平成19年(行ケ)第10338号審決取消請求事件
主文
特許庁が無効2007-800014号事件について平成19年8月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
主文同旨の判決。
第2 事案の概要
本件は,被告らの有する下記1(1)の特許(以下「本件特許」という。)について, 原告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,被請求人である被告らの訂正請求に係る訂正を認めた上,審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許(甲第12号証)
特許権者:株式会社小松製作所,コマツ産機株式会社(被告ら)
発明の名称:「パンチプレス機における成形金型の制御装置」
出願日:平成9年7月18日(特願平9-209778号)
登録日:平成17年10月7日
特許登録番号:第3727445号
(2) 本件手続
審判請求日:平成19年1月26日(無効2007-800014号)
訂正請求日:平成19年4月17日(以下「本件訂正」という)
審決日:平成19年8月27日
審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない」
審決謄本送達日:平成19年9月6日(原告に対し)
2 本件発明の要旨
本件特許出願に係る本件訂正前の特許請求の範囲に記載された請求項の個数は2個であったが,本件訂正は,このうち請求項2を削除し,同訂正前の明細書の段落0009を削除するほか,段落0034中の「数値制御部28」を「数値演算部28」と訂正したものである。審決はこれらのいずれについても訂正要件を満たすとして本件訂正を認め(以下,本件訂正後の本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。),原告も本訴においてこれを争わないものであって,本件発明の要旨は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明」という。)
「ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いて被加工物の成形加工を行うパンチプレス機における成形金型の制御装置であって,
(a)加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,
(b)加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,
(c)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,
(d)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部,
(e)前記加工プログラムによる加工時に,前記金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し,これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成するプレス駆動データ生成部および
(f)このプレス駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいてプレスの駆動制御を行うプレス駆動制御部を備えることを特徴とするパンチプレス機における成形金型の制御装置」
3 審決の要旨
審決は,上記2のとおり本件訂正を認めた上,審判請求人である原告が提出した下記甲第1~第4号証(これらの証拠番号は本訴と共通である)に記載された発明(以下「甲1発明」などという) に基づいて本件発明に係る特許を無効とすることはできないとした。審決の理由中,甲第1~第4号証の記載事項の認定並びに本件発明と甲1発明との対比及び判断の部分は,以下のとおりである。
甲第1号証:特開平3-294135号公報
甲第2号証:特開平5-282021号公報
甲第3号証:特開平4-367332号公報
甲第4号証:特開平4-270015号公報
(1) 刊行物記載の発明
ア 甲第1号証
本件発明の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,以下の記載がある。
ア.第2ページ左上欄第19行~ 左下欄第6行
「第8 図は穴明機の構成概要を示すブロック図である。図で,1は穴明機を示し,この穴明機1は穴明機本体2および自動工具交換装置3で構成される。4は自動工具交換装置3に備えられている工具格納領域を示し,P1~Pn は径の異なる各工具が格納される工具格納場所を示す。これら工具格納場所P1~P nにはそれぞれ番号が付されている。このような穴明機l は,加工プログラムが記録されている記録媒体, 例えば紙テープ等の指令内容を図示しない制御装置で読取り,これに従つて穴明機本体2において,プリント基板の穴明け加工を行なう。なお, このような穴明機1 は周知である。
第9 図は記録媒体としてのテープの記録内容の説明図である。図で,5 はテープを示す。テープ5 には記録領域51,52,53 ・・・が設定されている。記録領域51 には,穴明加工に使用すべき工具番号(T1) が記録され, 記録領域52 には, 記録領域51 で指示された工具により穴明けすべき位置(X 座標,Y 座標により指定される), 当該位置への移動指令, および当該位置での穴明指令が記録されている。又,記録領域53 には記録領域5 2で指示された穴明加工に引続く穴明加工に使用される工具番号T2 が記録され,記録領域5 4には工具番号T2 の工具で穴明加工すべき指令内容が記録されている。以下, 工具番号とその工具番号の工具を用いて穴明加工すべき指令内容が順次記録されている」。
イ.第2ページ右下欄第5行~第3ページ右上欄第7行
「即ち,各格納工具に対してテープ5 で指定されている工具番号が付与されることになる。作業者は, 上記のように付与した格納工具番号を他にデータとともに制御装置の記憶部にキーボードを用いて記憶させる。
第10 図は上記記憶部のデータテーブルの記憶内容の説明図である。図の上欄で,アドレスはこのデータテーブルのアドレス, 格納場所番号は工具格納場所P1~Pn のそれぞれに設定された番号( 例えば工具格納場所P1 は1 番,P2 は2 番・・・P nはn 番), 格納工具径は各工具格納場所に格納されている工具の径である。格納工具番号は上述のようにして各格納工具に付与された番号である。穴明回数は各工具が穴明けに使用された回数, 寿命設定回数は各工具の寿命を穴明回数で表わしたものである。加工条件データは各工具に対する加工条件,例えば工具回転数や穴明速度等のデータである。この加工条件は, 加工対象のプリント基板の材質や, それが両面板の場合, 多層板の場合等により異なり,又, それらを何枚か重ねて同時に穴明加工する場合も重ねた枚数により加工条件が異なるものであって,これら加工条件は作業者の経験等に基づいて決定される・・・
次に, 上記穴明機1 の動作の概略を説明する。穴明機1 の制御装置は, まずテープ5 の記録領域51 に記録されている工具番号T1 を読取る。この工具番号T 1が「1 番」であるとすると, 制御装置は第10 図に示すデータテーブルから格納工具番号が「1番」の工具を探し,これが工具格納場所「(n-1) 番」に格納されていることを見出す。次いで, 制御装置は寿命設定回数(3000) と穴明回数(600) とを比較し, 後者が前者未満であることを確認した後, 穴明機本体2 のスピンドル( 図示されていない) を工具格納場所Pn-1 (工具格納番号は工具格納場所に付された符号の添字の数字と一致するものとする) まで移行させ, 格納されている工具(径5.0mm) をスピンドルに装着せしめる。次いで, データテーブルのアドレスAn-1 に格納されている加工条件データに従い, テープ5 の記録領域5 2に記録されている穴明指令を実行する」。
ウ.第3ページ左下欄第4~11行
「上記従来の穴明機においては, 穴明加工されるプリント基板の材質,それが両面板か多層板か, 何枚重ねか等, 加工対象のプリント基板の形態により加工条件データが変更されることになり, 又, テープ5 が変更される毎に格納工具番号も変更される。即ち, 第10 図に示すデータテーブルの格納工具番号と加工条件データが書換えられることになる」。
これら記載事項を,技術常識を勘案しつつ,本件発明に照らして整理すると,甲第1号証には,以下の発明(甲1発明)が記載されていると認める。
「穴明加工を行う穴明機の工具の制御装置において,加工に使用すべき工具番号が記録された加工プログラムを読み取る手段と,加工プログラム中の工具番号に対応する, 基板の材質, 枚数に応じた, 工具回転数や穴明速度等の加工条件データを記憶する記憶部と,加工プログラムによる加工時に, 加工プログラムから読み取った工具番号により,当該工具に対応する加工条件データに従い工具を駆動する,穴明機の工具の制御装置」。
イ 甲第2号証
同じく甲第2号証には,以下の記載がある。
ア.第2ページ第2欄第9行~第3欄第23行
「産業上の利用分野】本発明は,NC工作機械の加工条件生成方式に関する。
【0002】
【従来の技術】加工プログラムの作成に際して主軸回転速度や工具送り速度等の加工条件をワーク材質に基いて自動的に算出し, 加工プログラムと一体に保存するようにしたNC 自動プログラミング装置が既に公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし, 従来のNC 自動プログラミング装置には,ワーク材質を指定して加工条件の算出に必要とされる全てのデータを確定させて装置に入力してからでないと加工プログラムの作成作業が実行できないものがあり,特に,ディスプレイ画面に設問を表示してオペレータに入力操作を指示するような対話形の装置では,ワーク材質の入力が要求された時にこれを入力しないと先の操作に進めない場合もある。・・・
【0005】場合によっては, 加工プログラムの作成が完了してから設計変更等の理由でワーク材質を変えなければならないこともあるが, このような場合, 対話形のデータ入力作業で指定された初期のワーク材質に基く加工条件では適切な加工を行えなくなる。そこで,新たに選択されたワーク材質に対応して加工条件を修正してやる必要があるが,従来のN C自動プログラミング装置やNC 工作機械の制御装置を用いてこのような操作を行うためには,加工プログラムの作成作業の段階でオペレータが入力した元データをNC 自動プログラミング装置に呼び出してディスプレイ画面上に表示し, ワーク材質に関する部分の修正作業を行って再びNCデータへの変換作業を行うか, もしくは,NC 工作機械の制御装置に初期の加工プログラムを呼び出してディスプレイ画面を参照しながら主軸回転速度や工具送り速度等に関するコマンドを検出した後, 新たな主軸回転速度や工具送り速度等を手計算で算出してその値を再設定する以外になく,材質変更に関わる修正作業が非常に煩わしくなる。・・・
