平成19年(行ケ)第10209号審決取消請求事件(第1事件)
平成19年(行ケ)第10210号審決取消請求事件(第2事件)
主文
1 特許庁が不服2006-14969号事件について平成19年4月23日にした審決,及び不服2006-14970号事件について平成19年4月23日にした審決をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 第1事件
原告は,平成17年11月25日,別紙審決書(1)の写しの「別紙1本願意匠」記載の意匠(実線で示された部分が部分意匠として登録を受けようとする部分である。以下「本願部分意匠」という。)について,意匠に係る物品を「包装用容器」として,意匠登録出願をした(意願2005-34844号,以下「本願(1)」という)が,平成18年6月7日付けの拒絶査定を受けたので,同年7月12日,これを不服として審判請求をした(不服2006-14969号)。特許庁は,平成19年4月23日,「本件審判の請求は, 成り立たない。」との審決(以下「審決(1)」という。)をし,その謄本は,同年5月14日,原告に送達された。
(2) 第2事件
原告は,平成17年11月25日,別紙審決書(2)の写しの「別紙1本願意匠」記載の意匠(以下「本願全体意匠」という。)について,意匠に係る物品を「包装用容器」として,意匠登録出願をした(意願2005-34848号,以下「本願(2)」という)が,平成18年6月7日付けの拒絶査定を受けたので,同年7月12日,これを不服として審判請求をした(不服2006-14970号。)特許庁は,平成19年4月23日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決(2)」という。)をし,その謄本は, 同年5月14日,原告に送達された。
2 審決の理由について
(1) 第1事件
別紙審決書(1)の写しのとおりである。
後記第4の3で述べるとおり,審決(1)の理由は必ずしも明らかでないが,審決書(1)には以下の趣旨が記載されたものと解した上で検討する。
ア 本願部分意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器の上約半分の位置及び範囲に係る部分意匠であって,その部分の形態を,「容器本体」を断面形状の丸い筒体とし,同筒体を,側面視略直角三角形状で,上方に向けて漸次絞り上げ,その先端に容器本体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部にそれよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,同塗布具部に,底部を開放した円盤状で周側面に滑り止め用ギザを形成し,上面を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャップ」を被せた構成態様とするものである。
イ本願部分意匠は,本願(1)の出願前に公然知られた意匠(後記(3)ウの「意匠3」)の上約半分の部分と,容器本体口部に対する塗布具部とキャップの径の比率を除いて,共通する。
ウ包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,本願(1)の出願前に公然知られた形状(後記(3)アの「意匠1」及び同イの「意匠2 )であり,本願部分意匠は,本願(1)の出願前より公然知られた意匠3の塗布具部の径をやや大きくして,包装用容器として表しその上側約半分すなわち塗布具部から容器本体肩部までの部分を,意匠登録を受けようとする部分とした程度にすぎず,当業者において容易に創作できるものと認められるから,本願部分意匠は,意匠法3条2項の規定により意匠登録を受けることができない。
(2) 第2事件
別紙審決書(2)の写しのとおりである。
後記第4の3で述べるとおり,審決(2)の理由は必ずしも明らかでないが,審決書(2)には以下の趣旨が記載されたものと解した上で検討する。
ア 本願全体意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器であって,「容器本体」を断面形状の丸い筒体とし,同筒体の上約半分の部分を,側面視略直角台形状で,上方に向けて漸次絞り上げつつ,その先端に容器本体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部にそれよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,同塗布具部に,底部を開放した円盤状で周側面に滑り止め用ギザを形成し,上面を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャップ」を被せた構成態様とする。
イ本願全体意匠は,本願(2)の出願前に公然知られた意匠(後記(3)ウの「意匠3」)と容器本体口部に対する塗布具部とキャップの径の比率を除いて,共通する。
