンジン20のあるエンジンブロックとの間、すなわちいわゆるクラッシャブルゾーン22が徐々に圧縮されてゆき、最後にエンジンブロックに強い衝撃が加わり破壊されるような形態である。このような衝突形態においては、加速度の変化は・・・初めはバンパー21の衝撃力による減速度(負の加速度)が生じ、減速度最大の点(負の領域での加速度の絶対値が最大の点)が現れ、その点以後再び減速度が小さくなるような変化を来す領域イ・・・と、続いて減速度が小さく変動する領域ロ、さらに減速度が大きく変化してゆき、先の領域イよりも大きな減速度最大の点が現れ、それ以後減速度が小さくなってゆく領域ハとに大別される。ところが、上述したような破壊過程が車両構造の違いに伴い異なることから、加速度の変化も車両構造の違いによって異なってくるため、この加速度から車両速度を求め、この車両速度が特定の基準値を越えた場合にエアバック装置を動作させるようにした従来の装置においては、基準値を車両構造に拘わらず、タイミングのよいエアバック装置の動作を得ることのできる基準値を設定することが困難であるという問題があった。本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、車両構造の違いに拘わらず確実な動作を得ることのできる車両安全装置用制御装置を提供するものである。本発明の他の目的は、正面衝突のみならず偏角衝突の場合にも確実な動作を確保できる車両安全装置用制御装置を提供することにある。」(段落【0004】~【0009】)
ウ「【作用】請求項1記載の発明に係る車両安全装置用制御装置においては、車両が衝突した際に発生する超音波が超音波検出手段により検出されると、感度変更手段により加速度検出手段の感度が実質的に変更、すなわち、いわゆるセンサ自体の感度を変えるか又はセンサ自体の感度は維持したまま、その出力信号を処理する際の閾値に相当するものを変えることで、あたかもセンサ自体の感度が変更されたと等価な状態とし、感度の実質的変更が行われることで、この加速度を積分して得られる車両速度が所定値を越えたか否かの判断がより的確な時期に行われることとなるものである。」(段落【0013】,審決の記載事項の認定(あ))
エ「超音波センサ2は、本装置が搭載される車両が衝突により破壊に至る場合に発生する超音波(詳細は後述)を検知するためのもので、例えば、圧電セラミックスを用いてなるものが好適である。本実施例における装置は、いわゆるシングル・ポイントセンサ方式を採用するものであるので、上述した加速度センサ1及び超音波センサ2は同一の場所に取り付けられ、具体的には、例えば、ギヤチェンジがいわゆるフロアシフトタイプの車両にあっては、チャンジレバーの前方側(車体の前方側)に配設される。」(段落【0022】,審決の記載事項の認定(い))
オ「CPU3は、後述するように制御プログラムの実行により、加速度センサ1及び超音波センサ2のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて適宜な時期にスクイブ10に通電を行うことによって、車両安全装置としてのエアバック装置(図示せず)を起動するものである。本実施例においては、先の加速度センサ1、超音波センサ2の出力端子は、それぞれこのCPU3のA/D入力端子に接続されている。」(段落【0024】~【0025】,審決の記載事項の認定(う)を含む)
カ「本発明者は、衝突時に車体に生ずる種々の現象について鋭意研究の結果、図3(c)に示されたように、衝突の際に超音波が出現することを突き止めた。すなわち本発明者は、この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること、従来、いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間(図3の例では時刻t1 乃至時刻t2 の間に相当する期間)でのエアバック装置の適切な動作を設定することが困難であったこと、超音波はこのクラッシャブルゾーンにおいても十分出現していることに着目し、時刻t1 乃至時刻t2 の間において、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバック装置がより動作し易くなる方向)することで、エアバック装置の確実な動作を得ることのできる本装置に関する発明をするに至ったものである。」(段落【0038】,審決の記載事項の認定(え)
キ「図2には上述の技術的思想を実現するため、CPU3により実行される制御手順を表すフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ具体的に説明する。」(段落【0040】)