【0007】そこで, 本発明の目的は, これら従来技術の欠点を解消し, 加工プログラムの作成が完了してからワーク材質の変更が必要になった場合でも,初期の加工プログラムに手を加えることなく, 簡単な操作により適切な加工条件で加工を行わせることのできるNC 工作機械の加工条件生成方式を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によるN C工作機械の加工条件生成方式は,加工条件を決定するための関数をワーク材質の影響を受けない第1 の関数部とワーク材質の影響を受ける第2 の関数部とに分割し,加工プログラムの作成時に第1 の関数部を加工プログラムと一体に保存すると共に,加工プログラムの実行段階でNC 工作機械の制御装置に第2 の関数部を設定し, 第1 の関数部と第2 の関数部とを合成して加工条件を生成して加工を行うことにより前記目的を達成した」
イ.第5ページ第7欄第26行~ 第8欄第39行
「この場合,NC工作機械における制御装置10のROM12 には,各種のワーク材質に対応して前述の補正値W およびW′を記憶した図3(b)のようなファイルを保存しておき,また,図4 に示すような「材質変更時の加工処理」に基いて加工プログラムを処理するためのシステムプログラムを設けておく(請求項2記載の構成に対応。
【0028】まず,NC 自動プログラミング装置100 を用いた加工プログラムの作成段階では, エンドミル等の工具を駆動する主軸の回転速度や工具の切削送りおよび早送り等に関する移動指令, ならびに, 工具移動経路の補間指令や座標データ等をキーボード103からNC言語の水準で直接コーディングする方式により,従来と同様にして加工プログラムを作成するが, 予め選択された特定のワーク材質に対応して主軸の回転速度や工具の切削送り速度をプログラムする代わりに, 荒取り, 中仕上げ, 仕上げ等の加工工程に対応して回転速度比Kや送り速度比K′ を決め, また, 使用工具に対応して標準切削速度V および工具径E や標準送り速度V′を決めて主軸回転速度S に関する第1 の関数部(K ・C ・V/E) や工具送り速度Fに関する第1 の関数部(K′ ・V′) を算出し, これらの値を主軸回転速度や工具の切削送り速度の基準値としてプログラムする点が従来のものと異なる。加工プログラムと共にコーディングされた主軸回転速度や切削送り速度の基準値はプログラム作業の終了時点でフロッピーディスク111 や穿孔テープに出力されて加工プログラムと一体的に保存される。【0029 】そして, この加工プログラムを保存したフロッピーディスク111 や穿孔テープをNC 工作機械の制御装置10 にセットし, 加工対象となるワークをNC 工作機械のテーブルに取り付けて, 制御装置10 を「材質変更時の加工処理」のモードにして起動を掛けると,CPU11 は, まず, 加工対象となるワークの材質を問い掛けるメッセージをCRT/MD Iユニット70 のディスプレイに表示し, オペレータからの材質名の入力操作を待つ待機状態に入る(ステップa1 。)
【0030】次いで, オペレータがCRT/MDI ユニット70 のキーボードを操作して加工対象となるワークの材質名を入力すると,CPU11 はステップa 1の判別処理でこの操作を検出し, 図3(b) のファイルを検索して入力材質名に対応する補正値W およびW′, 即ち,ワーク材質の影響を受ける第2の関数部の値を検出して記憶する(ステップa2 。)
【0031】入力材質名に対応する補正値W およびW′を記憶したCPU11 は,フロッピーディスク111 や穿孔テープを介して与えられる加工プログラムを1ブロック読み込み( ステップa3), この1 ブロックが主軸の回転速度指令に関するものであるのか( ステップa4),工具の切削移動指令に関するものであるのか( ステップa5), アプローチや退避等に関する送りのための移動指令に関するものであるのかを判別する( ステップa6 。)
【0032】そして, 今回読み込んだ1 ブロックが主軸の回転速度指令に関するものであれば( ステップa4),CPU11 はこの回転速度指令に対応して加工プログラム中に指定された主軸回転速度の基準値(K ・C ・V/E), 即ち, 主軸回転速度を形成する第1 の関数部の値に, 第2 の関数部である補正値W の値を乗じ, 加工対象となるワークの材質に対応した主軸回転速度S を求めてスピンドル制御回路60 に出力し, フロッピーディスク111 や穿孔テープで与えれた加工プログラムから新たな主軸回転速度指令が読み込まれるまでの間,主軸の回転速度をS(rpm) に保持する(ステップa11 」) 。
以上から, 甲第2 号証には, 以下の事項( 以下「甲2 事項」という) が記載されていると認める。
加工プログラムの作成が完了してから設計変更等の理由でワーク材質を変える際に「主軸回転速度, 切削送り速度という加工条件を決定するための関数を, ワーク材質の影響を受けない第1 の関数部(基準値) とワーク材質の影響を受ける第2の関数部(補正値) とに分割し,加工プログラムの作成時に第1 の関数部を加工プログラムと一体に保存すると共に,加工プログラムの実行段階で, オペレータから入力されたワークの材質から,材質に対応して補正値を記憶したファイルを利用して,NC工作機械の制御装置に第2の関数部を設定し,第1 の関数部と第2 の関数部とを合成して加工条件を生成して加工を行うNC 工作機械の加工条件生成方式」とすることにより, 初期の加工プログラムに手を加えることなく,簡単な操作により適切な加工条件で加工を行わせることのできるもの。
ウ 甲第3号証
同じく甲第3号証には,以下の記載がある。
ア.第2ページ第2欄第5~11 行
「従来よりのプレス機械の制御方式にあっては,加工パターンを全てNC プログラム上で規定するものであったため, 加工種毎, 金型毎, 材質,板厚変化の毎に加工パターンを決定しなければならず, また決定された加工パターンをNC文で表現しなければならず,NCプログラムの作成に多くの手間を要するという問題点があった」。
イ.第3ページ第4欄第32~40行
「図5 は, 上記IDチップ26の記憶内容を示す説明図である。図示のように,IDチップ26には, 金型固有番号や金型特性( 形状,研磨層,金型ハイト等) の他, 加工制御情報と,駆動制御条件が含まれる。加工制御情報は, ドウェル時間, 座標オフセット値, エアブロー用のソレノイド作動指令等, 加工制御のために直接的に利用されるものである。また,軸制御条件は,他の情報に関連して各軸をどのように制御するかの数値ないし関数が示されている」。
ウ.第4ページ第6欄第7~42 行
「金型識別部56は, 図5に示す金型固有番号または金型形状により,NC プログラム入力部59 に入力されたNCプログラムで指定された通りの金型が各金型装着ステーションSi に装着されているかを確認するものである。識別方式は, 一個一個の金型について順次識別する方式と, 一度全ての装着金型を認識し,使用金型リストと照合する方式とがある。
【0036】補助コード適正化部58 は,NC プログラム入力部3 8より入力されたNC プログラムのデフォルト値に対し,ID チップ26 の加工制御情報を優先し,M コードの内容を変更させるものである。
【0037】例えば, バーリング金型のID チップ26 にパンチ完了と軸移動までの遅延時間であるドウェル時間(100ms) が与えられていた場合,NC パラメータで与えられるデフォル値60ms に対して,100ms が優先され,実行されるが如くである。また,補助コード適正化部57 は, 金型に対し当然に記述されなければならないM コードにつき,この挿入を忘れたNC プログラムに対し,これを自動的に与えることもできる。
【0038】一方, 軸制御条件演算部57 は, 図5に示すID チップ26 の情報のうち, 主には軸制御条件の情報を入力し, 各金型に対して最適の加工パターンを演算し,N Cプログラム修正部61 に提供するものである。
【0039】図8 は穴明け金型についての加工パターンを示す。横軸は時間を縦軸はラム位置を示す。この加工パターンは材質, 板厚に応じストライカの下端が材料上面に接近ないし接触するまでは高速V1 で下降され, その後の打ち抜きを区間では低騒音の目的を達成する速度V2 とされ, 打ち抜き完了で高速値V3 にて元の位置へ戻らせるよう定められる。ここに, 打ち抜き速度V2 は,ID チップ26 に記憶させたプレス速度をそのまま代入してもよく,また,材質, 板厚と,ID チップ26 の他の軸制御条件から算出しても良い。この軸制御条件としては, 材質, 板厚等に関連して使用金型に応じた値を算出しても良く,また金型との間の比較値として定めた比率を定める例がある」。
エ.第5ページ第7欄第2~7 行
「図10 は, ルーバ, ランス, カウンターシンク,バーリング等の成形金型に対する加工パターンを示す説明図である。この加工パターンは,接触位置P0 と, 下限位置での加圧保持時間t と, 各区間速度で定められるので, 他は全て金型固有のパラメータを用い, 材質,板厚dの関数として求められば良い」
オ.第5ページ第7欄第15~19行
「図8~ 図11 に示す加工パターンにつき,N Cプログラム上では,金型と, 板厚dと, 必要に応じては基本速度を指定すれば,後は全て軸制御条件演算部5 7でパターン生成されるので, NC プログラムは極めて簡潔に書くことができる」。
カ.第5ページ第7欄第29行~ 第8欄第12 行
「本発明は特許請求の範囲に記載の通り, 各工具に各工具の識別情報の他に該工具に関連して定められる各軸制御条件を記憶するメモリチップ(ID チップ) を設け, 選択工具のメモリチップの記憶内容を読出して,NC プログラム上で指定された加工条件に前記軸制御条件を加えて実際軸制御のための加工パターンを演算するプレス機械の加工パターン発生装置であるので, 例えば, 前記制御軸がパンチ金型駆動用のラムである場合, 前記メモリチップには他のパンチ金型に対する駆動速度の比率が記憶され, 前記軸制御演算部は,前記NC プログラムで規定される速度値に前記比率を乗じてラム駆動速度を演算する。また,例えば, 前記制御軸が成形金型駆動用のラムである場合, 前記メモリチップには, 加圧保持時間が記憶され,前記軸制御演算部は, 前記NC プログラム上で規定される材料板厚に応じて時間及びラム動作の加工パターンを演算する。
【0047】従って,NC プログラム上では, 加工パターンの全てを記述する必要がなく,工具のみ, 或いは加工パターンの基本形のみを示すことにより,全工具に対して最適加工パターンが自動的に設定でき,高精度,高効率のプレス加工が行える等の効果を奏するものである。」ここで, 上記カ. に「NC プログラム上では,加工パターンの全てを記述する必要がなく,工具のみ, 或いは加工パターンの基本形のみを示すことにより」なる記載があることから,甲第3号証のものは,「NC プログラム上では,工具のみを示す」ものも含まれると認められる。以上から, 甲第3 号証には, 以下の事項( 以下「甲3 事項」という) が記載されていると認める。
従来のプレス機械の制御方式は, 加工パターンを全てNCプログラム上で規定するものであったため, 加工種毎, 金型毎, 材質, 板厚変化の毎に加工パターンを決定しなければならず,また決定された加工パターンをNC 文で表現しなければならず,N Cプログラムの作成に多くの手間を要するという問題を解決するため「各工具に各工具の識別情報の他に該工具に関連して定められる各軸制御条件を記憶するメモリチップ(ID チップ) を設け, 選択工具のメモリチップの記憶内容を読出して,NC プログラム上で指定された工具番号のみに, 材質, 板厚に関連する前記軸制御条件を加えて, 実際軸制御のための加工パターンを自動的に演算するプレス機械の加工パターン発生装置」とするもの。