ウ包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,本願(2)の出願前に公然知られた形状(後記(3)アの「意匠1」及び同イの「意匠2」 )であり,本願全体意匠は,本願(2)の出願前より公然知られた意匠3の塗布具部の径をやや大きくして,包装用容器として表した程度にすぎず,当業者において容易に創作できるものと認められるから,本願全体意匠は,意匠法3条2項の規定により意匠登録を受けることができない。
(3) 引用意匠について
審決(1)及び(2)は,それぞれ本願(1)又は(2)の出願前に公然知られた形状を示すものとして,下記意匠を引用した。
ア意匠1(以下「意匠1」という)
意匠登録第1014164号公報(甲11)記載の意匠(別紙審決書(1)及び(2)の各写しの「別紙第2意匠1」記載の意匠)
イ意匠2(以下「意匠2」という)
意匠登録第1142539号公報(甲12)記載の意匠(別紙審決書(1)及び(2)の各写しの「別紙第3意匠2」記載の意匠)
ウ意匠3(以下「意匠3」という)
特許庁総合情報館が2000年9月22日に受け入れた内国雑誌「DIME」,2000年9月21日,19号,147頁右上所載,包装用容器の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA12010944号〔甲13の1及び2参照〕,別紙審決書(1)及び(2)の各写しの「別紙第4意匠3」記載の意匠)の,模様を除く形状の意匠
なお,審決書(1)の2頁24行の「別紙第1」,同頁26行の「別紙第2」, 同頁29行の「別紙第3」は,それぞれ「別紙第2」,「別紙第3」,「別紙第4」の誤記と認める。
第3 取消事由に係る原告の主張
1 審決(2)(本願全体意匠に係る審決)の認定判断の誤り
審決(2)は,本願全体意匠の創作の基礎として意匠3を挙げ,意匠1及び2には「口部」の径に比べて径の大きい「塗布具部」が開示されていることから,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることによって,本願全体意匠は容易に創作できると判断した。
しかし,審決(2)は,以下のとおり,①本願全体意匠の重要な特徴を看過し,②意匠3の「塗布具部」の径を意匠1及び意匠2に示されるようにやや大きくすることにより直ちに本願全体意匠を創作できると判断した点に誤りがある。
(1) 本願全体意匠は「塗布具部」及び「キャップ」を「口部」に対して径を大きくしながらも,側面視した場合に,「キャップ」が容器本体部から飛び出したり,頭部が大きすぎるとの印象を与えないような均整の取れたプロポーションを有し,優れた美感を与える構成を有する。審決(2)は,かかる本願全体意匠の重要な特徴を看過した誤りがある。
(2) 意匠1及び2は「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」が大きな容器が存在することを示しているにすぎず,どのような基準で大きくするかという美的観点を示唆するものでない。また,意匠1はガラス撥水剤充填用容器,意匠2は窓ガラスの撥水剤等を塗布するための容器であり,いずれも被塗布面がガラスであることから「塗布面」を大きくし「口部」の傾斜を緩やかにしたものであって,「キャップ」が飛び出さないようにするとか,頭部が大きすぎないようにするという美観を示唆するものではなく,むしろ頭部を大きくするという観点を示唆させる。
このように,プロポーションをいかにするかという美的な観点からの示唆がないにもかかわらず,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を,意匠1又は2に示されるように大きくしても,本願全体意匠を創作することはできない。
2 審決(1)(本願部分意匠に係る審決)の認定判断の誤り
審決(1)は,審決(2)と同様に,本願部分意匠の創作の基礎として意匠3を挙げ,意匠1及び2は「口部」の径に比べて径の大きい「塗布具部」が開示されていることから,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることによって,本願部分意匠は容易に創作できると判断した。
しかし,審決(1)は,審決(2)と同様に,①本願部分意匠において,側面視した場合に,「キャップ」が容器本体部から飛び出したり,頭部が大きすぎるとの印象を与えないような均整の取れたプロポーションを有し,優れた美感を与える構成を有する点の重要な特徴を看過した誤りがあり,また②意匠1及び意匠2は,「キャップ」が飛び出さないようにするとか,頭部が大きすぎないようにするという美的観点を示唆するものでないにもかかわらず,意匠3の「塗布具部」の径を,意匠1又は2に示されるようにやや大きくすることにより,直ちに本願部分意匠を創作できるというという判断をした点で誤りがある。
第4 取消事由に係る被告の反論
審決(1)及び(2)の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 審決(2)(本願全体意匠に係る審決)の認定判断の誤りに対し
(1) 審決(2)の認定した本願全体意匠の特徴は,原告の主張に係る特徴と実質的に一致する。したがって,審決(2)に,本願全体意匠の特徴についての認定上の誤りはない。