ク「ステップ106では、超音波センサ2により本装置が搭載された車両の衝突に起因して発生する超音波が検出されたか否かが判定され、超音波が検出されたと判定された場合(YESの場合)には、衝突経過時間の判定処理(図2のステップ108)がなされる一方、超音波が検出されないと判定された場合(NOの場合)には、スクイブ10への通電開始の判定基準となる速度演算値ΔVの基準値をL2 として(図2のステップ112)衝突判定処理(図2のステップ114)へ進むこととなる。一方、衝突経過時間の判定処理(図2のステップ108)は、衝突開始からの経過時間tが所定範囲内か否か、すなわちt1 <t≦t 2 が成立するか否かを判定するものである。ここで、時刻t1,t 2 は、図3の例で示されたようにいわゆるクラッシャブルゾーンの破壊が行われている期間に相当する値である。本実施例において、時刻t1,t 2 は、運転者の安全等の観点から本装置に要求されるエアバックの展開時間に、車両構造等を加味したシュミレーション結果を考慮して定められている。そして、t1 <t ≦t 2 が成立すると判定された場合(YESの場合)には、速度演算値ΔVの基準値がL1 と設定される(図2のステップ110)一方、t 1 <t≦t 2 が成立しないと判定された場合(NOの場合)には、基準値がL2(L 1 >L 2)とされる(図2のステップ112)こととなる。尚、このように、速度演算値ΔVの基準値を変えるという事は、加速度センサ1のいわゆるセンサ感度を実質的に変えることに相当するものである。」(段落【0043】~【0045】)
ケ「本実施例においては、超音波の発生が確認されるような衝突であって、衝突時間が所定範囲(t1 <t≦t 2)である場合に、この所定範囲において、エアバックを展開させるか否かの判断の基準となる速度演算値ΔVの判定の基準値を、高くする(正極側により近い値とする)ことにより、従来と異なり時間遅れを生ずるようなことなく、的確にエアバックの展開がなされることとなる。」(段落【0048】)
コ「例えば、砂利道等の悪路を走行する際や、道路の縁石を乗り越えた際等には、車体にある程度の衝撃が加わるために減速度が生じるが、場合によっては減速度から算出される速度演算値ΔVが判定の基準値を越えることとなる虞もある。このような場合に、従来のように単に速度演算値ΔVが一定値を越えたか否かだけで、エアバック装置の動作を決定するような装置にあっては、エアバックの動作を必要とする程でもないにも拘わらず動作してしまうような、いわゆる誤動作の危険性があった。しかながら、本実施例の装置においては、上述のように超音波が出ているか否かをもエアバック装置の動作を決定する判断要素としているので、上述のように悪路の走行や縁石の乗り越えにおいては、超音波の発生は本来の衝突の場合に比してわずかな期間であり、例えば、図3(c)の例のような時刻t1 以降までも継続するようなものではないと考えられるので、例え速度演算値ΔVが基準値を越えるようなものであっても、従来と異なり、上述のような誤動作が生ずることがなくなることとなる。」(段落【0053】~【0054】)
(3) 上記(2)の各記載によれば,引用発明は,シングル・ポイントセンサ方式による加速度センサと、この加速度センサの出力信号を積分する積分回路とを設け、車両の速度を算出し、この算出された車両速度が特定の基準値を越えた場合にエアバック装置を動作させるように構成された従来の車両安全装置用制御装置において,車両構造の相違により,車両衝突時における車両の破壊過程,ひいては加速度の変化が異なってくるため,車両構造のいかんにかかわらず、タイミングのよいエアバック装置の動作を得ることのできる基準値を設定することが困難であるという問題を解決すべき技術課題とし,車両構造の相違にかかわらず,かつ,正面衝突のみならず偏角衝突の場合にも確実な動作を確保し得る車両安全装置用制御装置を提供することを目的として,上記請求項1記載の構成を採用することとし,これにより,超音波センサ2(圧電セラミックスを用いて成るものが好適)が,車両が衝突から破壊に至る場合に発生する超音波を検知し,この車両衝突時に発生する超音波が検出されると,当該超音波センサ2と同一場所に取り付けられた加速度センサ1の感度が実質的に変更されるとしたものであること,すなわち,車両衝突時に発生する超音波は,正面衝突と偏角衝突において周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので,クラッシャブルゾーンの破壊が行われている期間(t1<t≦t2)においても十分出現していることに着目し,この期間において超音波が検出されれば,エアバックを展開させるか否かの判断基準となる速度演算値ΔVの判定の基準値をL2からL1(L1>L2。正極側により近い値とする)に変更する(実質的に,加速度センサのセンサ感度を,エアバック装置がより動作し易くなるように変更することに相当する)ことにより,時間遅れを生じることなく的確なエアバックの展開がなされるようにしたものであることが認められる。
なお,引用文献には,超音波に縦波と横波とがあることについて言及した記載は見当たらず,したがって,縦波と横波のそれぞれの特性についての記載や,超音波センサ2によって検出する超音波につき,それが縦波であるか,横波であるか,あるいはその双方を含むものであるかについての記載もない。