エ 甲第4号証
同じく甲第4号証には,以下の記載がある。
ア.第2ページ第1欄第36行~ 第2欄第7行
「この発明の目的は, 板厚や材質に応じた良好な加工が行えるパンチプレス制御装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明の構成を実施例に対応する図1と共に説明する。このパンチプレス制御装置は, ディジタルサーボコントローラ(14) に予め基本パンチプログラム(18) を入力しておき, その駆動指令(d )を生成する所定項目のデータを,変数(PR♯1)~(PR♯5) としたものである。ディジタルサーボコントローラ(14 )は, 数値制御装置(13) の起動指令(a) に応答し基本パンチプログラム(18) に従ってパンチ駆動用アクチュエータ(8) に駆動指令(d) を出力するものである。所定項目のデータとは,ワークの板厚または材質の違いによって変更すべき項目のデータのことであり, パンチ速度等のデータが含まれる。
【0007】数値制御装置(13)には,ワークの板厚および材質を入力する入力手段(19)と, この板厚および材質の入力値から前記所定項目のデータを演算してディジタルサーボコントローラ(14) に転送する演算手段(25 )とを設ける」
イ.第2ページ第2欄第40行~ 第3ページ第3欄第4行
「制御装置12 は, 数値制御装置13 とディジタルサーボコントローラ14 等で構成される。数値制御装置13 は,NC 機能部15 と,PMC( プログラマブルマシンコントローラ)16と,MMC( マンマシンコントローラ)17 とで構成される。NC 機能部15 は,加工プログラム18 を解析して実行する手段であり, ワーク送り装置等の各軸駆動指令a を出力する。PMC16 は,NC 機能部15 から転送された加工プログラム18 のシーケンス制御コード等により,オンオフ制御等のシーケンス制御を主に行う手段であり,パラレルI/O26 を介して, ディジタルサーボコントローラ14 に起動指令bとサイクル完了信号cの送受を行う。MMC17 は, キーボード等の入力手段19 とCRT 等の表示手段20 とで,オペレータとのインタフェースを図る機能部である」。
ウ.第3ページ第3欄第23~26行
「図1において,MMC17 はワークデータ記憶部24 と演算手段25 とを有し,入力手段19 から対話処理手段27 を介して入力される板厚データと,材質データとがワークデータ記憶部24に記憶される。」
エ.第3ページ第4欄第18行~ 第3欄第38行
「ディジタルサーボコントローラ14 は,PMC16 から送出される起動指令b により, 基本パンチプログラム18 に従って1 回のパンチ駆動の指令d を,バルブ駆動アンプ21 等に出力する。このとき, 加速度, パンチ速度, 待ち時間,および位置座標の各変数PR♯1~PR♯5は,前記の演算手段25 から送られた値として制御動作を行う。1回のパンチが終了すると, ディジタルサーボコントローラ14 はサイクル完了信号cをPMC に送る。・・・
【0021】ここで,K1 は材質,K2 はパンチ特性,K 3は加工孔形状,K4 は材料厚さの値である。材質K1 の値は, 例えばスチールを1.0 , ステンレスを0.7 ,アルミニウムを2.5 とする。このK1 の値は, 入力手段19 から数値として入力しても良く, また材質を選ぶことにより, 対話処理手段27 または演算手段2 5で, 材質と数値との対応テーブルから選択されるようにしても良い」。
以上から, 甲第4 号証には, 以下の事項( 以下「甲4 事項」という) が記載されていると認める。
板厚や材質に応じた良好な加工が行うため「予め基本パンチプログラムが入力されたディジタルサーボコントローラと, 入力手段により入力された板厚および材質を記憶する記憶部,記憶部に記憶された板厚および材質の値から所定項目のデータを演算する演算部を有する数値制御装置とを備え, 数値制御装置の演算部により演算された前記所定項目のデータをディジタルサーボコントローラに転送し,駆動指令を生成するパンチプレス制御装置」
(2) 本件発明についての対比・判断
ア 対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「穴明加工」,「穴明機」,「工具」と,本件発明の「成形加工」,「パンチプレス機」, 「(成形)金型」とは,それぞれ「加工」,「加工機」,「加工具」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「加工条件データ」は「基板の材質,枚数に応じた,工具回転数や穴明速度等の」データであり, 工具の駆動のためのデータであるから, 本件発明の「詳細設定データ」に相当する。
また,甲1 発明の「加工に使用すべき工具番号が記録された加工プログラムを読み取る手段と, 加工プログラム中の工具番号に対応する, 基板の材質,枚数に応じた, 工具回転数や穴明速度等の加工条件データを記憶する記憶部と, 加工プログラムによる加工時に, 加工プログラムから読み取った工具番号により,当該工具に対応する加工条件データに従い工具を駆動する」と,本件発明の「(b) 加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部(c) 各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部(d) 各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部(e) 前記加工プログラムによる加工時に, 前記金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに, 前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し, これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成するプレス駆動データ生成部および(f) このプレス駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいてプレスの駆動制御を行うプレス駆動制御部を備える」とは,「加工具番号に対応する加工の詳細設定データを記憶するデータメモリ部を有し,加工プログラムによる加工時に, 加工プログラムから加工具番号を読み取り, 加工具番号に対応する加工の詳細設定データに基づいて, 加工軸を駆動するための駆動データを生成する加工駆動データ生成部を有し, この加工駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいて加工の駆動制御を行う加工駆動制御部を備える」限りにおいて, 一致する。
したがって,両者は以下の点で一致する。
「加工具を用いて被加工物の加工を行う加工機における加工具の制御装置であって,加工具番号に対応する加工の詳細設定データを記憶するデータメモリ部を有し, 加工プログラムによる加工時に, 加工プログラムから加工具番号を読み取り,加工具番号に対応する加工の詳細設定データに基づいて,加工軸を駆動するための駆動データを生成する加工駆動データ生成部を有し,この加工駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいて加工の駆動制御を行う加工駆動制御部を備える加工機における加工具の制御装置」そして,以下の点で相違する。
第1相違点:
本件発明は,ストローク量に応じて加工量が変更可能な成形金型を有するパンチプレス機により成形加工を行うものであるが, 甲1 発明は,工具を有する穴明機により穴明加工を行うものである点。
第2相違点:本件発明では, 加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部, 加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部, 各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,及び各プレスモーンョン番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部を備え,加工プログラムによる加工時に,金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し, このプレスモーション番号毎に, 前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに, 前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し, これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成しているのに対し, 甲1 発明では, 材質メモリ部および板厚メモリ部を備えているか否かは不明であり,金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部を備えておらず, 加工条件データとして, 共通データと変更データとに分けて記憶し, 加工時に両データから駆動データを生成するようにはしていない点。
イ 判断
(ア) 第1相違点について
穴明けにおいては,貫通穴,非貫通穴があることは技術常識であるから, 甲1 発明においても, 貫通穴加工, 非貫通穴加工がある。よって穴明工具のストローク量に応じて,加工条件が変更されることはありうる。
甲1発明は,加工プログラムの工具番号を読取り, 制御装置の記憶部に記憶された工具番号に対応する加工条件データに従い, 穴明指令を実行するものである。そして, 加工プログラム中の工具番号が穴明工具の番号か成形用の金型の番号か, 加工条件データが穴明用のデータか成形用のデータかについては,制御装置としての動作には関係がない。また, 特開平1-115508号公報, 特開昭58-186805号公報, 特開平6-738号公報にみられるごとく, 一つの制御装置で,穴明加工,成形加工を行うものが,周知である。
よって, 甲1 発明の制御装置を, パンチプレス機の制御装置として適用することに, 困難性は認められない。そして, 成形加工をする場合には, ストローク量に応じて加工量が変更可能な成形金型を用いることは当然のことである。
被請求人は,パンチプレス機の制御は複雑である旨主張しているが,複雑か否かは程度問題にすぎず,しかも,かかる主張は,本件発明の請求項1の記載に基づくものでないから,被請求人の主張は採用できない。
(イ) 第2相違点について
甲2ないし4事項から,加工プログラム作成を容易にするため「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて, 共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という技術は,周知であると認められる。
甲1発明においても, 加工プログラム作成の容易化は,当然の課題であるから,かかる周知技術を適用することに困難性は認められない。