(2) 意匠1及び2は「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」が大きく,かつ,傾斜して形成されている容器に関する公知の意匠である。これらの公知の意匠によれば,この種の物品の分野において,「口部」の径より「塗布具部」及び「キャップ」部の径を大きく,かつ,傾斜して形成すること,「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」部を大きくする着想ないし手法が存在することは,公知である。
「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくする着想ないし手法が存在するのであるから,当業者であれば,このような着想ないし手法に基づいて「塗布具部」及び「キャップ」を「口部」の径より大きくするに当たり,側面視した場合に「キャップ」が容器本体部から飛び出したりしない程度に「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることは,容易である。
2 審決(1)(本願部分意匠に係る審決)の認定判断の誤りに対し
(1) 審決(1)の認定した本願部分意匠の特徴は,原告の主張に係る特徴と実質的に一致する。したがって,審決(1)に,本願部分意匠の特徴についての認定上の誤りはない。
(2) 審決(1)における創作容易性の判断に誤りがないことは前記1(2)と同様である。
当裁判所の判断
1 審決(2)(本願全体意匠に係る審決)について
(1) 本願全体意匠と意匠3との対比
ア 本願全体意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器であって,「容器本体」の断面形状につき,前方を狭くし,後方を広くした略長円形状の筒体とし,同筒体の上約半分の部分を,側面視略直角三角形状で,前方は,約60度の傾斜角度で,上方に向けて漸次絞り上げ,後方頂に丸みを持たせ,同筒体の先端に容器本体の径よりやや小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部にそれよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,同「塗布具部」に,底部を開放した円盤状で,周側面全体にわたり,底部方向から2分の1部分のみに滑り止め用縦ギザを施し,上面を緩やかな湾曲面に形成した形状の「キャップ」を被せた形状である。そして,「容器本体の口部に連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1.7である。また,キャップの縦(頭頂から底までの長さ)と横(直径)との比率は,約1対2であり,横長の印象を与える。また,側面視において,「キャップ」の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出しておらず,ほぼ延長線上に位置する(この点は,当事者間に争いない。)。
イ他方,意匠3は,審決書(2)の「別紙第4」(審決書(1)の「別紙第4」及び甲13の1,2の「意匠3」も同じ。)において側面形状以外の形状が写し出されていないため,その立体形状を把握することは困難であるが,弁論の全趣旨を総合考慮すると,以下のとおり認められる。意匠3は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器と推認され,「容器本体」の断面形状については,筒体と推認され(正確な形状は把握できない。),同筒体の上約半分の部分を,側面視略直角三角形状で,前方を約60度の傾斜角度で,上方に向けて漸次絞り上げ,その先端に容器本体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部(塗布具部が設けられていると推認される。)に,円盤状で周側面のほぼ全体に滑り止め用縦ギザを形成し,上面を全体として平板な印象を与える湾曲を形成した「キャップ」を被せた形状である。「容器本体の口部に連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1であり,そのため,容器本体と「キャップ」に至る段差は,ほとんど看取できない。またキャップの縦(頭頂から底までの長さ)と横(直径)の比率は,約1対1.2であり,縦長の印象を与える。また,側面視において,「キャップ」の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出している。
ウ本願全体意匠と意匠3とを対比すると,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器であって同筒体の上約半分の部分を,側面視略直角三角形状であり,前方を約60度の傾斜角度で,上方に向けて漸次絞り上げ,その先端に容器本体の径よりやや小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部に,底部を開放した円盤状で,周側面に,滑り止め用ギザを形成させ,上面を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャップ」を被せた態様である点において共通する。