(4) ところで,一般に,固体物質中を伝搬する音波(超音波を含む)に,振動方向,振動数及び伝搬速度が相違する縦波と横波とがあることは,古くから知られており(例えば,昭和43年12月20日日刊工業新聞社発行の実吉純一ら監修「超音波技術便覧(「改訂3版」4頁,昭和50年6月30日株式会社工業調査会発行の島川正憲著「超音波工学-理論と実際-(初版)」12頁,昭和61年10月20日株式会社培風館発行の「物理学辞典-縮刷版-」261頁など),本件優先権主張日(平成9年10月2日)当時,周知の事項であったということができる。また,衝突によって発生した横波は,衝突の方向にかかわらず,あらゆる方向に伝搬すること(したがって,衝突の発生した方向に依存せずに検出されること)は技術常識というべきである(逆に,縦波が衝突の発生した方向にしか伝搬しないという点については本願補正明細書に縦波の・・・振れは衝突方向でしか発生しない。」(段落【0003】)との記載があるが,少なくとも,本件優先権主張日当時において,技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠はない。)。
しかるところ,審決は「(え)(判決注:上記(2)のカ)で摘記したように,引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される」とした上で,引用発明を「車両の車体要素のバルク波の横波成分を検出する超音波センサ2・・・を有する車両安全装置用制御装置」と認定し,さらに,引用発明の「横波成分」が本願補正発明の「トランスバーサル方向の振れ」に相当するとして,本願補正発明と引用発明とが「車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する車両の乗員保護装置。」である点で一致すると認定したものである。そして,被告は,引用文献に,超音波センサ2によって検出する超音波につき,それが縦波であるか,横波であるか,あるいはその双方を含むものであるかについての開示がされていないことに関し,縦波は,横波に比べて,その伝播速度は速いが,振動の振幅が小さくてエネルギー量は少なく,衝突の場合に,縦波の振動は衝突方向でしか発生しないから,確実に衝突の振動を検出しようとする場合には,横波を検出することが考えられるところ,圧電セラミックスによって物質内における振動を捉えようとする場合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動の振幅の大きい横波成分が検出されることは必然であって,この検出された超音波を電気信号として取り出し,これを処理すれば,その中に横波成分が含まれることとなるのは明らかであると主張する。
そうすると,それ自体としては,超音波センサ2によって検出する超音波が,縦波であるか,横波であるか,あるいはその双方を含むものであるかについての開示がない引用発明につき,審決が,本願補正発明との上記一致点の認定に及んだのは,圧電セラミックスを用いて成る振動センサが横波成分を検出することが必然であるという判断と「横波」を検出することのみならず「横波成分」を検出すること,すなわち,例えば横波と縦波が重なった振動波(超音波)を振動センサで検出し,この検出された超音波を電気信号として取り出して処理することにより,横波成分を分離し得るというような場合であっても,なお,本願補正発明の「センサがトランスバーサル方向の振れを検出する」ことに相当するという判断を,その前提とするものであるということができる。
(5) しかるところ,特開平5-141948号公報(甲第14号証)の「【作用】このように、圧電セラミックスの振動センサを支持アーム側に取付けて、支持アームの厚さを振動センサの受信周波数と支持アームを伝搬する超音波の縦波音速との関係で決定することで、縦波の超音波を支持アームの厚さ方向に定在させることができる。このことで、突起検出ヘッドが衝撃を受けて発生した音波をサスペンションばねを介して支持アームに伝達し、かつ、支持アームが厚さに対応する半波長の整数倍の縦波音波を共振状態で蓄える。これにより支持アームの共振振動をこの振動に対応する振動をもつ振動センサで効率よく検出する。」(段落【0007】)との記載,及び特開平9-210694号公報(甲第15号証)の「本発明は・・・特にカーボン・ファイバーに超音波を伝搬させた超音波ファイバー・ジャイロ・センサに関する。」(段落【0001】),「図2は、振動発生手段1及び振動検出手段2aまたは2bと、線材3aまたは3bとの接続構成例の1つとして、圧電セラミックスとカーボン・ファイバーとの接続を示す構成図である・・・出力側となる振動検出手段2a,2bでも2枚の圧電セラミックスに線材(カーボン・ファイバー)3a(又は3b)が挟持されている。入力側において圧電セラミックス1aと1bとの間に、外部から所定の交流電圧が印加されると、圧電セラミックス1a,1bは同一方向に伸縮を繰り返して歪みを生じ、線材3a(又は3b)に縦波を重畳することができる。この縦波は線材(カーボン・ファイバー)3a(又は3b)中を伝搬し、出力側に設けられた圧電セラミックスに伝えられる。圧電セラミックスでは、この縦波を受けることにより歪みが発生する・・・この歪みにより振動検出手段2a,2bの圧電セラミックスに誘電分極が引き起され、各々電圧を発生することができる。また、この場合において横波も一緒に重畳されることになるが、上記したように筒体(ボビン)などにカーボン・ファイバー3a(又は3b)が巻き付けられ固定されることにより、横波は打ち消されるので出力側に伝搬されることはない。」(段落【0020】~【0021】)との記載によれば,これらの公報には,圧電セラミックスを用いた振動検出手段(振動センサ)によって,超音波のうちの縦波を選択的に検出することが記載されていると認めることができる。