被加工物の材質,板厚を加工プログラムから読み取り,それぞれ記憶する材質メモリ部,板厚メモリ部について検討する。
材質,板厚は,甲2 ないし4 事項でも考慮されているところ,駆動データ作成のためには,材質,板厚が,何らかの形で入力・記憶される必要があることは明らかであり, 甲第3号証の第2ページ第1 欄第31~34行, 特開平8-281497号公報の段落0014, 特開平8-141885号公報の段落0015にみられるごとく,NC プログラムにより材質, 板厚を与えることは,周知である。
よって,被加工物の材質, 板厚を加工プログラムから読み取り,それぞれ記憶する材質メモリ部,板厚メモリ部を備える点については,設計的事項にすぎない。
金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部について検討する。
甲第1ないし4号証を個別に検討しても「金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部」について,記載ないし示唆は存在しない。
本件特許明細書の段落0018, 表1によれば,異なる金型であっても同一のプレスモーション番号となることがありうると認められる。そして「金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部」によれば,金型それぞれに対応したプレスモーションの詳細設定データを直接「共通データメモリ部」に記憶させるものと比較して「共通データメモリ部」内のデータ量を削減できるという効果を生じることは, 本件特許明細書に明記されていないものの,技術常識を踏まえれば明らかである。
請求人は, 一つの金型に対し一つの詳細設定データが対応するという点で甲1 発明と作用効果上の差異はない, 効果があるとしても有意な作用効果ではない, 表1の同一のプレスモーション番号は「打抜」の場合で「成形」の場合ではない, 金型番号に対応した動作を特定する情報を記憶させることは周知である旨主張する。
しかし「金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部」を設けることは, これを有さないものと比較し, 明らかに装置を複雑にするものであるから, 製造費用の観点からは, 設けないことが望ましい。すなわち, かかる「金型情報メモリ部」の有無により, 作用効果に差違がないのであれば,甲1発明にあえて付加する必然性がない。
そして, 本件発明は, かかる「金型情報メモリ部」の付加により「共通データメモリ部」内のデータ量を削減という効果を生じるが「金型情報メモリ部」を有しない甲1 発明では,この効果は全くないのであるから, 効果が程度問題とは言えない。
表1の同一プレスモーション番号の例は「打抜」であり「成形」でないという点については,打抜も成形も, ともに「プレスモーション番号」を用いているから,プレスモーション番号の利用という限りにおいて, 差異はない。また, 制御としてみても, 第1相違点として検討したとおり,打抜か成形かは制御装置としての動作には関係がない。
金型番号に対応した動作を特定する情報を記憶させることは周知という点については, 審判請求時の「請求の理由」に, かかる主張は記載されていない。また,本件発明の「金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部」が周知であるとまでは, 認められない。
よって,請求人の主張は採用できない。
第3 原告の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(第2相違点についての判断の誤り)
(1) 審決は,本件発明と甲1発明の第2相違点についての判断において,同相違点に係る本件発明の構成のうち「金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部」を備える構成は「共通データメモリ部」内のデータ量を削減し得るという効果を奏するものであるが,このような構成は,甲第1~第4号証に記載ないし示唆がなく,また,周知の技術でもないから,当業者が容易に想到し得たものとはいえないと判断したものである。
しかしながら,審決のこの判断は,以下のとおり,誤りである。
(2) 甲第10号証には,プレス機械のNC装置に,NCテープ(加工プログラムに相当のNCデータで指定される金型番号に対応する加工の制御パターン記号プレスモーション番号に相当)を記憶する金型データ記憶部(金型情報メモリ部に相当)を備える技術が開示されている。
また,審決の判断を前提として検討すると,甲第10号証に記載された技術においては,加工の制御パターン記号(プレスモーション番号に相当)を介在させることにより,金型番号に対する加工の制御パターン(プレスモーションの詳細設定データに相当)を直接記憶するよりも,データ量を削減し得る効果が生じているといえる。
甲第11号証には,タレットパンチプレスの制御装置において,NCプログラム(加工プログラムに相当)で指定される金型番号に対応する金型補助機能記号(プレスモーション番号に相当)を記憶する金型リスト記憶部(金型情報メモリ部に相当)を備える技術が開示されている。
また,甲第11号証に記載された技術においては,金型補助機能記号(プレスモーション番号に相当)を介在させることにより,金型番号に対する金型補助機能(プレスモーションの詳細設定データに相当)を直接記憶するよりも,データ量を削減し得る効果が生じているといえる。
さらに,甲第11号証に記載された技術は,金型番号に対応する金型補助機能記号を記憶する金型リスト記憶部を備えることにより,金型補助機能情報を含めることなく容易に作成したNCプログラムにより金型補助機能を有効に動作させることができるという効果をも有する。
以上によれば,パンチプレス機における制御装置において,加工プログラムで指定される金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部を備えることは周知の技術であるといえるところ,データ量の削減は当然の課題であるから,この課題を解決するために上記周知技術を甲1発明に適用することに困難性はないというべきであり,審決の第2相違点についての判断は誤りである。
(3) 上記(2)の甲第10,第11号証の記載に加え,以下の刊行物に記載された本件特許出願当時の技術水準を参酌すれば,工具番号(金型番号に相当)に対応した加工条件データ(プレスモーションの詳細設定データに相当)を記憶する記憶部に替えて,制御装置内に「加工プログラム中の工具番号(金型番号に相当)に対応する加工条件データ番号(プレスモーション番号に相当)を記憶する記憶部(金型情報メモリ部に相当」を備えるようにすることは,当業者が適宜選択できる事項に過ぎないことは明らかであり,審決の第2相違点についての判断は誤りである。
ア 甲第14~第17号証に記載された技術及びその効果によれば,数値制御装置内に「金型関連番号」と「プレスモーション番号」との対応表を記憶する記憶部を有し,加工時に「金型関連番号」を指定して,前記記憶部の対応表から「金型関連番号」に対応する「プレスモーション番号」を参照し,この「プレスモーション番号」ごとに,加工に関するデータを得て加工する工作機械の数値制御装置は,本件特許出願前に周知であり,かつ, 当該周知の数値制御装置においては「金型関連番号」が異なっても,同じ「プレスモーション番号」に対応するものがあるから「プレスモーション番号」を介在させることにより「金型関連番号」に対応した加工に関するデータを直接記憶するよりも,データの削減をし得るという効果が生じているといえる。
イ 甲第18号証に記載されている自動プログラミング装置では,TNO (金型番号に相当)に対応するMコード(プレスモーション番号に相当)を記憶する金型配置管理部(金型情報メモリ部に相当)を備える技術が示されており,また,甲第19号証のNC装置付タレットパンチプレス機で使用するNCプログラムを記憶したNCテープを生成する技術が開示されている。そして,当該甲第19号証に記載されているNC装置付タレットパンチプレス機は,成形加工を行うことができることが示され(ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いて被加工物の成形加工を行うパンチプレス機における成形金型の制御装置に相当),Mコード( プレスモーション番号に相当)ごとにプレス動作データ(プレスモーションの詳細設定データに相当を記憶するプレスパターンパラメーター部共通データメモリ部に相当)を備えることが開示されている。そうすると,甲第18, 第19号証に記載された技術においては,Mコード(プレスモーション番号に相当)を介在させることにより,TNO(金型番号に相当)に対するプレス動作データ(プレスモーションの詳細設定データに相当)を直接記憶するよりも,データ量を削減し得る効果が生じているといえる。
(4) 被告らは,甲第10,第11号証を本訴において審理することは許されない旨主張するが,上記各甲号証は,審判手続において提出されており,本来審理されるべきであったのに審理されていないものであるから被告らの主張は誤りである。また,上記各甲号証は,本件特許出願当時における当業者の技術常識を明らかにするための証拠であり,これを審理の対象とすることに何ら支障はない。
2 被告らの主張(取消事由に係る部分以外の相違点についての判断の誤り)に対して
(1) 被告らは,原告が審決取消事由として構成した点以外で,審決が,第1,第2相違点に係る本件発明の構成を甲1発明に適用することが容易であるとした部分の判断が誤りであるとし,原告主張の審決取消事由の当否いかんに関わらず,審決の結論に誤りはないと主張するが,審決取消訴訟は,原告が主張する審決取消事由に,審決を違法とするに足りる理由があるか否かを審理範囲とするものであり,そもそも被告らのこのような主張は失当である。
(2) 仮に,原告の審決取消事由に係る部分以外の点について,被告らが審決の認定判断の誤りを主張することができるとしても,以下のとおり,被告らの主張は誤りである。
ア 被告らは,第1相違点について,簡単な制御で済む甲第1発明の「穴明機の制御装置」の技術を,複雑な制御が必要な「パンチプレス機の制御装置」に適用することは困難であるから,審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,穴明機とパンチプレス機の各制御装置の相違,すなわち,加工プログラム中の工具番号が穴明工具の番号か成形用の金型の番号か,加工条件データか穴明用のデータか成形用のデータかなどは,制御装置としての動作には関係がないから,制御装置として見た場合,甲1発明の制御装置と,同じNC装置である本件発明のパンチプレス機の制御装置とは異なるところはなく,したがって,審決の第1相違点の判断に誤りはない。
イ 被告らは,第2相違点について,甲第2~第4号証には,審決が認定したような「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」周知技術は記載されていないから,この周知技術を甲1発明に適用することに困難性は認められないとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,甲第2号証には,加工プログラムと一体的に共通データメモリ部を備えることが,甲第3号証には,各金型に設けられたメモリチップに共通データメモリ部を備えることが,甲第4号証には,本件発明と同様に,制御装置に共通データメモリ部を備えることが,それぞれ記載されており,共通データメモリ部を備える場所は異なるものの,いずれも,加工の詳細設定データとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚等に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する技術が開示されている。