しかし,本願全体意匠と意匠3とは,①前者が,「容器本体」の断面形状につき,前方を狭くし,後方を広くした長円形状の丸い筒体としているのに対して,後者は,筒体であることは推認されるものの,その正確な断面形状は不明であること,②「キャップ」の形状について,前者が,底部を開放した円盤状で,周側面全体にわたり,底部方向から2分の1部分のみに,滑り止め用ギザを形成させ,「容器本体の口部に連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1.7であり,「キャップ」の縦(頭頂から底までの長さ)と横(直径)の比率は,約1対2であり,横長の印象を与えるのに対し,後者が,円盤状で周側面のほぼ全体に滑り止め用ギザを形成させ,「容器本体の口部に連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1であり,そのため,容器本体と「キャップ」に至る段差は,ほとんど看取できず,また,「キャップ」の縦(頭頂から底までの長さ)と横(直径)の比率は,約1対1.2であり,縦長の印象を与えること,③側面視における「キャップ」と容器本体の関係について,前者は,「キャップ」の先端部において,容器本体部前面の延長線より前方に突き出していないのに対し,後者は,「キャップ」の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出している点において,大きく異なる。
(2) 意匠1及び意匠2の形状
意匠1は,窓ガラスの撥水剤,せっけん類,つや出し剤,薬剤,化学剤を
対象物に塗布するために使用するための「塗布具付き包装容器」に係る意匠であるが,円筒状の「容器本体」の上方を約30度の傾斜角度で形成し,その先端に容器本体より小径の円筒状の「口部」を設け,同口部よりも大径(約1.5倍)の円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,これとほぼ同径の円盤状の,ねじ込み式「キャップ」を取り付けた形状である。正面視において,「キャップ」の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に大きく突き出している。
意匠2は,自動車の窓ガラス等のガラス面に塗布されるガラス撥水剤を充填するための「ガラス撥水剤充填用容器」に係る意匠であるが,やや丸みを帯びた底面長方形の「容器本体」の上方を約20度の傾斜角度で形成し,その先端に容器本体より小径の円筒形の「口部」を設け,同口部より大径(2.3倍)の円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,これとほぼ同径の円盤状で,ねじ込み式円盤状の「キャップ」を取り付けた形状である。「キャップ」の先端部は,正面視において,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出しており,また,側面視においては,容器本体側面を結ぶ延長線より左右に大きく付き出している。
(3) 本願全体意匠の特徴及び創作容易性
ア 本願全体意匠は,「キャップ」の径を口部(正確には,容器本体の口部に連続する部分)の径に対して1.7倍として,径方向に大きく拡大させ,また,「キャップ」の縦と横の直径の比率を約1対2として,径方向に大きく拡げて,塗布具部表面の面積を広く確保している点で特徴があるが,そのような特徴があるとともに,「キャップ」の縦の長さを極力短く抑えていること,滑り止め用縦ギザを「キャップ」の周側面の底部方向から2分の1部分のみに施していること,「キャップ」上面は緩やかな丸みを帯びた形状としていること,「キャップ」の径を容器本体の前後幅とほぼ同じ長さとしていることなどの点において,「キャップ」を径方向に大きく拡大させたことに由来する欠点,すなわち,頭部が目立ちすぎて,威圧感を与えたり,容器形状として異様な印象を与えたり,容器との調和を乱したりするなどの欠点を解消させ,均衡を保つための美観上の工夫が様々施されており,そのような点でも特徴があるといえる。
イ意匠1及び意匠2によれば,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器が本願(2)の出願前より公然知られていたことが認められる。
しかし,本願全体意匠と意匠3を対比すると,前記(1)ウのとおりの美観上の相違があり,また,本願全体意匠は上記アのとおりの各特徴を備えている点に照らすならば,本願全体意匠は,多様なデザイン面での選択肢から,創意工夫を施して創作したものであるから,意匠3を基礎として,意匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用容器に係る意匠)を適用することによって,本願全体意匠を容易に創作することができたはいえない。
(4) 小括
以上のとおりであるから,審決(2)が,意匠1及び意匠2から,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,本願(2)の出願前に公然知られた形状であり,意匠3を基礎として,塗布具部の径をやや大きくして,本願全体意匠とすることは,容易に創作することができたと判断したことには誤りがある。