そうすると,圧電セラミックスを用いて成る振動センサであるからといって,必然的又は不可避的に横波(成分)を検出するものということができないことは明らかである。
(6) さらに,特開平5-19946号公報(乙第1号証)には「【従来の技術】従来より、振動伝達板に圧電素子などを内蔵した振動ペンにより振動入力を行い、振動伝達板に設けた複数のセンサにより入力点の座標を検出する座標入力装置が知られている。このような座標入力装置では、図11に示すように振動を検出するため振動伝達板8の周辺部で圧電素子により構成されるセンサ6を振動伝達板表面に垂直に装着していた。(段落【0002】~【0003】「【発明が解決しようとしている課題】しかしながら、従来のセンサ構成で検出される検出波形は2つのモードが重なった歪んだ波形であり、精度低下の原因となっていた。これは、次の様に説明される。板状の振動体を伝播する振動は、周波数と振動板の板厚により伝播速度が決定される、板波と言われる振動であり、図12で模式的に示す板波対称波(縦波が主成分、図12(a)と板波非対称波(横波が主成分、図12(b)の2つのモードが存在する。従来の上記図11のセンサ構成で、振動モードが振動伝達板8の表面に垂直方向である圧電素子(従って横波が主成分の板波非対称波を検出)の径が、波長に比べて無視できない大きさ(一般に波長の1/10以上)である場合は、振動伝達板表面に平行方向の振動(従って縦波が主成分の板波対称波)も上記非対称波と同時に検出してしまう。従って、圧電素子で構成されるセンサ6からの検出信号は2つのモードが重なった歪んだ波形で検出されるという問題が発生した。本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、2つのモードの振動が干渉し合うことによる検出信号への影響を軽減し、より高精度な座標検出をすることを目的とする。(段落【0004】~【0006】「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の座標入力装置は次のような構成からなる。振動伝達時間を計って振動源の座標を特定する座標入力装置であって、板様の振動伝達体と、該振動伝達体に配置した振動検知手段と、該振動検知手段で検知された信号から単一の振動モードを分離する分離手段とを備える。(段落【0007】~【0008】「【作用】上記構成により、振動源より発せられ振動検知手段で検知された振動から単一の振動モードを分離し、分離したモードの振動の伝達時間を計って、振動源の座標を特定する。」(段落【0009】)との各記載があり,これらの記載によれば,同公報には,圧電素子を用いた振動センサが,板波非対称波(横波)と板波対称波(縦波) とが重なった振動波を検知した上,当該検知信号から,横波又は縦波を分離する技術事項が開示されているものと認められる。
そして,このことと,上記(5)の各公報(甲第14,第15号証)の記載事項とを併せ考えれば,固体物質中を伝搬する超音波を検出するためのセンサが,横波を選択的に検出するものであるか,縦波を選択的に検出するものであるか,横波と縦波とが重なった振動波をそのまま検出するものであるかは,当該センサを含む装置の構成,使用目的や使用方法等に基づいて選択決定される技術事項であることが示唆されているものというべきであり超音波を検出するセンサであるからといって, それらの各センサの構成が同一であるということはできない。そうであれば,横波と縦波が重なった振動波(超音波)を振動センサで検出し,この検出された超音波を電気信号として取り出して処理することにより,横波成分を分離し得るというような場合は,もはや本願補正発明の「センサがトランスバーサル方向の振れを検出する」ことに相当するということはできないというべきである。
(7) したがって,本願補正発明と引用発明とが「車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致するとした審決の認定は,その前提を欠き,誤りであるといわざるを得ない。
2 結論
以上によれば,本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして,本件補正を却下した審決の判断は,その余の取消事由につき判断するまでもなく,誤りであり,原告の請求は理由がある。