他方,甲第1号証には,加工条件は被加工物の材質や板厚によって変更すべきことが記載されており,また,加工に必要な正確なデータを容易かつ迅速に得ることを目的とするとも記載されているから,甲第2~第4号証に記載された上記技術を適用する動機付けがあることは明らかといえる。そして,甲1発明は,加工条件データを記憶する記憶部を制御装置に備えているのであるから,甲第2~第4号証に記載された上記技術を適用すれば,甲第4号証のように,加工条件データとして,共通データと被加工物の材質・板厚により変更するデータとを制御部の別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚等に応じて,共通データのうち所定のデータを補正して駆動データを生成することになることは自明である。したがって,上記技術を周知技術とし,これを甲1発明に適用することに困難性が認められないとした審決の判断に誤りはない。
第4 被告らの主張の要点
1 審決取消事由(第2相違点についての判断の誤り)に対して
(1) 原告は,甲第10,第11号証記載の周知技術を甲1発明に適用することにより,第2相違点に係る構成とすることは容易であると主張するとともに,第2相違点に係る構成とすることは,当業者が周知技術を参酌することにより,適宜選択できる事項にすぎないとも主張するが,以下のとおり,原告の主張は失当である。
(2) まず,甲第10,第11号証は,審判請求書において一切言及がないから,これらを審理の対象とすることは特許法131 条の2第1項に違反し許されない。
(3) 仮に甲第10,第11号証が本件の審理の対象となるとしても,以下のとおり,甲第10, 第11号証のいずれにも,本件発明の「金型情報メモリ部」に相当する構成は見出せず,このような構成を示唆する記載もない。
ア 甲第10 号証に記載されているのは「プレス機械の金型破損防止装置」に関する技術であり,本件発明の「パンチプレス機械における成形金型の制御装置」とは相違する。
また,同号証記載の発明の「金型データ記憶部」には「金型ステーション番号(金型番号)」と,金型が破損するか否かの判定のための「適応加工種」というデータを対応させたものしか記憶されておらず「金型番号」と「プレスモーション番号」とを対応させて記憶した本件発明の「金型情報メモリ部」とは明らかに相違する。
さらに,甲第10号証記載の発明では,プレス機の駆動は,NCテープ中の制御パターンにより制御され,同発明の「金型データ記憶部」は,金型破損の判定にしか用いられないので,NCテープによって入力される制御パターンのデータの削減には何ら寄与しない。したがって,甲第10号証記載の発明において,データ量を削減する効果は生じていない。
イ 甲第11 号証に記載の技術は「絞り動作」や「バーリング」の際に併用される補助機能の設定に関するものであり,同号証記載の発明の「金型リスト記憶部」には,「金型番号」と,この「金型番号」に対応する金型に設定された「補助機能」とを対応させたものが記憶されているにすぎず「金型番号」と「プレスモーション番号」とを対応させて記憶した本件発明の「金型情報メモリ部」とは明らかに相違する。
また,甲第11号証記載の発明の「金型リスト記憶部」と,本件発明における「金型情報メモリ部」が明らかに相違する以上,甲第11号証に記載された「金型リスト記憶部」によってデータ量を削減することはできないのであるから,データ量を削減し得る効果は生じていない。
(4) 以下のとおり,甲第14~第19号証に基づく原告の主張も失当である。ア甲第14 ~第1 7号証のいずれにおいても「異なる金型番号」に対して,「同じプレスモーション番号」を設定する構成についての記載は一切なく,また,各甲号証の記載からすれば,そのようにすると,かえってデータの増加を招くこととなり,データの削減を図ることはできない。
原告は,甲第14~第17号証に記載された「被加工物番号」,「識別番号」,「製品ID ,及び「工具番号」を「金型関連番号」として概念の置き換えを行っているが,各号証記載の「被加工物番号」,「識別番号」,「製品ID」,及び「工具番号」は,各号証に記載のぞれぞれの課題を解決するために必須なものであり,共通の概念として括れるものではなく, 特に「被加工物番号」,「識別番号」, 及び「製品ID」は「金型番号」とはまったく異なるものであり「金型関連番号」などという概念で括ることは到底できない。
したがって,甲第14~第17号証に記載の技術からは,本件発明の「金型情報メモリ部」に相当する「周知技術」と認められるべき技術的事項は見出せない。
イ 甲第18 ,第1 9号証は「取扱説明書」であり,製品購入者,又は製品のメンテナンス業者に配布されるものであり,不特定多数の者に頒布することを目的としていないから,刊行物とはいえないほか,本件特許の出願日前に頒布されたものとも認められないから本件発明の特許性を判断するための証拠とはなり得ない。
2 被告らの主張(取消事由に係る部分以外の相違点についての判断の誤り)
審決の第1,第2相違点についての判断には,原告が審決取消事由として構成した上記1の点以外で,第1,第2相違点に係る本件発明の構成を甲1発明に適用することが容易であると判断した部分があるが,かかる判断部分は,以下のとおり,誤りであるから,上記原告主張の審決取消事由の当否いかんに関わらず,本件無効審判請求を不成立とした審決の結論に誤りはない。
(1) 審決は,第1相違点について「甲1発明の制御装置を,パンチプレス機の制御装置として適用することに,困難性は認められない」と判断したが,コストの点より,これらの制御装置は,必要最小限の構成とするのが通常であるから「複雑な制御を行う制御装置」を「簡単な制御で済む制御装置」に適用することには困難性はないかも知れないが「簡単な制御で済む制御装置」は「複雑な制御を行う制御装置」に単純に転用できるものではない。しかるところ,甲第1号証に記載の技術は「穴明機の制御装置」に係るものであって,簡単な制御で済むものであるから,これを,複雑な制御が必要な「パンチプレス機の制御装置」に適用することに困難性が認められないとはいえないのであり,第1相違点についての審決の判断は誤りである。
(2) 審決は,第2相違点のうち「金型情報メモリ部」を除いた部分の本件発明の構成について「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という技術は,甲第2~第4号証の記載から周知であるとした上,このような周知技術を甲1発明に適用することに困難性は認められないと判断した。
しかしながら,甲第2~第4号証には,審決が認定したような「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」周知技術は記載されていない。
すなわち,甲第2号証において,審決が「共通データ」に相当することを前提とする「基準値」は,入力される「加工プログラム」の一部であって,データメモリ部に保存されるものではない。また,甲第3号証記載の技術では,基本的な加工パターンはNCプログラムに既述されておりNCプログラムのMコードを利用して,種々の加工条件に対応することを実現しているものであって,本件発明のデータメモリ部に相当する構成はない。さらに,甲第4号証の,ディジタルサーボコントローラは,NC工作機械における数値制御装置側の処理ではなく,駆動軸を最終的に駆動制御するためのコントローラであり,本件発明における「プレス駆動制御部」に相当するものであって,基本的に技術分野を異にするものである。したがって,甲第2~第4号証に審決が認定した周知技術について記載があるということはできず,審決の判断は誤りである。
当裁判所の判断
1 審決取消事由(第2相違点についての判断の誤り)について
(1) 本件発明について
本件明細書には次の記載がある。
「【0004】本発明は・・・加工対象としての被加工物の板厚や材質に変更が生じても,金型の調整や交換などの段取り作業を不要にし,1 つの金型により所望の成形加工を行うことのできるパンチプレス機における成形金型の制御装置を提供することを目的とするものである」。
「【0007】本発明においては, ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型が用いられ, この成形金型を用いた自動運転が行われると,加工プログラムに記述されている材質データが材質メモリ部に, 板厚データが板厚メモリ部にそれぞれ記憶され,この処理の後,加工プログラムの指令にしたがって,順次以下の処理動作が実行される。まず,加工プログラムの金型交換指令により, 成形金型がプレス部に装着されると, この装着された金型番号データに基づいて, 金型情報メモリ部に記憶されている該当する金型番号が検索・参照され, この金型番号に基づくプレスモーション番号データが共通データメモリ部および変更データメモリ部に転送される。共通データメモリ部では,転送されたプレスモーション番号データに基づいて該当するプレスモーション番号の詳細設定値をプレス駆動データ生成部に転送し, また変更データメモリ部では, 転送されたプレスモーション番号データに基づいて該当する材質・板厚データを検索し, 前記材質メモリ部のデータおよび板厚メモリ部のデータにしたがって, 該当する設定値データをプレス駆動データ生成部に転送する。
次いで,このプレス駆動データ生成部では, これら共通データメモリ部および変更データメモリ部より転送されたデータおよび前記板厚メモリ部に記憶されている板厚データに基づいて実際にプレス軸を駆動するためのデータを作成する。そして, プレス駆動制御部においては, この作成されたデータに基づいてパンチ動作指令によってパンチ軸もしくはダイ軸が駆動されて所要の成形加工が実行される。【0008】本発明によれば, 加工対象としての被加工物の材質や板厚に変更が生じても, 金型の調整や交換などの段取り作業を不要にし,1 つの金型で所望の成形加工を行うことが可能となる。こうして, 被加工物の材質・板厚が変わる生産であっても,金型の調整と試打ち確認が不要となり, 生産性を向上させることができる。また, 材料供給装置等を連動させた自動運転・連続運転で材質・板厚の変更が生じた場合でも,オペレータによる手動のプレスモーション変更作業が不要になるので無人化・省人化運転が可能となり,生産性の向上を図ることができる。さらに, 従来のような同一の成形加工を行う金型を各々の材質・板厚毎に調整しておき, パンチプレス機に装着して運転する方法と異なり, 金型をパンチプレス機に実装するタレットステーションが1 ステーションになり,余ったステーションに他の金型が実装できるので, 段取り回数の削減に繋がりより生産性の向上が期待できる。また, 同一の成形加工を行う金型の保有個数を減らせるのでランニングコストの低減が期待できるといった種々の利点を有している」。