2 審決(1)(本願部分意匠に係る審決)について
(1) 本願部分意匠は包装用容器の上約半分の部分に係る部分意匠であるほかは,本願全体意匠と同様の構成を有する。また,側面視した場合に「キャップ」が容器本体部から飛び出していないという構成を有し,この点が美感にかかわるものであることは,被告も争わない。
(2) 審決(1)についての当裁判所の判断は,前記1と同様である。
すなわち「本願部分意匠と意匠3との対比」については,前記1(1)記載のとおりであり(ただし,「容器本体」の断面形状につき,前方を狭くし,後方を広くした略長円形状であるとの認定部分を除く。),「意匠1及び意匠2について」は,前記1(2)のとおりであり,本願部分意匠の特徴及び創作容易性については,前記1(3)のとおりである(ただし「キャップ」の径を容器本体の前後幅とほぼ同じ長さにしているとの認定部分を除く。)。
(3) 以上のとおりであるから,審決(1)が,意匠1及び意匠2から,包装用容器の分野において容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,本願(1)の出願前に公然知られた形状であり,意匠3を基礎として,塗布具部の径をやや大きくして,本願部分意匠とすることは,容易に創作することができたと判断したことには誤りがある。
3 付言(審判の審理構造及び審理対象に関して)
意匠登録出願に係る拒絶査定に対する審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かである。審判の対象は,審査の過程で審査官が発した「拒絶理由の通知」の当否でもなく,また,拒絶査定に係る拒絶理由の当否でもなく,さらに,請求人の主張の当否でもない。この点は,審判体において,自ら意匠登録をすべき旨の審決ができること(意匠法50条2項),拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をすることができること(同条3項)等の法条が設けられていることから明らかである。
審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論を導くためには,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)のいずれかに該当する理由(該当するとの判断に至った論理の過程)を明示することを要する。そして,同条項に該当すると判断するに至った論理の過程を明示するということは,審判体において,①前提となる法律の解釈に疑義がある場合には,当該法条の解釈を示すこと,②法条の要件に該当する事実が存在することを明らかにすること,③事実を法条に適用した結果として,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)に該当するとの論理の過程が成り立つ点を明示することを含む。審判体は,この論理過程を説明する責任を負担し,文書をもって明示することを要する(意匠法52条,特許法157条。)
ところで,審決書(1)及び(2)を見ると,その「理由」には,「原審の拒絶理由」欄で,拒絶査定に係る拒絶理由の要旨が記載され,「請求人の主張」欄で,拒絶査定を不服とする請求人の主張が記載され,「当審の判断」欄の「請求人の主張の採否について」との項目で,請求人の主張の当否が記載され,同欄の「原審の拒絶理由の妥当性について」との項目で,拒絶理由の当否が記載されてはいるものの,審判体の判断の論理過程を直接的に示した記載部分はなく,結論として,同欄の「本願意匠の創作の容易性について」との項目において,「以上の検討によれば,請求人の主張は採用することができず,原審の拒絶理由は妥当であるから,本願意匠は,出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容易に創作をすることができなものであるといわなければならない」との記載がされているのみである。
このような審決書(1)及び(2)の理由記載は,その体裁だけで直ちに審決の違法を来すとの結論を導くものであるか否かはさておき,審判体が,本願部分意匠又は本願全体意匠が意匠法3条2項に該当すると判断した論理の過程を的確に示したものということはできない。すなわち,審決書(1)及び(2)の理由は,論理付けの根拠とは無関係かつ不要な事項を含み,審判体の判断の基礎となる論理付けが明りょうでなく,審判の構造に対する誤った認識に基づいた判断であるとの疑念を生じさせるという意味において,妥当を欠くものといえる(特に本件では,少なくとも拒絶理由通知における理由部分は,僅か5行ないし7行からなる,ごく簡単で定型的な記載にすぎないから〔甲13の1,2〕,審判体において,そのような理由が妥当であるとの判断に至ったからといって,当然に,審判体としての結論に至る論理付けとして十分であるとすることはできない。)。上記の趣旨は,一般の審決書における理由記載においても,同様に留意を要すべき点であるといえる。
4 結論
以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由があるから,主文のとおり判決する。