「【0017】表1 には, 各金型に対して,T コードで表される金型番号(T001,T002 ・・・・) を基準とした金型情報( 金型プロフィル) の一例が示されている。この金型情報としては, 金型番号に割り付けた金型の種別(打抜・成形・刻印等) や形状(丸・角・長角・バーリング・上ハーフシャー等その金型が被加工物Wに加工する形状を表現したもの)や, その金型が加工するサイズを表す長辺( 直径・短辺( ピッチ・半径(高さ) などの情報のほ か, その金型のプレスモーション番号が設定されている。これらの情報は制御装置内の金型情報メモリ部25( ・・・) に記憶されている。これらの情報は, 加工プログラムで使用する金型については自動運転を行う前に予め登録されている。なお,金型の新規登録や削除する場合に備えて, データ変更手段( 図示せず) によって外部から各データが修正・変更できるようになっている」。
「【0022】表2 には, 前述のプレスモーションの詳細設定値を制御装置内のプレスモーション設定値メモリ部( 共通データ部)26 に記憶している状態が示されている。これらプレスモーションの詳細設定値に係る情報は, 加工プログラムで使用する金型については, 自動運転を行う前に予め登録しておく必要がある。なお, この表2に係るデータについても, 表1に係るデータと同様, 金型の新規登録や削除する場合に備えて, 修正・変更できるようにされている」。
「【0024】一方, 表3 には, 被加工物W の材質・板厚毎に設定したデータ構成の一例が示されている。本実施例では, プレスモーションデータの成形位置について材質・板厚毎に補正するデータが与えられており, 前述のプレスモーション番号でかつ成形加工のプレスモーションの場合( ・・・) にのみ一個の材質・板厚毎の補正データが用意されている。この詳細設定値は, 制御装置内のプレスモーション設定値メモリ部( 変更データ部)27 に記憶される。これらプレスモーションの材質・板厚毎のデータについても,自動運転を行う前に予め登録しておく必要がある。なお, この場合も同様に, 金型の新規登録や削除する場合に備えて, データの修正・変更が可能である」。
「【0027】(1) 加工プログラム( ・・・) は加工プログラム記憶部21 に記憶されており, 自動運転を行うと, この加工プログラムが加工プログラム読込部22 に読み込まれ, 加工プログラムの先頭部に記述されている材質データおよび板厚データが材質メモリ部23 および板厚メモリ部24 にそれぞれ記憶される。また,この加工プログラム読込部22 では, 加工プログラムで使用する金型が制御装置内に設定してある金型情報に登録・記憶済みであるか否かの照合も行っている」。
「【0030】(4) プレス部装置金型番号レジスタ29に書き込まれた金型番号により,金型情報メモリ部25 で記憶している該当金型番号を検索・参照し, 金型番号に基づいたプレスモーション番号データをプレスモーション設定値メモリ部(共通データ部)26 および材質・板厚毎のプレスモーション設定値メモリ部( 変更データ部)27 に転送する・・・また, この時, より正確な照合を期すため, プレスモーション番号だけでなく,種別や形状データをプレスモーション設定値メモリ部(共通データ部)26 およびプレスモーション設定値メモリ部(変更データ部)27 に転送しても良い。【0031 】(5) プレスモーション設定値メモリ部(共通データ部)26 は, プレスモーション番号に基づいて,該当するプレスモーション番号の詳細設定値(・・・)をプレス駆動データ作成処理部30 に転送する・・・【0032】(6)プレスモーション設定値メモリ部(変更データ部)2 7は,プレスモーション番号に基づいて,該当する材質・板厚データを検索し, 上記1) で記憶している材質メモリ部23 のデータおよび板厚メモリ部24 のデータに従って該当する設定値データをプレス駆動データ作成処理部30 に転送する・・・また, これと併せて, 材質のデータに基づいて該当する材質補正値のデータをプレス駆動データ作成処理部30 に転送する」。
「【0033】 (7) プレス駆動データ作成処理部30 は, 上記(5) および(6) で転送されたデータおよび1) で記憶された板厚データに基づいて実際にプレス軸を駆動するデータを作成する・・・パンチ成形位置は以下の様に補正する。すなわち,プレス駆動部は,パンチ軸・ダイ軸共に制御上の原点(0 点) をパスライン(被加工物Wの下表面)に設定してあるので,板厚データの情報に基づいて被加工物W の上表面位置を知ることができる。
また,プレスモーション設定値メモリ部( 共通データ部)26 におけるプレスモーション番号の詳細設定値データ7( パンチ成形位置) により被加工物W の上表面から被加工物W への成形するために押し込み位置( 成形位置) を知ることができる。さらに,プレスモーション設定値メモリ部( 変更データ部)7 からの材質・板厚での補正値データを加味した成形位置を知ることができ, また材質補正量の補正データを加味した成形位置についても同様に知ることができる。これらの処理によって作成されたデータはプレス駆動制御部31に転送される」。
「【0035】本実施例によれば, 被加工物W の材質や板厚に変更が生じても, 金型の調整や交換などの段取り作業が不要であり,1 つの金型で所望の成形加工を行うことができる。したがって, 生産性の向上が図れるとともに, 同一の成形加工を行う金型の保有個数を減らせるのでランニングコストの低減が期待できる」。
これらの記載及び【0018】の表1並びに本件発明の要旨によると,本件発明は,ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いることを前提とし,加工対象としての被加工物の材質や板厚に変更が生じても,金型の調整や交換などの段取り作業を不要にし,1つの金型で所望の成形加工を行うことを可能とすることを目的とする発明であるということができる。また,本件発明においては,プレス駆動に関するプレスモーションを類型化することによって,一つのプレスモーションが複数の金型に適用され得る場合を想定し,プレスモーションに関するデータを,被加工物の材質・板厚に無関係なデータとこれらによって変更されるべきデータの2種類に区別した上,前者についてはプレスモーション設定値メモリ部(共通データ部)26に記憶し,後者については同(変更データ部)27に記憶する。そして,金型情報メモリ部に記憶されている装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,この番号に対応するプレスモーションに関する詳細設定データを上記各設定値メモリ部から読み出して生成し,これに基づいてプレスの駆動制御を行うものである。なお,そうすると,審決が指摘するとおり,プレスモーション番号を介することにより,プレスモーション設定値メモリ部(共通データメモリ部)26 において,金型ごとに(すなわち,金型番号に対応して)プレスモーションに関するデータを記憶する場合に比べ,データ量の削減の効果が生ずることは,技術常識により容易に理解されるところである。
(2) 甲1発明について
甲第1号証には次の記載がある。
「第8 図は穴明機の構成概要を示すブロック図である。図で,1は穴明機を示し,この穴明機1は穴明機本体2および自動工具交換装置3で構成される。4は自動工具交換装置3に備えられている工具格納領域を示し,P1~Pn は径の異なる各工具が格納される工具格納場所を示す。これら工具格納場所P1~Pn にはそれぞれ番号が付されている。このような穴明機lは, 加工プログラムが記録されている記録媒体,例えば紙テープ等の指令内容を図示しない制御装置で読取り, これに従つて穴明機本体2 において, プリント基板の穴明け加工を行なう。なお, このような穴明機1 は周知である。第9 図は記録媒体としてのテープの記録内容の説明図である。図で,5 はテープを示す。テープ5 には記録領域51,52,53 ・・・が設定されている。記録領域51 には, 穴明加工に使用すべき工具番号(T1) が記録され,記録領域52 には, 記録領域51 で指示された工具により穴明けすべき位置(X 座標,Y 座標により指定される), 当該位置への移動指令, および当該位置での穴明指令が記録されている。又, 記録領域53 には記録領域52 で指示された穴明加工に引続く穴明加工に使用される工具番号T2 が記録され, 記録領域54 には工具番号T2 の工具で穴明加工すべき指令内容が記録されている。以下, 工具番号とその工具番号の工具を用いて穴明加工すべき指令内容が順次記録されている。」(2 頁左上欄19行~左下欄6行)
「即ち,各格納工具に対してテープ5 で指定されている工具番号が付与されることになる。作業者は, 上記のように付与した格納工具番号を他のデータとともに制御装置の記憶部にキーボードを用いて記憶させる。第10 図は上記記憶部のデータテーブルの記憶内容の説明図である。図の上欄で, アドレスはこのデータテーブルのアドレス,格納場所番号は工具格納場所P1~Pn のそれぞれに設定された番号( 例えば工具格納場所P1 は1 番,P2 は2 番・・・Pn はn 番), 格納工具径は各工具格納場所に格納されている工具の径である。格納工具番号は上述のようにして各格納工具に付与された番号である。穴明回数は各工具が穴明けに使用された回数, 寿命設定回数は各工具の寿命を穴明回数で表わしたものである。加工条件データは各工具に対する加工条件, 例えば工具回転数や穴明速度等のデータである。この加工条件は,加工対象のプリント基板の材質や, それが両面板の場合, 多層板の場合等により異なり, 又,それらを何枚か重ねて同時に穴明加工する場合も重ねた枚数により加工条件が異なるものであって, これら加工条件は作業者の経験等に基づいて決定される・・・次に, 上記穴明機1の動作の概略を説明する。穴明機1 の制御装置は,まずテープ5の記録領域51 に記録されている工具番号T1 を読取る。この工具番号T1 が「1番」であるとすると, 制御装置は第10図に示すデータテーブルから格納工具番号が「1 番」の工具を探し, これが工具格納場所「n (-1) 番」に格納されていることを見出す。次いで, 制御装置は寿命設定回数(3000 )と穴明回数(600) とを比較し, 後者が前者未満であることを確認した後, 穴明機本体2 のスピンドル( 図示されていない) を工具格納場所Pn-1( 工具格納番号は工具格納場所に付された符号の添字の数字と一致するものとする) まで移行させ, 格納されている工具( 径5.0mm) をスピンドルに装着せしめる。次いで,データテーブルのアドレスAn-1 に格納されている加工条件データに従い, テープ5 の記録領域52 に記録されている穴明指令を実行する。」( 2頁右下欄5行~3頁右上欄7行)
「上記従来の穴明機においては, 穴明加工されるプリント基板の材質, それが両面板か多層板か, 何枚重ねか等, 加工対象のプリント基板の形態により加工条件データが変更されることになり, 又, テープ5 が変更される毎に格納工具番号も変更される。即ち, 第1 0図に示すデータテーブルの格納工具番号と加工条件データが書換えられることになる。」(3 頁左下欄4~11 行)
これらの記載によると,甲第1号証には,審決が認定するとおり「穴明加工を行う穴明機の工具の制御装置において,加工に使用すべき工具番号が記録された加工プログラムを読み取る手段と,加工プログラム中の工具番号に対応する,基板の材質,枚数に応じた,工具回転数や穴明速度等の加工条件データを記憶する記憶部と,加工プログラムによる加工時に,加工プログラムから読み取った工具番号により,当該工具に対応する加工条件データに従い工具を駆動する,穴明機の工具の制御装置」の発明が記載されていると認められる(当事者もこの点を争わない。)
(3) 第2相違点のうち「金型情報メモリ部」の存否の実質的意義
審決は,本件発明と甲1発明の第2 相違点として「本件発明では,加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,及び各プレスモーンョン番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部を備え,加工プログラムによる加工時に,金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し,これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成しているのに対し,甲1発明では,材質メモリ部および板厚メモリ部を備えているか否かは不明であり,金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部を備えておらず,加工条件データとして,共通データと変更データとに分けて記憶し,加工時に両データから駆動データを生成するようにはしていない点」を認定した。
そして,被加工物の材質,板厚を加工プログラムから読み取り,それぞれ記憶する材質メモリ部,板厚メモリ部を備える点については,設計的事項にすぎないとし,加工プログラム作成を容易にするため「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という技術は周知であるとしたが,金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部については引用刊行物中に記載ないし示唆が存在しないとした。
上記第2相違点として挙げられた金型情報メモリ部の機能は,金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶することであるが,上記(1)のとおり,その目的は,プレスモーション設定メモリ部に記憶されているプレスモーションに関する詳細データを読み出し,プレス駆動制御のための情報を生成することであり,また,金型番号に対応してプレスモーション番号を設定することの効果は,一つのプレスモーションが複数の金型に適用され得る(したがって,一つのプレスモーション番号が複数の金型番号と対応する)場合を想定し,共通データメモリ部において記憶するデータ量を削減することである。
ところで,例えば,職場や学校等において,実行すべき内容や手順の定まった一群の用務を,各用務ごとに複数又は1人の者に割り当てて管理する場合に,当該複数又は1人の者の各人ごとに,それぞれの実行すべき用務の具体的内容や手順を結び付けるのではなく,各用務に名称を付し,各人とその用務名とを結び付ける一方で,各用務名と当該用務に係る実行すべき具体的内容や手順とを結び付けて管理するようなこと(1例を挙げれば,学校において,生徒A~Iの9名に,いずれも実行すべき内容や手順の定まった保健関係用務,動物飼育関係用務,授業準備関係用務を,それぞれ,3人ずつ割り当てて管理する場合に,生徒A~Iの各人ごとに,「A-傷病者の救護,養護教員からの連絡事項の伝達・・・」,「B-飼育動物への給餌,動物舎の清掃・・・」,「C-翌日の授業担当教員からの指示事項の伝達,授業開始前の教材の準備・・・」等と,その実行すべき用務の具体的内容や手順を結び付けるのではなく,各用務に「保健係」,「飼育係」,「学習係」等の名称を付し,生徒A~I の各人ごとに「A-保健係」,「B-飼育係」,「C-学習係」等と,その用務名を結び付ける一方で,各用務名ごとに「保健係-傷病者の救護,養護教員からの連絡事項の伝達・・・」,「飼育係-飼育動物への給餌,動物舎の清掃・・・」,「学習係-翌日の授業担当教員からの指示事項の伝達,授業開始前の教材の準備・・・」等と,当該用務に係る具体的内容や手順を結び付けて管理すること)は,誰しもが経験しているところであり,このようなことは,事象を整理して把握するために,機械制御の分野に限らず,広く一般に行われている日常的な手法の一つであるにすぎない。そして,上例においては,それぞれの用務に名称を付し,この名称を介して管理する方が,生徒各人ごとにその実行すべき用務の具体的内容や手順を結び付けて管理する場合に比べ,管理のために必要となる情報量が相対的に少なくなることは自明である。
審決により,第2相違点の一部として認定された,本件発明に係る「金型情報メモリ部」の機能及びその効果に照らすと,本件発明の「金型情報メモリ部」の構成は,上記のような管理のための情報を整理した上で記憶する日常的な手法を,プレス駆動制御に適用したという程度のものであるにすぎず,本件発明と甲1発明が,このような「金型情報メモリ部」を備えるかどうかの点において相違していたとしても,そのことによって本件発明の進歩性が基礎付けられるものということは到底できない。
(4) 周知技術の認定
それのみならず,下記のとおり,本件特許出願当時,機械制御の分野においても,このような技術が周知のものであったことが認められる。
ア 特開平2-217200号公報(甲第10号証)には,プレス機械において,ステーション番号,金型番号及び適応加工種を組として記憶する金型データ記憶部(3頁左上欄末行~右上欄8行,第4図)を有するものが記載されていると認められる。
イ 特開平3-142023号公報(甲第11号証)には,金型番号と,当該番号の金型に係る「エアブロー」,「絞り動作」,「バーリング」等の補助機能の有無をそれぞれ「0」と「1」の数字によって示したものを組として記憶した金型リスト(4頁右下欄1行~5頁左上欄9行)が記載されているものと認められる。
ウ 実開平2-73208号公報(甲第14号証)には,被加工物番号に対応した加工プログラム番号を記憶する「被加工物番号-加工プログラム番号対応表記憶部」(12 頁1~18行)が記載されているものと認められる。
エ 特開平2-95527号公報(甲第16号証)には,製品ID(I) に対応して, 加工グループの分類コードの集合(C ,基準座標パラメータファイルの登録番号(N)を記憶した「加工データファイル」(2頁左上欄18行~右上欄4行,第2図)が記載されているものと認められる。そして,第2図には「加工データファイル」において,同一の基準座標パラメータファイルの登録番号( 001 )が,複数の製品ID( 第2図の「製品1」,「製品2」 ) に割り当てられることが示されており,基準座標パラメータファイルの登録番号を記憶することにより,基準座標パラメータファイルそのものを直接記憶する場合に比べ,データ量を削減することができることは明らかである。
オ 特開平6-222821号公報(甲第17号証)には,工具番号に対応した補正値番号を記憶する機能番号テーブル(段落【0032】, 図4)が記載され,工具番号が指令されると,機能番号テーブルから対応する補正値番号を読み出し,当該補正値番号により,オフセット値を読み出して設定すること(段落【0039】, 図5)が示されている。
カ 本件特許出願当時の周知技術
上記ア~オによると,機械加工制御に用いる複数の制御条件や,加工プログラム,などにおける加工に用いるデータを番号や記号により特定して記憶するとともに,その番号や記号を工具番号や被加工品の番号と対応させて記憶し,被加工品や工具の番号から,それらに応じた制御条件や加工データを読み出して設定するようにすることは,本件特許出願当時,普通に行われていたものであることが認められる。また,上記特開平2-9552 7号公報に記載されているように,複数の対象に対して,共通して用いられるデータ等を同じ番号や記号によって対応付けて記憶するようにし,データ量を削減するようなことも,通常行われていた程度ものということができる。
(5) 容易想到性の判断
上記(3),(4)カによると,本件特許出願時において,機械制御に用いる複数の制御条件を番号や記号により特定して記憶するとともに,その番号を工具や被加工品の種別と対応させて記憶し,工具や被加工品の種別から,それらに応じた制御条件に関するデータを読み出して設定するようにすることは,普通に行われていた周知の技術であると認められるから,甲1発明の「加工プログラム中の工具番号に対応する,基板の材質,枚数に応じた,工具回転数や穴明速度等の加工条件データを記憶する」記憶部を,甲1発明のように加工条件データを直接記憶することに代えて,「それぞれの加工条件データを特定する番号を記憶する」とともに「加工条件データ番号により特定した加工条件データを別に記憶しておく」ようにし,本件発明の「金型情報メモリ部」のように構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことというべきである。
また複数の工具や被加工物に対して共通して用いる制御条件に関するデータを, 同一の番号や記号により対応させて記憶するようにし,データ量を削減することも通常行われていたと認められるから, 上記のとおり, 甲1発明に「それぞれの加工条件データを特定する番号を記憶する」とともに「加工条件データ番号により特定した加工条件データを別に記憶しておく」周知技術を適用し,本件発明の「金型情報メモリ部」のように構成した場合に,データ量を削減することができ,ひいて「記憶容量を少なくすることができる」との効果を奏することも,当業者が予測し得たことであると認められる。
したがって,甲1発明に基づいて,第2相違点に係る「金型情報メモリ部」を備えるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことであるというべきであり,この点についての審決の判断は誤りであるから,取消事由は理由がある。
2 被告らの主張(取消事由に係る部分以外の相違点についての判断の誤り)について
(1) 第1相違点について
審決は,第1相違点について「甲1 発明の制御装置を,パンチプレス機の制御装置として適用することに,困難性は認められない」としているところ,被告らは, コストの点よりこれらの制御装置は必要最小限の構成とするのが通常であるから, 「複雑な制御を行う制御装置」を「簡単な制御で済む制御装置」に適用することに困難性はないが「簡単な制御で済む制御装置」を「複雑な制御を行う制御装置」に単純には転用できないとした上甲第1号証に記載の技術は簡単な制御で済む「穴明機の制御装置」であり,これを複雑な制御が必要な「パンチプレス機の制御装置」に適用することに困難性が認められないとはいえないと主張するので,以下において検討する。
ア 容易想到性
甲1発明の「加工に使用すべき工具番号が記録された加工プログラムを読み取る手段と,加工プログラム中の工具番号に対応する,基板の材質,枚数に応じた,工具回転数や穴明速度等の加工条件データを記憶する記憶部と,加工プログラムによる加工時に,加工プログラムから読み取った工具番号により,当該工具に対応する加工条件データに従い工具を駆動する制御装置」を本件発明のようなパンチプレス機の制御装置に適用するに当たり,工具番号を成型金型の番号としても良いこと,パンチプレス機においても,基板の材質,枚数に応じて加工条件を設定する必要があることは明らかであるから,甲1発明の制御装置をパンチプレス機の制御装置に適用することに格別の困難性があるものということはできない。また,パンチプレス機が,複雑な制御を必要とするとしても,それは,パンチプレス機の制御装置が元来備えているべき特性というべきであって,パンチプレス機のそれぞれの加工方法に対して,甲1発明の制御装置が備える制御方法を適用することができるのであるから,甲1発明をパンチプレス機に適用することが困難であるということはできない。
また,下記イのとおり,このような適用が可能であることは技術常識からも明らかであるというべきである。
イ 乙第5~第7号証の記載
特開平1-115508号公報(乙第5号証)には,基板に形成した目標パターンを含む所要パターンにずれが生じても,その誤差を均等に配分した状態で規定間隔値を持つ一対の基準用穴を形成するための数値制御装置における制御方法(2頁左下欄12行~右下欄9行)が記載されていると認められるところ,この制御方法をパンチプレス装置やドリルを用いる穴明け装置に共通して適用できること(4頁左上欄17~1 9行)も併せ記載されている。
また,特開昭58-186805号公報(乙第6号証)には,汎用ボール盤,プリント板穴あけ機,パンチプレス等の工作機械が共通の数値制御装置により制御されるものであり(2頁右上欄16行~ 左下欄3行,同公報に記載の「加工中断後の加工再開方法」がこれらの数値制御装置に共通して適用できること(3頁左欄10~末行)が記載されているものと認められる。さらに,特開平6-73 8号公報(乙第7号証)には,加工プログラムに基づいて工作機械を制御する制御装置における工具選択指令による工具交換方法が,マシニングセンタにおける切削工具の交換及びCNCパンチプレス機械における穿孔工具の交換等の分野において共通して用いることができること(請求項1,段落【0002】)が記載されているものと認められる。
以上によると,本件発明のような「パンチプレス機」の制御装置や甲1発明のような「穴明け機」の制御装置は,工作機械の数値制御装置である点で共通し,同じような制御方法であれば,相互に適用可能であることは,当業者にとって技術常識であったものと認められる。
ウ 上記ア,イに説示したところに照らし,被告らの主張を採用することはできない。
(2) 第2相違点のうち「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という技術に関して
審決は「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」という技術は,甲第2~第4号証の記載から周知であるとした上,このような周知技術を甲1発明に適用することに困難性は認められないと判断しているところ,被告らは,甲第2号証において「基準値」は,入力される「加工プログラム」に含まれており,甲第3号証において,基本的に加工パターンは,NC プログラムに記述されているほか,甲第4号証において,ディジタルサーボコントローラは,NC 工作機械における数値制御装置側の処理ではなく,駆動軸を最終的に駆動制御するためのコントローラであり,本件発明における「プレス駆動制御部」に相当するものであって,基本的に技術分野を異にするから,甲第2~第4号証に審決が認定した周知技術について記載があるということはできず,審決の判断は誤りであると主張するので,以下において検討する。
ア 甲第2~第4号証の記載
(ア) 甲第2号証には「加工プログラムの主軸回転速度,切削送り速度という加工条件を決定するための関数を,ワーク材質の影響を受けない第1の関数部(基準値)とワーク材質の影響を受ける第2の関数部(補正値)とに分割し,加工プログラムの作成時に第1の関数部を加工プログラムと一体に保存すると共に,加工プログラムの実行段階で,オペレータから入力されたワークの材質から,材質に対応して補正値を記憶したファイルを利用して,NC 工作機械の制御装置に第2の関数部を設定し,第1の関数部と第2の関数部とを合成して加工条件を生成して加工を行うNC工作機械の加工条件生成方式」が記載されている(段落【0008】 【0024】~【0032】 )ものと認められる。
そして,本件発明と甲第2号証記載のものとを対比した場合には,甲第2号証の「ワーク材質の影響を受けない第1の関数部」と本件発明の「被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データ」は「被加工物の材質の影響を受けない加工条件を決定するためのデータ」である点で共通し,甲第2号証の「ワーク材質の影響を受ける第2の関数部」と本件発明の「被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データ」は「被加工物の材質に応じて加工条件を加工条件を変更するためのデータ」である点で共通するものである。
したがって,甲第2 号証には「加工時に入力される被加工物の材質に応じて,被加工物の材質の影響を受けない加工条件を決定するためのデータと,被加工物の材質に応じて加工条件を変更するためのデータとを用いて,加工条件データを生成する」ものが記載されているということができる。
(イ) 甲第3号証には,NCプログラム上で「工具のみ,或いは加工パターンの基本形のみ」を示すことを前提として「各工具に各工具の識別情報の他に該工具に関連して定められる各軸制御条件を記憶するメモリチップ(IDチップ)を設け,NCプログラム上で指定された工具番号により,選択工具のメモリチップの記憶内容を読出して,NCプログラム上で指定された加工条件に,材質,板厚に関連する前記軸制御条件を加えて,実際軸制御のための加工パターンを自動的に演算するプレス機械の加工パターン発生装置」の発明が記載されているもの(段落【0010】)と認められる。
そして,NCプログラム上で示される「工具のみ,或いは加工パターンの基本形のみ」のデータに,材質,板厚に関連する軸制御条件を加えて,プレス機械の加工パターンを演算するというのであるから,上記「工具のみ,或いは加工パターンの基本形のみ」のデータと本件発明の「被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データ」は「被加工物の材質・板厚に無関係な加工条件を決定 するためのデータ」である点で共通し,材質,板厚に関連する軸制御条件に関するデータと本件発明の「被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データ」は「被加工物の材質・板厚に応じて,加工条件を変更するためのデータ」である点で共通するものである。
(ウ) 甲第4号証には「予め基本パンチプログラムが入力されたディジタルサーボコントローラと,入力手段により入力された板厚および材質を記憶する記憶部,記憶部に記憶された板厚および材質の値から所定項目のデータを演算する演算部を有する数値制御装置とを備え,数値制御装置の演算部により演算された前記所定項目のデータをディジタルサーボコントローラに転送し,駆動指令を生成するパンチプレス制御装置」が記載されている( 段落【0005 】~【0009】 )ものと認められる。
そして,甲第4号証の「基本パンチプログラム」は,板厚及び材質により定められる所定項目が変数PR#1~PR#5 とされ,その他の加工条件が定められている(段落【0014 】~【0015】 ,図3) ものであるから,同「基本パンチプログラム」と本件発明の「被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データ」は「被加工物の材質・板厚に無関係な加工条件を決定するためのデータ」である点で共通し,甲第4号証の「板厚および材質の値から所定項目のデータを演算する演算部」が,被加工物の板厚及び材質により所定項目の値を変更するためのデータを用いて演算することは明らかであるから,同「演算部」は,本件発明の被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データ」と共通する「被加工物の材質・板厚に応じて,加工条件を変更するためのデータ」を備えているものといえる。
イ 容易想到性について
上記アの(ア)~(ウ )によると「被加工物の材質・板厚に無関係な加工条件を決定するためのデータ」と「被加工物の材質・板厚に応じて加工条件を変更するためのデータ」と入力された被加工物の材質・板厚とを用いて,加工時に「被加工物の材質・板厚に無関係な加工条件を決定するためのデータ」を変更して駆動データを生成することは,従来周知の技術であったものと認められる。
原告は,甲第2, 第3号証に記載されたものにつき「共通データ」に相当するデータが,本件発明のデータメモリ部に保存されるものではないと主張するが,本件発明の「共通データ」に相当する「被加工物の材質・板厚に無関係な加工条件を決定するためのデータ」と本件発明の「変更データ」に相当する「被加工物の材質・板厚に応じて加工条件を変更するためのデータ」とをそれぞれ別のメモリに記憶することは当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎないから,本件発明と甲1発明の第2相違点のうち「加工のためのデータとして,共通データと変更データとを別のメモリ部に記憶しておき,加工プログラムによる加工時に,被加工物の材質・板厚に応じて,共通データのうち所定のデータを変更して駆動データを生成する」との構成とすることは,当業者が容易に想到し得るところである。
また,原告は,甲第4号証に記載されたものにつき,本件発明における「プレス駆動制御部」に相当するものであって,技術分野を異にすると主張するが「プレス駆動制御部」に相当するものであるとしても,NC 工作機械における制御装置の実際駆動データの生成に係るものであって,同一技術分野に属する技術であることは明らかである。
(3) ところで,特許無効審判等,いわゆる当事者系審判に係る審決の取消訴訟は,特許庁長官ではなく,当該審判における相手方を被告らとして提起すべきものとされている点で,形式的当事者訴訟の性格を有することは明らかであり,また,形式的当事者訴訟は,本来抗告訴訟の性格を有する訴訟について,政策的配慮に基づき,処分庁(あるいは,処分庁の属する行政主体)に代えて,処分手続における対立当事者に被告適格を認めたものであることを考慮すると,本件のような特許無効審判に係る審決の取消訴訟において,被告らが審決の判断の誤りを主張することは背理であり,許されないとする考え方にも一理あるところといえる。他方,このような主張が許されないとする実定法上の根拠は見当たらず,また,当該主張が,審決の結論を結果的に維持することを目的とするものであることを考慮すれば,許されないとするには及ばないとの考え方もあり得るところである。
しかるところ,仮に,被告らはこのような主張をすることができると解するとしても,本件においては,上記(1),(2)のとおり,被告らの主張には理由がないのであるから,結局,いずれの考え方を採用したとしても,本判決の結論に差異が生ずるものではない。すなわち,本件における被告らの主張は,上記の問題に関する考え方のいかんに関わらず,いずれにせよ失当といわざるを得ない。
3 結論
以上のとおり,取消事由には理由があり,被告らの主張を採用することはできないから,審決は取り消しを免れない。